先にばなな平井。さんの「物欲と理由と」を読まれるとよいでしょうv
選択の自由
ばなな平井。 様
11月11日。
今日はゾロの誕生日。
別に「おめでとう」なんて言ったところで
素直に喜ぶ男でないのは重々承知している。
それでも。
やっぱり何かするべきだと思うのが心理というもの。
現にサンジ君は夜の宴会の支度で大忙しだし、
他の皆も何かプレゼントしようと、必死で模索中。
見てはいないけど絶対にそうよ。
だってねえ。いつもなら嫌というほど騒がしいこの船が
不気味なほどに静かなのよ?
そんな異様な事態で、
どうしてあんたは昼寝なんて出来る訳?
「ねえ!誕生日なのに寝てていいの?」
「んあ?もう夜か?」
こいつ、、、、夜の宴会まで寝続ける気か?
「起きろっての!!」
甲板に仰向けに寝転がるゾロに、
遠慮無しに拳を振り下ろせば、
ころりと可愛らしく寝返りをうち攻撃をかわす。
目標を失った右腕は、急に止まれる訳も無く、
めりっ、と嫌な音を響かせながら床へとぶつかる。
「ナミ。」
「何よ。」
「船を壊すな。」
「誰のせいよっ!!」
ズドッッ
「、、が!!、、、っっっ!!」
「目が覚めた?」
「っっっっ!!!手前!!こ、かはっ、!」
あ、本気で苦しそう。
立ち上がり私への抗議を口にするが、
息が詰まるのか、変に咳き込んでいる。
そりゃそうか。
首根っこ狙ったもん。
窒息間違いなし。
「おまえ、、俺殺す気だろ、、、。」
「起きないのが悪いのよ。」
よほど効いたのか、首をさすりながら
恨めしそうに私を見るゾロをビシっと指差し、
「さあ!今日は真面目に答えなさい!!」
はっきりきっぱり言いつけた。
、、、、、、、。
、、、、、、、。
、、、、、、、。
本気で考えてるのかしら。
嫌に長い沈黙が続く。
、、、、、、、、。
、、、、、、、、。
、、、、、、、、。
「あのね。折角なんだから。わかってる?」
、、、、、、、、。
、、、、、、、、。
、、、、、、、、。
「私がここまで聞いてあげてるのよ。何か無い訳?」
、、、、、、、、。
、、、、、、、、。
、、、、、、、、。
「誕生日プレゼント、いらないの!?」
「ああ、そのことか。」
ようやく口を開いたゾロから
そんな空しすぎる言葉が。
おまけに大欠伸のおまけつき。
っだ、駄目だ。この男駄目すぎる。
真剣に考えてるのかと思えば、
こいつは私が何を聞いているのか
必死で考えていたのだ。
しかもまだ寝足りない様子。
これじゃ私の言葉がきちんと届いたかも怪しい。
全く、、、、、。
まあ、確かに眠りたいときに眠れない、
というのは結構ストレスがたまる。
人間3大欲求が満たされなきゃ生きてはいけない。
でもねえ、、、、、、。
毎日毎日赤ん坊並に寝てるじゃない!!
冬眠中のクマかお前は!!
「欲しいものも、して欲しいことも、本っ気で無いのね?」
「、して欲しいことは、、 」
「向こうに行けってのは無し。」
、、、、、、、、、、。
この男、本気でまた言おうとしてたとか?
無性に殴りつけたい衝動に駆られるけども、
ここで殴ってしまっては昨日と同じこと。
ぐっと堪えてゾロの次の言葉を待つ。
「ああ、そうだナミ。」
「何?」
今度こそ、、、、、。
「俺の借金、 」
「帳消しも減額も無し。」
やっと出てきた願い事がそれかっ!!
再び殴りつけたい衝動が襲ってくるけども、
我慢我慢。
「ナミ。」
「何、、、、?」
「制限つけるくらいなら最初から聞くな。」
、、、、、、、殴りたい。
いや、それじゃ足りない。
いっそ水底に沈めてやりたい。
でも、我慢、、、、我慢。
怒りに震える拳と、痙攣するこめかみを何とか押さえつけ、
笑顔で切り返す。
「ゾロ。誕生日なんだから、もっと何かあるでしょ?」
「、、、、。わかった。」
今度こそ、、、、、。
これでまた色気無いこと言い出したら殺る。
一人それこそ色気の無いことを考え、
最高の笑顔で尋ねる。
「さあ、言ってみて?ゾロ。」
「欲しいものはない。だが頼み事がある。」
「なあに?言ってよ。」
少し、わくわくしてきた。
この男が何を私に願うのか、
想像なんて全然つかない。
急かす私に、ゾロは静かにぽつりと、
「ネコになれ。」
ただ、そう言った。
「はあ?」
ネコ?
確かにネコっぽいって言われるけども
なれる訳はない。
問い詰めようと口を開くが、
ゾロの口上が先に出た。
「いいか、お前はネコだ。殴ったり喚いたりするな。」
、、、、、、、、、、。
「ああ、それと、逃げるな。」
ようするに、静かにしろって言う訳?
でも逃げるって?
混乱する頭の中で、次々に問いが浮かぶ。
「ゾっっ?!」
何をどう聞くか迷っているうちに、
ゾロは急に私を抱きしめた。
混乱。
混乱。
「ちょ、、ちょっと!!」
「五月蝿いぞ、ネコ。」
ばたんっ
私を抱きしめた体勢のまま、
甲板に仰向けに倒れこんだ。
ゾロが私の下敷きになってくれているので
衝撃は少ない。
混乱は続く。
何?
何?
どういうこと?
戸惑いながらもゆっくりゾロの顔を見れば、
、、、、、、、、、、、、。
寝てやがる。
、、、、、、、、、、、、。
ああ。
ああ、そう。
昼寝したいけど向こうへ行けと言ったら
昨日と同じように殴られて痛い目みると
予測してでも結局はただ眠たかった訳で
安眠できるだろう安全策を選んだだけで
つまりは何にも昨日と変わって無い訳で
、、、、、抹殺決定。
ロープとって来なきゃ。
ごく自然に殺伐とした思いに駆られ、体勢を、、、
ぐ、、、
バカぢから、、、、
ゾロの腕はしっかりと私を包んでいて
とても解けそうに無い。
「ゾロ、、、手、どけなさいよ。」
眠っている人間に、こんなに
力がこもっている訳はない。
タヌキ寝入りだ。
「ゾロ、、!!」
「逃げるな、ネコ。」
え、、、、。
そうだ、ゾロは「逃げるな」と言った。
何故?
「ゾロ、、、。」
「ネコは大人しくしてろ。」
そう言って、優しく私の頭を撫ぜる。
なんて言ってらいいかわからなくて、
ただされるがままになる。
ゾロはただただ、私の頭を撫ぜて、、、。
やがて、手の動きが止まる。
同時に、規則正しい呼吸と、
それにあわせての胸の上下が始まった。
あ、本当に寝ちゃった。
私を抱きしめた、このままで。
みんなに何て言おうかな。
腕の中で、一人考えてみる。
ゾロに何をあげたんだ?
聞かれて何て言えばいいのだろう。
ネコ?添い寝?布団代わり?
何を言ってもきっと可笑しい。
あ、駄目駄目。サンジ君に聞かれたら大変だ。
今日のディナーがゾロになる。
でもまあ、誕生日だし、ゾロが主役な訳だし、
ディナーのメインにされるんなら、いいかもね。
って、何バカみたいなこと考えてるんだろう。
変なの。
うん、変だ。
でもまあ、誕生日だし、、、、、。
「サービス、よ。」
小さく呟いて、その頬にキスをした。
海の上。
珍しく静まり返っているGM号。
甲板で、仲良く寄り添う二人の姿。
「いたずらネコめ。」
ゾロの小さな呟きは
いつしか眠ったナミには届かない。
波の音だけが静かに船を満たしていた。
FIN