もう一度信じて  −6−





朝になって、病室の窓から溢れんばかりの光が差し込んできた。
昨夜はカーテンを引かずに寝てしまったのだ。おまけに着替えもせずにそのままの格好。
でも、朝の日差しはナミに数週間ぶりに健康的な目覚めと清々しい気持ちをもたらした。
身体が少し軽くなった気がする。もう昨日の道中の疲れは取れていた。
若さのおかげでもあるだろうが、それだけ熟睡したのだ。妊娠以降、堂々巡りの考えに陥っては心を悩ませてきたため、ロクに眠ることができなかった。でも、病院までたどり着いたことで今までの悩みに突破口が開き、安心したのかもしれない。

ふとベッド脇の机を見ると、その上に昨夜チョッパーが放り出していった寝袋が、ナミが畳んでおいた状態のまま乗っていた。
どうやらチョッパーは昨夜戻ってこなかったらしい。
医者と話し込んで、そちらで夜を明かしたのだろうか。
ま、そのうちこちらに戻ってくるだろう。

ベッドから下り、窓を開けた。瞬間、ナミの髪がなびき、おでこが全開になるほどの風が吹き付けてきた。海風だ。窓からは見えるのは青い大海原。三方を山で囲まれた城塞のようなこの大学病院で、この部屋が海に面した側にあるのだと気がついた。
見下ろすと、崖に波が打ち付けて白い水しぶきを上げている。
更にそのはるか下には海面が見え、海水に洗われて黒光りする大岩が波の寄せ返しによって見え隠れしていた。

(ここから落ちたら、即死だわね)

見てるだけでもブルッと震えが来るようだ。
ここから見る海は遠くてひどくよそよそしい。普段船から見る海はもっと近くて親しみやすいのに。
それでも、海を見ていると心が和む。自分の生きていく場所は海がいい。少なくとも今はまだ海の上にいたい。
明日の手術のことを考えると、気が重くなったが、なんとか振り払った。今日はまだ執行日ではないのだし。最初はすぐに手術できないことに不満をもったが、中1日あって良かった。気持ちの整理がつく。ナミもまだ小さな命を平気で見殺しにできるほどまだ冷徹でもなかったし、達観てもいなかった。

食欲は無かったが、喉が渇いて仕方がない。入院とはいっても便宜的にそうなっただけで、本当の入院というわけではないから、どんなに待っても朝食が届けられそうにもなかった。我慢がならず、とうとう部屋(正確には病室)を出ることにした。
持ってきた予備の服に着替え、壁に掛かった小さな鏡で顔によだれの跡などがついてないか、入念にチェックした。そうだ、顔も洗わなくては。
しっかりと油引きされた黒々とした廊下を軽い足取りで歩く。思っていた以上に部屋の外は活気に満ちていた。入院患者のための朝食の給仕が始まっているのだった。
ナースに尋ねたところ、待合室の続きの間にカフェテリアがあるという。

途中洗面所で顔を洗い、カフェテリアに向った。もう営業していた。
4人掛けのテーブルが20個ほどあり、傍らの壁面には書棚があった。2、3冊見繕った。
本を読み耽り、長い時間を過ごす。ごちゃごちゃと頭を働かせず、集中して本を読んだのも久しぶりだ。

11時を過ぎると、段々とカフェテリアが混みだした。何冊か借りて部屋に戻って読むことにする。
待合室に通りかかると、診察を待つ人々で埋め尽くされていた。どこか身体に不調を抱え、或いは近しい人が病身であるため、皆一様に厳しく重苦しい表情をしている。

そんな中、明るい色合いを見せる一群があった。若い女達5人が固まって、おしゃべりに花を咲かせている。大小はあるにしても、誇らしげにお腹を突き出して、自らの幸せを競い合っているかのようだった(少なくともナミにはそう見えた)。
妊婦達だ。出産に備えてこの病院の産婦人科に通っているか、入院しているのだろう。
ナミは自分が中絶のためにこの病院に来たため、そもそも出産の方が産婦人科の主な分野であることをすっかり忘れていた。そんな人達が、ここにいることに初めて気がついた。

先ほどまで凪のように穏やかだったナミの心が不穏にざわめきだした。
堂々と子供を産める人達のなんと眩しいことか。その明るさと陽気さは、正視できないほどだ。
こちとら明日には中絶手術を受けるというのに。
どうしてこんな幸せな人達と自分が同じ待合室にいなくてはならないのか。
いや、今日はまだいい。このまま部屋に退散すればいいのだから。
しかし明日は、13階段を上るのを待つ間、この連中と同じ空気を吸わなくてはならない。

他の大多数が病気を憂いてこの部屋にいるにもかかわらず、それをあのような明るい表情で笑い合うなんて、無神経にもほどがある。
そもそも、毛色の違う彼女達は、どこか他の場所へ隔離すべきではないだろうか。
一生懸命、それこそ命を賭けて病気と闘っている人と、彼女達を同じ場所に置いておくのは間違っている。

そこまでスラスラと考えてしまう自分に、ナミはすぐに嫌気がさした。そうとは全く意識してなかったが、彼女達の側へ自分も入りたいと思っていることが透けて見えてきたからだ。
負けたような気分になって、部屋まで戻った。
部屋には、まだチョッパーが戻ってきた様子はない。

(愛想尽かされちゃったのかな)

そこへノックの音。咄嗟にチョッパーが戻ってきたのだと思った。
どうぞと促すと、姿を現したのはチョッパーではなく、ナースだった。

「先生がお呼びです。」

昨夜に記入した手術の承諾書の提出を求められるのかと思い、それを持ち、ナースの先導に従って診察室まで行った。
入るなり、目で椅子に座るよう促され、渡すでもなく手に持っていた承諾書をスルリと奪い取られた。記載漏れが無いか、医師の目がザッ書類の上を走る。

「早めの手術をご希望でしたね。」
「は?はい。」
「夕方、一つキャンセルが入りました。代わりにあなたの手術を入れようと思います。よろしいですか?」
「・・・・・え?」
「ですから、あなたの中絶手術を。」

えー?

ええええーー!?



ナミは目を白黒させながら、診察室から出てきた。
先刻の医師の言葉を反芻する。
否も応もあるまい。そのためにここまで来たのだから。もちろん、「応」と答えたが・・・・。
しかし実際のところ、明日を想定していた心の準備は、今日まだ整っていないのも事実だった。
最初から今日だと言われていればなんとも思わなかっただろうが、いったん明日だと思い込んでたがゆえに、心のバランスが崩れてしまった。

自分の部屋に戻るために待合室まで戻ってくると、先ほどまでの妊婦達がまだ小鳥のようなさえずりを続けていた。
死刑宣告を受けた自分と、彼女達の境遇の違いがまざまざと見せつけられたような気持ち。
彼女達は堂々と人生の表舞台を歩いていくのに、自分は裏ぶれた道を身も世もなく這いずり回っていく。
自分の子を手に掛けた後悔と罪の意識を背負っていくのだ。
現にあと数時間後には、自分は逃げるようにしてここを去っていくことになるだろう。

あの人達はあんなに幸せそうなのに、なんで私だけが・・・・。
急に何もかもが理不尽に思えてきた。
なんでこんなことになったのか。
ゾロがあんな薬に引っかからなければ。
私が余計な手を出さなければ。
ゾロが如何に苦しそうであったとはいえ、どうして情にほだされたりしたのか。
放っておけばよかったものを。
そうすればこんな取り返しのつかないこともなかったのに。
格段ゾロを意識することもなく、ずっと彼と――ルフィ達のそばにいられただろう。
そうすれば、今日あの手術台で、あられもなく足を開くなんてことも無いだろうに。
さっき、あの手術台を見た時は血の気が引いた。あんなものに足を乗せたくない。
もういやだ。このまま逃げ出したい
逃げる。
そうだ、いっそのことこのまま姿をくらましてしまおう。
どこかでひっそりとこの子を産んで育てるのだ。
或いは、いっそのこと、この子と一緒にどこかで儚くなってしまおう。
そうだ、それがいい。

ナミは待合室をそのまま通り抜け、部屋にも戻らずに玄関口へと早足で向かった。
引き止める者は誰もいなかった。チョッパーがいないのは返って好都合だった。
ナミがいなくなって、彼は混乱するだろうが、事情を察してくれるだろう。そして、ルフィ達に上手く説明してくれる。

説明――もし私が妊娠しているとルフィ達が聞いたなら、きっとゾロは気づくに違いない。自分が父親であると。そうなったら、どんなに苦しむだろう?きっと責任を感じて・・・・って何を心配しているのか。そんなの彼の自業自得じゃないか。もう今更ゾロの気持ちなんてどうでもいい。もう彼のことで思い悩む日々も今日でオサラバだ。もういいんだ、何がどうなったって。
それでも、少しは私のことを考えてくれるだろうか。彼の心の中にいつまでも残ることができるのではないか。
そんなさもしいことを考えてしまう自分が一番嫌だった。

受付の前を通り玄関を出て、土の道を物凄い勢いで歩いていく。速度を落とさず、昨夜、訪いを入れた門番のところをまでやってきた。
今日は小門の方は閉ざされ、代わりに城門が大きく開いていた。その門をくぐった時、ピタとナミの足が止まった。
前方を見据えたナミのその表情に、驚愕の色が浮かぶ。
目に飛び込んできた者の姿が信じられなくて、たっぷりと凝視した。
獣型のチョッパーと――ゾロが、こちらに向って駆けて来ていた。

(な、なんか、変なモンがいる!)

「あ、ナミ!」

ナミに気がついたチョッパーが叫ぶ。
ゾロはそれまで堂々たる威容の城門を見るとはなしに見ていたが、チョッパーの声で我に返ったようにナミを見た。
目が合った瞬間、ナミはくるりと背を向けて駆け出した。

「待って、ナミ!どこ行くの!」

尚もチョッパーが声を掛ける。
でもナミは足を止めない。
今来た道を、今度は全速力で走って戻る。
頭が混乱していた。
どうしてゾロがここにいるんだろう。
言わずもがな、チョッパーだ。チョッパーが連れて来たんだ。
どうしてチョッパーが。お腹の子の父親が誰なのか知らないはずなのに。
いや、昨夜、承諾書にゾロの名前を書いた。上手く隠したつもりだったが、それを彼は見たのだ。そういえば、あの後彼は挙動不審になって、部屋を出て行った。そしてそれっきり戻ってこなかった。医師と話をしにいくと言っていたが、実はそうではなく、船を停泊させている港町まで戻ったのだ。夜を徹して。そして、ゾロを連れて来たのだ。どうやって説得して連れて来たかというと、ゾロにお腹の子のことを告げたに違いない。ゾロは、だからやって来た。

ナミは人にぶつかりそうなりながら、建物の中へ入っていった。
廊下を走り、待合室へ飛び込んでいったナミを、大勢の人々が――もちろん明るい妊婦達も――驚いた表情で見つめた。その後を目つきの悪い大男とトナカイが突入してきたので、幾人かが立ち上がり悲鳴を上げた。待合室は軽いパニックに陥った。
その間にナミはいくつかの診察室のドアが並ぶ廊下を駆け抜ける。ナースと患者が入り混じる中を、縫うように走る。
待合室の騒ぎを聞きつけたナース達何人かが診察室のドアを開けて、様子を見ようとしていた。その開きかけのドアにナミがぶつかり、その拍子でドアの隙間に挟まれたナースが苦痛の声を上げた。しかし、それにも構っていられない。
言うまでも無く、建物の大きさには限りがある。その限りが迫ってきた。廊下の突き当たり。行き止まりだった。振り返ると、ゾロとチョッパーがもう待合室を抜けてこちらへ迫ってきていた。ナミは思わず壁を両手で打った。しかし、そこで押し上げ式の窓が目に入った。窓を飛び越えようと開けてみたが、そこにはナミが今朝見た、断崖絶壁と海が広がっていた。万事休す。

「ナミ!!」

ゾロの大音声が響く。ナミはそれを無視し、窓枠によじ登った。屈めば人一人がやっと通れる大きさの窓だ。

「ナミ!何してんだよ!その先は崖だよ!」

チョッパーの警告に、ゾロも目を見張った。外が崖だと、初めてその事実に気がついたようだった。
ナミは僅かな幅の足元の窓枠に両足を掛け、手を左右の枠に掛けて、身を縮こませてどうにか身体を支えていた。
ゾロ達はそこから5mほど離れた位置で足を止めた。ナミの様子を伺う。下手に刺激しては、ナミがいつバランスを崩して窓から転落するか分からない。

「やめろ!無茶するな!」

尚もチョッパーが必死に叫ぶ。
しかし当のナミはそんな声に耳を貸さない。
医者やナース、そして患者達が、ゾロとチョッパーの後ろから何事かと遠巻きに覗き込んだ。ナミが窓に身を乗り出しているのを見て、いくつも息を呑む音が聞こえた。

「危ないから、降りるんだ!」

そう言いながらも、ジリジリと間を詰めていこうとする。
そんな二人を、ナミは睨み返して叫んだ。

「来ないで!来たら飛び降りるわ!」

「本気よ!!」

茶色の瞳が、今は炎のように燃えさかっていた。



「ああ、やれるもんなら、やってろ!!」



ゾロだった。
ひぃ、とチョッパーが小さく叫んでゾロを見た。
一体何を言い出すのやら。もしもナミが本気にして飛び降りでもしたら――!
それでもゾロは意地の悪い顔をして更に言い募る。

「どうした?さっさと飛び降りてみろ。ここからじゃ、グチャグチャのミンチみたいになるだろうがな。ま、遺髪ぐらいは拾ってやるよ。」

ゾロの挑発に、同じく息が止まっていたナミはグッと歯を食いしばる。
悔しくて涙が込み上げてきた。

(やってやる、やってやる!)

ナミは身体の向きを変え、海を、崖を、正面から捉えた。目も眩むような高さ。
一瞬怯んだが、足に力を入れて窓枠を蹴った。
しかし、その一瞬の怯みをゾロは見逃さなかった。
身を躍らせようとしたナミの両肩を、寸でのところで捕らえる。
そのまますかさずナミの両脇の下から腕を入れ、背後から羽交い絞めにして、窓から引き摺り下ろした。

「ハハ、なかなかやるじゃねぇか。大したもんだ。」

ナミを下ろした後、窓の外の絶壁を覗き込んで、感心したようにゾロが言う。

「離して!離してよ!」
「おっと、そう暴れるなよ。」

片方の手をゾロの腕の中でもがくナミの背中に回し、もう一方の手を両膝の後ろに入れ、すくい上げた。
体が完全に宙に浮く。慌てたナミが降りようと更にもがくが、硬い筋肉で覆われたゾロの腕や肩はビクともしなかった。
せめての抵抗とばかりに、ゾロにこちらを向かせないよう、顎を掌で突っぱねる。

「死んでやる!この子と一緒に。」
「ああ、あのまま放っておけばそうなってたろうな。」
「そうすれば良かったじゃない!その方が面倒でなくていいでしょ!そしてアンタを末代まで祟ってやるわ!」
「俺は別に面倒だなんて思ってない。」
「嘘ばっかり!あの日、子供ができたって言ったら、あんた真っ青になってたじゃない!!」

ゾロから、余裕のある表情が消えた。

「あの時はな・・・・正直ビビったし、たじろいだ。まさかガキができるなんて思ってなかった。よく考えればそうなっても当然なんだろうが。でもとにかくあの時はどうしようかと、それしか頭になかった。」
「それがアンタの本心なのよ。子供なんていない方がいいのよ。その望み、叶えてあげるわ。今すぐにでも。」
「でも今は違う。覚悟ができた。」

しかし、ナミは悲しげに笑った。

「そんな言葉、到底信じられない。あの時の、あんたの態度覚えてる?この世の終わりみたいな顔して。それなのによくも抜け抜けとそんなことが言えるわね。」
「おまえが俺に失望したことは分かってる。確かにあの時の俺の、あの様じゃな。」
「でしょ?私はあんたの重荷になりたくない。そんなことになりたくないから、私はここまで来たのよ。」
「おまえはさっき、死んだ。」
「え・・・・?」
「あの高さの崖から飛び降りようとした。止めなかったら、確実に死んでただろう。」
「だからそれがどういう・・・・」
「でも、せっかく助かった命だ。その命、最期に俺に掛けてみろ。」

「もう一度、俺を信じてみろ。」

もう一度だけ、死ぬ気で俺を信じてみろ。
どうせ死んだも同然の命。なら、賭けてみて損はねぇだろ。
人間、死ぬ気でやれば、なんだってできるもんだ。
それでダメなら、その時改めて死ねばいい。


「簡単に・・・・言ってくれるわね・・・・。」

ゾロの顎を突っぱねてたナミの手から力が抜け落ち、パタンと落ちた。
ゾロはようやくナミの顔を覗き込むことができた。
見ると、ナミが涙で濡れた瞳でゾロをじっと見上げている。
その瞳から溢れ出た涙を、ゾロは親指でなぞるように優しく拭ってやった。左右交互にゆっくりと。
ナミを抱き上げた形のまま、ゾロは膝の力を抜き、その場に胡座をかいて座り込む。

「ナミ・・・・。」

傍らに、チョッパーが近寄ってきた。申し訳無さそうにナミを見ている。

「俺・・・・ごめんね、勝手な事して。」
「あんたが謝ることなんて何もないのよ・・・・。」

ゾロの腕の中で、ナミがチョッパーに柔らかく微笑んだ。

全部全部、こいつが悪いんだから。
だから堂々と胸を張って、こいつに責任とってもらいましょう。




すわ痴情のもつれかという騒動に、いつの間にか周りに黒山の人だかりができていたが、丸く収まったところを見てとると、観客はちりじりになって元の日常に戻っていった。
ナミを診た医者がナミの身体を案じたが、特に別状は無かった。
しかし、もう今日は安静にした方がいいと部屋で休むよう指示された。
チョッパーが手術のキャンセルを申し出ると、彼は何も言わずに了承した。彼も一連の騒動を見物していたのだ。

ナミを部屋に休ませるまでの間、チョッパーは自らの活躍を大いに語った。

「父親の承諾欄にさ、大きくゾロの名前が書いてあったのを見て、ゾロが腹の子の父親だったんだーって分かったんだ。そしたら居ても立ってもいられなくなって、ゾロに知らせに行こうって思ったんだ。夜道は怖かったけど、俺がんばって走ったよ。」

「ゾロが船で寝てて助かった。もし街で泊まってたら、探すのに時間がかかってここに来るのがもっと遅れたと思う。」

「ナミがお腹の父親の――ゾロのことを想ってる気持ち、ゾロに話したんだ。」

ナミはベッドに横たわって聞いていたが、その話が出た時はサッと掛け布団を目元まで引き上げて朱に染まりそうな顔を隠した。
どさくさに紛れてとはいえ、自分の気持ちを他人から伝えられたかと思うと、とてつもなく恥ずかしかった。

「そしたらさ、ゾロもそうだったって。」

え?とナミがゾロを見上げると、ゾロはプイとあさっての方を向いた。しかし、耳が赤い。

「ゾロも、ナミのことが気になって仕方が無かったって言うんだ!なぁんだ、二人とも同じ気持ちなのに、すれ違ってるだけなんだって分かったら、俺、可笑しくて笑っちゃったよ!」

その時の気持ちを思い出したのか、本当にチョッパーはカラカラと笑い始めた。

「おら、もう俺達は出て行くぞ。」

そんなチョッパーの首根っこを掴み上げ、ゾロは照れ隠しに乱暴に言い切ると部屋を出て行った。
一人残されたナミは、ここに来る時には考えられなかったぐらいの幸せな気持ちに包まれながら目を閉じた。


ゾロとチョッパーはカフェテリアに行って一息ついた。
そして、今後のことを話し合った。その時から、ゾロはどこか思案顔だった。

「今日はもう帰れないね。もう一晩ここで泊めてもらおう。」
「・・・・・そうだな。」
「明日船に戻ったら、ルフィに話そうね。できれば妊娠初期は船に揺られない方がいいんだ。だから、しばらくこの島に滞在するよう頼んでみようよ。」
「おう。」
「妊娠後期からは出産をどこでするか考えなくちゃね。俺、がんばって計画立てるよ。ナミに安心してお産をしてもらえるように。」
「頼むぜ。」
「俺、お産ってあんまり立ち会ったことないんだ。緊張するなぁ!でも、ナミの赤ちゃんは可愛いだろうなぁ!」

チョッパーは嬉しそうに身体を揺すって、その期待を表現した。

「ところで、チョッパー先生よ。」
「うん?」
「妊娠中のセックスって、拙いんだっけ?」
「そんなことないよ!昔は妊娠中はヤったらダメって風潮だったけど、最近はそうじゃない。妊娠中でも夫婦のコミュニケーションは大切なんだ。それに長期の禁欲生活でダンナが浮気に走っても困るしね。」
「なるほどな。」
「ただし、あんまりハードなのはよくない。体位としは正常位よりも女性上位の方が、お腹を圧迫しなくていいって言われてる。」
「そうか、つまり騎乗位な・・・・。」
「うん、そう!・・・・ってゾロ?」

「チョッパー、悪いけど、おまえだけ今夜は別の部屋で寝てくれや。」

ゾロはさらりと言ってのけた。
チョッパーは目をぱちくりさせて、

えー?

ええええーーー?




FIN


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<あとがき或いは言い訳>
一話ごとが短くてもちゃっちゃと上げるのを目標にしてたのに、結局ナミ誕からここまで長くかかってしまいました。すみません。あ、忘れてる方も多いと思いますが、実はナミ誕作品だったんです(滝汗)。
頭の中で考えてた時よりもずっと明るく仕上がりました。チョッパーは大活躍なのに、ラストはおじゃま虫扱い。かわいそうね〜(誰のせいじゃ)。

大好きなナミへ。誕生日おめでとう!(今10月ですけど)

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