眠れる森の姫君  −4−

roki 様




(さて……どうするかな……)
唇から惜しむように離れて、ゾロは困ったように苦く笑った。
まさか、こんな今にも眼を覚ましそうな状態で眠っているとは思ってなかった。
実際の所、ゾロは骨と化した相手を抱くと腹にくくってここまで来たのだ。
「自分でよければ抱いてやる」と言ったのは、そこまでの覚悟があった。
逆に、これほど美しい相手だと動揺が走る。本当に抱いて良いのかと悩んでしまう。
「……紛らわしい言い方するんじゃねぇよ……ったく」
確かに滑らかな頬も身体も、カチカチに凍り付いてしまっている。
このまま強引に自分を受け入れさせたら、壊れてしまうのではないか思えて怖い。
「まぁ、やってみるか……後で怒るなよ」
どこかで聞いているかもしれない相手に一声かけると、ゾロはズボン以外の衣服を脱ぎ捨てた。
ギシッと音をさせて寝台に上がり、眠る姫の上に覆い被ろうとしてふと気づく。
小さな花を刺繍された白いベールに、見た目はシンプルだが細かいレースで編み込まれた白いドレス。
これは花嫁衣装だ。
呆気にとられた後、思わず頬笑んだ。
城全体にあんな仕掛けの魔力をかけた上、眠りにつく際にどうせならこれを着て眠ろうとするバイタリティに感心した。
(いや……違うな)
自分の処女を奪う相手。己の与えた試練を乗り越えてここまでやってくる相手なら、自分も全てを捧げよう。それだけの覚悟をもってわざわざこれを選んだのだろう。
それなら自分も、なるたけ気持ちよくなって貰うよう努力するとしよう。
なにせ相手は300年もこの日を待っていたことになるのだから──


ゆっくりと時間をかけて、ゾロは姫へ愛撫を繰り返す。
掌と唇でもって、深く静かに。
男の愛撫が進むに連れ、姫君の身体が少しずつ柔らかくなっていった。
氷のように冷たかった肌は柔らかさを取り戻し、青白い頬は薔薇色に染まっていく。
固まった手足は体温を取り戻し、美しい肢体は男の愛撫に合わせて小さな反応を示していく。
時間をかけて愛撫していくゾロの身体が汗で濡れ、じりじりとその熱を伝えていく。
髪の先から爪先まで全て男の手と舌が触れない場所はなく、次第に甘い声と滴り落ちる水のような音が天蓋に響き渡った。

やがて身体が開かれ、男は己自身をその身に深く埋めた。

声にならない声が姫の口から零れ、男はそれを余すことなく自らの口で塞いだ。
最後の最後まで姫にしがみついていた呪いは、男と姫が同時に達した瞬間はじけ飛ぶ


繋ぎ止められた最後の鎖が、2つ同時に外れた。


城の内部で激しい音が聞こえる。
未だ、解放の余韻に浸っていたゾロはハッと我に帰った。
「なんだ!?」
その時、部屋の天井にピシリと亀裂が入る。繋がったまま姫を抱きかかえるゾロの目の前で、部屋の三分の一が崩壊し、凄まじい音を立てて地面に落下していった。
すっかり明け切った朝の光がサッと部屋に差し込まれ、寝台の上の2人を照らし出す。
「……どうなってるんだ?」
息を呑んで様子を見守ったが、それ以上建物が崩れる音はしない。
ホッとするゾロの腕の中で、姫が小さく身じろぎをした。
「……ん……」
「おい!」
ハッと気付いて見下ろすと、堅く閉じられていた瞼が小さく震えた。
やがてゆっくりと瞼が開き出す。
息を呑むゾロの目の前で、紅茶色の美しい瞳の焦点が合っていく。
「ナミ」
そっと名前を呼ぶと、二、三度瞬きをして、こちらを見つめる。
「ナミ……」
自分で照れるほど優しい声で名を呼ぶ。
ナミの潤んだ瞳に、自分の顔が映った。唇がかすかに震える。
「……ゾロ……ね……」
「……そうだ」
そうしてニヤリと笑う。
「もう朝だぜ」
「……本当ね……」
ゆっくりと微笑みが広がっていく。
そうして頬笑むと、眠っていた時より数倍も美しい。朝陽の中で輝く薔薇のようだった。
眠り姫──ナミが静かに身を寄せてきたので、ゾロもしっかりと抱きしめてやる。
達した時よりも、遥かに深い満足で満たされる。
「…………寝ていると思って、随分と無茶をしてくれたわね……」
男の胸に顔を埋めながら、ぼそぼそと文句を言う。
「嫌なら雷でも何でも落とせば良かったろう」
「出来ないわよ……眠ってるのに」
「何でだ?アンタの魔力は凄かったぜ」
「……あの試練の部屋とこの部屋にかけたのは、私の呪いが解けるまで途中解除の出来ない、ほぼ永久にかけられたものなの。夢の世界に連れ込まれたら、もう魔力はほとんど使えないわ」
「なら今は?」
「……ダメよ。私はもう魔力がなくなったの……ゾロのせいで」
「俺が!?」
「……そうよ。だって私の魔力は処女性が柱になっていたんだもの……」
そう言って顔をあげたナミの頬は真っ赤に染まっていた。やや恨めしげにゾロを見上げる。
唖然としていたゾロだったが、やっとで合点がいき頷いた。
「……アンタ、だから城の中に閉じこもったんだな」
「そうよ!……私に呪いをかけた黒の魔女は、その事を知っていたのよ!私の力が欲しくて城に来ても、抱いちゃったらただの娘になってしまうわけ。相手がそれで納得するわけないじゃない。私だってそんな屈辱はゴメンだわ。だから……」
そう言ってギュッと唇を噛む。
「……壁が崩壊したのは、私の魔力が失われて支えきれない箇所が出たからよ。この部屋の時間を止める魔力も消えたから、時が経てばそれ相応のガラクタになる。私には何も残らな……キャッ!」
内部に入っていた男のそれが再び硬度を増して、ナミの腰を跳ね上げさせた。
みるみるうちに真っ赤に頬が染まっていったのは、恥じらいと怒りのせいだろう。
「ちょ、ちょっと!いったいいつまで入れてるのよ!」
「なに言ってるんだ。これからだろ?」
「なっ……!」
顔を赤く染めるナミの手をゾロは絡め取って、顔を寄せた。
「なあ。この部屋はまだ当分は大丈夫なんだろ?」
「……そ、そうよ……ってだけど……あっ!」
腰を抱えられ、ベッドに座った男の膝の上につながったまま座らされる。
「じゃ、難しい話は後だ。お楽しみはこれからだぜ」
何か文句を言おうとする女の唇を強引に奪った。
「ちゃんとお前が起きてなきゃ抱いても意味がねェんだよ……」
「……!」
「悪いが……俺はお前の魔力には興味はねェ」
「……え?」
驚いたように目を見開くナミに、ゾロは小さく苦笑した。
「欲しいのは、お前自身なんだ……」
息を呑んだナミの頬が赤く染まる。
それと見たら堪らなくなり、腰を捕まえて激しく揺さぶった。
のけぞる首筋に歯を立てながら、忘れていたことを思い出した。
「そうだった……今日は……アンタの誕生日だったな………」
「……ええ……」
「……誕生日おめでとう……」
「…………ああッ!!」
深く貫くと、再び首にしがみついてきた。

嬌声が崩れかけた部屋に甘く響き出した。





















「……もう、信じられない!ケダモノ!何回すれば気が済むのよ!」
「……そうだな……いや、俺はどっちかっつーと蛋白な方だったんだが……」
「何処がよ!!」
威勢はいいが、ナミはグッタリとベッドに横たわってもう身動きが取れない様子だ。
その横でゾロも流石に大の字になって寝そべっている。
自分自身も実は驚いている。1人の女にこうも立て続けに達したのは初めてだった。
「いや、俺も尊い姫君がこうもくわえるのが上手いとは思わなかったぜ」
「言わないでッ!!」
真っ赤になって怒りながらプイッと顔を背ける。
もらったミカンを手に抱えて、耳まで赤くなったその背中を笑って抱きしめた。
「なあ……アンタ俺と来いよ」
「…………貴方と……?」
「ああ……俺は流れ者で、あちこち旅を続けるしかねェが……それでもいいならな……」
「旅…………」
その言葉に押さえきれない憧れを込めて、ナミは呟いた。
「…………私、ずっと世界中を旅してみたかったの……」
「そうだと思ったぜ……夢の世界でずっと地上の果てを見下ろしていたろ?」
「……でもそれは叶わないと判っていた……私はお城と村人を守らないと行けなかったから……」
「……だが城は壊れたし、アンタの村人はもうここにはいないぜ……」
抱きしめたままそう呟くと、ナミは静かに顔を上げた。
その瞳が涙で濡れている。なくした者と時間を懐かしむ痛み。
「……俺と来いよ……海を渡って遠くまでな」
「……海って見たことがないの……」
「じゃあ見せてやる。それが俺の誕生日の贈り物だ」
そう言うと、やっとナミは頬笑んだ。日の光が輝かしく包み込む。

それからほどなくして、男は約束を果たした。
2人がどうなったかは、また別のお話。




Fin


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<管理人のつぶやき>
呪いをかけられて眠り続けるお姫様。その呪いが解かれるには、その処女を何者かに奪われなくてはならない。
そして、300年後の誕生日の日に、眠り姫は目覚めました。愛する人と結ばれて・・・・^^。
はぅー、なんてステキなんでしょうか!
ゾロは最初、姫に同情して呪い解くことに挑戦しましたが、最後は姫自身を求めてくれた。
姫の強さ、潔さ、優しさを全て受け入れて、尚且つ試練にも耐えて姫の元まで辿り着いてくれたことが嬉しいです><。
ゾロこそが、まさしく姫が待ち望んでいた、身を捧げるべき男でした!
呪いの呪縛から逃れたナミの未来は明るい。だって愛すべき男(ひと)とともにあるのですから^^。

【carry on】のrokiさんが投稿してくださいました!
企画で連載抱えている中のご投稿に深く感謝いたします。ありがとうございました!!




え?




この第4話、これはこれで素晴らしいんだけど、肝心な部分が抜けてるような気がするって?




そう言われるとそうですね(笑)。




そう、実はこの第4話は表バージョンなのです。
そして、rokiさんはちゃぁあんとパーフェクト(裏)バージョンも送ってくださいました。


申し訳ないのですが、18歳未満の方はここまでデス。


大人なアナタのためにお送りします。




アナタは18歳以上ですか?→YES







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