Sei sempre nei miei pensieri e nel mio cuore
            

りうりん 様




Aprile



子どもが大人になるのはいつからだろう。







年を取れば大人になるわけでも、幼いから子どもというわけでもないだろうとゾロは考える。



クラス単位で一日の大半を過ごすというこの国の学習システムも、高校三年で最後となる。残りの2年間で大半の人間が人生の方向を決めることになる。たかだか10数年生きていただけで、残りの人生を決めるなんてことは無謀なんじゃないかと思うのだが、それはともかく。







クラス替えの掲示板で自分の名前を見つけたクラスの中に見知ったオレンジ頭の名前を発見したゾロは心底嫌そうな顔をしたらしい。そして、折足悪くその瞬間を本人に目撃され「生意気だぞ!」と貫手をくらって悶絶しているところを、ウソップに大笑いされたので遠慮なく蹴りを入れた。







春爛漫。






新学期の幕開けである。











***











やっぱりなーと、掲示板の前でナミは小さくため息を付いた。先月ゾロの姉たちと知り合い、そのときに聞いた進路によって今日のこの瞬間は予想できていたはずである。理系と文系。みごとに分かれてしまった。秋の進路調査のときに本人に聞けばよかったのだが、聞いたからと言って自分の進路を変えるつもりもなく、聞くことによって藪蛇になるようなことは避けたかったし。意外にいじらしいかったのね、私って、と妙なところで感心していた。が、











「おっはよ―――――❤んナ~ミすぁ―――――ん❤今年も同じクラスなんて、おれ達運命で結ばれているんだね―――――❤」



「と言うことは、おれもか」



「くそゴムは引っ込んでいろ!」



「サンジさん、私、同じクラスになれませんでした」



「ビビちゅわん♥ご心配なく―――――!おれたちの愛は運命ごときに引き裂かれやしない!」



「よかった。おやつ、楽しみにしていますね」



「御意!」











結局、2年次のクラスはナミ・ルフィ・サンジ・ビビ・ケイミーが文系となり、理系はゾロ、ウソップ、コアラ、カヤと別れてしまった。











「なんで、てめえだけがハーレムなんだよ」



「おれもいるんだけど」



「鼻は黙っていろ!」











そんなことゾロに言われても困る。それよりも担任がニコ・ロビンということのほうがゾロにとっては重要なのだから。











「あら。楽しくなるわね。うふふ」











なんて意味ありげに言われて冷静でいられる人間はあまりいないだろう。ルフィとサンジと離れたから、特におかしな騒ぎに巻き込まれることにはならないと思うのだが、その概念は綿毛レベルのものでしかないかもしれない。新しい教室へウソップに促されるゾロの後ろ姿をヘイゼルの瞳が追う。











「ナミさん、Mr.ブシドーと別れちゃいましたね」











今日はポニーテールではなく、ハーフアップにしたビビがニッコリ笑う。もう昼寝を起こしてあげることも、宿題を教え合うこともない。合同授業も理系クラスと行うことはないだろう。一方的だったが、ナミがいままでゾロが世話をしていたことは、ナミの知らない子がするのだろう。それを見ることが出来ない以上に校舎が違うため、姿を見かけることすら減ってしまうだろう。







ナミはゾロの彼女でもなんでもない。その不満と不安はどこへもぶつけることができない。











「え?何言っているのよ!あんなやつのことなんかより、私にとってはあんたやケイミーとクラスが別れちゃったことの方が重要なんだからね!」



「そうそう。ビビちゃん。マリモなんて、かーんけーいないさ~♪」



「ナミさん、お弁当は一緒に食べましょうね」



「でもでもナミちん、寂しそう…」











ケイミーの言葉にあまり否定ばかりしているのもおかしいかもしれないと思い、











「もう移動教室のたびにゾロを引きずっていかなくてもいいってことが、ちょっと寂しいのかもね」











おどけて赤い舌をチラリと出した。











「そうですね。Mr.ブシドー、真っ直ぐの道でも迷う方ですしね」



「信じられないとこから来ることあるし」



「ミラクルだよな」



「あはは!そのナミちんのお仕事、今日からはウソップちんのお仕事だね」



「「「「・・・・・・・・・・それは大変だ」」」」











自然とウソップたちの教室の方向へ合掌。











「さて!私たちも早く行かなきゃ」



「ナミさんたちの担任って誰ですか?私たちはたしか、ミス・マンデーでしたよ」



「他の子に聞いたけれど、その先生、内職やりにくいって」



「あー。背が高いからね、あの先生」











女子プロレスの選手のようなスタイルのミス・マンデーを思い浮かべる。直接授業は受けたことはないが、厳しくても暖かいイメージはある。たぶん彼女の授業を受けることにもなるだろうが、それほど悲観することもないだろう。











「で、私たちは?」











と、ルフィたちを見上げると











「ボン・クレーだってよ」











サンジの不満顔はボン・クレーへではなく、女性ではなかったためだろう。











「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え」



「ボンちゃんかー!楽しくなりそうだな、ししし!」











ちょっと、いや、かなりオカマチックな風貌を思い浮かべる。ルフィとは気が合いそうだが、あのテンションではかなり苦労をしそうだ。











「ホント、賑やかになりそうね」











こっそりついたため息は風に舞う桜の花びらと一緒に飛んで行った。











***











「…なんで、ここにいるの?」











新学年になり学校運営のための委員や係が決められ、それぞれの委員会がその日の放課後に行われた。ほぼ毎年図書委員とクラス委員をローテーションであたっているナミの高校二年生の生活はクラス委員から始まることになった。クラス委員をやる生徒と言うのは、だいたいお決まりのメンバーだ。そこにコアラの顔を見つけたナミの視線は、気の弱い人間なら1km先でも青ざめそうなほど、不機嫌なオーラを出しているゾロがいた。中学のころは知らないが、自発的にクラス委員のような仕事は絶対やらなさそうなタイプだと思っていたのに。











「うちのクラスって理系だからか、個人主義の奴ばっかりなんだよね。それはそれでいいんだけど2年っていろいろ行事があるでしょ?やっぱ少しでも早く、一致団結していたほうがいいと思うんだ」











だからといって個人主義の塊のようなゾロがここにいる意味がわからない。











「ナミちゃん、最初が肝心なんだよ」











人差し指を振りながらクスクスと笑うコアラには知将や参謀としての才能があると思う。入学してからの1年間で見知った顔もあるが、見知らぬ同級生たちがお互いの腹を探り合いながら、いくつかの行事を乗り越えてクラスとしてまとまっていくのが、たいていのパターンだ。そのまとまるまでの時間がおしいとコアラは言うのだ。強制的に番犬を使って一気にクラスの求心をはかるのだろう。絶対首を縦に振るようには思えないゾロを抜擢した手腕にはお見事としか言いようがない。











「だってクラス委員しか残っていなかったんだよね」











隣にたつ不機嫌を隠そうとしないゾロを笑いながらコアラは見上げた。



この学校でのクラスでの役割分担は基本本人の希望制である。やりたいもの、やれるものから埋まっていく。どんどん決まっていくその時間、きっと寝ていたゾロを起こさなかったのはコアラの策略か、陰謀か。ゾロとしては目が覚めたときの現実に驚いただろうが、一旦腹をくくれば諦めも早い男である。ただし、諦めはしても不満が消えるわけではない。殺伐としたオーラを噴出しているが、そんなものに恐れるコアラではない。











「さすがコアラさま」



「何言っているの。メリットがなければクラス委員なんて雑用係、やるわけないよ」











どんなメリットをコアラが求めているか、それは今後のお楽しみだろう。ナミはみんなに魔女だのなんだのと言われているが、コアラの方が何枚も役者が上だ。それを気づかせていないあたりが、すでに役者を感じさせる。「それに」と、こっそりナミの耳元へ囁いた。











「ナミちゃんにも恩が売れるしね」











クラス委員は定期的に集まることが多い。新入生である1年や受験を控えた3年生よりも2年生が学校行事をメインに行うことが多いので、必然的に集まる機会も多い。1年間クラス委員をやり続けるわけではないが、思わぬチャンス期間の提示をコアラがナミの鼻先でヒラヒラさせてきたのだ。











「成功報酬でいいからね」











意味ありげな笑みを浮かべるコアラにあざやかと称賛したくなる。「お先に」とクラスに入って行くコアラを見送るナミにゾロは何かを思い出すように顎をあげると、鞄から取り出した小さな包みをヘイゼルの瞳の前で軽く振った。











「これ。姉貴たちが」











空色の包装紙に小花がちりばめているそれは、有名果物店のものだ。掌にのるサイズだが、ちょっとした重みもある。いきなりのプレゼントに戸惑いと驚きを激しく交差させながら中を開けると、小さなオレンジのキャンディーと同じ色のカードが一枚。











『Dear ナミちゃん



 遅くなったホワイトデーはゾロだから!ってことで許してね。 



ちなみにチョイスしたのもお金を出したのもゾロですよ。 



                  From たしくい』











――――― ホワイトデーの贈るキャンディーは、長く楽しめるお菓子だから「好きだ」という意味











そんなこと、ただのこじつけだ。すぐに噛んでしまうくせのある人間はどうするのだ。そう思っていても溢れんばかりの歓喜に顔が熱くなる。呼吸をするのも忘れてカードをみつめた。何と言ってゾロに買わせたのだろう。そしてどんな顔をして買ったのだろう。経緯はともかく「ゾロから」と言う事実に、胸が締め付けられるような泣き出したいような気持ちが広がる。小さなキャンディにナミの心を激しく揺さぶった。人生は驚きの連続だと言ったのは誰だっただろう。ナミはその人と大きく握手をして「そのとおり!」と叫びたい気分だ。







そして定位置となる委員会での配列の席が、大きなあくびをする姿がよく見える位置だったことに小さくガッツポーズをしたということは、別の話。



…… attacca


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(2015.07.02)



 

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