誕生祝い (TAKE 1)
森魚 様
11月11日は、ゴーイングメリー号の剣士、ロロノア・ゾロの生まれた日で御座居ます。
それを知ったこの船の心優しきクルーたちは、彼の生誕を祝うのでありました。
誕生祝いというものには「本人が喜ぶ」という基本的ルールが存在し、海の荒くれ者と叫ばれる海賊でも、そのルールは守られようとしているのでありました。
−とは言え、このロロノア・ゾロという青年。少々物欲に乏しく、何をどうお祝いしたら喜ぶのか、皆目見当もつかないときているので御座居ます。
何をしても喜んでくれそうだとは思うけれども、にっこり喜ぶ姿も想像できずにいる船員たちは、やはり頭を悩ますのでありました。
「もう、お祝いするのやめちゃおううか…」
なんていう言葉も漏れてしまうのですが、さすがにそれも 私たちが 心苦しいっ。
そこで、う〜んと唸っている船員をまとめるのがやはり船長で御座居まして、彼が言うには 「宴会」 しかない訳で御座居まして、実際「宴会」しかないわけで御座居ます。
そして、「宴会」をする事には何ら依存はない船員たちなので、
「そうだ!宴会にしよう!!」
と騒ぐのでありました。
それじゃぁ、いつもと変わらないじゃないか!と、頭の良い一部の人間は思うのですが、
本当に頭の良い人間は更にこう付け加えるのです。
「私たちの大切な仲間なんだもの、是非とも彼の夢は叶ってほしい!!」
何の異論が御座居ましょうか。あるはずも御座居ません。
彼の夢は、世界一の剣豪です。その為のトレーニングを欠かしていないという事も、
船員たちはよく知ってるのです。
「ウソップ!戸板用意!! サンジ君、料理スタンバイ!!」
彼女の的確な指示のもと、宴会の準備が進められていきます。 そして、…
「「「「「 ゾロ、お誕生日おめでとう!! 」」」」」
カンパーイ☆ という音頭と共に皆に笑顔が宿りました。めでたい日にはめでたく宴会!
なのです。
嗚呼、しかしどうした事でしょう。みんなから祝され、喜ぶべき青年の顔は苦痛に歪められているでは御座居ませんか!!
それもそのはず、宴会という名の彼の誕生日会は、先程ウソップ青年が用意した戸板の上で行われているのです。
それだけでは御座居ません。その戸板を背に担いでいるのが、本日の主役であるゾロ青年であったのです。
頭の良い彼女の言い分はこうです。
「私たちは、ゾロに世界一の剣豪になってほしいから、そのお手伝いがしたい!
ならば私たちがゾロの筋トレの『負荷』となろう。 ゾロは私たち全員を背中に乗せて
腕立て伏せをしてはどうか?しかも集中力を高めるために、私たちは宴会騒ぎをする
ので、その誘惑に負けることなくトレーニングをしてほしい」
そういうことなので御座居ました。
ゾロ青年は、十分に怒りをためてから戸板をひっくり返し、「嬉しくない!」と ハッキリ言いました。
一同、少々のショックを受けましたが「やっぱりなぁ」という思いもあることにはあったので御座居ます。
何をやっても喜んでくれる訳ではない という事が分かった船員たちでありました。
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