a water tower −5−
CAO 様
ベッドの上絡み合う体は、あたかも互いの欠けた部分を補い合う為に存在し、元は一対のそれであったかの様に、片時も別つまいと折り重なり隅々までも溶け合
う事を望んでいた。
右手の指先から始まった甘い舌の誘惑は、その甲を伝い腕の内側を辿り、肩口に緋色の疵を残し、項から耳をしゃぶり、頬から目尻へ額を経由し鼻梁をかすめ、唇を塞ぎ歯列から覗く舌を犯した。寸分の狂いもなく口中で絡め取られた舌先を、奔放に弄ばれれば、自ずと体が熱く目覚め、咥内を彩る唾液の分泌が、異常と呼ぶにふさわしい程溢れ反ってきた。流れ出す涎を追う様に魅惑の唇は離れ、代わって顎から喉に舌が噛みつく。そのまま鎖骨に喰い付かれると、ナミの白い咽は震え音を絞り出す。
「……アァッ…」
光る舌の軌跡は大きく膨らんだ胸元へ走り、その周りを縁取った。尖った舌先は円を描き、その弧を徐々に狭めながら、硬く隆起する乳頭に近付いてくる。乳輪を何度か形取り、下から持ち上げる様に尖端を舐め上げられ、ビクリと体が跳ねる。次の瞬間、パクりと頬張られた硬く突出したピンクの部分は、ゾロの口内で唾液の海を游いでいた。弾ける乳房の上に薄い唇が食い込み、きつく吸い上げて、歯列が乳頭を甘噛みする。
「…ン……ンンッ…」
何度も左右の乳房を交互に弄った舌は、くびれた脇腹を往復し、乳房の中央から下腹部へ向かい移動する。臍に涎を流し込み、その周りを辿っては、柔らかな腹部をテラテラと光らせた。
「…ハァ…ァ…」
むず痒い悦びを腰骨の周囲に巻き散らされた挙句、生殺しのまま熱く湿った密林を迂回して太股に舌は纏わり着いた。欲した場所から離れ行くモノに口惜しさが募り、自然に両足を捩れば、擦れ合った膝頭を狙い澄まして舐め上げられた。擽りを受けた膝裏を、唾液の軌跡は足首まで一挙に攻め、アキレス腱に犬歯が食い込む。痛みが走った途端、蹴上からスルリと逃れた唇が、足の指に到着した。
ジュプジュプとゾロの口の中で、親指をしゃぶる音が響いていた。
「……ゾロ、も、止めて…っ!」
「なんだ?よくねぇか?」
「そじゃなく…」
「…んだ?」
「涎マミレになっちゃった、全身!」
「エロくていじゃね?」
「ばっ…折角シャワー浴びたのに、台無しよっ!」
「また浴びりゃいいだろ…俺と。」
今更のように頬が熱る。体の熱りとは違った羞恥を伴って。丸裸になり薄暗がりの中全身をゾロの舌に預け、快楽に紅く染まった自分が、嘗て舌の持ち主を想い描き自身を慰めた場所に、彼の人と佇む姿を想像してしまった。照れ等という可愛らしいレベルでは無い究極とも云える恥辱がナミの心を侵した。
「馬鹿言わないでっ!そんな恥ずかしい事出来る訳無い…」
「恥ずかしいだと?」
「恥ずかしいに決まってンじゃない!嫌やよそんなの!」
「じゃ、これは?」
足元にあぐらをかいていたゾロが、その長い足をほどきナミの両足の間を割り指で伝うように忍ばせてきた。
「これなら、恥ずかしくねぇか?」
片足をグイと手で抑え、ナミの指の股に舌を這わせつつ、もう一方の手で片足を固定して、自分の足先をナミのしなやかな肌に添えて徐々に下方から摺り寄せて。
ふくらはぎを経由し、太股を何度も往復し、太いゾロの足指はナミの薄い陰毛を爪弾く。
「っ……やぁ…ゾロ…」
親指の爪がナミの襞を弾いた。
トロリとした粘液がゾロの爪にペディキュアを施す。
「…綺麗だ。」
ナミの股間で五本の指が蠢めく。
「ゾロ?」
「綺麗だ……つったんだ。」
「う・そ?アンタがそんな…」
「嘘なんか吐くかよ。」
親指が襞に埋まる。ゆっくりと。
「アァッ…で…も…ンン…」
小さな花芯をなぞる。優しく。
「お前が教えたんだろ?」
再び襞が親指を包む。今度は深く。
「アン…ン…私……何?」
亀裂の間で親指が動く。むさぼる様に。
「気持ちを言葉にしろって。」
「ハァ……そんな…ァア…言った…ン…私……」
「言わなくても、分かる。お前の事なんて…」
「お見通しっ……やぁ…あっ、ゾロ…イッ…ン、ンン…」
親指を根元まで植え込まれ、残った4本が襞と陰毛を弄っていた。局部に押し当てられた上底足が痛みを与えない強さで、そこをまさぐってはナミの愛液を絡め取っている。
ナミの足先はゾロの唾液に濡れ、ゾロの足先もまた悦びの液体にヌメっていた。
「どっちが恥ずかしい…ナミ?」
一際強く中を犯される。
「や…あぁ……どっちも…」
屋上へ続く踊り場でコトをなし終えた二人は、暫し言葉を失い繋がったまま抱き締め合っていた。この場所で互いを確かめ合った事実に、羞恥と感動の両方を味わっていたから。
ただ、時が経つにつれ、衝動に推され求めてしまった照れに似た感情が、想いを凌駕していった。
階下から聴こえた、何処かの扉の開閉音が谺したのが、きっかけとなったのも一因だが。
「ね、ゾロ…シャワー浴びたいンだけど…」
「そ…だな。」
ゆっくり絡まった体を解いてみれば、以前と変わりない現実が出現した。
恋人でもない、兄妹でもない、ましてや同居人ですらない、不毛な二人。
確かに想いは語った。会いたかったと待っていたと。好きだと惚れていると。だがそれは言葉にする前から理解していたと言っておかしくない気持ちであり、伝え合って尚募っていくだけで、その回答を導き出すまでには至っていない。
5年前ならいざ知らず、ナミは元よりゾロも己の心だけで全て捨て去れる程の子供ではなく、かと言って互いの生き方云々を問質せる程の社会的な立場を持ち合わせてもいない。
そこにあるのは、大人にもなれず子供でもない、ただの求め合ってしまった男と女だった。
ほどけた体を暫し見つめ、想いの強さに浚巡すると、ふと蘇る不変の現実。抱いて抱かれた瞬間がまるで嘘だと何かに囁かれている様で、恐る恐るナミは間近のゾロから目線を外した。
(こんなに好きなのに…何を言えばいいのか分からない。好きだけじゃ駄目なのよ。私達これからどうすればいいの?私はゾロに何もしてあげられない。そんな事分かってた。分かってたからこそ…)
衣摺れの音に我を取り戻し、外した視線をゾロに戻した。翠頭がうつ向いて下着を上げて、衣類を整えていた。
「えっ?ゾロ、アンタ何そのまんま履いてンのよっ!」
生活感のある現実に驚き、思わず声が上がる。
「はぁ?履かねぇでどーすんだ?出したまんまで歩けってか?」
「バカじゃない!ンな訳ないでしょ!ちゃんと拭いてからにしろって言ってンのよっ!」
手の掛るガキの様なゾロの仕草に飽きれ果てる。
しんみりとした思い等何処吹く風と、切なさも哀しみも一瞬にして吹き飛ばし、鷹揚でいて無邪気な男。
「別に問題ねぇだろ?どーせ脱いじまうんだからよ。風呂入るんだから…」
「な!私がシャワー浴びたいって…まさか、一緒に入るつもりじゃないでしょうね?」
「ったりめぇ〜だろ?」
「だだだ駄目よっ!」
「それこそ何でだ?」
ナミは真っ青になっていた。先程襲われていた切ない現実を瞬く間に忘れ去ってしまう程焦った。
一人っきりの夜。慰めた自分。いやらしい行為。その場所。
知られたくなかった…どんな時でもナミの気持ちを高揚させてくれて、光に満ちた方向へ誘ってくれるゾロに、愚かな程情けなく恥ずかしい自分を知られてしまうのが。
そして、その行為の裏にある汚れた様な自分自身を、思い出してしまう自分が嫌だった。
「せ、狭いじゃない?」
「そうか?くっついて入りゃ問題ねぇだろ。」
「やーよっ!ゆっくり出来ないもん!絶対にイ・ヤ!」
「……ま、いいけどよ。」
あくまでも譲らないとの決意を見せたナミは、まだ納得いかないといった表情だが頷くゾロに、少し気が抜けたのか片足立ちを続けていた所為で足元をフラつかせた。
「おい、大丈夫か…ったく、シッカリしろよ。」
腰にゾロの腕が素早く回り、ナミを優しく支えた。
未だ艶の名残りを感じる長い指先が、感じやすい腰骨の周りを脅かす。撫でる様な仕草が、余りに焦れったく、堪らずナミは自分からその太い腕に体を預けた。
「やっぱ…好き…」
目の前にあるゾロの熱を受けると、不毛と分かっていても告げずには要られない自分の強欲さがある。気持ちには逆らえない自分がいる。
これが、正直なナミの思い。
ノジコやエースが言った様に、ハメを外した結果行き着いた、今の偽りない気持ちだった。
「やっぱ…って、何だ?」
ナミを広い胸に包みながら、不思議そうな顔でゾロが尋ねる。
「ハナっから解り切った事だろ?」
一瞬、ナミは戸惑いを覚えた。
「じゃなきゃ、んなとこで焦って抱いたりしねぇよっ!」
(……え?)
「一刻も早く確かめたいと思わねぇ限り、ちゃんと部屋に連れて帰ってるぞ。俺は。」
抱き寄せた体を労るように撫でながら、ゾロがオレンジの髪に頬擦りしている。
「お前の気持ち確かめる為に必死だったんだよ……格好悪リィけど。」
あぁこれがゾロだと思った。いつでも自分に正直で、でも相手を思い遣る事を忘れない。必要と感じれば必ず言葉にするけれど、人に応えを委ねたりはしない。
移り気な人々が多い世にあって、忘れがちになる個を、偽らず、押し付けず、憚らず…持って生まれたモノなのか、育まれて来たモノなのかは分からないが、無骨なその外見からは一見して押し計れない、不変の優しさがそこにある。
(そんなトコ…好きなのよ。)
何も為す術を持たぬ筈の二人の現実を、いとも容易く幸福な一時に変えるゾロの言葉が、ナミの想いに一筋の光を射し込む。
この男と共に在りたいと。温かな腕に、胸に、瞳に包まれ続けたいと。
「格好…悪いわね。」
「悪かったな。」
「だから……好き。」
「変な趣味してんな?」
「こんなイイ女に好かれてんだから、幸せだと思いなさい。」
「ケッ………幸せ……だな。」
見つめ合いくちづけを交した。
「脳味噌が。」
「ゾ〜ロ〜!」
恋人同士の戯れに頬を染めた後、直ぐに唇から洩れる減らず口に、近付いた心の距離が肌身に染みた。
ゾロの前では安心して心を委ねられる心地良さに、体も心も溶けて行く。
ゾロの話す戯れさえも愛しい。
(…だから好き…)
甘えに似た怒りを含んだ視線を向けていると、急にフワリと体が浮いた。
見ればまだ下着を着けていない下半身が宙に浮いている。ツルンとした両膝の下から、ゾロの逞しい腕が生えていた。もう片方の腕は、ナミの腋を潜り厚い胸板に引き寄せられている。
そう、下着を履いていないままで、短いスカートのままで、謂るお姫様だっこをされていた。
「ち、ちょっとぉ!」
「お、暴れんなよ。階段降りるんだから、危ねぇだろ?」
「じゃなくって、私、まだ履いてない…」
「見えねぇように押さえとけ。」
「何バカ言って…ってか、一人で歩けるわよ。」
揶喩かう口調が突然、真摯なモノに変化した。
翠の瞳が強い意思を持って輝いていた。
「お前を一人で歩かせるつもりはねぇ。」
「ゾロ?」
「これからは、ずっと一緒だ。」
茶褐色が潤みそうになった。
「ナミっ!」
玄関を開けた途端目に飛込んだ女物の靴に、共に帰宅した金髪男の存在も忘れ、ゾロは声を上げ靴を脱ぐ間も惜しいとばかり、狭いリビングの扉へ取り付いた。
勢い良く跳ね開けた扉の向こうには、短目の青い髪に驚きの大きな瞳を見開いた見知らぬ女が、ソファに腰掛けゾロを注視していた。
「アンタ、誰だ?」
睨め付ける眼差しと眉間に深い皺を刻んで、威嚇を露にドスの利いた声を響かせた。
「私はノジコ…ナミに頼まれて荷物を取りに来たの。」
そう話す女は、細い指先で鍵を揺すって見せる。
見慣れたキーホルダーに、ナミが持っているものだと確信を覚えた。
「何だかアルバムだとか言ってたわ。何処にあるのか判る?それ以外は処分していい…」
「アンタ、アイツと、ナミとどういう関係だ?」
「あ…失礼しました。私は劇団の者。今、ナミは私ン家にいるのよ。まぁ、寮みたいなもんだけど…ええっと、貴方がロロノアさん?」
ナミの知り合いと聞いて多少の安堵を感じた。
不審者ではないといった程度のものだが。
「あぁ、そうだが…。」
差し出された名刺を手にとった。そこには確にナミの所属する劇団の名と、自己紹介した通りの女の名前が明記されていた。
ノジコという名前の女は、不信感を露にするゾロに好意的な笑顔を見せている。
普通ゾロの眼光鋭い強面を前にすれば、一歩退いて恐怖に震えるのが常の筈。が、こうも見事に母親の様な親しげな笑みを浮かべているというのは、恐らくナミから何らかのゾロに対する情報を得ていたと判断するしかない。ノジコはナミの遣いなのだろう、そうゾロは結論に達していた。
「ナミがお世話になったみたいね?」
「ナミは……元気にしてンのか?」
ナミが姿を消して一月。連絡のひとつも寄越さない。
恐らく懸命に台本でも読んで、必死に役作りとやらに励んでいるのだろう。便りが無いのは元気な証拠と、ゾロも分かってはいた。
そして、仕事が安定したら、此処へ戻る戻らないは別として、何らかのアクションを起こすに違いないと、確信を持って待っていた。
だが、ナミの代理が現れるとは、予想だにしていなかった…と言っていい。
正直虚を突かれていた。
「ええ、仕事頑張ってるわ。レギュラーも決まって、益々やる気も出てきたみたいよ。寸暇を惜しんでって感じかしら?」
「……なら、いい。」
明るい笑顔を振り撒きながら、ひとり部屋に篭って思い悩み、仕事場で役になりきり演じるナミの姿が、目に見える様だった。下らない事にも気持ちの浮沈を繰り返し、些細な事象に振り回され、身も心も擦り減らし、それでも前を見続ける、しなやかでいて折れる事無い不屈のナミを。
もう一度会えると信じていた。何を根拠に?と自分でも不思議に思うが、ナミの帰巣本能とでもいうのか、彼女はゾロの中にあの給水塔を写し見ているように勝手な解釈をしていた。
現実には、ナミは此処へは戻らず、代理人がゾロの目の前にいるだけだ。
「だから、私が忘れ物取りに来たって訳。ナミが『お世話になりました。ありがとう。』って伝え…」
「おい、ゾロ…って此方の美しいお姉さんは誰…」
玄関先に置き去りにしておいた金髪男が漸くゾロの後を追って侵入してきた。
その時、ゾロ自身でも抑えられぬ想いが堰を切った。
「世話になったと思うなら、本人が頭を下げるのがスジってもんじゃねぇのか?」
声を荒げた訳ではない。どちらかといえば、絞り出すような音で聞こえたに違いない。
深く沈み、暗く響く…慟哭に近い威嚇。
「ゾロッ!テメェ〜何言ってやがるっ!こんな綺麗な方に向かって…」
「テメェは黙ってろっ!」
「ァンだとっ!」
サンジのお陰で我に還った。ノジコと二人だったら何を言っていたか分からない。多分、此処にいないナミをノジコに被せ見て、待っていた自分、待ち続けている自分の不安な気持ちをぶつけてしまっていたかも知れない。愚かしいとは理解していても、突如本人不在で叩き付けられた現実に、対応する能力を著しく欠いていただろう。
現に、ノジコは当初の友好的な表情を潜め、明らかにゾロの態度に驚愕していた。
「すまなかった。アンタに言ったところで……ノジコ…さんだったか?悪かった、気にしないでくれ。」
「い、いいよ。気にしちゃいないよ。」
ノジコは薄い笑顔を見せた。その顔に、すまないと翠の瞳で一礼した。
「今、探してくる。待っててくれ。おい、サンジ…茶だ!」
「言われなくとも…って、後で覚えてろよ。」
サンジの顔もまともに見る事が出来なかった。感情をそのまま現す事に慣れていないゾロは、気持ちの赴くままに行動した自分を持て余したような気分だった。
「あぁ、後でな。」
(ナミの前でなら気持ちのまま動くのは簡単なのにな…)
「ケッ………えーと、ノジコさんと仰有るンですか?俺はサンジ。愛の一流コックですっ!今直ぐお茶をご用意しますね。お好みはコーヒーorティー…」
女を嬉しそうに持て成すサンジの声を背中に聞きながら、奥の寝室の扉を開け入る。静かに閉じた扉を背に、一息吐く。
(何言ってンだ、俺は…)
今更ながら羞恥に覆われた。
ナミが現れないのは多忙だからで、ナミの所為ではない。寧ろ友人として、彼女の夢が叶いつつある事を喜んでやる冪ものの筈だ。ましてや代理でやって来たノジコを責めるには当たらない。なのに、嫌味な物言いで他人を巻き込んで、ミットモナイにも程がある。これではまるで、玩具を欲しがる子供ではないか。
勝手に思い込んだ自分を、勝手に裏切られたと騒ぎ立て、勝手に意気消沈している。何も伝えてはいないクセに、何を相手に期待を賭けているのか。
待つと決めた自分の、思いの外、意思の弱さに辟易としていた。
(……探してやんねぇとな…)
重い心を引き摺り、書棚に手を掛けた。
アルバムは直ぐに見付かった。B6くらいの小さなサイズで、色褪せたオレンジ色の表紙には、緑のマーカーで『Nami』と英文字が綴られていた。書棚の脇に掛けられていたナミの残したトートバッグに詰めようと、一度に手を伸ばすと、アルバムは書棚から滑り落ちて、中身がパカリと開き床に転がった。拾い上げればそこには、亡き父と母に囲まれ幸せ一杯の笑顔を見せる幼いナミがいた。
5年前、この笑顔を見るのが楽しみだった。
給水塔の下、ゾロの言動に一喜一憂していたナミ。
いつから、あんな哀しい心を持つ女になってしまったのだろう。
アルバムの中には、沢山、屈託の無いナミがいた。
(俺は…この顔を見ていたい…)
ふと目を遣れば、開いたアルバムの下から一葉の写真が覗いている。
開いた拍子に抜け落ちたのか?戻してやろうと手に取った。
「……お気を付けてぇ〜また、お会いしましょうねぇ〜」
「ったく、煩せぇな、テメェは…」
「馬鹿やろー!美しいお姉様がおかえりになったんだ!これくらいサービスすんのは当然だっ!テメェこそ、愛想なさ過ぎなんだ!いいか?そもそも女性とは…」
ノジコは結局何も持たずに、ゾロの部屋を後にした。ゾロはナミの意中のアルバムだけでなく、細かな衣類やアクセサリー、日常の必需品や食器、果ては歯ブラシやら髪止めゴムに至るまで、ナミの匂いのする一切合切をバッグに押し込めて、ノジコの前に用意を整えた。
しかし、ノジコは頑にそれを受け取ろうとはしなかった。それどころが、あのナミにも負けない命令口調で、
「ナミ本人に取りに来させるから、必ず待ってなさい!」
と、言い出す始末。
それでは代理人としての立場が無いだろうと声を上げれば、隣から金髪男の声がゾロを非難した。
「ゾロ、女性の意向に従わねぇとは、どういう了見だっ!ノジコお姉様の仰有る通りにしやがれっ!」
ゾロが荷造りをしている間に、この二人はえらく親交を深めたらしい。と、言うよりも、サンジが一方的に懸想しているようにも受け取れるのだが。
夕飯を一緒にどうかと言う問いに、ノジコは旦那がひもじい顔して待ってるからと断り、サンジは涙ながらに彼女を送り出した。
「ヒトのカミサンに手ぇ出して、何が面白れぇンだ?訳、分からん。」
「大人の女の魅力ってヤツだ。まっ、無粋なテメェには分かんねぇだろーなー…」
「分かりたくもねぇ。」
夢見心地だった蒼い片目がキラリと光り、訝しむ視線を金髪から覗かせた。
「ひとりの女しか見えてねぇテメェには理解不能…ってか?」
「なっ…」
「図星だろ?」
ノジコを見送った後、リビングに向かって歩いていたゾロは、思わずソファを目の前にして立ち止まった。
その脇を擦り抜け、一足先にソファに腰掛けたサンジの場所は、いつもナミが座っていた場所だった。
あの日、二人で膝を擦り寄せ、台本を捲って懸命に読み合わせたナミの居た場所。
「そんなンじゃねぇ…」
荷造りしながら、諦めにも似た気持ちになっていたゾロは、指摘を受けた事で、改めて何かを変えようとする努力を怠っていたと気付かされた。旧い付き合いに自惚れ、分かり合っている事に胡坐をかいて。その上でナミを待っているも何も無い。酷く独善的で、幼い想いだ。まるで、気付いてくれるのを待っているだけの、片想いと言っていい程の面映ゆく情け無い自分がいた。
「なーに言ってンだ?俺はよ、ゾロ、テメェとの付き合いはまだ3年ちょっとだがよ…ンなに動揺するテメェを見たのは初めてだ。」
「動揺…って…してるか…」
「それだけじゃねぇ。お前、ここ1月くらい、おかしかったしな。」
「おかしい?」
「あぁ、元々変な野郎じゃあるが…お、威嚇すんな!しても怖かねぇぞ、今の情けねぇテメェじゃなっ!」
眉間に寄る皺はあくまでも不快を訴えるもので、威嚇するつもり等ゾロには無い。
ただ今は、サンジの言う『おかしい』状態というものに、自分自身自覚が無く、それが何を意味するのか知りたい気持ちが勝っていた。
「まぁ、座れよ。」
「偉そうに、テメェの家かよっ!」
「似たようなモンだろ?」
ゾロはソファに腰を落ち着けた。すんなり馴染む座り心地に、隣に居るのがナミでない違和感を過剰に意識させた。
「ゾロ、お前ずっと凹んでただろ?や、何も言うなっ!言いてぇ事は後で聞いてやる。今は黙って聞いてろ!俺の講釈を。」
不愉快な翠の瞳を隠そうともせず、ゾロは深く頷いた。
「お前が、俺を自分の部屋(ここ)に入れなくなった頃から、お前、元気が出て来たつうか、明るくなったじゃねぇか?友達がいの無い野郎って思ったが、暗く思い詰める様なトコが無くなったから、敢えて聞かなかった。」
懐かしい思い出でも語る如く、サンジの言葉は穏やかで、眠りを誘うような響きをゾロに伝えてくる。
「3ヶ月前くらいには、スゲェ話しやすい雰囲気になったから、何か良い事があったんだろうってな。まぁ、その内話しでもしてくんだろくらいに…まさか、女絡みとは思わなかったが。」
「だから、アイツとはそんなんじゃねぇ…」
「墓穴掘ってンぞ?」
「……………」
サンジはソファに座り直した。ゾロを正面に見ていた瞳を部屋の壁に向けて、敢えてゾロの表情を窺わない様にしようと、気を回しているようだ。
「ノジコお姉様が言ってたぜ。『ナミは綺麗になった』ってよ。ナミさんつうのか?このムサッ苦しい部屋にいた、汚れなき麗しい乙女は?」
「アイツは、乙女なんかじゃねぇ。腹黒い魔女みてぇな女だ…」
「へぇ〜じゃ、テメェは差し詰め魔女に呪いをかけられた猛獣ってとこか?」
サンジの肩が愉しそうに震えていた。クックック…と部屋に響く静かな笑い声が、ゾロの心に悲しく届いた。
「お前、一月前から急に付き合いが悪くなりやがった。授業が終りゃすぐ帰っちまうし、課題を見せろって言えば俺ン家来ても泊まン無くなるし……待ってたんだろ?彼女を。此処で。」
ポンポンとソファを叩くサンジの掌が、ゾロの左肩に振動を伝えてきた。
「……かもな。」
「素直じゃねぇか?ゾロのくせに。で、その美しい魔女とやらは、どんなお人なんだ?」
「何で会った事もねぇ女を…そんな風に言えンだ?」
「そりゃ…女に、否、他人に執着しねぇテメェを夢中にさせる様な女性だろ?いい女に決まってンじゃねーの?」
「夢中って…あぁ、そうだよ。アイツに、ナミに夢中なんだろうな、俺は。ずっと昔っから。」
目を閉じた。給水塔とナミが見えた。
「ナミとは高校の時初めて会った。図々しい女で良く喧嘩した。でも、色々と無理ばっかしやがるヤツでよ、人前では笑ってばっかで、怒ったり泣いたりすんのは俺の前だけでよ。何時の間にか付き合ってた。」
本当に何時の間にか惹かれていた。
コロコロ変わる表情が面白くて、ずっと見つめていたくて。
「俺は、結構幸せで平凡で…学校と部活を淡々とこなして、将来の不安なんて持ち合わせちゃいねぇし…」
「実家の病院継ぐんだろ?」
「まぁな。それについちゃ疑問を感じたりしてなかった。今もだけどよ。」
淡々としたモノトーンな毎日を、オレンジ色に染めてくれたナミ。
「ま、んな時に出会って、結構、上手くやってたんだが…アイツの両親が亡くなって、学校辞めちまったもんだから、そのまま自然消滅だ。1年くらい前に再会してよ、なんだかんだとここに居候決め込みやがったんだ…それだけだ…」
話してみれば、それだけの事だった。
「……で、出て行かれたのが1月前で、惚れてンのに気が付いたって訳か?」
「いや、それは分かってた。随分前から…」
5年も前からずっとだった。気付かぬ振りを決めていただけで、ゾロには分かりきった事実だ。
苦笑が踊る。
「じゃ、今日帰って来ないって分かって……フラれたって事だな。」
「フラれたりしてねぇよ!俺は何にも言っちゃねぇか…」
身を乗り出した金髪が揺れる。
「アホかっ!」
「なんだとっ!」
「好きだとも言ってねぇのかよっ!幾らテメェが馬鹿だと知ってても、それも言わねーで捨てられてりゃ世話ねぇ…ガキか?ガキと一緒じゃねぇかっ!テメェは何もしねぇで待ってるだけって!アホ過ぎて言葉もねぇ〜」
「……すげー喋ってんぞ?」
「黙ってろっ!テメェなんかフラて当然だっ!豆腐の角に頭ぶつけてろっ!」
一層苦い顔になっていくのが、ゾロ自身にも分かった。サンジの言う通りだ。
「……あぁ。俺も、そう思う。」
ゆっくり息を吐いたゾロの隣で、再び蒼い目が光る。今度は真摯な色だった。
「ノジコお姉様がチャンスをくれたンだ……キチンとケリ着けろ!」
「そのつもりだ。」
サンジの言う通り情け無い自分のままではいられない。答えは既に出ている。後はナミに伝えるだけだ。
ナミの恐怖を取り除く力が、果たして自分にあるのかどうか疑わしが、会えば告げずにいられない想いがある。離れていたこの1月で、確信したナミへの想い。
(アルバムの笑顔を取り戻してやる。)
それが5年前、あの乾いた日々に潤いを与えてくれたナミへ、感謝と愛情を込めて返すべきゾロに与えられた最大の使命だから。
決意を新たに、シミッたれた笑みがゾロの口許を飾っていた。
「なぁ〜ゾロ。景気づけに…合コンといくか?」
「何でそんなに嫌がンだよ?」
「だから、恥ずかしいし、狭いし…」
その日2度目に体を重ねたのは、ゾロのベッドの上。踊り場でむさぼる様に求め合ったのとは対称的に、体の隅々までを堪能するセックスの後で、暖め合いながら肌を寄せていた。
シャワーを浴びたいと言い出したのはナミだ。スルリとゾロの腕を抜け、ベッドから立ち上がりかけると、「俺も一緒に」とゾロが体を起こした。何のてらいもなくバスルームへ向かおうとする男に、「じゃ、私は後でいいわ」と言ってベッドに横たわった。すると、歩き始めていたゾロが、ナミの上にのしかかり「何でだ?」と尋ねてきた。
「もう全部知ってンだから、今更恥ずかしいもねぇだろ?」
「あ…明るいじゃない…」
「ソファでやった時のが明るかっただろ?」
「そ、それは…そうだけど。」
「狭いっつたって、やってる時くらいくっついてりゃ問題ねぇし…」
「ま、またヤル気!」
「そじゃねぇけど…何か隠してンな、お前?」
「隠してないわよっ!」
甘えるような、ふざけるような、揶喩かうような、ゾロの囁きが痛い。
「俺が入ってる時風呂場覗いたとか…」
仰向けにされ、両腕を固定され、唇が触れ合いそうな至近距離で、ゾロの掠れた声がナミに迫っている。
「お前ひとりン時オナ…!」
ナミの頬がボンッと音を立てたかのように、突然真っ赤に染まった。
見つめていた翠の瞳から、慌てて視線を外し、捕まえられている腕に目をやっていた。
「マジか…」
「は、離してっ!アンタが入らないなら、私が先に入るから。」
「ナミ?マジか?そうなんだな?」
「そんな訳ないでしょ!離して…」
瞬く間に片腕を解放され、安堵したのも束の間、離れたゾロの右手はナミの形良く尖がった顎を捉え、薄い唇を押し付けられた。
「…ンンッ……」
苦しい息を洩らすと、少し弛められた唇の端を震わせ、ゾロが詰問を繰り返す。
「ヤッたんだろ?」
「ひとりで?」
「教えろよ?」
「そうだろ?」
ゾロの唇は何度もナミの口中を犯し、舌を絡め、卑猥な音を紡ぎ出した。顎から喉、頬から耳へ舌が辿り着き、ピチャピチャ耳たぶを舐める頃には、ナミの腕もゾロの背に回っていた。
「…して…な…」
「ナミッ!」
瞳を捕えられた。ゾロの視線には嫉妬に似た色が光り、ナミを喰らい尽さんばかりの恋慕が宿っている。
眩しいくらいのその光りに、観念したナミは、潤んだ茶褐色の瞳を伏せながら囁いた。
「…………した。」
どんな揶喩が待っているのか、汚辱したナミを知られてしまう恐怖。
ゾロに嫌われるのではないかと、震えに襲われるや否や…
「誰だ?誰を想って慰めた!」
間発入れぬタイミング、ゾロが鬼気迫る勢いで取り縋った。
「…………アンタ。」
恥ずかしさに染まった頬を、透明な雫が零れ落ちた。
次の瞬間、壊れてしまうのではないかと思う程の力で、抱き締められていた。
ゾロの太い腕で。
「…ゾロ?」
その動きに驚きそっとゾロを見上げれば、満面の笑みを湛えた翠の男から、信じられない程妖艶な舌がナミの口中に分け入る。一舐めしただけで、下半身がジワリと潤むくらいに。
「ナミ…」
「ン…ゾ…ロッ……何…」
「感じたか?」
「ん。」
「イケたか?」
「……バカ…ン…」
「俺を想って?」
「…そうよ…っ…」
「俺と…ヤリたかった?」
「うん………したかった…」
「行くぞ……」
「何処?」
「風呂!」
あっという間に担ぎ上げられ、ゾロの肩に乗っけられていた。まるで荷物扱いされるみたいに。
「ち、ちょっとぉ〜」
ゾロの肩口から垂れ下がる太股にキツクくちづけが落とされ、暴れるナミはおとなしくなった。
「せめて、ダッコしてよぉ〜」
シャランとゾロのピアスが鳴る音を、肩越しに聞いていた。ザアザア流れるシャワーの水音を遮って響いたその音で、ゾロがナミの間近にいると知らせてくれる。
独り慰めたあの時には、聞きたくても、決して聞こえなかった音。
あの時と同じに、こうして瞼を伏せていても、姿の見えない男の姿に不安はない。この心の奥まで響く音と、全身を這う熱い掌がナミを包んでいるから。
「洗わせろ」とボディシャンプーを手に取ったゾロは、ナミの背後からその泡を全身に塗りたくった。豊かな乳房に、くびれた腰に、まあるい臀に、形良い長い足に、しなやかな腕に。
そして今、ナミの喉に掌は添えられている。胸元から掬い上げ何度も往復する掌が、顎を捕え顔を上げさせる。ゾロの唇がナミのそれに重ねられた。
バスルームの光々とした灯火の下、泡まみれのナミの体は、背後にいるゾロの体に縫い付けられている。淫美な影を纏った二つの体は、その行為とは裏腹に、美術品の石膏像を思わせる気品を漂わせていた。
「や…しみるっ!」
「痛てぇか?」
くちづけながら片方の手をナミの秘部に這わしていたゾロが、やんわりとソコから手を外し太股に寄せた。
「だって……泡だらけで、中挿れるんだもん。」
まだ、羞恥を捨て切れないナミは、そっぽを向いてゾロの所業を非難した。
「じゃ、流しゃいいな?」
「えっ?」
そのままの体勢でクルリと反転すれば、真正面に勢い良く飛び散るシャワーの水流と、その後ろに二人の姿を写し出す鏡が待ち受けていた。
恥ずかしさに思わず座り込むナミの下に、潜り込む様にゾロが腰を下ろす。お陰で濡れた床に臀を預けずに済んだが、ナミの臀部はゾロの膝の上で、両腿の隙間から硬いゾロのペニスの洗礼を受けてしまった。
「お前から生えてるみてぇだ…」
「やだっ…変な事言わないでっ!」
「…お前、初めて俺とヤッた時も、そう言ってたよな?」
「そう…だっけ?」
「あぁ、アレすんなとか、コレはダメだとか、煩かった…変わんねぇな。」
「そんな簡単に変わんないわよ。」
「じゃ、あの頃からずっと、俺に惚れっぱなしってこったな?」
ゾロがナミの濡れた髪に頬を寄せ、ニヤリと悪い顔を見せた。
「図々しい男!」
「ソコがいいンだろ?」
唇を重ね合わせた。
ゾロの手が泡を洗い落とす様にナミの体を這い、頭上から降り注ぐシャワーの雨と相まって、二人の体から石鹸が綺麗に取り除かれていった。
「これで、挿れてもいいだろ?」
「ダ、ダメッ……ダメだってば〜」
ナミの言葉を待つ事なく、ゾロの長い中指が膣への侵入を果たしていた。
とろりとした愛液は、何度も犯されていたにも関わらず、溢れる勢いは止まらない。それどころか、ゾロに触れられる度その量を増やし、膣内は過剰に敏感になっている。
「あぁ…ん…やぁっ……」
「いいだろ?ナミ…」
「…っん…イイ…」
「自分でヤッた時より?」
「や、ゾロ…何言って…あぁっ…」
「答えろよ。俺の指とお前の指、どっちがいいよ?」
「そ、そんな……ン…言えな…いっ…」
「なら、較べろ!」
「あっ……え?」
イきそうになる手前で、付け根まで挿し込まれていた指が引き抜かれる。
恥ずかしさも一時忘れ、口惜しさが残る体が、ナミ自身切ない。短時間の内に、ゾロに飼い慣らされていた。
ナミが宙ぶらりんの快楽に暫し放心していると、ゾロの抜き放たれた指が彼女の指に絡まった。甘える様に絡まる指は、重ねたままその手をナミの秘所に導いた。
「な…何…」
二本の中指が、ナミの膣口を這う。
絡めたまま、其所へ埋まる。
「キャッ…や…やだぁ…」
逃げようとするナミの手を掌で抑え込み、激しく出し入れを繰り返すゾロ。
「こうして、ヤッたんだろ?」
「ダメェ〜」
「俺を想って。俺が欲しいって。俺を…」
「アッアッ…止め…恥ずかし…よぉ…ゾロッ…」
泣きそうになるくらい恥辱に侵されているのに、ナミの体は快感を求め続けている。それほどに、ゾロを欲して止まない自分が此処にいた。ナミの中の雌を、ゾロは簡単に引き出してしまう。
「愛しているか?ナミ、ひとりでいる時に、俺の事考えて濡らして、欲しくて堪らなくなるくらい…」
一層強い刺激が膣に響く。
「あ…いしっ…てるぅ……ゾロッ…アンタを……ずっと。」
もつれた指が解き放たれた。
ナミの膣を暴れ回った掌は、細い腰を鷲掴み、勢い良くナミを回転させる。ゾロ膝の上、正面に翠の男を見ると、穏やかで慈愛に満ちた瞳がナミの心を揺さぶった。
腰にあった掌は、ナミの体に沿って昇ってくる。乳房を持ち上げ、肩を包み、鎖骨をなぞって、顎から頬を優しく捕まえた。
「ナミ、お前を愛している…」
翠の瞳は真っ直ぐにナミの視線を捉えていた。
「お前にもう失う悲しみなんて味わせねぇ。約束だ。」
引き寄せられるように、ナミはゾロの逞しい胸に飛込んだ。
「ゾロッ…離さないで…」
「あぁ、何時でもお前ン中にいてやるよ。」
浮いた腰の下で、モソリと何かが動いた。
「こんな風に……っ。」
「ンアァァッ…」
ナミの膣に深くゾロが突き刺さった。
「イイか……忘れンなよっ!」
激しく突き上げられ、ナミの体が喜悦に震える。
「お前ン中、俺がいる…」
「ゾロォ〜………」
「いつもだ。」
叩き付けるシャワーの雨の下、ナミがここでひとり過ごした時間さえ無に帰すほど、熱い営みは繰り返された。
突き上げる度、ナミを愛していると告げるゾロの掠れた声が、心とバスルームに谺する。その声は歓喜に震える体を更に煽り、ナミの中弾けるまで続いた。
愛しい……と。
想いつづける……と。
離さない……と。
失ったりしない……と。
瞳を閉じれば、給水塔が揺れていた。
瞼を開ければ、そこにゾロがいた。
ナミを激しく揺さぶりながら、刹那の快楽に身を委ね、真摯に光る翠の瞳で。
「ナ…ミ…」
偽り無い求める心が言葉になった時、ナミは悦びの涙を零した。
「…ゾロォ…ッ……」
イッた。
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(2007.01.16)