Happy days
            

結衣 様




*******

よく晴れ、海も穏やかで日差しの強い夏の日。甲板には洗濯物が気持ち良さそうにはためいている。
ナミはいつものようにみかんの世話をしていた。
 

階段を上がってくる音と共にゾロがやってきた。
「ひとつくれ」
仕方ないなぁ、と よく熟したみかんを手渡す。
ゾロはそれを皮ごとかじる。


毎日、ほぼ同じ時間に2人は約束もなしにこうして他愛ない会話をしている。
ゾロがみかんを食べ終わるまで。


いつもなら、ゾロはみかんを食べた後は昼寝に行ってしまうのだが、今日は立ち止まり水撒きを始めたナミを見つめている。

ナミがその視線に気づき、

「何?みかんはもうあげないわよ」
と言うが、ゾロは何も言わない。何か言いたげな顔をしている。

「だから、何よ?」
再度言うと、

「いや、なんでもねぇ」
と 立ち去った。

「変なの」
ナミはつぶやいた。

「・・・あれ」
向こうの方に大きな積乱雲が見える。
こっちへくるようだ。

「洗濯物が・・!!」

ナミではサンジが張った洗濯用のロープがはずせないので、誰かにとってもらおうと男部屋のドアをノックする。
ドアが開き、姿を現したのはゾロだった。
何故か、ドキっとする。

「なんだ?」

「雨が降りそうだから洗濯物を取り込んで欲しいの」

「ヘイヘイ」


ゾロが洗濯物を全て取り込んだ直後、雨が降ってきた。
だんだんと大雨になり、今日の見張りをじゃんけんで決めることになった。

『じゃーんけーん』


『ぽんっ』

ウソップが一発で負け、他のクルーが爆笑した。


大雨のなか、見張りにいくウソップを見送って、酒盛りが始まる。

いつものように、ロビンは酔う前に部屋に戻り、続いてチョッパー、ルフィ、サンジの順で酔いつぶれて部屋へ戻る。

・・・そして、残ったのはゾロとナミ。
何故かドキドキする。意識しすぎている。
それを隠そうと、ナミは無理に明るく振舞う。


夜も更け、そろそろ寝ようかと立つナミ。

「寝るのか?」
ゾロが聞く。

「うん、明日早いしね。」
と、答える。


ドアを開け、外に出ようとすると、手首をつかまれる。

「えっ!?」
おどろき、声を上げると、強引に唇をふさがれた。

「んっ・・・」
抵抗できない。力が抜けていく。そのままペタンと床に座る。
苦しくなって呼吸をしようと微かに開いた口の中にゾロの舌がすべりこむ。

「ぁっ・・んんっ・・・」

頭がぼぅっとしてくる。何も考えられない。
こうなるのを期待してた自分がいたことを、白くなっていく思考回路の中でぼんやりと認めた。

ナミの手首をつかんでいたゾロの手がだんだん上がってきて、タンクトップの背中に入っていく。

「ゾロ・・?」
パチン という小気味良い音がして、ナミのブラジャーのホックが外れる。

胸を締め付けるものが無くなったことと、ホックの外れる音がナミには大きく聞こえてここはキッチンだということ、近くの部屋で仲間たちが眠っていることを思い出した。

「ダ・・・ダメ・・・ッ」
必死でそう言うと、ゾロは手を止めた。

「あぁ?」

「だ・・だって・・あたし、絶対おっきい声出ちゃうもん。みんなに聞こえちゃうよ・・。」

「大丈夫だって」

「ヤダ!大丈夫じゃない!」
そう言ってナミは立ち上がり、乱れた服を直しながら

「それに、ゾロの気持ちがわかんないんだもん。あたしのこと好きなら好きって言ってよね。あたしのこと好きじゃない男に抱かれる気なんてないわよ」

と言い放って女部屋へと消えた。

ゾロはそのままゴロンと寝転がり、つぶやいた。

「好きかどうかわからないだと・・?好きにきまってるじゃねぇか」

彼はそのまま寝入り、翌朝朝食を作りに来たコックに蹴られたのは言うまでもない。


ナミは、その朝いつもより早く目が覚めた。
ロビンを起こさないように、そっと部屋を出る。
甲板に出ると、もう雨はやんでいて、朝焼けが綺麗だった。

「よぉナミ!早いな」

「おはよう、ウソップ。私が見てるからもう寝に行っていいよ」

「ホントか?悪ぃな」

「おやすみ」



「ナミ・・」
聞き慣れた低い声がきこえたと同時に後ろから抱きしめられた。

「ゾロ。・・おはよう」

そう言って正面に向き直り、

「ねぇ、昨日の・・」
と 言いかけるとゾロはいきなりキスをした。そして言った。

「・・好きだ。」
ナミは笑って言う。

「言うの遅くない?」
今度はナミの方からキスをして、耳元で言った。

「あたしもだいすきv」


「・・・どうしたの?そのたんこぶ」
「・・・。」

*************


何度も、何度も気持ちを確認するようにキスを繰り返す。
心の底から、ゾロが好きだと思った。
(幸せだぁ)

もう一度キスしようとすると、キッチンのドアが開き、あわてて離れる。
別に隠す必要はないけれども。
ラブシーンを仲間に見られるのは気恥ずかしいものがある。

キッチンのドアから出てきたのはサンジだった。

彼はナミを見つけると言った。

「ナミさんv 朝食の時間ですよv
そこのクソマリモは早くナミさんから離れて見張りに行け」

「ヘーヘー。わーったよ」

ゾロが見張りに行ってしまい、ナミは少し寂しく思った。


キッチンに入ると、他のクルーはもう席についていた。

「おせーぞ、ナミ」
ルフィが文句を言った。

「ごめんごめん。いただきまぁすv」

にぎやかな朝食。楽しい仲間。ナミは微笑んで仲間たちを眺めていた。
(幸せだなぁ)

みんな朝食を食べ終え、それぞれの部屋に散っていく。
ナミはキッチンでサンジの淹れてくれたコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。

「ナミさん。」

「ん〜?」

顔を上げると、サンジが今までにないほど真剣な顔をしていて、ナミは少し驚く。

「昨日の夜、あのクソマリモと2人っきりで大丈夫でした?」
ナミは一瞬ドキッとしたが、隠し事は得意だ。すぐに笑顔を作り、

「大丈夫よぉ。今までにだって何回もそんなことあったじゃない」
と言った。

「そうですか・・。」
ナミはまだちょっとドキドキしながら冷静な顔を保って新聞を読んだ。


コーヒーを飲み終え、いつものようにみかん畑へ行く。
もうそろそろ収穫かな、とすでに熟した実を取っていく。

「ナミ」

「ん?」
ゾロだ。

「今日の分、くれ。」

「はいはい」
手に持っているみかんをゾロの方へ投げる。
ナイスキャッチ。

隣り合って座る。今日もいい天気。昨日と違って、雨の予感はしない。

甲板でチョッパーと遊んでいたルフィが声を上げる。

「あれ〜?陸だ!!」

「ほんとだ。ね、ゾロ。あれってなんていう島?」

「知らねぇ」

「役立たず」

「うるせぇよ。てめぇの地図でも見ろよ」

「あ、そっか」

「アホ」

「うっさいよ」

地図を持ってきて、広げる。

「あれ〜?ないよ?ちっちゃすぎて載ってないのかな」

「あぁ?こっちの方じゃないのか?」

「ばぁか。それは反対方向だって。あんた地図もよめないの?」

「読めない」

「もういいよ」

そんなことを話してる間に島についた。

またもじゃんけんで負けたウソップを見張りにして、他は全員島に降りた。


まずは日持ちする食材などの買出しに行く。
島は小さいが、結構栄えていてナミ好みの店もたくさんあった。

(今日はもう遅いからなぁ・・明日見にこよう)

ゾロが宿に入っていくのが見えたので、ナミもそこに泊まることにした。

(ゾロがお酒飲まないなんて・・。あ、もう飲んだのかな)

そういえば買出しの途中でいなくなってた。

宿に入ると、サンジがいた。

「あれ?ナミさん」

「サンジくん」

「偶然ですね」

「そーね。あ、明日の夕方5時に港出るから、遅れないでね」

「わかりましたっナミさんv」

「おやすみぃ」

そう言ってナミが部屋に入ろうとしたら、サンジに抱き寄せられた。

「えっ・・ちょっ・・何!?」

「ナミさん・・好きです」

「で・・でも・・私」

「知ってます。ナミさんはあのクソマリモが・・」

「あの・・離して・・」

「嫌です」

「嫌って・・ちょっ・・」

戸惑っていると、サンジが口付けてきた。
ほんのり香る煙草のにおい、サンジの香りだ。

「やだ・・っ」

離れようとするけど、サンジの力に敵わない。
抱きしめられたまま、動けない。


「うるせぇ!!寝られねぇだろ!」
隣の部屋のドアを開けて怒鳴ったのは・・ゾロ。

「ゾロ!」

ぱっ と、サンジの力が緩んだ隙に離れて、ゾロの方へ駆け寄る。
でも、

「お前なんかもう知らねぇ」
という声と同時にドアが閉まる。

ナミの頬を、涙が伝った。

さっきまで、あんな幸せだったのに。


サンジが後ろからナミを抱きしめた。

「俺にしてください。俺なら、ナミさんを絶対泣かせないから」

ナミは、何も言えずに泣くばかりだった。


サンジはナミを抱いて部屋に入り、ベッドに降ろした。

ナミにやさしく口付けて、ナミのキャミソールの肩ひもを下げて・・・

「ごめん」
ナミは、サンジを押しのけるようにして、拒否した。

「ナミさん・・?」

「このまま、サンジくんと・・しちゃったら、もっと、もっとサンジくんを傷つけることになっちゃうから」

「それでも・・」

「私、ゾロが好きだから。他の男 想ってる女なんか抱いたって良くないよ」

「・・・」

「サンジくんを傷つけたくないし・・・・ごめん」


部屋を出る。ゾロの部屋の前。ノックをする。

「・・ゾロ・・?」
返事はない。

「ごめんね。サンジくんとはなんでもないから。あたしは・・ゾロが好きだよ」
やはり、返事はない。

「起きてるんでしょ?返事くらいしてよ」

「・・・」

「何か言ってよ!あたしのこと、もう嫌いになっちゃったの?」

「・・・」

「・・・・さよなら」


ゾロがドアを開けると、ナミはもういなかった。

「・・・ナミ・・・?」




ナミはG・M号に向かっていた。
途中でウソップに会う。

「おう、ナミ。どうした?」

「ん、ちょっと船に忘れ物しちゃって」

「そうか、もう暗いし気をつけろよ」

「うん。おやすみ」

「じゃあな」


船に着き、乗り込むと見張りのチョッパーが言った。
 
「ナミ、どうしたんだ?」

「ちょっとね。」
それだけ言い、ペンと海図をカバンに入れる。

「どこか行くのか?」
チョッパーが不安そうな顔で尋ねる。

「うん、ちょっとね」
水上モーターバイクにまたがる。涙がこぼれた。

「ナミ?どうした?」

「ううん、なんでもないよ」
そう言い、チョッパーをなでて
「ばいばい」
と言った。

「どこへ行くんだ!?」

「わからないけど・・私が行くことは、みんなにはナイショね」

チョッパーもポロポロ涙をこぼして言った。

「嫌だ・・・ナミがどっか行っちゃったら洗濯物が濡れちゃうし、島にも着けないよ」

「ごめんね・・泣かないで。きっとまた会えるし・・」

バイクを走らせようとした時、聞き慣れた低い声が聞こえた。

「ナミ!」

「・・・ゾロ」

「どこ行く気だよ」

「別に。それより方向音痴のあんたがよく戻ってこれたわね」

「うるせぇ」

「・・で。なんで戻ってきたの?あんたはもうあたしのことなんて嫌いなんでしょ」

「お前バカか?」

「は!?」

「嫌いなわけないだろ」
ゾロはナミを抱きしめた。

「なっ・・!」

「黙れ」
ナミが反論しようとすると、唇をふさがれた。

「ん・・はぁ」
唇を離すと、ゾロが意味ありげに笑って言った。

「もう良いだろ。機嫌直せよ」

「・・ん」


「・・・あ」
そういえば、チョッパーがいたんだった。
足元に視線を移すと、真っ赤になって固まっているチョッパーが目に入った。
ナミは少し顔を赤くして、チョッパーにウインクして言った。

「みんなにはナイショね?」

「お、おぅ!!」

チョッパーは隠し事ができないから、明日にはきっとみんな知ってるだろう。
みんなにからかわれる毎日っていうのも悪くないかもね、なんて思いつつ微笑んだ。




*FIN*

(2005.04.09)

Copyright(C)結衣,All rights reserved.


<管理人のつぶやき>
前作「
想いと言葉」の少し前のお話っぽい?と作者様の談でございます。
二人が付き合い始めたきっかけと、その直後の幸せな日々。想いが通じ合ったナミがしみじみと(幸せだなぁ)と。本当に幸せそうだv しかし前途に暗雲垂れ込める・・・。伏兵サンジの登場でゾロとナミはケンカに。ゾロ、そんなひどいこと言うなぁぁ!(←ナミスキー) 最後には仲直りできてよかったよ。ああでもハラハラしました〜〜(T_T)。

結衣さんの2作目の投稿作品でした。ありがとうございましたーー♪

 

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