いつかみた夢
あんたと一緒に卒業して
あんたと一緒にまた夢をみる





Armlost   ♯8
            

雷猫 様



『俺、ナミが好きだ』

その言葉が何度も何度も頭の中でこだまする。
あまりにも唐突で、でも真っ直ぐ心に飛び込んできた、ルフィの言葉。

ゾロには言われたことのない言葉。


どうしていいか分からない。


苦しい

苦しい



苦しい・・・







ナミがベッドの上でうずくまってる時に、突然携帯がなった。

着信を見てみる。ナミは驚きのあまり携帯を落としそうになってしまった。
持ち直してまたしっかりと画面を見る。



ゾロ



はっきりとそう表示されていた。


おそるおそる通話ボタンを押し、電話に出る。





「・・・・・・はい?」


「あ、ナミか?」

「・・・ゾロ?」


声が震えていないか心配になる。


「悪いな・・・。その・・電話遅れて。」


泣きそうになるのをこらえて、無理に元気な声を出す。


「おっ、遅れすぎよっ!!どれだけ待ったと思ってるの!!?まったく・・・アンタってヤツわぁ・・・。」

「悪い。・・・元気だったか?」

「うん、元気よ!」

「そっか・・よかった。」


久しぶりで緊張しているのか、会話がどことなくギクシャクしている。


「あのさ、ナミ。今から会えねぇか?」


「・・・・・・今から??」


なぜだ、とナミは間をあけてから考えた。
ゾロは今イギリスにいるのではないのか・・?


「今帰って来てるんだ。明後日には帰るんだが・・・。」


「!!!帰って来てる!!???ゾロが・・今??」

「あ、あぁ・・・、会えねぇか?」




どうしよう・・・。
今ゾロに会ったら全て吐き出してしまいそうだ。
今までの想い、ルフィとのキス・・・。なんともいえない罪悪感が、ナミを襲った。



「・・・・いいよ。」






待ち合わせは、あの公園だった。
もう暗くなっていて、街灯の明りをたよりにゾロを目指した。


赤いベンチの前で、背の高い男が1人、立っていた。


「ゾロ。」


ナミの声にゾロはぱっと顔を上げ、照れくさそうに笑った。
だがナミは、その笑顔を見て少し心が痛んだのを感じた。


「ナミ・・・。」


ナミはゾロの目の前に行った。
なんだかまたゾロの背が伸びたような気がした。


「アンタねぇ、かよわい乙女が1人夜道なんて、危ないと思わないの?家まで迎えに来るくらいしなさいよねっ!」

またムリに笑いながら言った。

「あぁ・・・・悪ィ。」


あれ?と思った。
いつものゾロなら「うるせぇ」とか「何がかよわい乙女だ」とか、つっかかってくるはずなのに。
街灯に照らしてゾロの顔を見てみると、どうやらかなり照れているらしい。赤くなっている。



「イギリス・・・どぅ?」

「あぁ・・・一応バンドは組んだ。今は曲作ったり・・・まぁ準備段階ってとこだな。」

「そぅなんだ・・・・。」


少しの沈黙のあと、ゾロが口を開いた。


「何かあったか?」


核心をつかれたような気がしてドキッとする。


「何で・・?」


「カラ元気だったから・・。お前らしくもないし。」

「そっそうかなぁ?アンタこそなんからしくないわよっ!」


そう言ってゾロに背を向ける。
すると腕をぐいっとつかまれ向き直される。


「何かあったのか?」


今度はさっきより大きな声で、はっきりと聞かれた。


そうだ、分かっているのだ
この男は

この人が、自分を裏切るなんて有り得ないのに

己の弱さが

そう思わせていた



もう、ダメだ・・
ナミは静かに、だがはっきりそう感じた。
そして下を向いて呟くように言った。






「別れよう・・・・・。」







「・・・・・ナミ?」




「別れて。」



ゾロは出てくる言葉がないようで、ただ立ち尽くしているだけだった。




もう、無理だよ

これ以上

この人をだまし続けて



何になる?





「私ね・・・・ルフィとキスしたの。」




予測もしなかった言葉に、ゾロはかなり驚いたようだ。




「キスしたの!ルフィと!!私は最低なヤツなんだからっ・・・だから・・」



ナミの言葉を遮る様に、ゾロはナミの肩に手を置いた。


「ナミ、聞け。」



ゾロは静かに話し出した。




「俺は・・・・、別れたくない。できればずっとお前と一緒に・・いてぇ。」



そこでいったん言葉を切って、肩をにぎる手に力をこめた。


「お前が好きだ。」



はじめてゾロが自分に言ってくれた。
ずっとまちわびていた言葉だった。



「お前はどうだ。」




「私は・・・だからアンタとは別れるって・・・・」



「だったらなんで目を見ていわねぇんだよ!!」




今まで一回も本気で怒鳴ったのをナミは聞いた事がなかった。
だから今の言葉が、余計に強くナミの心に響いた。




「お前が勝手に罪悪感から逃れたいだけなんじゃねぇのかよ。」



ナミは何も言えなかった・・・・。
その通りだったからだ。



「じゃぁ・・・・私どうすればいいの・・・・?」

ナミはその場にしゃがんで泣き始めた。

気配で、ゾロも自分の前にしゃがんだと分かった。



「お前の気持ちはどうなんだ。」



「お前が本当に別れたいなら・・・そうするしかねぇよ。俺といてお前が苦しんでるなら・・俺が悪いんだから。」





ゾロはそっとナミの体を包んだ。
壊れ物を扱うような優しい腕に、ナミは涙をとめることが出来なかった。



「ゾロ・・・ごめんね・・・・・・。」



「ごめんね・・・・・。」





こんなに苦しい恋なら

こんなにゾロを苦しめてしまうなら

きっと一生わたしは罪悪感から逃れられずに

ゾロを不安にさせてしまうだろう


それが恋というなら

自分から捨てよう



ゾロの重荷にならぬように






「元気で。」


ゾロは静かにナミの耳元で囁いて

立ち去っていった。




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(2005.01.16)

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