不機嫌な赤いバラ −8−
マッカー 様
イーストフィールド ココヤシホテル西海岸 −ゾロ
「おい」
「‥う‥ん」
ナミを引き上げたはいいが何しろ岩場の為足場が悪く 何しろ辺りも暗い
ここで横にさせるにはかなり辛いものがあるな
顔色を見ると相変わらず優れねぇし 少しためらったが抱き上げ自分の膝の上に座らせる
体温がかなり下がっているのがわかる 背中を自分の胸に寄りかから せるように置く
「少し我慢しろ‥今チョッパーが来る」
「‥チョッパー?」
「あぁ 医者だ お前も会っただろ」
「あぁ‥ あの‥トナカイの‥」
「そうだ それまで待てるか?」
「平気よ‥ あんたこそ平気なの?」
「オレはいい」
医者の知識はないがどう見ても健康ではない だがよく口は回る
「‥ねぇ」
「何だ?」
ゆっくりと息を吐く
「‥あたしの事 どこまで知ってるの?」
「? どういう事だ?」
「だからさ アーロンのとこにいたのは知ってるんでしょ? あんた‥どういうつもりでここまであたしと一緒にいるワケ?」
あぁ
「ヤツはここでのルールを侵した どちらにせよ攻め落とす必要があった相手だ
実際これでイーストフィールドはオレたちの‥ ルフィのプライドに全て収まったわけだからな」
「‥そう ならアーロンがはじめっから目的だったってわけだ‥」
ナミの顔が見えねぇ
「‥そうするとお前が浮かんできた」
「自然ね あたしとアーロンの関係は知ってるんでしょ あたしをどうするの? 」
「‥気になるのか?」
「あたしがアーロンのとこで何していたのかも知っているんでしょ 共犯よ」
「そうか」
オレの言葉に体をこわばらせるのがわかる
体温が少し上昇してきた
「さっき あたしを部屋に連れて行ってくれたのも‥ あたしがアーロンのナミだったから‥ 近づいたのね‥?」
「お前のほうが近づいてきたんだろ〜が」
「近づく女は誰かれ構わず部屋に連れて行くの!?」
「バッ‥! お前何言ってるんだ んなわけねーだろ!」
「だったらやっぱり仕事で‥」
「お前‥! いい加減にしろ!!!」
怒鳴り声にナミが固くなる
あぁ〜 やっちまった
「だって‥」
「悪かった‥」
イヤな沈黙が流れる 何も話すことが出来ん
さっきから尋ねるこの女の言う事がよくわからん
サメの事ばかり気にしやがって
「あんた‥さ」
やっと口を聞いたかと思うとそれきり黙りこんでしまう
いくら待ってもその続きはこない
気を失ったかと思って顔を覗き込めば うつむいて哀しげな目をしていた
その顔を見てどうしていいか分からずにいると
今までのこいつがしていたあの顔が瞬間的に脳裏に浮かぶ
初めて見たドレスの‥ 駅前で声をかけてもきた オレの部屋まで着いてきて‥
そして夕日に消えそうなあの時の‥
この腕の中にいる現実もなくなってきそうで その感覚を打ち消すため冷たい体 をかき抱いた
人形のみてぇだ
「目を閉じて音を聞け」
「‥どういうこと‥?」
「だまってオレの音を聞け」
「‥」
ナミは静かに目を瞑る
オレも目を瞑る
やがてソレを感じ取ったのか緊張していたナミの体がゆっくりとほぐれていく
ナミが顔の位置を変え自分から胸元に耳を寄せる そして 呼吸が重なる
聞こえるのは さざ波の音とナミの鼓動そして落ち着いた呼吸
そして確かにここにいるという実感
「さっきから‥サメの事を気にしているようだがあいつはもういねぇ ここにこうしているのは サメの分身でも影でもなんでもない てめぇ自身だ ナミ」
「‥」
「オレは頭でどうこう考えるのは好かねぇ やりてぇようにやるだけだ お前はどうか知らんが オレはそうだ 今もそう思っている」
「何‥?」
「お前は生きてやりてぇ事をやるべきだ オレはそう思った」
「仕事は関係ねぇ オレの意思だ」
純粋にそう思う こいつが何を思い考えているのかは知らんがもう終わった事だ
いつのまにかナミはオレの顔を食い入るように見上げている
小せぇ顔だな
何も答えず押し黙ったままなので現実的な話をしてみる
「お前のこれからについてなんだが」
「‥えぇ」
「あの部屋気にいっていたな」
「? どこ?」
「‥オレの家のあの部屋だ」
「あ、あぁ えぇ」
「あそこは襲われたから全く同じ部屋とはいかねぇが 他のフロアの部屋なら空いているはずだ お前それでも良かったら」
「‥何が言いたいの?」
「あぁ!? これからの事だろーが お前は狙われる可能性があるからな ‥近くにいたほうがいいだろうが まだルフィには話していないが反対はしねぇだろ」
「‥な、なんであんたなのよ!」
「あそこはオレのアパートだ」
「だからって‥!!?」
「イヤか」
「当たり前じゃない 何であんたと同じ部屋に住まないといけないのよ!」
「‥!オッ同じ部屋じゃねぇ! どーしてお前と一緒の部屋なんかに‥!」
「何よ あたしのどこが不服なの!?」
「不服じゃねぇ!」
「なら傍にいてよ」
「‥おまえ‥」
改めてナミの顔を覗きこむ
もう正面を向いてしまっているからよく見えない
「傍にいて」
その言葉が小さく耳に響く それは決して居心地の悪いものではなく
「わかった」
顔をあげようとするのを押さえ込み ナミの手に自分の手を重ね合わせる
「傍にいる」
イーストフィールド メリーランドシティ −ルフィ
あれから
「あれからココヤシの事件で南分署のやつら大慌てだったぞ」
「そうかー? あれ?お前 今日はたしぎどーしたんだ?」
「あいつも借り出されてちまった 今回の件でな」
「なんだよー その目は」
「ばかやろ 誰が原因だと思ってやがるんだ」
はははと笑うと またさらにケムリンがムッとする
こいつはいつも怒ってばかりだな
目指していた店に ケムリンも一緒に入ってきた
こいつでかいから店の中がせまくかんじる
まぁ しょうがないので勝手に選びはじめることにした
「『ナミ』はお前んとこにいるのか?」
ココヤシのあの畑の事
あれは一面のみかん畑になった
なんでみかんかというと ナミのかあちゃんがあのくすりのケンキュウをする前 から育てていた畑が残っていたからだ
ココヤシの住民はエンジョの申し出を断り自力でフッコウしつつある
結局 力になれたのは畑仕事だけだったなー
リュウツウはナミが仕切ったみたいで モノの見事にココヤシのオレンジは 多くの土地に知られるようになった
アーロンパークの処理やヤツらの不動産から残党までのジゴショリがあったけど
サンジとウソップがウマくしてくれたみたいだ
「決めた このハナにする おっちゃんこれくれ」
「おい聞いてんのか?」
「聞いてねぇ」
今日もいい天気だ
だからって外にさんぽしに出たらこいつと出くわした
こんなでかいやつと一緒にいたら目だってしょうがねーなぁ
またサンジに怒られちまう
ナミはチョッパーのシンダンでロッコツを痛めているのがわかり カヤの病院に少し入院したけど 今は治って元気だ
「なんだお前 花なんか買うのか」
「おう いいんだぞハナは お前も買うか?」
「フン」
なんだよカンジわりーなぁ
「おやルフィさん 今日は違う色の花を買われるのですね 良いんですか? いつものじゃなくて」
「おう いいんだ」
「わかりました ちょっと待ってください」
おやじはそういうと慣れた手つきでハナをまとめる
後ろをふりかえると なんだ ケムリンも買うんじゃねーか ハナ
「そんなにハナ見てやっぱし買うのか?」
「ちがう!」
「そか」
「はいどうぞ 棘があるのでお気をつけて」
ありがとよ とハナを受け取り店を出る
「おい麦藁 なんでそこまで『ナミ』に肩入れをした?」
ふいに後ろからケムリンが聞いた
そうだなぁ それはきっと
「おれはあいつがすきだ」
「お前らしいいいかげんな答えだな ただ『ナミ』は犯罪者だ 背景に何があろ うとな そのおかげで何かあった時にはオレ達は動く事はできん 忘れるな 目立つことをしたらしょっぴきにいく 牢に入れている間のほうがまだ安全だからな そうしたくなかったら もしお前が居所を知っていたら よく監督しておけ」
「なんだ 結局見逃してくれるって教えにきてくれたのか!?」
「ばかやろう!」
顔を真赤にして怒られた
それだけ言うと満足したのかおれに背を向け歩き出した
そしておれも歩き出す ロジを曲がる時 カタゴシに来た道を見ると
やっぱりケムリンはハナ屋に入っていった やっぱりな
ナミは
ゾロのアパートで暮らしている
サンジが大反対していた
今でもあいつは事あるごとにナミを自分の家にと誘ってる
ナミはまだ一度もそこに行ったことはないけど
同じアパートでも一緒の部屋じゃないって言ってるくせに
こないだゾロんちに寄った時
絶対にひとつしかないはずの食器がぜんぶ ふたつずつになってた
ありゃ どういうことなんだ
ゾロのやつ〜!
このハナを持つコウヨウカンの正体がちょっとわかった
さっき バラティエに行ったらもうナミが来ていた
いつもサンジとゾロがつくようにしているのに今日はゾロがいねぇ
サンジはナミだけのメシを作っていた
サンジだけしかナミについてなかった
ナミはウマそうにメシ食ってたけど
ぜんぜんウマそうに見えなかった
おれはナミには笑っていてほしいんだ だからこれを渡しにいく
ナミはこれを受け取りきっとまたふわりと笑ってくれる
お前の隣にいるときに負けねぇくらいに笑ってくれるかもな ゾロ
それがイヤならそんなとこからみてないで あやまりにいけよ
完
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<管理人のつぶやき>
ナミ誕でたくさんの楽しいお話を投稿してくださったあのマッカーさんのマジ話がついに登場!お話はギャング物です!
ハードボイルドなルフィ海賊団。各キャラの立ち回りがとても「らしく」て、実にかっこいいですね!
敵キャラはちゃんと敵ファミリーにされているのが、お話の理解の助けとなります。
また、ロビンちゃんはあの謎めいた感じがとても魅力的でした。
そして、意地っ張りで不機嫌同士のゾロとナミが、ようやく本心をさらけ出したシーンは本当に美しかったです!「傍にいる」なんてゾロに言われてみたいなv
マッカーさんは、のび太くんの誕生日(=私の誕生日)を知っていた数少ない人物でした。そして、バースデー・イブから、このお話を連続で送ってくださったんです。誕生日プレゼントということで・・・。か、感動したよ〜(T_T)
マッカーさん、本当にありがとう!そして、大長編完結お疲れ様でした!