lecter streetみづき様
「何でてめぇが来てんだよ・・・。」
「あ?そりゃこっちのセリフだ。」
ゾロは店へ入るなりサンジと揃って言い合う・・・。
ゾロがやって来たこの店は、レクター街にあるビルの1階に店を構える喫茶店・ レーン。
このビルは1階に5件店舗があり、2階から5階までが住居になっている一風変 わって目立つビル。
その1階・・・レーンの隣で探偵事務所を開いているゾロは、一休みを兼ねてや って来ていた。
「・・・大体てめぇの店と此処は方向が違うだろうが。」
「何だ・・・方向音痴のてめぇでもその位は分かるんだな。」
「んだと・・・。」
ゾロは眉を寄せながらサンジと一つ席を空け、左端のカウンターに腰掛ける。
「この格好見りゃ分かんだろ・・・仕事前に寄ったんだよ。」
白のズボンに白のTシャツ、その上に緑のシャツを着たラフな格好のゾロと違い
サンジは黒のスーツを着こなしている。
彼はこのレクター街最大のカジノバー・ジュールでバーテンダーをしており、仕 事前に寄っていたのだ。
「だから、何で寄ったか聞いてんだ。」
「ナミさんに会いに決まってんだろ。そろそろ戻る頃だからな。」
「・・・。」
それを聞いてゾロは更に眉を寄せる。
「はいはい、ケンカはそこまでにしな。」
「ベルメールさん・・・。」
そんな時奥の調理場からやって来たのは
青地に白のストライプが入ったシャツに、紺のサブリナパンツを着た女性。
サンジにベルメールと呼ばれたこの女性は加え煙草で現れると
彼の前にアイスコーヒーを置いてゾロを見た。
「いらっしゃい。注文は?」
「同じのを。」
彼女はこの店の女主人であり、先程話に出たナミの母親。
ゾロにアイスコーヒーの注文を受けた彼女はサンジの時同様すぐ作り終えると、 彼の前に置いた。
「一段落したとこ?」
「えぇ、まぁ・・・。」
「あぁ・・・そう言えばこの間起きた事件と銀行強盗、何か繋がってんだって?」
「みたいですね・・・俺は新聞で読んだ事しか知らないですけど。」
すると、聞いていたサンジが話に入る。
「あ?お前、警察と一緒に調べてるんじゃねぇのかよ?」
「俺は依頼を受けてマープル銀行から強盗を防いだだけだ。
それに俺は警察に協力しちゃいるが、自分から首を突っ込んじゃいねぇ。一人い りゃ充分だろ。」
「・・・そりゃそうだ。」
ゾロは彼女と話している時と違い、レーンへ入った時の口調に戻りサンジに言う 。
3人の話している銀行強盗というのは
ここ3日の間にレクター街にある5カ所の銀行に押し入り、合計で4億ベリーが 盗まれた事件。
同時に昨夜、メイスン川でバンという男の水死体が発見され
警察は強盗犯の一人として交友関係を当たっていた。
「そういやぁ・・・俺も店で変な話聞いたな。」
「あ?」
独り事の様に言いながら、サンジはアイスコーヒーを口にすると言葉を続ける。
「お前もネロで今、幹部争いが起きてるのは知ってんだろ。」
「あぁ・・・。」
「その幹部候補の一人が、他の候補者を丸め込んじまったらしい。」
「・・・ホントなのか?」
「分からねぇ・・・昨日の話じゃ誰なのかまでは言ってなかったからな。
その盗まれた金を他の候補者にばらまいたって噂で持ち切りだ。」
「まぁ・・・奴等は金の出所なんて知ったこっちゃねぇからな。」
「そういう事だ。」
ネロというのは、このレクター街を二分するマフィアのひとつ。
最大のカジノバーだけあり裏社会の情報も入り易いサンジは
時々ゾロに情報を提供する事があるのだが・・・。
「これも情報の内だからな・・・ナミさんには今度こそ俺に付き合ってもらうぞ 。」
「・・・あいつがいいと言えばの話だがな。」
何かと彼はナミとのデートを取り付けようとしては、実現出来ないのである。
「それは無理ね・・・あの娘あぁ見えて直線な娘だから。あの事もあったしね。
ゾロから奪るのは至難の業よ、サンジ。」
「・・・だ、そうだ。」
「てめぇ・・・。」
それまで話を聞いていたベルメールにも言われ、今度はサンジが眉を寄せゾロを 見る。
「や〜・・・やっぱ涼しいなぁ〜。」
そんな彼や2人に高めの声が聞こえて来たのはその直後。 その声の主は赤い無地のTシャツに青のGパンという格好をしていた。
「今帰りかルフィ?」
ゾロはすぐに、その声の主であるルフィに声を掛ける。
「あぁ。何だ、2人も来てたのか。」
「まぁな。」
そのルフィの後ろにいたのは 白のワンピースを着たビビと、黒のズボンに茶色のシャツを着たウソップ。
「こんにちは。」
「よぉ。」
2人はそれぞれゾロとサンジに声を掛けると、ビビはサンジの横に座ったルフィ の隣へ・・・。
ウソップは端に座っているゾロの横を通り、カウンター奥へと入って行った。
「いらっしゃい。何にする?」
「俺、ターナー。」
「あ・・・私も。」
ルフィとビビが頼んだターナーというのは、バーテンダーであるサンジが考えた 飲物のひとつ。
ベルメールが気に入ったのをきっかけに彼女が作り方を教わり、メニューに加え たのである。
「はいよ。」
「有り難う、ウソップさん。」
「サンキュー。」
ウソップからそれぞれ受け取り、2人はすぐに口にする。 実は彼は此処レーンでバイトをしており
2人の飲んでいるターナーは、彼女やサンジ同様ウソップにも作れるのだ。
「うめぇ〜。もぅ教室ん中暑くってよぉ・・・いっくら飲んでも喉乾くんだよ。 」 「あのなぁ・・・お前の場合飲み過ぎなんだよ。大体、教室のエアコン壊したの お前だろが。」
「しししし。」
すぐにルフィは、ウソップにいつもの笑顔を向ける。
2人はレクター街最大の財閥が運営しているハイスクールに通っており、同級生 で同じクラス。
ビビも同じハイスクールに通っており、学年はひとつ下になる。
「ったく・・・お前みたいな奴が警察出し抜いてるなんて変な話だぜ。」 「別に出し抜いてねぇぞ、サンジ。警察より先に分かっちまうだけだ。」 「だから・・・それを出し抜くって言うんだろうが。」
「そっか?」
「・・・。」
サンジがすぐ彼に呆れ顔を向けたのも無理はない。
ルフィは刑事である兄のエースや彼の上司であるシャンクスの影響か
何かと事件に首を突っ込んだり時に巻き込まれながらも、警察に協力しながら事 件を解決し
今ではゾロと共にこのレクター街では有名になっている。
ビビとはハイスクール内で起こった事件をきっかけに知り合い、それから少しし て付き合い始めていた。
「・・・で?また何かの事件に首突っ込んでんのか?」
「あぁ・・・昨夜の事件が気になってな。」
「・・・水死体のか?」
「あぁ。」
ルフィはすぐ真剣な表情をサンジに向けると言葉を続ける。
「昨夜エースやシャンクスと一緒にその水死体見たんだけどよ・・・何かおかし いんだ。
皮膚と一緒に木カスが残ってたんだよ、爪ん中に。」
「どういう事だよ、ルフィ?」
「どういう事ですか?」
ベルメールやビビだけでなく、他の皆も揃って首を傾げた。
「被害者は絞殺されてんだけどよ・・・普通首絞められたら、こう・・・手を掛 けるだろ? そん時力がぶつかり合って首ん所の皮膚をひっかく感じになんだ。
んで、爪ん中に皮膚が残ったりすんだよ。
あと相手・・・犯人の手とか腕をひっかいたりして皮膚が残ったりな。
けど、木カスってのが分かんねぇんだ・・・。」
自分の首の前に両手を持っていくと、ルフィは皆にそう説明する。
「なら川の中の木カスじゃねぇのか?確か、メイスン川で見つかったんだろ?」 「それがよぉ・・・昼休みにエースに電話して聞いたら、川ん中のとは違ったっ て言うんだ。」
そのままウソップに言うと、それまで話を聞いていたゾロがルフィに続いた。
「要するに殺害場所と死体発見場所が違うって事か?」
「多分な・・・。死んだ時間が分かりゃ、ある程度殺害場所は分かるんだけどよ ・・・。」
「水に浸かってたんだ・・・無理だな。」
死体というのは水に浸かったり火に焼かれてしまえば、死亡推定時刻は分からな くなってしまう。
「エースやシャンクス達は被害者の周り調べるのが精一杯でよぉ・・・。
殺害場所を探すまで手が廻ら・・・いってぇ!」
そしてルフィは言い切らない内に、後ろから鞄で頭を思い切り叩かれた。
「・・・ナミ!」
「・・・。」
そこにいたのは、薄いピンクのTシャツにオレンジのミニスカートという格好を したナミ。
彼女は思いっ切りルフィを睨んでいた。
「ルフィ、あんたね・・・人の店で事件の話するの止めなさいって言ってるでし ょ。」
「う・・・。」
「まったく、しょうがないんだから・・・。」
その様子に皆が何も言えなくなったのだが、本人は気にする事無くゾロに封筒を 渡す。
「はい、コレ。間違ってウチのポストに入ってたの。ゾロにみたいよ。」
「あ?」
学年はルフィとウソップより一つ上になるが、彼女も同じハイスクールの生徒で 丁度戻った所・・・。
その彼女から封筒を受け取ったゾロは、封を開けカギと一緒に同封されている手 紙を見た。
「何だこの字・・・読みずれぇな。」
「ん?」
「・・・?」
そのサンジの言葉にルフィとビビは席を立ち、全員が手紙を見る。
「後を頼む・・・何だコレ?」
しかしその手紙を読んだのは他の誰でもなく、130cm程の低い背をした少年 ・・・。
ビビの隣から手紙を覗き込んだこの少年は茶色のズボンにアイボリーの無地パーカーという格好をしており
焦げ茶がかったショートの髪に似合うベージュの鍔付き帽子を被っている。
とたんに全員が彼を見ると、見られたこの少年は目をパチクリさせた。
「な・・・何だ?」
「チョッパー・・・あんたいつからいたのよ。」
「いつって・・・今だぞ?」
首を傾げナミに言い返しながら、ゾロとサンジの間の席にチョッパーは腰掛け
合わせる様にナミはカウンター奥へ・・・ルフィとビビも席に戻る。
「ナミ・・・俺、アイスティーな。」
「オッケー。」
そして彼女からアイスティーを受け取ると、皆と同じくすぐ口にした。
「今診察終わったトコ?」
「あぁ・・・一段落したトコだ。これからまた行くぞ。」
彼は最年少で医師免許を取っており 知識・技術共に優れ、他の病院から今でも誘いの話が来ている程。
教育課程もすでに終了していて、今はゾロと共に暮らしている。
彼は父親のヒルルクが殺された事件でゾロと知り合い
当初母方の祖母であるくれはの元へ行くはずだったが
入院費や治療費を払うのが面倒だというゾロの一言から 彼女の許可の下、助手として引き取られていた。
「誰かさんの稼ぎがないと大変よね。」
ナミはそのままチョッパーに言うとゾロを見る。
「・・・。」
しかしゾロは言い返す事なく先程の手紙を見たまま考え込んでいた為、彼女は少 し眉を寄せた。
「そんな事ないぞ。この間の依頼料、結構あったんだ。」
「へぇ・・・そうなんだ。」
彼の言う依頼料というのは、先程ゾロが話していたマープル銀行の件。
彼は助手の仕事と兼ねて割安な値段で診察の仕事もしており
薬については患者に処方箋を渡し、扱いの薬局へ行ってもらう形をとっている。
これがレクター街ではなかなかに知れ渡っており
今では2人が生活する上で欠かせない資金源のひとつになっていた。
「なぁ、ゾロ・・・まだ分かんねぇのか、それ?」
「あぁ・・・さっぱりだ。消印は昨日で市内からになってる。」
「ふ〜ん・・・。」
身体を後ろへ傾けゾロに聞いたルフィは、元に戻るとゾロ同様考え込む。
「・・・。」
しかしそんな彼を見ていたビビは、すぐに彼の右頬を軽く抓った。
「いて・・・ビビ?」
「もぅ・・・すぐそうなんだから、ルフィさんは。朝の事忘れてるでしょ?」
「朝・・・?何だ?」
「私の買い物に付き合ってくれるって言ったじゃない。」
「あ。そっか・・・悪ぃ。」
すると・・・。
「ったく・・・レディとの約束を忘れるたぁ、どういうつもりだてめぇは。
ビビちゃん、俺で良ければ付き合いますよ。」
サンジはすぐにそう言って、彼女の手を取ろうとする。 しかしそれはすぐ、間のルフィに阻まれた。
「ダメだ!買い物は俺と行くんだ!」
「あぁ・・・分かった、分かった。」
そう言ったルフィの表情は、先程のものとは違い少し子供っぽい表情になってい る。
サンジは返事をしながら、そんな彼を不思議に思っていた。
「良かったわね、ビビ。」
「はい。」
それからナミとビビは買い物の話で盛り上がり始め、ルフィ達男性陣も話に加わる。
ところがゾロは一人話には加わらず、そのまま考え込んでいた。
「おい、ゾロ・・・お前まだ考えてんのか?」
「あぁ・・・何か気になってな。」
途中話の輪から離れたウソップがそんなゾロに気付く。
「思い当たらないなら考えるだけ無駄だよ。止めときな。」
「店長・・・。」
ベルメールもまた彼に気付くと、少し早口でそう言った。
「それよりあんたもあの娘をどっかに連れてってやったら?部屋に連れ込むだけじゃなくてな。」
「・・・。」
「え・・・。」
そしてそのまま言葉を続ける彼女に、ゾロとウソップは揃って面食らった表情に なる。
「お・・・お・・・お前、いくら何でもそりゃマズイんじゃねぇのか!?チョッパーがいるんだぞ!」 「てめ・・・変に勘ぐるんじゃねぇ!」
「だ・・・だってよ・・・。」
ベルメールはすぐに慌てる2人を見て笑うと 煙草の灰をカウンターに置かれている灰皿に落とした。
その灰皿の横に置かれているカギとゾロが気になっている『後を頼む』を書かれ た手紙・・・。
この2つがそれまで話していた事件に大きく関わっているとは、この時誰一人と して思ってはいなかった。
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