ゾロ君だって、お年頃なんだってば。
瞬斎 様
「ねぇ、ゾロ。膝枕してあげっよか?」
「いらん」
「ねぇ、ゾロ、これ食べる?サンジ君がね、あたしのために作った蜜柑ゼリー」
「いらん」
「ねぇ、ゾロ、汗かいたんじゃないの?背中拭いてあげわよ?特別に」
「ほっとけ」
「ねぇ、ゾロ」
「だから!なんなんだよ、今日は」
今日は、やけにナミの機嫌が良い。気味悪いくらいにちょっかいを出してくる。
こういう日は、絶対何かあるに違いない。絶対何か企んでるに決まってる。
そりゃ、まぁ。悪い気はしない。膝枕、と言われれば照れくせぇけど、そこからあらぬ想像だって、する。
しかし、金が絡んでることは間違いない。ナミと言えば金。金といえばナミ!
こういう時は。そうだ。三十六計逃げるにしかず。
さっさと風呂にでも入って、一人になろう。まさか、あいつも此処まで付いてこないだろうし。
「おい、ゾロ。お前、何疲れてんだ?」
「うるせぃ」
「・・・・・・何だか、声まで覇気がないな。仕方ない。この俺様の・・・・・・」
せっかくナミから逃れて、風呂に入ろうってのに、こんなところでウソップの武勇伝とやらに付き合っていたら、ナミに見つかっちまうだろうが。
ウソップの前を素通りして、タオルを引っ掛けて風呂場へ。
で、またその途中で今度はおめぇかよ、グル眉毛・・・・・・。
「へい、マリモマン!お前、さっきナミさんに怒鳴っただろう!女性を怒鳴るなんてヤツはクソだ!ナミさんを怒鳴るお前は、3枚に・・・・・・」
へーへー、勝手に言ってろ。今はお前の相手はしてやる暇がない。こいつもあっさりスルーして、キッチンを出たら、今度はトナカイだ。風呂場がえらく遠い船だぜ、まったく。
「ゾロ、ゾロ。さっき、ルフィが、でっかい烏賊を釣ったんだ。見てくれよ」
チョッパー、今の俺には烏賊はどうでもいいんだ。わりぃな。
「で、俺は、こっち。でっかいヒラメだろ!すごいだろ!」
「あー、すげぇ、すげぇ」
おいおい、不満そうな顔するなよ・・・・・・。
「チョッパー。クソコックのところに持って行ってやれ。お前の手柄だ」
たちまち、チョッパーの顔が崩れて、
「う、うるせー!別に大したことじゃないぞ!」
嬉しそうに目尻が下がる。まったく、世話の焼けるトナカイだな。それにしても、こっちまで、嬉しくなっちまいそうだから、困る。
と、それは、いいとして。ナミに見つかる前に風呂に入らないと、ずっと付き纏われて、挙句何をされるかわかったもんじゃねぇ。
触らぬ神に何とやら。
どうせ、金がらみで、ロクなことになりゃしねぇんだから。
一度甲板に出て、様子を伺おうとすると、今度は船首の方からルフィの声がする。
「暇だなぁー、釣りもしたしなー、なぁ、ゾロ。なんか面白い事ねぇか?」
「ねぇよ」
暇つぶしにナミの腹を探る、ってぇのならあるが、ルフィじゃ太刀打ちできねぇしな。
「頼むから、海にだけは落ちるなよ」
「おうっ、うわー落ちる!!」
言ってるそばからそれかよ!ルフィの体が船の外に大きく傾いて、あっという間に視界から消えちまった。何度も言うが、お前は泳げないって自覚を持て!!
「な〜んちって」
ゴムの手が船の縁に伸びてきて、麦藁帽子を押さえたルフィが、文字通りゴムのように戻ってくる。
「お、ま、えなぁ!!」
「驚いたか?」
得意満面に笑うルフィの胸倉を掴みそうになって、俺は腹立たしいが手を引っ込めた。そう、コイツに構っていたら、後でもっと怖しいヤツに捕まってしまう。
「何だよ、つまんねーな。ゾロ。お前、何するんだ?修行は?」
「これから風呂だ」
「そっかぁ、風呂かぁ。俺もはい・・・・・・」
「俺が先だ!」
俺は言い捨てて、やっと風呂場の前にたどり着く。まったく、長い道のりだ。
扉に手を掛けようとすると、今度はいきなりドアから手が生えてきやがった。
ホントに、どいつもこいつも!
「あら、剣士さん。これからお風呂?」
扉が開いて、ロビンが出てくる。くっそう、先客ありかよ。
「どうぞ、洗濯終わったから、使っていいわよ」
「そりゃ、どうも」
「何なら、一緒に入る?」
・・・・・・はぁ?
「あら、剣士さん、顔が赤いわよ。意外と初心なのね」
この女は!俺を玩具にしやがって。冗談じゃねぇ!だからこの女は嫌なんだ。
いいか?俺だって男だぞ?
まぁ、どうせなら・・・・・・あんたじゃなくて・・・・・・おっと、いかんいかん。
「いいから、早くどけ」
「はいはい」
ロビンは絞った洗濯物を入れた籠を手に俺の隣をすり抜けていく。
これで、やっと風呂にありつける。
バスタブを湯で満たして、ゆっくり浸かるのが、俺の隠れた楽しみだ。
一汗かいたあとの風呂は格別。船の風呂は狭いが、それは贅沢ってもんだろう。
アラバスタで入ったでかい風呂が恋しいが、旅をしていれば、いずれそんな機会もまた巡ってくる。
知らず、知らず、風呂ってのは気持ちよくて、ウトウトとしちまう。
始終騒がしい船で、この時間が、一番のんびりできるんだ。
「ねぇ、ゾロ」
夢の中まで、ナミが付き纏ってきやがる。あーもう、今度は俺に何をやらせようってんだ!
「ねぇ、ゾロってば」
あー、まったくうるせぇな。
「起きろって言ってるのよ!」
あー、夢の中まで、しつこいヤツだな。って、あれ?息ができね・・・・・・?
「グオッホゴボッ!!」
何時の間にか頭まで湯に使ってしまって、俺は慌てて息をしようとするが、頭が何かに押さえつけられていて、思うように水面に顔が出ない。欲しいのは湯じゃねぇ、酸素だ!
力ずくで無理矢理、なんとか邪魔するものをどかして、水面にでると、待っていた酸素が一度に肺に入ってくる。
「ゲボッグホッ、ったく、てめぇはなぁにすんだ!」
「あんたが、呼んでも起きないからよ。やだ、鼻水。きたなーい」
ナミがバスタブの縁に頬杖を突いて、白い目で俺の慌てぶりを見ている。
「誰のせいだ!誰の!」
「いいから、鼻水拭いたら?」
俺の剣幕に動じず、ナミは乱暴にタオルを俺に押し付けて、また不貞腐れたようにバスタブの縁に頬杖を付いている。
「ったく、なんなんだよ、今日は!」
「ねぇ、あんたって、馬鹿だ、馬鹿だと思ってたけど、ほんとに馬鹿?」
「おめぇ、喧嘩売ってるだろ?」
「喧嘩売ってるのは、どっちよ」
「はぁ?」
ナミの両腕がすっと、首に伸びてくる。
「お、おい」
「苦しかった?」
顔に息がかかって、俺は息苦しい。湯気のせいじゃない。こんな風にナミに迫られるとは、思わなかった。柄になく、俺は慌てている。長い睫が、ゆっくり瞬きすると、俺の頬を擽るんだ。
「ねぇ、苦しかった?」
「い、いや・・・・・・く、苦しかっ」
最後まで、言えなかった。ナミの口に塞がれてしまったからだ。
何だ?なんなんだ?今日のコイツ。
ナミは着ている服が濡れるのも構わず、バスタブに身を乗り出して俺の首に腕を一層強く絡めてくる。
いいか?落ち着いて考えろ。俺、何かしたか?こいつの機嫌を損ねること、何かしたか?
・・・・・・心当たりが多すぎて、どれだかわかんねぇな、クソ。
「はい、人工呼吸ね」
無感情に言うナミの顔は、さっきまでの俺に纏わりついていた時の表情とは打って変って、白けた表情をしている。
「ねぇ、本当に覚えてないの?約束」
「はぁ?約束ぅ?」
やっと体を離して、ナミが小首を傾げる。約束。俺は、約束したことは忘れないはずだが、何かあったか?
「だから、もう」
「こんなところまで、追いかけてきて、何なんだよ?俺は約束なんてしてねぇぞ!」
「信じられない!」
「こんなところまで追いかけてくるお前の方が、俺は信じられん」
そりゃそうだろ。だって、風呂だぞ?俺はつまり、裸だぞ?それで、こんなことを昼間からされたら、たまらんだろうが!
いや、そうじゃなくてだな・・・・・・。
「問題です。今日は何の日?」
「はぁ?」
「じゃぁ、あたしの誕生日の時、あんた自分でなんて言ったか覚えてる?」
「お前の誕生日?」
「そう!」
確か、何か欲しいって、こいつが言って、で、俺はどうせ金はねぇし、それで確か・・・・・・。
「俺の時には3倍にして返せ、ってあんたが言ったんじゃない」
・・・・・・そういえば、そんなことあったな。
「確かに言った。それがどうした?」
「だから、今日は何の日?」
どうも、今ひとつ、何が言いてぇのか、さっぱりわからねぇ。
「あんたねぇ、誕生日でしょ!今日!」
「・・・・・・あ」
「あ、じゃないわよ、もう」
だから、朝から俺の周りをウロウロしてたのか。
そうか。そうか。コイツは、疑って悪かったかも知れない。
「あたしなりに、考えてたのよ、ずっと」
照れ臭そうにナミが視線を逸らす。それを見て、俺は思わず口角が上がってしまう。
そうか、そういうことか。
「お前、こんなところまで押しかけてきて、誰か来たらどうすんだよ」
「来ないわよ。鍵かけてあるもん」
「おまえさぁ・・・・・・」
可愛いやつめ。と思ったことは、調子に乗るだろうから、言わない事にする。
「いい、何でもねぇ」
ナミの軽い体を、抱きかかえて、そのままバスタブに沈めてやった。ナルホド、抵抗しないわけだ。ふーん。
「ちょっと、何すんのよ!」
・・・・・・口だけはちゃんと抵抗するらしい。
「背中流してもらおうか、と思ったんだよ」
ナミの顔がパァと日が差すように明るくなる。この女、本当に表情がよく変わる。素直な反応が、俺の心を擽る。
俺も現金なもんだ。ナミに腹心がない、と分かった途端、これだ。まぁ、正直に言うと、あってもよかったんだが。どうせ、我慢できるほど、大人な歳でもねぇ。
「ゾロ、誕生日おめでと」
「おう」
何で、ナミの方が嬉しそうに笑うかね?
でも、こうやってナミが笑ってるんだから、誕生日が「特別な日」ってのも悪くねぇ。
「ありがとよ、ナミ」
そして、おめでとさん・・・・・・ナミ。
了
<管理人のつぶやき>
ゾロの誕生日。ゾロの周りをちょこまか動いて何かしてあげる気マンマンのナミが可愛い(笑)。でもゾロは返ってそれを警戒し・・・ふーん、ナミのことをそういう風に思ってるんだ、ふーん。それがナミに腹心がないと分かると今度は受け入れるわけね、ふーん(笑)。
いいよな〜このゾロ、こんなにナミに想われてさ〜(ジタバタ)。
R18esistance様(閉鎖されました)でゾロ誕生日SSとして出されたDLフリー小説を頂戴してきました。ナミ誕SS「ナミちゃんだって、花咲くお年頃なんですってば。」とセットになっています。そちらもぜひ読んでみてね。
瞬斎さん、素敵なお話をどうもありがとうございました♪