AM 5:42  −3−
            

モロッコ☆ 様



ロビンに言われたあの日から今日まで3日もあったのにナミの胸ポケットにはあの時のままぐしゃぐしゃに丸められた紙切れがまだのこっていた。
時計を見れば長針が指しているのは「10」。男のやってくる時間を3分オーバーしている。

そう、この3日ゾロは現れていない。どんな日も毎日来ていたあの男が3日も来ないのだ。
ロビンに背をおされ、やっと行動する気になったナミは自分がもっとはやくうごいていれば、と後悔した。

「・・・ちゃん。」
「・・ぇちゃん。」

「お姉ちゃん!!!」

「え、えぇっ??」

――ガッシャン――――

家に帰ってからもナミはおちつかない。ビビがいくら呼んでも気づかないし、気づいたと思えば驚いて皿を取り落とす。
一日中そんなようなことの繰り返し。バイト先でも何度注意されたかわからない。

「お姉ちゃんどうしたの?最近ずっとボーっとしてない?疲れてるなら私がやる

に。」

「全然!!そ、そんなんじゃないわよ。大丈夫。」

「ホントに?でも、なにかあったら言ってね。」

「分かってるわよ。」

そう言ってナミは笑って誤魔化そうとしたが、実際大丈夫かといったらそうでもなかった。

「ハァ―――。」

そう一つ大きくため息をつくと割れた皿を拾い集めにかかる。

(何で、来ないのよ。風邪でもひいたとか?・・・でもひきそうもないか。)

(もっと早く渡せばよかったなぁ・・・。)




ナミめずらしくメンタル面でどうにかなりそうだった。ここ最近、いやずっと、こんなに悩んだことはなかった。
ロビンから電話がかかってきたのはそんなナミがついに熱を出した日のことだった。

「あ、は、はい。」

寝起きであるのと熱があるせいで電話に出るナミの声はかすれていて、少し驚いた返事がかえってきた。

「あら!?もしかして風邪でもひいたの?声がすごいことになっているわね。フフフ。」
「わ、笑い事じゃないわ。」

ロビンの笑いにムッとしてナミは電話をきりかける。

「ああ、そうそう。あなた知ってた?」

「えっ??!」

ロビンの言葉に半ば押し掛けていた電源ボタンから手をはなす。

「彼よ、彼!」
「彼?」
「あなたが散々いってたコンビニの。」

言われた瞬間にナミの心臓に血が集中する。

「ゾロ・・?ゾロが、どうかしたのっ?」

「彼なんだかちょっとした有名人らしいわね?今日大学のサークルの子に彼の話を聞いたわ。」
「えっ!?」

心臓がどきどきとうるさくてよく聞こえない。

「彼今柔道界で注目の高校生らしいわよ。なんでもオリンピックに出られるような人だとか。」

「ええぇぇぇぇっっ!!!!」

ナミの驚きがケータイの中にこだまする。
その驚きの対象はもちろん、高校生だ。ということもあるがそれ以前にそんなスゴイ人だとはおもっていなかったのだ。
ロビンはナミの叫びも聞かずにつづける。

「それで彼、この間事故にあったらしいわ。知らないんじゃないかとおもって。」

ロビンの話によればゾロが事故にあったのはちょうどナミがメールアドレスを渡そうとしたあの日だった。
ナミは慌ててゾロが入院している病院を聞くと、部屋着のまま財布片手に外に飛び出した。

自分が風邪で学校を休んでいることも忘れて。



ナミが病院の前に着いたときには、ナミの息はありえないほど乱れ、頭は割れそうに痛くてそこへきてやっと自分が病人だということを思う出した。
正直自分がどこをどうやってここにたどりついたかナミには分からなかった。
受付でゾロの病室のある階をきいてエレベーターを待つ。ランプが6階で止まっているのが今はやたらと焦れったく感じ、じっとしていられずにナミは階段を駆け上がる。4階に着く頃には再び息が乱れていた。
一番手近な部屋から順に名札をチェックする。急ぐせいで余計に字が読みにくい。

突然、背中に衝撃が走った。

「痛っ。」

その痛みの正体は後ろを通りすぎた看護婦さんとストレッチャー。
病院ドラマでよく見るシーン。看護婦さんはぶつかったナミにも気づかないほど急いでいた。

刹那、ナミは嫌な汗が背筋をツ――っと流れるのを感じた。頭のなかでは「そんなはずない」と否定したいのだがこうゆう予感は良く当たる。
自然とナミの足が今看護婦さんが入っていった病室へ早足になる。
ナミの視線の先で慌てた看護婦さんが病室を出てエレベーターに向かうのがスローモーションになる。

まるでサイレントムービーのように、それは去ってゆき、ナミの視界からから消えた瞬間、何事もなかったかのように音が耳に帰ってくる。ナミは不安を胸につい今し方看護婦さんが出ていった病室の名札を上から順に見ていく。

指が上から3つ目でピタリと止まる。
さっきまで必死で探していた名前なのに今はそこに存在して欲しくなかった。力の抜ける足をなんとかうごかして病室に入れば、真っ先に窓際のベットに目が行く。開け放たれた窓からは程良い風が入り込みカーテンをなびかせていた。
ベットの上のふとんの形が、ついさっきもでそこに人がいたことをものがたっていた。

ナミはベットの前まで来ると足をとめてその上に手を置いてみる。かすかにぬくもりが残っていた。

「う・・・そ・・・。」

周囲の視線は感じたが流れる涙はとまらなかった。

「やだ・・・。うそでしょ。」

(もっと話してみたかった。仲良くなりたかった。やっと・・・やっと気づいたのよ?何でもいい・・・。何でもいいからあの毎日をかえしてよっっ!!!)

そう思うと余計に涙がこみあげる。
















「おい?あんたなにやってんだ?」


「ぇ・・・?」

突然賭けられた言葉にナミは涙でぐしゃぐしゃになった顔でふりむく。
そこには信じられない物がいた。

「ぁ?お前コンビニの・・・。」

相手も何が何だかわからない様子で松葉杖を片手に不思議そうな顔で立っていた。
ナミは思わぬ状況に口がゆるんでしまらない。

「さ、さっき・・のは?」

ナミは思いの外頼りない自分の声に少し驚いた。

「あぁ、後藤のじいさんな、大福の食い過ぎなんだよ。で、なんであんたがここにいんだよ?」

ナミは全身の力がぬけ熱がぶりかえしてきたのかその場にへたり込んでしまった。

「あ。おい?」

「・・・・・・・・。」

ナミは無言で俯く。

「どうした?」ゾロがもう一度聞き返す。ナミは下からゾロを睨む。涙のあとをふきもせずに。

「ピンピンしてるじゃない。」

「は?」

「だからっ!全然元気じゃないっっていってるのっ!!!」

ナミがそう怒鳴るとゾロは一瞬面食らったような顔をして、それから笑いをこらえるようにして聞いてくる。

「あー、もしかして俺がしにかけてると思ったか?そんであんた泣いてたのか?」

「・・・・・。」

「プッ、アハハハハ―――」

何もいわずに顔を赤くして俯くナミにソロは心底おかしそうに声をあげて笑う。

「ちょっ、何よっ!!!」
「わ、悪ぃなご希望に添えなくてよ・・ハッ、ハハハ。」
「ちょっ、ちょっとやめてよ、みんな見てるじゃないの。」
「や、おかしくてよ。」

ゾロはいつものあの無口さから想像できないほどいよいよ本格的にわらいだす。

「そんな・・、笑わなくたっていいじゃない。」

ますますナミはムッとする。

「だってお前、俺がはこばれたとおもって・・・じ、じいさんの・・ベットで・・、くくっ。」
「・・・・・・。」
「あんた以外に面白いな。でも、なんで俺が入院してるのしってんだ?」
「・・・・・。」

ナミは俯いたまま答えようとしない。

「おい?」

「・・・・・・・・・。」

「おい。どうしっ、、!!!!!」

不思議そうにナミの顔をのぞけば、ゾロは驚いて目を見開いた。

「・・・っ。」
「・・・・、どうした?」

さっきとは打って変わって真剣にゾロがたずねる。

「・・・っ。・・・っし、心配・・・したのょ。」

「?」

「あんたがっ!!あんたにっっ!もう・・・会えないのかと思ったのよ!!!」

「!!」

ナミは顔を真っ赤にして涙をボロボロ流していた。あまりの勢いで泣き叫ぶナミに、ゾロは返す言葉がみつからない。

「あんたに!!渡したい物・・・もう・・渡せないのかと・・・思ったの・・ょ。」

最初の勢いとは反対に最後は消え入りそうな声になってしまった。

「あぁ。」

「でもっ!」

「!!」

急に顔おあげたナミにゾロは心持ち後ずさる。

「良かった―――」

そういったナミの笑顔はどこか穏やかで親しみがこもってて、熱のせいか色っぽかった。
ゾロはまさかの反応にどうしていいかわからず「あ」とか「お」とか言葉にならない声を発して赤面するばかりで、ナミはそれを見てあの日のことを思い出してしまった。

(目つきがわるくて、厳つくて、無愛想で、汗くさくて、でも本当はやさしくてシャイで・・・)

(そんな顔されると全部どうでもよくなっちゃうじゃない。)

これも惚れた弱みかな。とナミはひそかに思った。事をし、緑髪の男はまた走り去っていった。
ナミは力がぬけてその場にへたりこんだ。




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(2004.08.05)

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