16代国王の崩御から5ヵ月後、新王の戴冠式が行われた。
慣例に従い、グランフェイトのシャンクス大主教がとある国を訪れ、新王への戴冠を行った。

戴冠を受けてルフィは正式にとある国の第17代の国王となり、ナミは第一王妃に昇格した。






王を継ぐ者  −10−





戴冠式の後、二人はイースト宮殿を出て、住まいをノース宮殿(後宮)へと移すこととなった。
イースト宮にいた時は夫妻で同室を許されていたが、ノース宮では完全に別住まいとなる。ルフィは王の寝所で生活し、ナミには一番格の高い妃が住まう“室”が与えられた。
とはいえ当初は妃は一人だけだったので、ルフィはいつも夜にはナミを寝所に呼ぶことになる。昼間になかなか会えなくなったし、煩わしさもかなり増えたものの基本的にイースト宮にいた頃とあまり変わらない日常だった。
しかし、そんな生活は長くは続かなかった。
第三王妃が後宮に輿入れしてきたから。

新王誕生の少し前、そして前王の大葬が終わって間もなくの頃に、ポートガス公爵が、病床の前王から遺言を賜ったと主張し始めた。それはポートガス公爵令嬢を第三王妃として冊立すること。
ポートガス公爵家はロロノア公爵家と並ぶ大貴族の一つで、古来より王室に陰に日向に寄り添うようにして妃を送り込んでは姻族関係を結び、多大な権力と影響力を駆使して繁栄してきた一族である。血統的なものか歴代の当主は常に優秀で政治手腕に長け、元老院での発言権も強く、他の貴族や元老院議員からも一目置かれ、王の信任も厚い。
最近では前王の第一王妃をポートガス家から出しており(マキノ王妃は第二王妃)、更には先の王太子であったエースの妃もポートガス家出身である。

そして此度の令嬢はエースの妃の妹に当たる。かつてのルフィの王太子妃選定の際の筆頭候補で、ステーシア伯爵令嬢であったナミとは最後まで第一王太子妃の地位を争った女性として世間的にも知られている。最終的には前国王の独断でナミが第一王太子妃に選ばれたので、結果として件のポートガス公爵令嬢は“落選”という憂き目に遭った。

もし前王の遺言が本当なら、落選者を“復活当選”させたことになる。
しかし前王がそんなことをするだろうか、第一王太子妃のみならず第二王太子妃までも前王自身が決めており、あえてポートガス家の娘は外していたのにと、この遺言には疑惑の目も向けられた。しかもポートガス公爵以外にはこの件について前王から聞いた者はおらず、王妃を新たに立てるという重要懸案を王が侍従達に伝えないというのもは考えられなかったから。

この事案は直ちに公爵の要請により元老院に諮られた。そして審議の結果、「遺言に従って第三王妃を迎える」ということが決まった。
王の遺言の真偽に関わらず、新王の後ろ盾としてポートガス公爵家がつくのは大変望ましい、というのが元老院の下した判断だった。

第三王妃冊立については、新王と新王妃は完全に蚊帳の外だった。全ては決まってから報告された。
戴冠式の後、第三王妃がたいそう豪勢な準備をして行列をなして輿入れを行い、三番目の格付けの王妃の室を与えられた。
そして輿入れ後まもなくして、第一王妃ナミとぶつかることになる。

第三王妃側は第一王妃落選についてまだ根に持っており、ましてや新興貴族で格下の伯爵家の娘に負けたことに屈辱を感じているので、事あるごとにナミを貶めようとした。
ナミは自分にされたことには鼻で笑うことができた。しかし、第三王妃の後宮内での専横ぶりや遅れて輿入れしてきた第二王妃への無礼には、ナミも怒りを抑えられなかった。
後に長く続く第一王妃と第三王妃の確執は、ここから始まっている。


4月。2月に15歳となったビビが、春の訪れを待って晴れて第二王妃としてアラバスタ王国から嫁いできた。
それによって、後宮には王と3人の王妃が住まうことになった。
後宮内で王妃にはそれぞれ室(ひとつひとつが邸宅のような大きさ)が与えられているので、普段は互いにめったに顔を合わせることはない。そして夜に3人のうち誰かが王の寝所に呼ばれることになる。

この頃のルフィは実にマメだった。ほぼ3人を同等に扱った。
ナミには非常に腹立たしいことだったが、ルフィは第三王妃のことも気に入っていた。
第三王妃は当代随一の美人と言われるだけあって、実際とても艶やかで美しい女性だった。年もルフィと同い年で、明るく屈託のない可愛らしい笑顔と仕草を振りまく。ナミに対しては出す尻尾も、王であるルフィの前では巧みに隠して決して出すことはない。おまけにたいそうな話し上手。ルフィはすぐに魅了された。

ビビがとある国へ嫁いできた当初は、とある国の言葉の習得にかなり苦労していた。アラバスタでも習ってきたのであるが、ようやく日常会話レベルであったので、うまく自分の気持ちを伝えられないもどかしさを抱えていた。数人のアラバスタからの付き人以外は誰一人として知る者のいない寂しさ、故郷との習慣の違い、様々なものに戸惑いながらも、とにかく慣れようと懸命だった。
救いはナミがアラバスタ語を話せたことだろうか。だからビビはとある国語とアラバスタ語を交えることによって、ナミとはかなり早く打ち解けることができた。それにお互いに第三王妃からの仕打ちに耐えた仲としても、絆を深めていくことになった。

ルフィは最初ビビと会った時、弱々しくて堅苦しいイメージを持ったが、すぐにそれは緊張していただけだったのだと理解した。実際はかなりの根性を持ち主でがんばり屋であることに気づいた。ルフィの悪ノリにも案外気軽に乗ってきてくれる。ナミにはいつも叱られたり制止されることが多いだけに、ビビの天然で素直な反応はとても新鮮で、こちらもまたすぐに気に入った。


やがて、第三王妃が懐妊する。それから間を置かず第二王妃も懐妊。
とにかく、王子誕生が切望された。ルフィよりも若い世代の王位継承者は義弟2人だけであったし、どちらも正式な妃ではなく側女から生まれた王子だったので、政府としては王妃腹の王子を待ち望んでいた。安定した王位継承のためには王子誕生が不可欠であったし、この頃はまだ王女には王位継承権が与えられていなかったからだ。
しかし結果は、第三王妃が双子の王女を、次いで第二王妃が王女(後のアリス王女)を出産。
全て王女だったことに、重臣達は大きな失望感に包まれたが、国全体では可愛らしい王女の相次ぐ誕生に沸きかえった。
それに、まだ第一王妃が懐妊していない。もし最初に王子が生まれるならば、第一王妃から生まれるのが望ましい、というのが大勢の考え方だった。


ルフィが即位してから2年以上が経過した頃には王位継承の混乱も治まり、国全体も以前と変わりのない安定と落ち着きを取り戻していた。
それを見計らったように、人事の刷新が行われることになった。
新しい王のことは、新しい時代を支える新しい世代にまかせようという意思表示だった。




そうして、ロロノア・ゾロの元にも、真新しい人事発令の封書が届けられた。
中には王都召還と近衛隊編入の命令が記されている。

ゾロは軍人士官学校を卒業した後、志望通り軍人となり、以来ずっとノースウッドにある海軍基地に赴任していた。
“あの時”以来、王都には帰っていない。
結婚式にも戴冠式にも理由をつけて帰らなかった。父であるロロノア公爵が休暇中の帰都を促しても頑なに拒んできた。
が、いよいよ覚悟を決める時がきたようだ。
もとよりとある国の臣下として、王の命令に逆らえるはずもない。
ゾロは封書をしっかり握り締め、一礼すると踵を返して上司の部屋を後にした。



この時、ゾロ19歳、ナミ18歳、ルフィ17歳。

3人が運命の再会を果たすのは、もう間もなくだった。




FIN



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<あとがき或いは言い訳>
まずは、長期連載にお付き合いいただきありがとうございます!ルナミ話で抵抗のあった方も多かったと思いますが、最後までついてきてくださった方々には感謝の気持ちでいっぱいです;▽;。

「王を継ぐ者」は2008年4月27日からの連載ですので、軽く2年以上経過しております(「誓い」とそんなに変わらない・汗)。当初はもっと早く終わらせるつもりだったんですが・・・そう簡単にはいかなかった(汗)。

この物語は実質的には第9話で終わっています。第10話は次のルナゾ編への繋ぎみたいな部分。なのでルフィの中に残された疑問とかナミの気持ちの在りかとかは、全部次のルナゾ編に持ち越しなのです。引っ張ってすみません^^;。

次のルナゾ編ではついにルフィ、ナミ、ゾロが勢ぞろいします。今までより三角カンケーぽくなるというか、昼ドラみたいになりそうな予感(スミマセ・・・)。
「とある国の出来事」を書いた直後に頭の中に浮かんだイメージがあって、それがルナゾ編の最後の方の場面で、そこをいつかどーしても書きたくて、それで今まで書いてきたともいえます。まだ筋書きが煮詰まってないので、準備ができ次第、次の連載を始めたいと思います^^。

最後になりましたが、これまで読んでくださいまして本当にありがとうございました!!



(はみだしネタ)
省略したエピソードを少し。話中には一度も出てきてないけれど、実は“ウェスト宮殿”というものが存在します。ここは前王の妃、子供達などが入居する宮殿。例えばルフィの母である前の第二王妃(第二王太后)のマキノさんは、前王崩御の後はノース宮を出て、ウェスト宮に移り住んでいます。




 

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