ナミと、音楽と
どっちを取る?なんて
そんな戯れ言
Armlost ♯4
雷猫 様
バタバタで忙しかった日曜日が過ぎ、またいつも通りの学校が始まった。
月曜日の朝はみんな眠たそうにしているものなのだが、今日が少し違っていた。
原因は、これ、である。
「ロロノアってプロになるのを断ったんだろ?」
「もったいねぇよ!」
「ロロノア先輩が有名になったらすごい自慢できるのに〜!!」
ゾロが通りすぎて、振りかえらないものはただ1人もいないといったところだ。
周りには人だかりができ、もう一歩も進めない状況だ。
「ゾロっ!・・・っちょっとアンタどいてよっ!!」
人ごみの間に入って、ナミはゾロに近づこうとしていた。だが何度行っても押し戻され、どうしてもゾロに気づいてもらえない。
「・・・・・・ゾロ・・・・。」
ナミの声もしだいに小さくなっていった。
昼休みになっても、噂は収まるどころかもっと広まり、ゾロの教室には女生徒が群がっていた。以前からゾロに憧れていた思いが、この事件で爆発したのだろう。
キャァキャァと黄色い声が飛び交っている。
当の本人はもううんざりといった様子だ。ゾロもナミと一度も会ってないのでナミのいる教室に行きたいのだが、人の群れがそれを許さない。
誰もいなくなった教室で、1人でパンを食べていたナミの元に、1通のメールが届いた。
送信者を見ると、ゾロからだった。
ナミはパンを驚きのあまり床に落としてしまった。だがかまわずケータイを開く。
『今から裏庭に来れるか。 ゾロ』
ゾロらしい短いメールに、ナミはふっと笑った。
落としたパンを拾って、ふだん誰もいない裏庭に向かった。
「ナミ。」
ナミが裏庭についてしばらくたった時、ゾロが姿を現わした。ゼィゼィと息が上がっていた。人をまくのにかなりてこずったらしい。
「よく来れたわね。どっから来たの?」
ゾロはドサッとナミの隣に倒れるように座った。
「窓から来た。あんなとこじゃ落ちついてメシ食えねぇよ。」
ゾロはそう言いながら上靴のままの足を指差した。そして持っていたパンを取り出した。
「お前は?食ったのか。」
「あぁ、私・・・?」
ナミは嬉しさのあまりパンを落としたなんて言えるわけないじゃない!なんて思いながら、必死に言い訳を考えた。まだ全然食べてないのだ。
「まぁね・・。」
するとゾロは、おもむろに持っていたパンを半分にちぎり、片方をナミに差し出した。
「やる。」
「あ・・・・りがと・・。」
ゾロはニッと笑った。
「やっぱ食ってなかったのか。物欲しそうな顔しやがって。」
「なっ、そんな顔してないわよっ!た・だ、あんたの好意をもらってあげただけ!」
「あぁ?じゃあ返せ。」
「嫌よ!これはもう私のものなんだからね!」
久しぶりだな、とナミは思った。
こんなふうに言い合うのも、笑い合うのも。全てが久しぶりで、とても愛しく感じた。
だから触れたくなかった。あの話題には。
でも、やっぱり聞きたかった。ゾロは、なにか遠慮して断ったんじゃないのか?
「ゾロ。」
「ん?」
「なんで断ったの・・・・?」
「・・・・・・・・」
「みんないろいろ噂してるけど、私は本当のことを聞きたいの!」
こうしてゾロにわざと嫌なことを聞く。自分だって気持ちよくなんかない。
でもそうしないと、不安でたまらなくなってしまうから。
「昨日」
長い沈黙を、ゾロが破った。
「昨日会社から電話があった。」
「・・・なんて?」
「イギリスに行く。」
またしばらく沈黙が続いた。
「・・・・え?」
「イギリスでがんばらねぇか・・って電話があった。俺は・・・・。」
ゾロはナミを見据えた。
「正直に言う。俺が断ったのは半分ルフィやサンジに対する遠慮があったからだ。」
ナミはこくりと静かにうなずいた。
「後悔したよ。そしたら電話が来た。」
「それで・・・・?」
微かにナミの声が震えていた。
「これは自分で作ったチャンスだから・・・、無駄にはしたくねぇんだ。だからナミ、頼みがある。」
「何・・・・・?」
「あいつらには、本当の事は言わないで欲しい。」
「お前には分かって欲しい。」
ナミは頷いた。何度も頷いた。泣きながら何度も。
「・・・・行くんでしょ・・・?」
「・・・・あぁ・・。」
「分かってる・・・。引きとめない。」
「・・・・・うん・・・・・・。」
ナミは思いっきり涙を拭いた。
そしてできるかぎりの笑顔で
「がんばってね!!!」
「・・・・・・ありがとう。」
その後2人は静かにキスをした。
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(2004.10.30)Copyright(C)雷猫,All rights reserved.