だんだら 第三部 −2−
雷猫 様
副長が起きる七つ半よりも、隊士達が起きる明け六つよりも早く時雨は目を覚ました。
今日は人生転機の日(かもしれない)。なんと那美の家族と顔合わせ。失敗はできない。
服装・髪をきちんとキめて、何人もの女を(副長の次に)惚れさせた顔も整える。
「・・・・ぅし・・、行くか。」
花家の店先に待ち合わせ。だが緊張して早過ぎたか、天神の美々が花に水をやっているだけであった。
「あ、時雨さん。おはようございます。でもお早いのですね・・。まだ七つ半にもなってませんが・・?」
「あ、あぁ・・・。散歩だ。たまには早起きしねぇと・・な。」
花家の者は時雨は苦手だった。前の破局騒動の時も、花家が深く関係していたからだ。
これ以上話を聞かれたら、ボロが出そうだ。と時雨は考えた。ナントカして美々を店の中へ・・・。
「み、水は俺がやっておく。お前は店に入ってていい。」
そう言い、無理やり美々を店に入れ、水をやり終えたところだった。
「時雨様!!」
かわいい振袖、綺麗な橙の髪。さすが太夫、というところだ。
「行くか。」
見なれた街を出て、林を歩き、、、小半時も歩くとひとつの集落が見えてきた。
それを指差し、こちらを見て笑う那美。
「あれが私の生まれた村です。それであれが私の・・・い・・え・・・・・・・。」
時雨を見て、イヤ・・時雨の後ろをみて、那美は止まった。
「・・・・どうした・・・」
そう時雨が言おうとした時であった。
ブシュッ
「・・・・・・・っぐ・・・・・・。・・・・・・・・・・!!!??」
肩に激痛が走った。振り向くと、三人の浪士の姿。その中の1人が持っている刀には、時雨の血。
「時雨様!!!!!!!!!!」
「行くぞ。来い!!」
肩をおさえ倒れた時雨を通りすぎ、浪士は那美の細い腕をつかんだ。
「・・・・なんだ・・・てめぇらぁ・・・・。」
「俺等に娘の家族が借金してんだけどよぉ・・・ヘヘッ・・。返せねぇって言うから娘をもらおうと思ってな。」
そう言うか終るか早かったか、時雨が睨んだかと思うと何のことやら。那美を捕まえている奴以外の2人の浪士が、そこに倒れていた。
「・・ひっ・・・・・。」
気付けば時雨の手には血ぶりをした後の刀。
「その女に触るな。そいつは俺の女だ・・。」
そう小さく言うと、浪士は那美を離し逃げていった。
「・・・・・・・那美。大丈夫か・・。」
震えている那美に手を伸ばした。那美の目には涙があった。
「・・・なんで・・・助けたのです・・・・・・?」
「・・・・・ぁ?」
「私が手に入らなければ、きっとあいつ等は・・家族を殺します・・・!!!」
「・・・・・・・・那美・・・・。」
那美は涙を拭い、立ちあがって家の方に向かおうとした。
「おい・・・待て!!行くのかよ!!?」
「行かなければ!!!」
「行けばお前も捕まえられる!!家族もたすからねぇぞ!!!」
「でも・・・!!!!!!!」
そう言った途端、時雨は那美を抱きとめた。
「時雨様・・・!!」
「大丈夫だ・・。俺がいる!!家族もきっと・無事だから・・・・。大丈夫だ!」
那美の目からは涙が溢れていた。
その涙が何の涙だったかは分からない。ただ、悲しいだけだった。
←1へ 3へ→
(2004.05.09)Copyright(C)雷猫,All rights reserved.