世界はひとつ。勝つか敗れるか。
志はひとつ。生きるか死ぬか。
だんだら −3−
雷猫 様
「その刀を抜くな!!」
二人の動きが止まった。
「・・・山南さん・・・。」
新撰組総長山南敬助。温厚な性格の男だ。
「何をしているのです。沖田君、時雨君!馬鹿な真似は止めなさい!!!」
「馬鹿な真似などではありません!これは立派な試合です!!!」
「殺し合いが立派なものですか!?その刀をしまいなさい。刀は同志を斬るものではない!」
珍しく怒る山南に、沖田は少し驚いた様子だ。
その様子をずっと見ていた零蕗が、口を開いた。
「刀は人を斬るだけの道具ではない。それはおめぇが一番よく分かってるんじゃねぇのか。」
「・・・・・・・・・?」
「お前のその名刀を、俺なんかの血で汚しちゃぁいけねぇよ。」
「とにかく、こんなことはもうしてはいけません。沖田君、ちょっとこちらへ・・・。」
山南は道場の方に沖田を呼んだ。
「山南さん・・すいませんでした!説教ならいくらでも言ってください!!!」
山南は沖田の方を向き直し、言葉をすすめた。
「ここへ君を呼んだのは、説教ではありません。」
「ならなぜ・・・・・。」
「時雨君の事です。」
「時雨さんの・・・・・・・・?」
「彼がなぜ、浪士組に入ったか。知りたくはありませんか?」
「それは私が誘いをしたからでは・・?」
「それもあるでしょう。」
山南は少し息を置き、また歩き始めた。
「彼は・・・・幼少時代父親に虐待を受けていたんです。」
沖田は山南を見て目を丸くした。
「虐待・・!??」
「・・・父親は浪士でした。彼は産まれてすぐ母親を亡くし、家族が2人になってしまった・・。」
「それで虐待を?」
「母親が妊娠していた頃から、その父親は毎晩酔っぱらって帰ってきて、暴力を振るっていたそうです。」
「・・・・ひどいですね。」
「時雨くんが産まれ、母親がいなくなり・・・・、父親の怒りの矛先は時雨君に向かうようになったそうです。」
その日は雨だった。
『彼が自分を浪士として強くなろうと決めているのは、父親のようにはなりたくなかったからではないのですか・・。」
総司が零蕗と出会ったのは、ちょうど夕立がひどい時であった。
「何者だ・・・・。」
「・・・・・・ただの浪士・・。」
「・・・そこでは濡れるでしょう。こちらへお入りなさい。」
そういって総司は零蕗の手を引いた。
「やめろ!!」
その手を零蕗は祓った。そして震えながら言った。
「余計な世話はいらん・・。」
「山南さん・・・・、那美さんは確か・・浪士に斬りつけられるところうを時雨さんに助けられたんですよね・・・?」
「はい、その浪士が彼の父親です。」
「あの時・・・・・時雨さんは傷だらけで私を見ました。」
「あの時・・?」
「その目は・・、何かを恨んでいました・・。」
「・・・・・・はい・・。」
「どこか・・・・寂しそうでした・・・。」
総司の目にはたくさんの涙が溢れていた。
「彼は・・・・あの時まで父親が大好きだった・・・・!!でも・・・・きっと・・父親に殺されそうになって・・泣いたんです!!!!」
「泣いた・・?」
「恐怖でなく・・・・、裏切られた憎しみから泣いたんです・・・・・!!山南さん!!!!!!」
「・・・なんですか・・・・・・・?」
「すいませんでした・・・・・・・!!!!!!!!」
「沖田君・・・・・。」
「何も考えずに壬生浪に誘い、何も知らずとも試合を申し込んだ!!彼がその時何を考えていたか・・そう思うと・・・・情けなくてなりません!」
「勝手な事を言うな。総司。」
山南と総司が振り帰ると、そこには零蕗が立っていた。
「俺はただの浪士だからここに入った。それだけだ。お前が謝る事なんかこれっぽっちもねぇんだよ。」
「時雨さん・・・・。」
零蕗は笑った。
「このだんだらの隊服着た時から、俺の運命は変わったんだ。」
今日はきれいな青空が広がっていた。
その青空のだんだらが血で染まる事も、このころの輩は知らない。
第一部 −終−
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(2004.04.12)Copyright(C)雷猫,All rights reserved.
<管理人のつぶやき>
ゾロの父親がナミを襲い、そんなナミをゾロが助けた時、ゾロは父親に斬りつけられる。
虐待を受けてはいても、ただ一人の肉親として父を信じていたゾロの気持ちが打ち砕かれた瞬間でした。
その直後、雨の中、ゾロと総司が出会う。総司は直前の出来事も知らず、ゾロを浪士組に誘ったわけです。
これで第一部が終了とのこと。もう第二部の1話が届いています。順次アップしていきますね!