誕生祝い (TAKE 6)
森魚 様
ゾロ青年は後ろからサンジ青年が追いかけてこないのを確認すると、森を抜ける明るさが見えてくるのを確認するのでありました。
迷うことなく森からの脱出を決心いたしました青年は、更にスピードを上げて走ったので御座居ます。
何もかもふっきるかのように森から勢いよく飛び出しました青年。1歩踏み出した足は、白い砂浜をザックリと鳴らしたので御座居ました。
一息ついて顔をあげれば、太陽が傾きかけておりました。日没で御座居ます。
よく見れば、白いと思っていた砂浜はオレンジ色を映し出し、森へと影を伸ばしているのでありました。
そしてその影、なんと青年が探そうと思った女航海士。
なんたる偶然。彼女を認識したならば、今日一日の出来事がふつふつと湧いてくるので御座居ます。
何故、戸板の上で宴会する仲間を背に乗せて腕立て伏せをしなくては成らないのか?
何故、肖像画が集合絵に成るのか? いや、それは良いとしても、
何故、みんなの言う事をきかねば成らなくなったのか?(しかも拾物で)
何故、仲間から追いまわされ、攻撃を受けなければならないのか?
思えば、みなこの女の発言がきっかけではなかったであろうか。
誕生日が偉大なものだとは思っておりませんが、数ヶ月前のナミ嬢の誕生日では、少なくとも、仲間は嬉し楽しでお祝いをした記憶があるので御座居ます。
そうであると確信いたしました青年は、文句のひとつでも言って問い正してやらねばならないと思うのでありました。
「ねえ、みんなは?」
しかし拍子抜けにも先に問うたのはナミ嬢の方で御座居まして、ゾロ青年はそんなことは知る訳がなく、全て振りきって来たことを無言で伝えたのでありました。
ナミ嬢の方もさして期待はしていなかったらしく、ふいと海のほうを見やったので御座居ました。
「おい、ナミ!お前なぁ…!!!」
仕切り直して怒りを表すゾロ青年に、「なあに?」と振り返るナミ嬢。
その言葉が優しい響きをふるわせていて、その笑顔が明るさを宿していて、青年ははっと息を飲んだのでありました。
こんなにも綺麗に笑うものだったか。
なんだか純粋に嬉しそうに笑う彼女に、悪態なんぞをつくことなどできる訳もない青年は、「なんでもない」と言わざるを得ないので御座居ました。
すると、思いがけない静けさが世界を創るので御座居ます。
寄せては帰る波の音、森を揺らす風の声。鼻腔をくすぐる潮の香りとナミ嬢の髪。
そして、あっという間にゆっくり沈んでいった赤い太陽。
「ね、見た?」
ナミ嬢は問うと同じくして、両手を差し出すのでありました。
「これは私からのプレゼント」
手渡されたのはひとつの蜜柑。沈んだ太陽の色に染まったオレンジ色の果実。
滅多な事では御座居ますまい。勝手に持ち出し禁止である禁断の果実。
「あんた、夕陽を見たのは久しぶりなんじゃない?」
いっつもこの時間は昼寝してるんだものっという小言も忘れないのでありました。
「本当はみんなと一緒に見たかったんだけど…。その方が誕生祝いって感じでしょ?」
そう言って辺りを見回して仲間を探す彼女に、少し淋しい気持ちを抱くのは何故で御座居ましょう。ゾロ青年は、この手の中におさまる蜜柑のようにはいかないものだと、悔しく思うのでありました。
「だったらもっとマシな祝い方をしやがれ!今日一日中…。何なんだ…」
うごめく想いをよそに、いつも通りの会話をするゾロ青年、19歳。
「宴会の方が良い」とつぶやいた言葉に満足したのはナミ嬢の方で御座居ました。
普段からそういう男であったならば、こんなにも悩んで祝うことはなかったろうに…。
難儀な男でなかったならば…。いや、もう言うまい。
そんなことより、好きな人の誕生日には是非とも言いたい事があるので御座居ます。
心を込めて、誰よりも印象的に。忘れる事ができない…
誕生日おめでとう
伝わったでしょうか? 内に秘めたる想いと共に。
残ったでしょうか? 彼女の存在、青年の中に。大きく。
「好きです」と言えなかったことは、責めないでください。
そんな言葉に、ゾロ青年は返す言葉を見つけることができず「おう」と小さく発したので御座居ました。
しかし応えたい気持ちは、青年に揺るぎない決心をさせたので御座居ます。
彼女と共に俺は在ろう
これから先の航海、いつまでも。
彼女の命尽きるまで、己の命かけて。
「好きだ」と言わなかったことは、責めないでください。
彼らは冒険の途中なので御座居ます。
FIN
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<管理人のつぶやき>
仲間たちがゾロの誕生日をお祝いしようという心意気はよくわかります!でも実際やってみると微妙にお祝いからズレていくのがなんとも愉快♪それによく考えてみると、どうも黒幕はナミ・・・?でもナミにはナミの意図があってのことでして。ゾロとナミが二人きりで夕陽を見ることになりましたv ゾロにとっては何よりのプレゼントですね!お互い口にしないけれど、想いは一つなんです、この二人。
ONE PUSH様(閉鎖されました)のゾロ誕企画『ゾロ君、お誕生日おめでとう』でフリーとして出された作品です。どれを持ち帰ろうか迷いましたが、やはりこれに!森魚さん、素晴らしい作品をどうもありがとうございまいした〜。
このお話にはステキなサイドストーリーもありますよ。それはONE PUSH様(閉鎖されました)でお楽しみくださいv