夢見たものは   後編

                                
味海苔 様


2泊目の夜、9時。ついにその時が来てしまった。風呂からも上がり、隣の部屋は随分騒がしい。時折笑い声の聞こえる廊下で、ゾロはドアノブを睨み付け、腕組みをして考え込んでいた。
入る、入らない、入る、入らない、入る、入らない…一応計画はしたが、恥ずかしいことに変わりはない。歌なんて似合わない、いっそやめてしまおうかとも考えるが、後悔することは目に見えているので、やはりやることにする。しかし…。
「ちょっと、誰かいるの?用があるなら言いなさいよ」
いきなり声がして、ドアが開く。途端にゾロは硬直する。
「なんだ、ゾロだったの。秋島なんだから夜は冷えるでしょ、入りなさい」
「!!!???…ああ、わりぃ。酒でも飲もうかと」
持ってきた酒瓶を見せながら、ゾロは簡単に許可されたことに驚いていた。もしや、向こうはこちらの行動を読んでいたのでは…?
玄関を通り部屋に入ると、そこはゾロの部屋より少し広かった。少々複雑な気持ちで座布団に座り、早速栓を抜く。
しばらく機会を伺いながら酒を飲んでいた。酒豪二人だと進みは速く、瓶をどんどん開けていく。他愛のない口喧嘩を交えつつ、世間話なんかを聞いて適当に相槌を打った。

午後11時26分。さすがに少し酔いが回ってきたのか、ナミがゾロの肩に頭を乗せてきた。ゾロの直感が“今しかないぞ!”と騒ぎ出す。ナミの抵抗を無視して胡座の上に抱え込み、顔を見られないようにしてから、ゾロはゆっくりと歌い出す。

“夢見たものは ひとつの幸福
願ったものは ひとつの愛
山並のあちらにも 静かな村がある
明るい日曜日の 青い空がある

日傘をさした 田舎の娘らが
着飾って 唄をうたっている
大きなまるい輪をかいて
田舎の娘らが 踊をおどっている
告げてうたっているのは
青い翼の一羽の小鳥
低い枝で うたっている

夢見たものは ひとつの幸福
願ったものは ひとつの愛
それらはすべて ここに
ここに ある と ”

歌い終えて、ゾロはナミを抱く腕の力をゆるめた。ナミは静かに振り返り、ゾロの翡翠色の瞳を見つめる。瞳は徐々に迫り、ついに二人の間はゼロになる。ゾロの唇に、ナミのそれが初めて重なる。閉じたナミの目から、一粒の涙がこぼれた。

夢見たものは ひとつの幸福

願ったものは ひとつの愛

それらはすべて ここに

確かに、ここに あった。


the End


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<管理人のつぶやき>
ゾロが、あのゾロが歌でお返しをしてくれるなんて!しかも選んだ歌もジーンと胸に染み入ります。どう実行しようかアタフタしてるゾロも可愛かったです(笑)。

【投稿部屋】の投稿者でもある味噌様の、先のナミ誕作品『When He's Not Around』の続編です。続編を書いてくださいまして、どうもありがとうございましたー!!



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