恋は一人上手にラブハリケーン  −5−
            

びょり 様




まぁ、考えてみれば『妊娠』だとか『子供』だとか、流石に未だ未だ先の話だよな。
何もそんな焦って相談する必要も無いだろう・・・その時が来たらで良いさ、うん。


最後甲板に出た俺を迎えたのは、今、正に海に沈まんとする真っ赤な夕陽であった。
燃える様な赤に水平線が染まるのを目にする度、俺は航海する身に産まれてきた事を神に感謝したくなる。
日々繰り返し見ている風景、しかし1つとして同じものは無く、俺の目を厭きさせる事など更々有り得ない。
夕陽よ・・・お前は何処となくナミさんに似ている。

胸ポケットから新しい煙草を取り出し火を点ける。
昼間の熱気も冷めて来て、多少は過し易く感じられた。
・・・それにしても、ちょっと考え事をしている内にもう夕刻とは・・・『光陰矢のごとし』とは良く言ったもんだ。
嗚呼ナミさん、願わくば今この風景を君と観たい・・・明日も、明後日も、1年後も、10年後も、100年後も・・・2人寄り添い同じ風景を観られたなら、どんなに幸福か・・・。


《愛の妄想劇場 (きりが無いんで)最終幕》
― 君と観る愛の風景、何時までも ―
BGM:ショパン『ノクターン第2番変ホ長調作品9−2』

結婚して1年後、ナミさんの妊娠が発覚した。
俺とナミさんはルフィや皆と相談し、一時的だが船を降りる事の了承を得た。
猶予は5年・・・俺達はグランドラインに浮かぶ或る平和な小島、海を眼下に見下ろす丘の上に居を構えた。
船から離れている間も海は欠かさず目にしていたい・・・これは俺と彼女の共通の願いだった。
1LDKの小さな貸家の窓からは海に沈む夕陽を毎日眺められ、それが俺達の日課となっていた。
俺は港町の一角に在る某レストランでコックの職を見付け―最初は個人で店を開く事も考えたが、何せ5年という短い月日だ、俺としちゃ料理さえ出来ればどうだって構わねぇしな―日々の生計を立てて行く事にした。


「ただいま、ナミさん♪」
「お帰りなさぁい、サンジ君♪」

仕事を定時で終え家に帰り着き玄関に入ると、待ちきれなかったという風なナミさんのお出迎え、そして『ただいまのキス』・・・これも日課の1つだ。

「今日の夕食はね、サンジ君の好きなビーフ・シチューにしたのよ♪」
「ビーフ・シチューって・・・駄目じゃないかナミさん!君は身重の体なんだから、料理も何も家事は全て俺に任せて休んでいなくちゃ!」
「嫌よそんなの!サンジ君は外で朝から夕まで料理して疲れて帰って来るんだし、これ位の事・・・!」
「俺は料理をするのが好きなんだよ!・・仕事と捉えて嫌々やった事なんて1度も無いんだ!」
「サンジ君、私、サンジ君のお嫁さんなのよ・・・サンジ君の為に美味しい御飯作ったげたり、お部屋のお掃除したり、洗濯したり・・・それ位して当り前だと思うの・・・体の事なら大丈夫!とうに安定期に入ってるし、むしろ軽い運動ならした方が良いんだって・・」
「ナミさん!・・・別に俺は君に何もするなって言ってる訳じゃないんだ。それに、お嫁さんだから、旦那だから、この仕事をやらなくちゃいけないって決まりは無いと思うぜ。大事なのは・・・家族を守る為に、神様から自分に与えられた仕事を精一杯やり抜く事・・・ナミさんの今の仕事は『無事に健康な赤ちゃんを産む事』・・・これだろ?」
「・・・・うん。」
「良いコだ!」
ちっとばかし照れて子供っぽい膨れっ面を見せる彼女を、俺はお腹を圧迫しない様注意しながら抱き締めた。
航海していた時より少しだけ伸ばした髪は、1つに纏めておさげに結っている。
元々スリムな彼女は、妊娠したといっても中々お腹が目立っては来ず、6ヶ月目にしてやっとポコンとして来た時、初めて俺は彼女の中に1つの命が宿っているのを認識出来た。

妊娠初期の彼女は酷い悪阻で、見る影も無く痩せ細っていった。
それでも彼女は生来の気性の強さから『辛い』の一言はたった1度しか口には出さず・・・『大好きな蜜柑が食べられないのは辛いなァ』との言葉を聞いた時、俺は不覚にも泣いてしまっていた。
彼女の苦しんでいる姿を目の前にして、何も助けてやれない自分の無力さがほとほと情けなかった。

「・・ね、サンジ君!今日カモメ郵便で船の皆から手紙が届いたのよ!」
「ええ!?あいつらから!?で、何て書いてあったの?・・・つってもどうせ俺の事には一行も触れずに『君が居なくて寂しい』とか『早く君に戻って来て欲しい』とか、そんな事ばっかりだったんじゃないの?」
上着を脱ぎネクタイを緩めながら、俺はリビングルームに向う。
ソファに腰掛け背を伸ばし、彼女に側に来るよう声を掛けようとした・・・と、彼女はリビングルーム入口で立ったまま動かない。

「ゾロが・・・『鷹の目』に逢いに船を降りたって・・・。」
「あいつ・・・遂に・・・!」
自然と、俺も立ち上がっていた。
「勝つよね・・・ゾロ・・・勝って・・・私達が船に戻った時に・・・ちゃんと笑って出迎えてくれるよね・・・?」
「ナミさん・・・。」

『ナミの事、一生宜しく頼むぜ・・・おめぇになら任せられる・・・。』

あの時・・・既に決めてたってのか・・・親友・・・?
瞬間、奴とはもう、2度と逢う事は無いだろうという確信が俺の中に芽生えた。

「ナミさん・・!泣かないでナミさん!あいつはね、自分の生涯唯一の夢を叶えに旅立ったんだ!・・俺と初めて逢った時、あいつ、『剣士として最強を目指すと決めた時から、命なんてとうに捨ててる』なんて言いやがって・・・君には到底理解出来ない生き方かもしれないけど、奴にとって『鷹の目を倒す』ってのは、君が自分の見て来た世界を形に残す為『世界地図を描く』のと同じ、夢の実現に欠かせない手段なんだよ!」

「・・・サンジ君・・・サンジ君は、私の傍にずっと居てくれるよね・・?或る日突然、1人でどっか行っちゃうなんて事、しないよね・・?」
「当り前だろ!俺の夢は『オール・ブルー』ともう1つ、『ナミさんと添い遂げる事』なんだから・・!」

案ずるな親友!てめぇの意志は確かに引き継いだ!
この先何が有ってもナミさんは俺が守り抜く!
だから・・・安心して本懐遂げて来いよ・・・!

「ナミさん、窓から見て御覧よ・・・夕陽が綺麗だ・・・。」
「本当・・・海まで真っ赤に染められたみたい・・・。」
「ナミさん・・・夕陽が赤い理由を知ってるかい?・・・それはね・・・君のあまりの美しさに頬を染めているからさ・・・。」
「・・・・プッ・・・やだっもうっサンジ君ったら・・!アハハハ・・アハッ・・!」
「そう、君はそうやって笑顔で居るのが1番だよ。」

「・・・早く船に戻って皆に会いたいなァ。」
「5年間なんてあっという間さ!俺としてはそれまで蜜月を充分満喫していたいね、船に戻りゃ煩ぇ奴らに囲まれて、ろくに2人っきりにもなれねぇんだから・・・そう考えりゃ今のこの時間は貴重だよ。」
「時々、自分達だけ取り残されて、皆どんどん先に行っちゃって追付けない夢を見るの・・・。」
「あいつらが君を置いてくもんか!嫌だっつっても引き摺って連れてこうとするよ!」

「サンジ君は、船に戻っても禁煙続けるの?」
「え?・・・あ〜、ど〜すっかな〜・・・後2人は子供欲しいしな〜。」
「えー?私は1人で充分よ!だってそのたんびにこやって陸に降りるなんて嫌だもん!」
「そ、そんな〜、ナミさぁん!」
「・・・あ・・!動いた・・!今、お腹の赤ちゃんが動いたわ!」
「ほほ本当〜!?」
「名前、早く考えとかないとね・・・あ、でもウソップが名付け親になるって言
ってたっけ。」
「あんなノーセンス野郎に任せておけっか!」
「うふふっっ♪それもそうね♪」




「げへ♪げへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへげへげへげへげへぇ♪」

「・・・うおぉい、『なんちゃってプリンス』がまた発作起こしてんぞぉ〜〜。」

「げげげぇぇっっ!!何処から涌いて出やがったマリモォォ!!?」
「おめぇが、人が気持ち良く寝ている所にノコノコ来やがったんだろが!!!・・ったく、気味の悪い笑い声立てやがって!!せっかくの安眠が覚めちまったじゃねぇか!!」
「くくくくくくくくっっ・・・何も知らん奴が気の毒に・・・知らぬが仏とはこの事だぜっっ。」
「んだぁ!?脳に虫でも涌いたのか、おめぇ!?」
「予言してやる!てめぇは後数時間の内に、頭を抱えて驚愕と悲痛に塗れた叫びを上げる事であろう!」
「ほう、なら俺も予言してやるよ、脳を虫に侵されたおめぇは後数秒の内に、将来を案じた親友の手によってバッサリ殺られちまうってな!」

「あ!やっぱり此処に居たのね!」

「ナミっすわん♪♪♪」
後光を背負い俺達の前に現れたナミさん、手に持った白く小さな包みの中身は、多分きっといや間違い無く大本命の俺へのトゥルーラブチョコレート!!
待っていたよ!ずっと待っていたんだよナミさん!!大丈夫!!もう何も心配事ナッシング!!
さあ!早く俺の胸の中へ!!カモンベイベ〜〜!!!・・・・・って、何故に通り越して行かれるのですか〜〜???

「はいゾロ♪愛を込めて、バレンタインのチョコレートよ♪」

―馬ぁぁぁぁ鹿ぁぁぁぁなぁぁぁぁーー!?!?



 『んがちょ〜〜〜〜ん!!(古のギャグ)』




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(2004.03.07)

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