平気なそぶりも
作った笑顔も
全て不幸せなんて思ってなかった





Armlost   ♯5
            

雷猫 様



―イギリスに行く―


あれからゾロとは会っていない。
言わないでと約束したことも、今では誰が流したのか学校中の噂になっている。
そのせいでいよいよゾロにファンが増え、まるでアイドルのおっかけのように。
でもそれが今のナミにとっては安心できることだった。

会わないですむから

今のゾロに会うのは辛かった






ナミはロビンに電話をした。どうしても話しを聞いて欲しかったのだ。



「・・・はい?」

「・・ロビン?私だけど。」

「あぁ、どうしたの?」


「今・・・学校で噂になってるでしょ?ゾロが・・・イギリスに行くっていう・・・・・。」

「・・・・えぇ、知ってるわ。」


ナミは時折言葉を詰まらせながら言った。

「私ね、それ聞いた時に、ゾロにがんばれって言ったの。勿論ゾロのためによ。それって・・間違ってたと思う?」

ロビンはクスッと笑った。

「いいえ、とてもいいと思うわ?」



「・・・・・ホントは言いたかったわよ、行かないでって・・・。」

「・・・・でしょうね。」

「でも・・・・なんでかなぁ・・・・・・。」


ナミは鼻をすすった。それでロビンが、ナミが泣いていると気づいたようだ。


「私・・・・このままだと・・、ゾロがいないと・・・・・。」

「おかしくなりそう・・?」

「ん・・・。寂しいわよ・・・・・。おかしくなりそうよ・・・・・・!!」


「おかしくなりなさい。」


ナミは顔を上げた。


「え・・・・・?」

「そういう時期だってあるの。好きすぎておかしくなりそう、好きだから離れたい・・・。今はしっかり悲しみなさい。悩んで悩んで、訳が分からなくなってもいいの。」

「・・・・・・・っ。」


ナミがしゃくりあげた。


「大切なのは、そこからどう進んでいくか。苦しくても、悲しすぎても・・・・。そこで終わったら、それはそれ。今度は誰も助けてくれないわ。自分で、自分の道は切り開いていきなさい。」


「・・・・・ぅん・・。」


「私に言わせれば・・・好きすぎて苦しいなら別れなさいってことになるけど。悩むのは悪くないわよ?辛いのだって、いつか幸せになるためにあるんだから。」










夜の公園は、とても暗かった。街灯が2つしかなく、まわりを見渡してもほとんど見えない。

薄明かりのなかで、ルフィとサンジが、ゾロの前に立っていた。



「イギリスにいくんだってな・・。」

「・・・・・・やっぱ知ってんのか・・。」

「電話が来たんだろ?噂だからって全てがウソじゃないんだ!なんで言わなかったんだよ!!」


ルフィがゾロにつかみかかった。ゾロは何も抵抗しないでされるがままになっている。
ルフィをゾロから離しながら、サンジが言った。


「遠慮してたんだろ?俺たちだけデビューできなかったらいけねぇからって・・・。」

ゾロは目を閉じて言った。

「そうだ。」


その一言が終わるか終わらないかの瞬間に、サンジはゾロを殴っていた。
拳でゾロの顔を殴ったらしい。ゾロは殴られた勢いで地面に倒れた。


「そんな同情いらねぇよ!なんでいわねぇんだよ!!相談くらいしてもよかったんじゃねぇのか!?」

ゾロは相変らず黙ったままだ。

「羨ましいよ!そりゃぁどんどん前に行くお前を見てたら情けなかったし!でも・・・、こんなに信じてくれねぇのか!!?そんなに俺たちのことが信じられねぇのかよ!!」




ゾロは黙って立ち上がり、服についていた泥をパンパンとはたいた。



「たかがバンド仲間だろ。俺がイギリスに行こうが行かまいが俺の勝手だ。」



そう言ってゾロは公園を出ていった。

ルフィとサンジは黙ったまま、しばらく立ちつくしていた。













翌朝は、騒がしかった。
ゾロの左頬に、大きな痣が生々しく残っている。ゾロはいつになく無口になっていた。だが不機嫌ではなかった。眼がかなしそうに光り、焦点があってない。授業中も、休み時間も、まるで魂が抜けたように、そこに座っているだけだった。

帰り道は、ゾロが人だかりから唯一離れられる時だった。
ナミは、そっとゾロに近づき、話しかけた。

「ゾロ!」

振り向いたゾロの顔にある痣が、痛々しかった。

「・・・どうしたの?」

「噂の力は怖いな・・・。バレちまった。」

ゾロは悲しそうに笑った。

「殴られたの?」

ゾロは進みながら言った。

「それ以外に何があるんだ。」



「これでよかったんだよ。」

「・・・・・ぇ?」


ナミは前を歩くゾロに小走りで近寄った。


「殴られて、冷たい言葉を投げつけて。それでこれ以上負い目を感じなくて済むんなら、それほどいい事はねぇ。」


ナミは何も言わずに聞いていた。


「すっきりきっぱりと、忘れられる。」




ゾロも何も言わなくなった。
2人が歩く道は、気のせいかいつになく静かで、沈黙を重くした。




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(2004.10.31)

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