不機嫌な赤いバラ  −7−

            

マッカー 様




イーストフィールド ココヤシシティ ココヤシホテル  ―ゾロ


ココヤシホテルのヤツの部屋は最上階だった
苛立つエレベーターを抜け廊下を走り扉を開けると そこには腹を押さえ倒れてい るナミ
一瞬 体中の毛穴が閉まる感覚がした
抱き起こすと僅かだか意識はある
いつも真っ白な顔が青くなってやがる
なのに目だけはその力を失わない

「なん‥でここに来た‥のよ‥」

ナミの様子を見たウソップは慌ててかけ寄り具合を見る

「なんだ? てめぇは‥ あ〜ん お前があの麦わらか」

「残念だな あいつが 来るまでもねぇよ」

俺はウソップにナミをまかせ 三本の荒くれ者を構える

「誰も傍らに居ないでいいのか? 取り巻きはお買い物かよ」

「シャーッハッハッハッハッハッハ そうだな 本当はもっと大歓迎をしたかったんだけどな 生憎この商売は忙しいんだ お前らをツブすのにな」

大儀そうに長物を振るい オレの鼻先に突き付ける


気にいらえねぇ


「オレ達をツブす気なら こんな回りくどいやり方じゃなく直接来るのが筋だ それとも怖かったか? お前ら‥ここでのルール知っているだろ‥ この土地にはこの土地の統制がある それを無視した奴は‥わかっているはずだろ‥」

これは警告じゃねぇ

「これからは俺様がルールだ こいつらがまず初めの一歩ってとこだな なぁナ ミ!!」

ヤツに砕かれた壁の砂ぼこりや瓦礫で目が霞む
その一瞬腹部に強烈な衝撃を食らった

「っがは‥」

続いて数発
かなりの質量の物体が次々と襲いかかる
たてなおし正面を見るとそれは水の塊 
銃を使わないってのは魚人故のプライドだな
オレが斬りつけるとその頑丈なだけが取り得の顎が向かってくる
室内では出来る事に限りがある 
さっきからその手の中のキリバチを使おうとしない

そういったオレの考えがわかったように奴はにやりと笑うと
オレに背を向けるとウソップとナミの方へと向かい
‥そしてその行動にオレは背筋が一瞬凍った

いきなりウソップを跳ね飛ばすと
ナミの胴を掴み上げ 先ほど穴を明けた壁に向かって飛び降りやがった

「てめぇ‥!!」


気にいらねぇ
気にいらねぇ
どいつもこいつも 理屈ばっかり言いやがって
結局ナミ お前は何もオレに言わなかった
何で言わなかった 何でオレは何も気がつかなかった
手を離しちまったあれからお前の体温がこの手にこびりつきやがってる
気にいらねぇ 
もう一度お前の手を握る前に手放してたまるかよ
サメ野郎が何をしようと てめぇを離すつもりはねぇ 
こんな気にいらねぇ気分になるくらいなら 
てめぇの後をとことん追ったほうがまだマシだ


ヤツの後を追いオレも飛ぶ
そこはヤツのホーム 海だった
ナミのあの様子じゃとてもじゃないが水泳なんぞ無理だ
陸に急いで上げないとヤバい
水中へとすさまじい飛沫を上げて奴が海に入り
続いてオレも水中へと潜った

水の衝撃に気が遠くなるが眼下にはヤツがいる
なんとかナミだけでも上げねぇとまずい
水中じゃスピードが劣る 
奴は陸上の何倍ものスピードで斬りつけてきやがる
体中の傷から血が海を彩ってゆく
海の中は妙に静かだった
血が足りなくなったのかとも思ったがそれにしては意識はしっかりしていた

海が赤く染まり視界が遮られた瞬間
サメが真正面から躍り出た オレは腹に力を貯め下から渾身の力で撥ね上げる ヤツの体は陸上へと打ち上げられるのを見て
ナミを探すがもう日が沈みかけていて何も見えねぇ
もう一度深く潜る 何も見えない海の中を
あいつはここにいるのか
こんな暗い中どこにいるんだ

腕に触れる暖かな温度を感じる
そのままそれを握り海上へ向かう
ナミと信じて

「ガハッ ‥おい‥大丈夫か?」

返事を出来る状態ではないようで上半身を岩場寄りかからせぐったりとしている
急いで岸に上げチョッパーに見せたいとこだが‥
黒い気配に振り返り見ると奴は岩上に立ちあがるところだった

「ロロノア‥テメェ‥ゴホッ」

「なんだ‥まだ生きてたのか 陸にあがった魚にしては頑丈じゃねーか」

ゆらりと立ち上がったサメは再びオレにその殺意を向ける
ナミを一人にさせておくのにイラつき
それでもなるべく近場の岩場の上へと上がりヤツへと間合いを詰める



ひとつ大きく息を吐き腰に重心をおとす


「 ゾ‥ロ‥」


二度と一つになることはないヤツの体が 今 血花と共に海へと落ちる


ナミの眼前で





イーストフィールド ローグタウン フィッシュマンズホテル −サンジ


全くやれやれだぜ

唐突にアーロンんとこで大立ち回りしたと思ったら
その大将を残すといきなり踵返してここまで戻って来やがった
折角ナミさんいらしたのに マジでやれやれだぜ 恋のファーストチャンスは逃すわ スーツは汚れるわ 
おまけにタバコも無くなるわ とくらぁ

最上階スイート この部屋にワニがいるはずだ
だがおかしな事にドアの回りはおろかホテル内にソレとわかるやつらはいない

「引き上げたのか?」

ルフィは俺にかまわず無用心にドアを開ける

真っ暗な部屋に人の気配
思わずヤツの前に立ち構える

「いらっしゃい」

暗闇の中聞こえる それは明らかに女性の声

「あの子は連れてきたの?」

「いいや いねぇ おめぇ誰だ?」

その顔立ちがはっきりしてくるようになると俺は見覚えのある顔だと分かった
夕べのパーティの時クロコダイルの傍にいた‥

「ロビン‥ちゃん‥?」

「あら 私の名前を知っているなんて 光栄ね」

「なんだサンジ知ってるのか?」

「当たり前だ 日々出会えた女性の予習復習はかかせねーのがいい男の影の努力ってもんよ ちなみにこのお方はクロコダイルんとこの秘書をされている」

彼女は完璧すぎるほどの人形のような笑顔で答える

「そうか ならクロコダイルはどこだ」

「ここにはいないわ 麦藁のルフィ」

「どこだ」

「グランドフィールドよ」

魅惑的に笑うと肩をすくませる

「ワニはアーロンに話があるんじゃなかったのか?」

「フフ それは違う 彼女を欲しいのは私なの」

「薬はどうするんだ」

「そんなものどうでもいいわ 要は彼女さえこちらに来てくれれば だけどその様子じゃ契約は無効ってことかしら?」

「そうだ ナミは渡せないし サメはもういない 取引はできない」

「そう 残念だわ」

その割には表情に落胆の意がでない
ナミさんとはまた違う美しさを持つ神秘的な女性

心が読めない 
ただ微笑み返す彼女

「ナミさんの生物学的知識が彼女を欲しい理由なんですか?」

あのナミさんのお姉さまがおっしゃっていた
彼女らの母ベルメールは生物学者でナミさんもその後ろを着いて回っていたと
「オレにはこむずかしい事はわかりませんが プルトンっていうヤバいものをウマく利用できる知識があるんだ ナミさんが他に何か知っているって事ですか?」

「フフ そうね 彼女の知識や経験だけでも素晴らしいものだけどもういいのよ アーロンはもういないようだし これからはあなた方が?」

「あぁ もういねぇ ナミにはこれから好きなことさせる」

「あの子はもう自由に?」

「そうだ」

「そう ならもう私がここにいる意味はないわ」

彼女は長い足を組み解き 立ち上がる

「教えてもらえませんか‥ ナミさんに何を」

少し考えた彼女はゆっくりと俺に歩み寄る その微妙な距離感

「もう何もないわ あえて言うならあのままではうちのボスが本当に目をつけるから それじゃぁ 私が困るの」

「? どういう事です‥?」

「フフ 皆まで言わない 自分でお考えなさい」

なめらかな人差し指で俺の頬をなぞり 俺の目を覗きこむ
何も見えない漆黒の瞳で

「それじゃぁオレ達はまんまと踊らされたってわけですか‥?」

「賭けではあったけど‥ 正直アーロンの子飼いが緑の子と彼女が接触してるのを見て 先走って家まで押しかけようとしていたのにはちょっと焦っちゃった あのまま何も知らないうちのボスに持ち込まれたら 大変だったから‥」

あいつ‥ナミさんをもう家にあげたのかよ‥!!!

「緑の子の状況判断は正解」

「ゾロはもうナミを家にあげたのか!! 思ったより手は早いんだな〜」

ルフィ!! クソ‥いいや だがまだ俺の勘ではあいつはやっちゃいねぇはずだ
それこそ賭けてもいい!

「フフ おもしろい子たち」

いつの間にかドアの前に立つ俺達を通り過ぎて‥

「またいつか‥ね」

言葉と香りを残して不確かな彼女は行ってしまった


「なぁサンジ あいつナミが本当に来てたらどうするつもりだったと思う?」





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