物欲と理由と
ばなな平井。 様
「ゾロ。肉食うか?・・・だってお前もうじき誕生日だろ。
・・・何か食いたいもんでも・・・」
「おおいゾロ!!この俺様がアーティスティックな・・・
何言ってんだよ。誕生日近いだろ?ほら、だから何か・・・・」
「おらクソ剣士。何か食いたいもん・・・・んだと手前!!
人が折角サービスして・・・ああんっ!誕生日に決まってんだろ!!」
「ゾロ、ゾロ!最近、どうだ?・・・・だって俺、ゾロに何も・・・
駄目だよ!折角の祝い事だろ!」
「剣士君・・・・いやだ。そんなに警戒しないで。
聞いただけよ・・・・・え?誕生日でしょ?」
そんなに浮かれる程のことか?
年に一度の誕生日、まあ確かにめでたいが、
でも昨日も今日も年に一度な訳だ。
別に生まれた日なんて特に祝ってもらった覚えはない。
ただ美味い物食べられて酒が飲める特別な日という印象しかない。
一人海に出てからはほぼ毎日飲んでるけどな、、、、。
急に欲しいものだのしてほしいことだの聞かれても面食らう。
あ、ガキの頃、くいなに同じこと聞かれて
「真剣が欲しい」と正直に言ったら殴られたことがあったな。
、、、、、、、。
何も殴らなくてもいいだろう。
「私が買える範囲にしろ」とか言い出したけど
制限つけるなら最初から言うなって。
それ以外は欲しいものなど無いと答え、
して欲しいことを聞かれて、、、、。
「世界一になりたいから修行に付き合え。」
と言い直して、その後ぼろぼろにされたんだよな。確か。
、、、、、、、、。
あんまりいい思い出無えのな。
何にしても、美味い酒と美味い飯。
今はこれだけあれば十分なんだ。
11月10日。
「結局何が欲しいの?」
甲板に寝転がる俺に、ナミがそう尋ねた。
明日は俺の誕生日だ。
正直、そんなことは忘れかけていたが、
気のいい船員が日ごと順番に聞いてくるので
思い出すことが出来た。
それにしても、
何で一日ずつ、一人ずつ聞きに来るんだ?
いっぺんに聞きゃいいだろうに。
そして何故か昼寝時。
毎度毎度妙な質問で叩き起こされた。
怒りたくとも、
情けない話だが、そんな気遣いが
嬉しく思えたりするから怒れる訳が無い。
「ゾロ?聞いてる?」
「聞いてる。」
転がったまま答えた。
今日はナミ。
これで全員終了だ。
ようやく昼寝の邪魔が入らなくなる。
「何か欲しいものないの?」
「別に何も。」
「誕生日なのよ?何かあるでしょう。」
「欲しいもの、か。」
ここ数日、ずっと繰り返された問答だ。
考えるのが面倒で、繰り返してきた言葉がするりと落ちる。
『美味い酒と美味い飯。』
、、、、、、、、。
ナミと俺の声が見事に唱和した。
「わかってるなら聞くなよ。」
「わかってないから聞いてるのよ。」
ナミはわざとらしくため息をつき、
「あのねえ!みんな気を使って聞いてるのよ?
折角の誕生日なのよ!?何で全員に同じこと言う訳!?
お酒もご飯もサンジ君の分野でしょうが!!
ちょっとは考える身にもなりなさいよ!!」
一気にまくし立て、またため息をつく。
「あんたねえ、、本当に欲しいものないの?」
欲しいもの。欲しいもの、とは言ってもな。
流石に寝転がったままでは殴られるだろう。
上体を起こし、胡座をかく。
考えているうちに、懐かしい会話が思い出された。
──ゾロ、何か欲しいものは?
──俺、真剣が欲しいんだよな。
駄目だ。真剣はもうある。
三本とも名の有る刀。
──私が買える範囲で!!
──じゃあ、酒。
いや、酒はコックが用意するだろう。
きっと極上物。
ならば、
──無えよ。他は無い。
「無い、な。」
「もう!じゃあ、して欲しいことは?」
──私に、してもらいたいことは?
──修行に、、、、
違う。
こいつに、してもらいたいこと。
「ナミ。」
「思いついた?!」
今、してもらいたいこと。
「ナミ。」
「何?」
怒るだろうか。
いや、そんなはずは無い。
今、こいつにしか出来ない。
「ナミ。」
「、、、。ゾロ?」
海の上。
黙ってしまえば波の音しか聞こえない。
その静かに流れる音にあわせ、俺はゆっくりと。
ナミの目をみて呟く。
「昼寝したいから、向こう行ってくれ。」
「あ、ナミさん!クソ剣士の欲しいもの、わかりました?」
「ええ。もうバッチリよ。」
「何て言ってたんです?」
「お願い事、叶えてあげたの。」
「え、、願い事って、、、。」
「あんなお願いなら毎日喜んで聞いちゃうわ。」
「ナミさんー!?クソ剣士に何を、、、っ!!」
甲板の上、一人転がるゾロの姿。
ナミの手によって「睡眠」させられたゾロは、
サンジが夕食に呼びにくるまで起き上がることはなかった。
FIN