我想ウ故ニ……

CAO 様

 

「ナミさん………綺麗。」


ビビは溜め息を吐いた。
観光客で溢れ反った空港ロビーで、ご多分に洩れず沢山の土産をカートに載せ、その横に居並ぶルフィに語るでも無く呟いていた。



「うん、知ってる。」



つい先程まで自分達の前にいた、オレンジ色の髪をした女性は、そう言葉を発した瞬間今まで一度も見た事のない、最高に美しい笑顔を見せてくれた。
神々しいとでも言うのか、何かを見い出して心から喜びに満ちた自分を具現化した、輝く笑顔だった。
その美しさに、暫し言葉を失ってしまい、彼女が去って漸く発したのが、この言葉。


「?……ビビも綺麗だぞっ!」

「そっ、そう言うんじゃなく……」


良く分からないとでも言いたげなルフィの口調に、嬉しさ反面恥ずかしさ反面で、ビビはこそばゆい思いに駈られた。
それでも、ふと思い立った気持ちを抑えられず。


「ね?ルフィさん、ナミさんが好き……だったんじゃない?」


口にした言葉と同時に後悔の念も浮かんだが、ルフィには間髪入れず返事をかえされた。


「うん、好きだぞっ!」


返す視線は嘘偽り無い光を持ち、子が親を慕う様な愛情を感じさせる。


「でなく……そ、その、女性として…」

「?」

「だからっ……ナミさんをお嫁さんにしたいとか、思った事は無いのかなって……」

「無いっ!……何でだ?」


自信満々に答えるルフィに安堵を覚え、穿った考えを言い訳するみたいに口にし
ていた。


「だって、あんなに素敵な人とずっと一緒にいたら…」

「ビビ、妬いてんのか?」


少年の色した黒い目に、嬉しさを含んだ男の匂いが混ざっている。


「そ、そんな訳じゃありませんっ!違います……」


ルフィは満面の笑みを絶やさずビビを見つめて、腕を肩ににまわし、一度ギュッと抱き締めると、話し始めた。


「ナミはバカなんだ。」

「!……ルフィさんっ?」

「ゾロもスッゲーバカなんだ。」


ルフィの話は良く聞かないと真意が見えてこない。突然、的を得た言葉で人をたじろがせる事も屡々だが。兎に角、説明が下手なのには違いなく、噛み締めて聞かないと理解出来なくなってしまう。
ビビは隣で、ナミが去った方に目をやったままで話し続ける黒い瞳を、じっと覘き込んだ。


「アイツ等、初めて会った時から、おんなじ言葉同時に喋ってたんだ。」


漆黒の瞳が、懐かしさに揺らめいた。


「それに、ナミはゾロが居ない時は笑わないんだ。俺が何かやっても叱るばっかで。昔っからずっとだ。」


思い出にスネたのか、微笑んでいた頬が少し膨らむ。


「きっと……安心してたのね、ナミさん。ゾロさんがいると。」

「ああ!けど、全然それに気付いてねぇんだ。自分の事なのにな〜バカだろ?」

「そんな言い方…」


禁めるつもりで体ごとルフィを覗けば、優しい笑顔が続いていた。


「ゾロもな、ナミが凹んでると必ず俺ばっか責めてよぉ〜自分が一緒にいないのが悪いのになぁ〜俺ばっか怒られんだっ!」

「…………。」


多少心あたりがあるのでは?と思いつつ、口に出さないのはビビの優しさと言うよりも、折角の話しの腰を折りたくない思いから。


「ゾロが一緒にいる時は、絶対いい顔になってんだから……ナミばっか見てっから、自分がどんな事出来んのか全然見えてねぇんだ!バカだよなぁ〜」

「なら、ルフィさんが教えて上げれば良かったんじゃないかしら?」


ルフィは少し意地悪をしてたのではないか?と疑ってしまうところに、ビビは三人の関係にヤキモチを妬いていたのかもしれない自分を感じた。


「駄目だ!自分の事なんだ、自分で気が付かなきゃ、意味ない。」


自分の浅はかな勘繰りを、責められている気がして口籠る。


「ルフィ…さん?…私。」

「ビビに言ったんじゃ無いぞ。気にすんなっ!」

「……ええ。」

「それに、俺、良く分かってなかったんだ。」

「何………を?」

「好きだっていうの。」

「でも、さっき……ナミさん好きだって?」

「んっ、ナミもゾロも、好きだぞっ!」

「分かってる……でしょ?」


ルフィにしては、難しい顔をしていた。何かを考えあぐねている様な。答えは出てるのに、式が書けない子供……そんな、顔。


「俺……ずっとゾロが不思議だった。」


暫く首を捻っていたルフィは、たどたどしく喋り出した。


「ナミが好きなのに…好きだってなんで言わねんだろ?って。好きか嫌いしかないんだから、好きに決まってんのにな〜って。」


ビビを見つめる表情は、同意を求めている様で。


「ずっと見てるだけなんだぜ。変だろ?俺なら、直ぐに言っちまうから……」


確に……。
あっと言う間に受けたプロポーズを反芻して、ビビは頬を赤らめていた。


「そうね。」

「ビビに逢ったから、俺、解ったんだ!色んな好きがあるんだって。」

「えっ…………私?」

「そうだ、お前。」

「……?」

「アイツ等面白いし、一緒にいて楽しいし、大好きなんだ。でも、いつでも気になって、ずっと抱き締めていたいとか、俺が守って大切にしてたいとかって思ったのは、ビビだけだ!」


もう頬を染めるどころではなかった。2度目のプロポーズとも云える真っ直ぐな愛の言葉に、顔中真っ赤にしたビビは空港の喧騒も耳に入っていなかった。


「だから、分かったんだ。ゾロがどうして見てるだけだったのか。大切で、傷付けたくなくて、そいつの願いを叶えてやりたいって……俺には見てるだけなんて出来ねぇけどな。」


そうゾロを語りながらも、その黒の瞳はビビだけを写している。


「で、ゾロが自分で気が付くの待ってたのにな〜約束もしてたのにな〜ナミに好きだって言うって。自分の口で、言ってもいい時期が来たら、って。もう、言ってもいい時期だと思うんだけどな〜けど、どっかいっちまうなんて、やっぱバカだよな〜そう思わねぇか?」

「でも……ナミさんは、気付いたわ。」

「やっと……な。おせーよな。バカだからな〜仕方ねぇか〜」

「良かった……」


ナミがゾロを必要としてる事に、本人が気付いてくれた。そう思うと嬉しくて堪らなくなったビビは、もうひとつの可能性に思い至り、同時に不安が顔を覘かせる。


「でも、ゾロさん見付かるかしら?」

「大丈夫!」


そう言い切ったルフィの瞳に、一点の曇りもない。


「何処にいるか知らないんでしょ?」


自信に溢れるルフィの言葉に逆に不安が煽られる。


「知らんっ!」

「心配だわ〜ナミさんもし会えなかったら…」


女性の気持ちは女性でなければ分からない。それは、もう必然。
彼女が想う気持ちが、大きければ大きい程、もしその想いが届かなかったり、届け先が失われていたとしたら……
ビビはナミの心に想いを馳せる。


「ナミは絶対見付ける。アイツ、ゾロ探すの得意なんだ!」


ルフィの言葉は、絶大だ。何か裏付けされた自信に満ちている様に響く。おおよそは、『勘』に因るところが大きいが……真っ黒な瞳には絶対の自信が宿っていて、ビビの不安など亡きものにしてしまう。


「………そうよね。ナミさんなんだから。」

「あぁ。ちゃんと俺たちからの土産、届けてくれるぞ……ナミだからなっ!」

「うんっ!」


ビビは改めて、ルフィと出会えて良かったと感じていた。直ぐに悪い事態を考慮してしまう自分を、直ぐに悩んでしまう自分を、大きな力で引き上げてくれる、少年の様な瞳と卓越した思考で自分を包んでくれるルフィ。
好きになって、好きになって貰えて、良かった……


「ありがとな、ビビ。お前のお陰だ。」


黒い瞳が輝いている。


「私は、何もしてないわ?」


なんとなく恥ずかしくて、ビビは目を伏せる。


「ビビが俺の前に現れたから、ゾロの気持ちも解ったんだ!」


回された腕に強引でないが、力が籠り引き寄せられる。


「それは、偶々で…」


目が泳ぎながらも、体は自然に寄り添って。


「俺と結婚してくれて、ありがとなっ。」


顎を抓まれ顔を上げさせられる。


「ルフィさん……私も。ありがとう。」


嬉しくて、嬉しくて、漆黒の瞳に写る自分を褒めてあげたくなって、ビビは人目も憚らずルフィに唇を寄せた。

離れると、珍しく照れた顔したルフィがいた。
でも直ぐに幸せな顔が現れ、その表情を隠したが、ビビの蒼い眼にはちゃんと写し撮られていた。

ルフィはビビの腰に腕を絡め、キツク抱き締めると、大きな声で呟く。


「早く、赤ちゃん欲しいな〜いっぱい産んでくれよっ!」


太陽みたいな笑顔。この男に包まれ生きて行く喜びを噛み締めながら、幸福に照らし出されビビは少し恥じらってしまう。


「もっ、ルフィさん……」


だって、周りが振り返る程に大きな声だったのだから。











「ゾロがな『オメデトウ』だってよ!」

「何よ、それ?」

「知らね。」

「意味分かんないっ?……アンタもだけど、ゾロったら訳わかんないんだからっ!全く世話の焼ける…何処にいんの、あのバカ?」

「用事があるとか言ってたから、帰ったんじゃねぇか?」

「はぁ〜?アイツが一人で帰れる訳ないでしょ!私が居なきゃ、ダメダメなのに……」

「大丈夫だろ?」

「な訳ないじゃない……いいわ、探すから。どうせその辺で迷子になってるに決まってるんだから……」

「そだなっ!」

「見付けて、どういう意味か聞くから!『オメデトウ』って?……ったく、ゾロ、ゾロッ。」




披露宴会場で見送ったナミの後姿が、空港の人ゴミに消えたナミの姿に重なって、ルフィの瞼の裏に焼き付いた……



おめぇら、思った通りにしねぇと、後悔するぞっ!


俺か?

俺は幸せだぞっ!

いつでもな………




終り


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(2006.07.15)

Copyright(C)CAO,All rights reserved.


<管理人のつぶやき>
そしてこちらが「いつも隣にいるから」と「嘘つきは泥棒の始まり」のルフィ編。
ルナゾを形作る重要な一角であるルフィ。渦中の人でありながら、その真意を掴むのは難しい。
しかし今作によって、ルフィはルフィで二人のことをこんな風に捉えていたんだなーと分かりました。
そしてビビに対する想いも・・・ネvvv

CAOさんの9作目の投稿作品でした。結局ルナゾは3作からなる大作となりましたね!
がんばって書いてくださってありがとうございましたーーー!

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