魔女の瞳はにゃんこの目  −4−

びょり 様




「……お前が…俺達の探してた魔女ォォ〜〜!!?」

「全てを見通し、全てを聞き知ってるって、噂のかァ!?」

「ええ、そうよ!」


2人の質問に、ナミは背中を反らして、得意気に答えます。


「「ウソでェ〜〜!!!」」

「嘘とは何よ!?失礼ねェ!!!」

「だってよォ!俺達が聞いてた魔女の特ちょうと、お前、全っ然違うんだもんなァ!

 じいさん言ってたんだ!!


 魔女の瞳はにゃんこの目

 闇夜に輝く金の色
  
 空の彼方を
 海の底を
 地の果てを

 心の奥をも見通す力


「…お前の目、何の面白味も無ェ、ただの茶色じゃねーか!!」

「何の面白味も無い色で悪かったわねェ!!!!」

「それに、千年も生きてると聞いた。…おめェ、どう見たってガキじゃねェか。」

「るっさい!!ガキにガキ呼ばわりされる筋合い無いわよ!!」


ルフィの言う通り、ナミの瞳は明るい茶色をしていました。
そしてゾロの言う通り、2人と同い年…精々12歳くらいにしか見えませんでした。

艶々オレンジ色したショート・ヘアー。
明るい茶色の円らな瞳。
飾り気の無い黒の半袖ワンピース。
オレンジ色の胸当て付エプロン。
しなやかに伸びた、健康そうな手足。

何処から見回しても、極々普通の人間…可愛らしい少女でした。


「…いいわ!言っても信じられないなら、証拠を見せたげる!」


そう言うとナミは、傍に立ってる木に触れ、二言三言呪文を唱えました。

すると木に生ってるオレンジ全てが、クルクルと一斉に回り始め、枝から離れてフワリと浮きました。
そうしてナミが提げてる篭の中へ、吸寄せられる様にして入って行きます。
不思議な事に、幾ら入ってっても、零れ落ちたりしませんでした。

1本目が終るとその隣の木に触れ、また同様にして収穫して行きます。

2本目が終ると3本目、3本目が終ると4本目…声も出ない程驚いてる2人を他所に、ナミは快調にオレンジを収穫して行きました。

1時間も経たずに森中全てのオレンジを収穫し終えると、ナミは得意満面で2人の前に戻って来ました。
少し前までオレンジが鈴生りだった枝々は、今では青々とした葉っぱが残るのみです。


「どう?信じられた?」


2人の前にオレンジで満杯の篭を突き出し、ナミはにっこりと笑いました。
その篭をルフィとゾロは、口をポカンと開け見詰ます。

森中のオレンジが入ってった筈なのに、零れるどころか破れもせず。
入ったオレンジは何処に仕舞われてるのか?
一体中はどんな仕組になっているのか?
…不思議で仕方有りませんでした。

「ああ、勿論この篭にも魔法を掛けてあるわ!だから底無しで、幾らでも詰め込める様になってるの!」


2人の視線から疑問の色を感じ、問われるよりも早くナミが答えます。


「………す……す…すっげェェ〜〜!!!!お前、本当にすっげェェ〜〜魔女だったんだなァァ〜〜〜!!!!」


瞳真ん丸キラキラに輝かせ、興奮した面持ちでルフィが叫びました。


「お前じゃなくて『ナミ』だってば、ルフィ!!」

「…おい…ナミ……お前、目が…!!」


何度言っても名前を覚えようとしないルフィに苛立ち、目を剥いて怒るナミ。
その目を見たゾロが、驚いて声を上げました。

さっきまで茶色だったナミの瞳が、何時の間にやら金色に変っていたのです。

薄闇に包まれた森の中でそれは、噂通り猫の目の様に輝いて見えました。


「…ああ、これ?私、魔法を使う時は、瞳が金色に変るのよ。」

「……だ、大丈夫なのか…?」

「大丈夫よ。力使わなきゃ、5分もしない内に元に戻るから。」


心配して様子を伺うゾロ。
そんなゾロに、然も大した事じゃないといった風にナミは応えます。

話してる間に、ナミの言った通り、瞳は元の茶色に戻りました。


「すっげー!!!すげすげすっげーなーお前…じゃなくってナミの目!!色がコロコロ変っちまうなんて、おんもしれェ〜〜♪♪」


瞳の変化を興味津々と見詰ていたルフィは、心底愉快そうに屈託無く笑いました。
その笑顔を横目で睨みながらナミは、「だから人前で使いたくなかったのよ」と、ボソリと呟きました。


「兎に角…これで私が、あんた達の探してた魔女だって…信じてくれたでしょ?」

「おう!!信じた!!メチャクチャ信じたぞ!!」
「…しかしまァ…正体知って拍子抜けっつうか…。」

「それ、どうゆう意味よ、ゾロ?」


ゾロの言葉にそこはかとない落胆を感じ、ナミは口調険しく訊ねました。


「千年も生きてるって聞いて、さぞや海千山千の婆さんだろうと期待して来てみれば…実際には人生経験十年そこらのチビなガキ。頼り甲斐無さそうっつか…。」
「頼り甲斐無さそうとは何よ!?私これでも数えで千歳になるんだからね!!!」

「「げげェェ!!?すっげェェババァァ!!!」」

「何だとォォーーー!!!!?」
「人は見掛けによんねーなー!!」
「まったく…若作りにも程が有るよな。」
「魔女だもの。人間みたく年取ったり、死んだりしないのよ!」

「「へーー。」」


すっかり感心し切った眼差しを向ける2人。
2人の眼差しを心地良く感じながらナミは、一層自信たっぷりに言葉を続けました。


「ま、人生経験千年分持ってる訳だからして、森羅万象津々浦々まで、知らない事は何1つ無いと言っても過言じゃないでしょうねェェ!」
「え!?それじゃ俺とゾロのチンコ、どっちがデカイかまで知ってるのか!?」
「そんなん知るか馬鹿ァァーーー!!!!」
「何だ!知らねー事有んじゃん!」
「失礼な事聞いてんじゃねェよルフィ。千年生きてる婆ァと言えど一応女だぜ。恥らいくらい察してやれって。」
「……あんたも負けず劣らず失礼な奴だわねゾロ……まァいいわ、全く役立たずだったけど、手伝ってくれた御礼に、約束通り家に案内したげるから、付いて来なさいよ2人とも。」
「謎解きしてくれんのか!!?」
「言っとくが金は払えねェぞ?」

「貸しにしといたげるわ。…『破魔の拳を持つ者』に、『魔族の血を吸う妖剣使い』…敵に回すと厄介だものね。」


溜息を吐いて独りごちると、ナミは2人を先導する様、森の奥へと歩き出しました。




夜の帳が降り、すっかり闇に包まれた森の中を、ナミは迷う事無くスイスイと進んで行きます。
風に吹かれる度、ザワザワと鳴るオレンジの枝葉。
程無くして、闇夜にピカピカ光り輝く小さな家が、前方に見えました。

オレンジの森に守られる様にして建つ、1軒の家。

壁は卵色したスポンジケーキ。
屋根の瓦は色取り取りのマーブルチョコ。
煙突は生クリームの掛かったウエハース。
窓は薄く伸ばした氷砂糖。
扉は四角い大きなビスケット。

側まで寄ると、蜂蜜の甘い香りが漂って来ます。

それは、お菓子で出来てる家でした。


「あれが私の家よ!」

「…う…う…美味ほォォ〜〜〜♪♪♪」


一目見た途端、ルフィは滝の如く涎垂らして大喜び。
猛突進して壁に跳び付くと、口を大きく開けて齧ろうとしました。


「いっただっきまァァ〜〜〜す♪♪♪」

「あ!!こら馬鹿っっ!!」


――ガチン!!!!!


「……いってェェ〜〜!!!!!…ぶえぇっっ!!!ペッ!!ペッッ!!…な、何らこれェ!!?お菓子じゃねェぞ!!?硬くてマジィ!!!ロウ細工のにせもんだっっ!!!」

「…当り前でしょう!?本物のお菓子で作ったら、腐って直ぐ駄目になっちゃうじゃない!あんた、ちょっと夢見過ぎよ、ルフィ!」

「おめェは夢が有んのか無いのか、どっちなんだよナミ!!!?」


変に現実を説くナミに、ゾロのツッコミが掛かりました。




←3へ  5へ→










戻る