恋は一人上手にラブハリケーン  −4−
            

びょり 様




食堂に戻ると既にナミさんの姿は無く、冷蔵庫の中のチョコまでもが姿を消していた。
きっと今頃ナミさんは、何処ぞに隠れて、俺への愛をたっぷり詰めたチョコに、丹精込めてラッピングしているに違いない・・ふふっっ、ナミさん、君はなんて可愛い人なんだ・・。

愛を育むメインタイムもステージも見付かった、週1位なら部屋も貸し切り、ロビンちゃんからのお墨付も頂いた・・・当面は確かにこれで凌げるだろう。
しかし、何時までも隠し通せるものでもない・・・何時かは皆にバレる時が来る。
俺は更なる思案を巡らす為、『イマジネーションルーム』、早い話が『便所(&風呂)』に篭る事にした。


『便所』、それはこの船内において、唯一プライバシーの守られた安全地帯。
便所は良い、個室となってる点がデザイン的に素晴らしい。
便所には人の想像力を増幅させて止まない、某かの力が込められているのではなかろうか。
そう、人はただ排泄しにだけ便所に来る訳ではないのだ。

便器に座り、胸ポケットから煙草を取り出し火を点ける。

壁に耳あり、障子に目あり、俺達2人がどんなに密やかに付き合ったとしても、この狭い船内、皆に知れ渡るのは時間の問題だ。
ならば時機を見定め、正々堂々披露してはどうだろうか?
いっその事・・・結婚式を挙げてしまうとか・・・。
俺達は海賊、世間一般常識や法律とは無縁な世界で生きている人種だ。
そうは言ってもナミさんは女の子、『結婚式』や『ウェディングドレス』といったものに、普通に憧れを持っている筈・・・それを叶えてあげるのも、男の甲斐性ってもんだろう。


《愛の妄想劇場 第三幕》
― 天国まで届けと願う、愛 ―
BGM:メンデルスゾーン『結婚行進曲』

『結婚式は身内だけ集めて簡素にしたい』との彼女の言葉から、俺達はとある島の美しい森に囲まれた湖のほとり、屋外にて結婚式を執り行う事にした。


「汝サンジ、貴方はこの女を妻とし、生涯愛し抜く事を誓いますか?」
「誓います。」
「汝ナミ、貴女はこの男を夫とし、生涯愛し抜く事を誓いますか?」
「誓います。」
「では、誓いのキスを―」

緑萌ゆる芝生に伸びた真紅のバージンロード、その上で俺達2人は向かい合った。
襟元が広く開いた、胸と裾のみに小花が刺繍された純白のウェディングドレスは、シンプルさ故に花嫁のスタイルの良さを際立たせている。
少しウェーブが掛ったオレンジの髪に短めのベールを被り、頬や唇ピンクに染めて、潤んだ瞳は紅茶色、白く小さな蜜柑の花を集めて拵えたブーケを手に持つその姿は・・・お世辞じゃなく、童話の中から抜け出してきたお姫様そのものだった。

「ナミさん、綺麗だ・・・本当に。」
「サンジ君も・・・その白いタキシード姿、王子様みたいに素敵よ。」

誓いのキスを終えた途端、鳴り響く鐘そして降り注ぐ祝福のフラワーシャワーと拍手、色とりどりの花びら舞い散る中、ナミさんはこれ以上無いという程、幸福そうな笑みを浮かべていた。

「サンジさん、ナミさん・・・御結婚、おめでとう御座います。」
「ビビちゃん・・!?わはっ!なっつかしー!!」
「来てくれたのね、ビビ!」
髪の色に合せて、空色のフワリとしたドレスを纏ったビビちゃんは、暫く見ない内に驚く程大人びて、そして綺麗になっていた。
「・・今だから告白しちゃいますけど・・・私、ずっとサンジさんに憧れていたんですよ!・・・だから、お2人が結婚されたのには、正直ちょっとショックだったりしました♪」
「えええええ!?ビビビビビちゃん!!それって本当〜!!?」
「あら、実は私もコックさんの事、密かに狙っていたわ。強くて優しくて料理の腕も一流なんて、絵に描いた様に理想的な殿方ですものね。」
紫の、深いスリットが入ったドレス姿のロビンちゃんが、妖艶な微笑を見せる・・・俺は危うく幻惑されそうになっちまった。
「何よ2人とも!サンジ君はもう私の旦那様なのよ!?手を出したりしたら唯じゃおかないんだから!!」
「うふふ♪心配しなくても、お2人の間に割って入る隙なんて有りませんよ♪」
「そうね、悔しいけど、コックさんときたら航海士さんにベタ惚れですもの、手の出し様が無いわ。」
「まままいったな〜♪2人とも、どうせならもうちょっと前に告白して欲しかっ・・っっ痛ぇ〜!!」
「サ・ン・ジ・く〜〜ん!!」
「ほへんひゃふぁひ、ひゃびひゃん!ふぁんひぇいふぃひゃふひゃらほほふぃっふぁんひゃひへ〜!!」
「結婚した側から不倫に走ってんじゃねぇぞ、イカ野郎!!」
「まったく、女ったらしってぇのは結婚しても治らねぇもんだなぁ!」
「パティ!カルネ!・・・煩ぇ!未だ走ってねぇだろがクソ野郎共!!」
「サンジィ!!」

「・・・クソジジィ!!」
「そんな可愛い花嫁、泣かすんじゃねぇぞ!チビナス!!」
「・・・・泣かす訳無ぇだろ・・何時までもチビ扱いしてんじゃねぇよ!!」
「本当だな!?」
「ルフィ・・・!!」
「ナミ泣かしたら承知しねぇぞサンジ!もし泣かしたら・・・・ぶっ殺すからな♪♪」
「・・・・・・目が笑ってねぇよ、お前。」

「ナミ、早く子供つくれよ!?産まれる時はオレが必ず取上げてやるからな!!」
「チョ、チョッパー!!幾らなんでも早過ぎよ!もうっっ!!」
「何照れてんだよナミィ?らしくねぇぞぉ♪よぉし!ならば子供の名前はこのウソップ様が付けて進ぜよう!!お前ら2人に任せるとノーセンスこの上ねぇからなぁ〜。」
「・・・誰がノーセンスだってのよ、ウソップ?」
「ナミ。」
「ノジコ・・・ゲンさん・・!」
「やれやれ、先を越されちゃうとはねェ・・・ま、しっかりやんなさい!」
「ノジコも・・良い男見っけたら私に相談してね!捕獲すんの手伝ったげるから!」
「我が妹ながら言ってくれるじゃないさ!・・・ほら!ゲンさんも、何時までもそんな後ろで仏頂面してないで、何か声掛けてあげなよ!」
「喧しい!・・・私は未だこの結婚を認めておらん!!」
「っとに、いい年して往生際悪いったらないねェ。」
「ナミ・・・・嫌になったら、何時でも帰って来るんだぞ・・・!」
「・・・・有難う、ゲンさん・・。」

「おい、エロコック。」
「ゾロ!」
「クソ剣士・・。」
「悪ぃが、ちょっと顔貸して貰うぜ。」
・・・何だ?この期に及んでいちゃもん付けようってのか?
クソ剣士の奴、式中って事で3本の刀と腹巻は外して、しかも似合わねぇ事夥しくも正装していやがるが・・・体中から物騒な気放ちやがって・・・上等だ、相手になってやろうじゃねぇか・・!


「実を言えばな・・・俺もナミの奴に惚れてた。」
「・・・・・てめぇ、やっぱり。」

「昔から、欲しい物は自力で手に入れて来て・・・手に入らねぇ物なんか何も無ぇと思ってたんだがな・・・よりによって1番欲しい物を掻っ攫われちまうとは・・・まったく、おめぇには完敗だよ。」

「ナミの事、一生宜しく頼むぜ・・・おめぇになら任せられる・・・じゃあな!」

・・・ロロノア・・・今まで俺はてめぇの事、クソ剣士だとかクソ腹巻だとかクソマリモだとかマリモヘッドだとかマリモマンだとかマリモだとかマリモだとかヘナチョコだとかマリモだとかその他諸々散々悪口雑言の限りを吐いて来たが・・・根は正直で潔い、良い奴だったんだな・・・誤解していて済まなかった・・。


親友の立ち去る後姿を見届け戻ると、ナミさんは、澄み切った青空のただ1点のみを見詰めていた。
「お待たせ、ナミさん!・・・どうしたの?空に何か・・・?」
「・・・サンジ君。」
「!!どどどうしたのナミさん!!?そそそんないきなり涙流しちゃったりして!!?・・・何処か痛くしたのかい??それとも・・」
・・・まさか・・・俺との結婚が嫌になっちゃった、とか・・・?

「・・・ベルメールさんにも、今日のこの晴れ姿、見て欲しかったな・・・。」
「・・・・ナミさん。」
「天国からでも・・・ちゃんと、見えたかな・・。」
「見えたさ!こんな可愛い花嫁さん、俺だったら成層圏より上からでも、バッチリ見つけてみせるよ!」
「サンジ君・・。」
「ナミさん、好きな人の声や姿はね、どんなに離れた場所からでも判るもんなんだよ!天国のベルメールさんだって・・・きっと君の事、何時でも見守ってるさ!」

「サンジ君・・私、貴方と結ばれる為に今日まで生きてきた気がするわ・・。」
「俺もだよ、ナミさん・・・俺は君が居なくちゃ、この世界にたった独りぼっちの寂しい男なんだ・・。」




「むふ♪むふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふむふむふむふむふむふぅ♪」

―ドドドドドン!!!!ドドドンドドドドン!!!!

『おい!!サンジ!!お前何時まで便所で笑い転げてるんだよ!?さっさと出ねぇとクソがもれるだろ!!おいっっ!!・・うあっっも・・もれる!!クソッ!!も、もれる!!・・・は、早くしろ〜〜!!!』

・・・・・・・人がマジでナミさんとの『明るい未来計画』練ってるってのにどいつもこいつもぉぉぉ・・!!

―ガチャッッ!!・・バターン!!!

「ひょっとして狙ってやってんのか!てめぇら!!?」
「何訳解んねぇ事言ってんだよ!?1時間も便所篭りやがってぇぇ!!」
・・・はっっ、待てよ・・・『結婚』、『夫婦』と来たら次は・・・

「待てルフィ!・・・てめぇを男と見込んで話がしたい。」

「・・・その手を離せよ、サンジ・・・俺は早く便所でクソしなきゃなんねぇんだ。」
「便所なんて何時だって行けるだろ、俺の話は一刻を争うんだよ。」
「いや、俺のクソも一刻を争う事態なんだが。」
「近い将来、ナミさんは結婚し、子供が出来るだろう・・・その日が来たら、一時、俺とナミさんをこの船から降ろして欲しい。」

「・・・・・・・何言ってんだおめぇ??話全っ然解んねぇぞ???」
「だから!!ナミさんの腹ん中に子供が出来んだよ!!つまり妊娠だ!!そしたら航海なんて無理させらんねぇだろ!?一時的で良いから船から降ろしてって・・・おい・・・何、人のデコに手ぇ当ててやがんだよっっ!?」

「・・・サンジ・・・お前、今日、頭の具合悪かったんだなぁ・・・なのに朝飯やら昼飯やらおやつやら無理に作らせちまって・・・済まなかったな・・・今日の夕飯は簡単なもんで構わねぇから、ゆっくり休んでろよ。」
「な、何、人を憐れむ様な顔して優しい言葉掛けてやがるんだよてめぇ!?言っとくが俺は正常で・・!」
「・・まぁ、お前の頭の具合については後で皆とも相談するとして・・・今は便所でクソすんのが優先なんだようおおおおおっっ!!!」

―バターン・・!!!

「・・・・クソ野郎がっっ!・・・話にならねぇよ。」




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(2004.03.07)

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