だんだら 第二部  −4−
            

雷猫 様



「後悔したって、おせーよ。」



睨んだ男の目には、怒りなどなかった。もの悲しく、或美蛇を見た。


「後悔は先に立たないんだよ。アンタに那美の気持ちが分かるのかい?」

「わからねーよ。」

「那美はね・・、貧しい家族のために身売りをやってんだよ。」

「・・・・・・。」

「本当は、アンタと一緒に幸せになりたかったんだよ。」


時雨は或美蛇から目を背けた。


「アンタに壬生浪をやめる心意気かあれば、あるいは那美は救われたか知れない!!」

「あいつは、俺のそばにいると誓った。約束をやぶったのはあいつだ。」



「言い訳ならいくらでもできる。だけどそんなんじゃだめだ・・。」

「じゃあどうすりゃぁ・・・・。」



「早く・・。」

「・・・・?」


「彼女の好きな花を持って、水を持って。行っといで、時雨。」





―花家―

「別れたんだね・・。」

露罠が訪ねた。

「・・・・はい・・・・。」

「そうしたほうがあんたのためだわ。これからは、毎日店に出てね。」

そう言って行った。


すると天神の美々(ビビ)が那美を呼んだ。

「那美さん、浪士の方が・・・・。」

「・・・・え!?」


時雨様・・・。そうであって欲しいと。那美は願った。

花家の店先に居たのは、壬生浪の参次だった。

「・・・・・ドモ。」

ペコと、那美も頭を下げた。



川の流れを見渡せる団子屋の店先に座った。

「・・・・時雨と別れたんですか・・・・・・。」

那美は何も言わずにコクンと頷いた。


「・・・・何があったか知らないけど・・。もうちょっと自分の気持ちに正直になってみたら?」

「でも感情で走っても・・・・、失敗するでしょ。」


参次は那美をじっと見た。


「実際時雨の過去とか、壬生浪とかにこだわってんのは・・時雨じゃなく、那美さんのほうなんじゃないかな・・・。」

那美は参次を見上げた。ビックリした顔をしていた。

「・・信じる気持ちがないと・・・・・、成るべきものも成らないよ。」




『気持ちに・・・正直に・・・・・・。』





那美はそこに佇んでいた。橋の上から川を見下ろし、自分の顔を眺めていた。


なんでこうなったんだろう。

誰もが幸せになりたかっただけ。

愛したかっただけ。



私は多分

時雨様を試してる

信じる気持ちが足りないから




いろんな人の言葉が

次から次へと浮かんでは消え

浮かんでは

何も

迷ってる事は1つもない

私の心の中には

意志と感情は別ものです

私の「気持ち」だけが知っている

何をどうしたいのか

けど

「信じる」気持ちは

意志の力が必要で


時雨様

あたしは

矛盾してる




「・・・・帰ろう。」

そう言って振り向いた前には、或美蛇が。

「・・那美!!」

「或美蛇姐さん・・・・。」

「時雨がアンタを探してる!!今すぐ会いに来る!!!!」


気付いたら駆け出していた。
自信がなかった。
時雨様を受けとめる自身が。



―2ヶ月前―

「時雨様は・・、過去のことを消したいとは思いませんか?」

「俺だって過去を書き換えたい。でもそんなことは不可能だ。」

「だったら「過去」に負けない「今」つくろーぜ。」



逃げるなんて、卑怯だ

ちゃんと面と向かって断ればいい

『私は時雨様とは付き合えません』


『自信がないから』


自信があったら・・・・・・・


『俺だって過去を書き換えたい』

『でもそんなことは不可能だ』


不可能だよ


『だったら「過去」に負けない「今」つくろーぜ』



遠くで声が聞こえた。

人込みを掻き分け、必死で。


「那美っ!!!!!」




それでも

彼が私の名を呼ぶ声は

いとしいです



どんっ

「あっ、那美さん!!あの/////」

「参次さん・・、時雨様は・・?」



どうしていつも

頭と心は正反対のことを要求するの

どうしていつも


気持ちと意志と裏腹に



『そばにいると誓います』



「ふざけんなっ。」





『親父!!母さんが・・・・・・。』



『お前なんか消えちまえ!!!』






神様

神様


もうひとりは嫌です



『指を折ってください。』



時雨は野原に出たところで膝をついた。

肩を落とし。顔も上げず。







どうしたら


誰かを自分のものにできるかずっと考えた

時雨様の気持ちをひとりじめしたかった

でもそれは

間違いなのかもしれない



野原にねっころがっている男の頭を見ていた。

自分を探していた男の。

愛する者の。



寝ッ転がった時雨の顔を見た。那美は静かに座り、目を合わせた。


ゆっくりと頬を触る手を、時雨は硬くにぎった



「・・・・『思い出』は・・・・嫌いだ。『思い出』がきれいなんて嘘だ。・・・・・・・俺はだまされない。」

時雨の目には一粒の涙があった。


「那美、おまえまで『思い出』になるな。」





「『過去が書き換えられたらいいのに』・・・・、『でもそんなことはできない、不可能だ』」


「『過去に負けない今』って・・・・・なんですか・・・・?」




「・・・・こういうの」


時雨は那美の手をより強く握った。


「俺がいて、お前がいるって・・・現実。」



那美の目には静かに涙が溜まっていた。





「愛して行きます。これからも・・・ずっと・・・・・・・・。」








誰もが

夢を見ていた

幸せな夢を


幾度でも君に出会うよ

幾度でも君に騙される

うんざりするくらい君とやり直し

嫌になるまで君と不幸に落ちる


道化にもなる

馬鹿者にも

犬にも


誇りも

冷静さも

全て捨てて


ただ君が

愛してくれるというなら




第二部 終



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(2004.04.29)

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<管理人のつぶやき>
お話全体を包む日本情緒溢れるしっとりした雰囲気が好きです。
ナミさんも大変おしとやかです(笑)。ゾロも物静かでさ〜ってゾロは原作でもそうか(汗)。
江戸から京の祇園へ向う道中でナミはゾロと運命的な出会いをします。
お互い寂しい境遇から惹かれあいますが、ナミにはまだゾロを受け入れる自信や覚悟がまだできてなかった。それが別れを切り出した一番の理由なんでしょう。
でも気持ちに正直になれば、答えは自ずと見えてくる。これからはゾロを信じていけるよね!

雷猫さん、ここまでお疲れ様でした〜!第三部の構想が完成したら、また投稿してくださいね!

 

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