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魔女の瞳はにゃんこの目・2  −3−


                            びょり 様



「マキノー!!ただいまー!!」
「ルフィ!ゾロ!…お帰りなさい!」


ルフィを先頭に、カラコロと勢い良く鈴を鳴らして、中へと入ります。
同時に澄んだ女の声が、3人を出迎えました。

入って直ぐ目の前には、4組の4人掛けテーブルセット。

その奥のカウンターテーブル向うで、女が1人グラスを磨きながらにこやかに微笑んでいます。

長く伸びた黒髪をバンダナで後ろ一束ねにした若い女…どうやら声の主は、この人物のようでした。


「マキノ!!約束通り『ナミ』を連れて来てやったぞ!!直ぐに美味いコーヒーいれてくれ!!」

「あら!?…あらあら!まあ…!!」


マキノと呼ばれた女は、ルフィとゾロの陰に隠れて立つナミの姿を認めると、磨いてたグラスを置き、エプロンで手を拭いつつ、ゆっくりと側に近寄って来ました。

そうして気後れしてるナミに構わず、腰を落して、彼女の白い両手をぎゅうと握り締めます。

露にした広い額、人懐っこく光る黒い瞳…近くで見るマキノの笑顔は、何処となくルフィに似て思えました。


「初めまして!私は『マキノ』って言うの!宜しくね!」

「…初めまして。……私は『ナミ』。」


真直ぐな視線で見詰られ、僅かに顔を背けます。
しかしマキノは気を悪くした様子も見せず、ナミの肩を優しく抱くと、カウンター席まで案内してくれました。

間に挟むようにして、ルフィは左側、ゾロは右側に座ります。


「俺、砂糖3つ!ミルクもたっぷり入れてな!」と、ルフィが赤い上着を脱ぎながら注文しました。

「俺は砂糖抜き。ミルクだけ入れてくれ。」と、ゾロが緑の上着を脱ぎながら注文しました。

「ふふ、心得てるわv」と、マキノがカウンターの中に入って応じました。


「ナミちゃんの好みは?」


未だ借りて来た猫の様に大人しくしてるナミに、マキノが注文を尋ねます。


「えっと…砂糖は1個。ミルクは多めに入れて。」


ほんのり赤く染めた顔を俯かせ、ナミが小声で答えました。


「OK!ちょっと待っててねv」


了解して後ろの隅に切ってある暖炉を火掻き棒で掻き回します。
炭がパチパチと爆ぜ、明々と点る火の勢いが強まりました。

それから水の入った瓶を開け、煤けたポットに注ぎます。
ポットの弦に鉄棒を通し石で組んだ暖炉の中に掛け終えると、マキノはミルをテーブルの中から取り出して豆を挽き出しました。

店内にゴリゴリと、リズム良く豆の挽ける音が響きます。

黒いマントを脱いで、背の高い丸椅子に座り直したナミは、周囲を見回しました。

外観同様、床も壁も天井も、皆板張り。
カウンターの後ろに並ぶ4脚のテーブルと16脚の椅子も木造で、全て窓際に置かれていました。

四角い窓が右側に3箇所、左側に3箇所、入口の横に1箇所拵えられています。
硝子を覆う結露にランプの灯火が反射して、橙色に光って見えました。


「それにしても驚いたわァ。話に聞いてたイメージと全然違うんですもの。」

「…違うって?」


鼻歌交じりに出たマキノの言葉を聞き、いぶかしんだナミが尋ねます。


「ルフィ達ったら酷いのよ!『ナミは千歳にもなるドケチな婆ァ。金色の目をギラギラ光らせて魔力を振るう、世にもおっかねェ魔女なんだ』って…」


――ドガッッ!!!!――ドゴッッ!!!!


聞き終るのも待たずに重いパンチを食らったルフィとゾロが、右に左にぶっ飛び床に転がりました。


「…いっ…てェなァ!!!全て本当の事だろうが!!!」
「…あ…あご砕けたらどうすんだよォーー!!?」
「うっさい!!!!出鱈目ばっかヌカしてんじゃないわよ!!!!」
「そうよォ2人共!こぉんな可愛い子掴まえて千歳だなんて!どう見ても貴方達と同い年…10歳位にしか思えないじゃない!…目だって金色じゃないし。」


肩で息して怒鳴るナミに、マキノも同調して2人を諌めます。

空を飛んでた時、金色に輝いてたナミの瞳は、何時の間にか茶色に戻っていました。


「……嘘じゃねェよ。こいつは魔法を使う時だけ、目が金色に変るんだ。」


ゾロが殴られた顎を摩りながら、仏頂面して席に戻ります。


「千歳だってのもウソじゃねーぞ!!こいつが自分で言ったんだ!!『魔女だから死なないし、年も取らない』って!!」


ゾロと同じく顎を摩って立上りながら、ルフィも言い返します。


「…年を取らないって……それ、本当なの!?」
「え!?…ま、まァ…その事は本当だけど…。」


2人の言葉を聞き、何故かマキノは真剣な面持ちで、ナミの肩を掴み迫って来ました。

その迫力に気圧されて、ナミが素直に頷きます。

マキノはナミの顔を見詰て、シリアスにこう尋ねました。


「…ね…教えて!!若さの秘訣は!?」

「――は?」


思わず目が点となるナミ。
両側座るルフィとゾロが、椅子からずり落ちました。


「そんな事どーだっていいだろマキノ!!ナミにはシャンクスの居場所を突き止めて貰わなきゃいけねーんだから!!」
「その為に此処へ呼ぶって話したじゃねェか!」

「あははv…そうだったわねv……けど嬉しいわ!凄い力を持った魔女さんが仲間になってくれるなんて!きっとこれでシャンクスも見付るわね!」


ルフィとゾロに突っ込まれ、照れ笑い浮べつつマキノが言います。


「……仲間なんかじゃないわよ。」


その言葉を聞いて、ナミは憮然と答えました。


「冷てー事言うなよナミ〜。お前も俺達『シャンクスそーさく隊』の仲間だって言ったろ〜?」
「此処まで付合っといて、未だウダウダ抜かす気かよ?」
「『言う事聞かなきゃ殺す』って脅されたから、仕方なく付合ってやってんでしょ!!人脅迫しといて何が仲間よ!?」


ナミが2人を交互に睨んで叫びます。

叫びを聞いたルフィとゾロは、暫しキョトンと見詰あい、次いで風船が破裂した様に爆笑しました。


「何がおかしいの!!?」


笑い転げる2人を、ナミは顔を火照らせ怒鳴ります。


「うははははは♪…だってよォ〜!お前、本気であの言葉信じたのか!?俺達がお前を殺す訳ねーじゃん!馬っ鹿だな〜♪」
「だ!…だって『その気になれば骨も残さず消せる』って言ったじゃない!!」
「『その気になれば』な。…その気が有るんなら、わざわざ口に出さず、とっくに殺っちまってるって。」


ゾロがニヤニヤとからかいます。

ナミの顔が益々赤くなりました。

言い返してやろうと、息を大きく吸った瞬間――


――ゴン!!ゴン!!


と、2人の脳天に、マキノの拳骨が落されました。


「「痛ェェ〜〜〜〜〜〜!!!!」」

「女の子を脅迫するなんて、何て悪い子達なの!?」

「…だってよ〜マキノ!シャンクスの居場所を突き止めて貰うには、こうするしか…」

「言い訳するんじゃありません!!女の子を苛める男の子なんて最低だわ!!恥を知りなさい!貴方達!!」


手を腰に当て、鬼の様に真っ赤な顔で、マキノは2人を叱り飛ばします。
先刻まで見せてた柔和な表情からは信じられない程の変り様でした。
真剣な怒気に当てられたルフィとゾロが、しゅんと項垂れてしまいます。


「…御免なさい。2人共、日頃女の子と付合ってないから…でも根は悪い子達じゃないの!だから気を悪くしないで、これからも仲良くしてあげて頂戴ね!」


くりんとナミの方に向けられた顔は、元通りの優しいものでした。
カウンターからぐっと体を突き出し、じっと見詰て懇願します。

千歳の魔女である自分を、普通の女の子として見るその瞳。
黒い瞳に映る自分を、ナミは不思議な心地で見詰返しました。

カウンター奥から、しゅんしゅんと湯の沸く音が聞えて来ました。




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