夢の果てに - 10-
panchan 様
「では!!
帰ってきたゾロと、新しい仲間ジュンと、ナミの世界地図完成に〜〜っ!
カンパーーーーーイ!!」
「「「「「「「「カンパーーイ!!」」」」」」」」
「宴だぁ〜〜〜!!」
久々全員集合の宴に、仲間みんなが大盛り上がりで騒いだ。
「ほら、どんどん食え!」
ルフィはもちろん、久しぶりのサンジの絶品料理に、ゾロもナミも食が進む。
「一番、ウソップ!歌いま〜〜す!!」
「おう、やれやれ〜〜!」
ルフィが手を叩きながら陽気に掛け声をかける。
変わることの無い懐かしいノリに、ゾロも笑顔になって声を出して笑った。
声を出して笑うなんていつ以来だ、とふと冷静な自分が思う。
ぐるっと周りを見回すと、ずっと一人で酒を飲みながらは思い出していた光景が広がっている。
ここに戻れてよかった。
皆が代わる代わる声を掛けゾロに酒を注ぎに来る。
昼間ルフィに殴られたせいでまだ少し腹は痛かったが、それも忘れるほど楽しい気分だった。
隣にいたフランキーが、サングラスを摘み上げながらニヤっとしてゾロとナミに言った。
「そうだ。女部屋の修理ついでに、おめェら家族用のスーパーな個室を作ってやったぞ。
ガキもいることだし、ロビンの部屋とおめェら3人の部屋に分けた方がいいだろうと思ってよ。」
「あら、そうなの?気が利くわね、フランキー。」
「当然だ。スーパー任せろ。」
フランキーは得意げに、ナミに向かってロボ仕様の親指を立てた。
すると突然、それを聞きつけたルフィが話に入ってきた。
「何言ってんだ!なんだよ家族用の個室って。おれ達はみんな家族みたいなもんだろ!
男は男部屋、女は女部屋だ。だからナミは女部屋で、ゾロとジュンは男部屋だ!」
妙なところで主張するルフィに、困った顔をしてナミが言い返す。
「ジュンはずっと私と一緒に寝てたのよ、それじゃかわいそうじゃない。
せっかくフランキーが作ってくれたんだから、その部屋で一緒に寝るってことでいいでしょ!」
「じゃあ、ゾロは一緒じゃなくてもいいのか、ナミ?」
「う・・・!」
ナミは困ってチラッとゾロを見たが、助けを求めるナミの視線に
ゾロは腕を組み眉間に皺を寄せている。
「そ、それは・・・知らないわよ。ゾロがどうしたいかで決めればいいんじゃない?」
とても自分の口からルフィにゾロも同室にして欲しいとは言えず、ナミはそれをゾロに振った。
ルフィがゾロの顔をのぞきこんで言う。
「男部屋だよな!ゾロ!」
尋ねるというよりほとんど念押しのようなルフィに、目を向けてゾロは答えた。
「ああ、おれもその方がいい・・・」
ジュンが合流してからまったくナミを抱かせてもらえなくなっていたゾロは、
同じ部屋で寝て蛇の生殺しにあうより、正直別の部屋の方がいいと望んでいたのだった。
「だよな!ししし!」
嬉しそうにルフィがゾロの肩をポンポンと叩く。
ゾロはゴクッと手元の酒を飲みながら、不満そうに睨むナミの視線から目をそらした。
**********
「・・・よお」
「・・・おう」
ギャハハハハとドンチャン騒ぎの続く宴の中心から離れて階段の最上段に座るゾロに、
片付けを終えダイニングから出てきたサンジが声を掛け、横に腰を下ろした。
「しっかしテメェはやってくれたな。・・・どっかで野垂れ死んでりゃよかったのに。」
「残念だったな。そんな簡単にくたばるタマじゃねェんだ、おれは。」
相変わらず憎まれ口を聞きながら、二人同時に酒を煽る。
「ホント最低のクソ野郎だぜ。ナミさん孕ませといて出て行きやがってよ。」
「だから、ナミが言ってただろ。出来てたのは知らなかったんだよ。」
「ったく。そんなんだから、テメェはバカだってんだ。
んなもん言われなくても、テメェの下半身に覚えはあったんだろうが!」
「!・・・中で出せば必ず出来るってわけじゃねェだろ!」
「中出しなんてすりゃあイコールすべて妊娠だとそのバカな頭に刻んどけ!
避妊もしねえでヤる野郎はみんな最低だ。その中でもテメェは最低の最低なんだよ!」
「!!なんでテメェにンな事言われなきゃなんねェんだ!
別におれは無理やりヤったわけじゃねェし、ガキが出来てることだって聞いてりゃあ・・・」
「残ったってのか?」
「・・・!」
「テメェのことだ。どうせ聞いたとしても、その恩人との約束とやらを優先して、
結局ナミさんを残して行ってたんじゃねェのか。」
「・・・」
「だからテメェは最低なんだ。」
タバコを持つ2本の指でゾロの顔を指差す。
ゾロは言い返せなくて、黙って横のサンジを睨んだ。
前髪で表情の隠れた横顔を睨みつけたが、サンジは前を向いたまま余裕そうに煙を吐いている。
「大体・・・ナミさんが妊娠してるのを言えなかったってのも、テメェのせいだぞ。」
「アァ?」
「世界最強剣士だの何だの、全てを捨てて道を極めるようなタイプのテメェは、
そういうことを言い辛いオーラを常に出してんだよ!
その上愛の言葉の一つも囁けなさそうな唐変木だし、ナミさんは不安だったに決まってんだろ。
女性はだれでも、自分が愛されていると安心できるような言葉を欲しがるモンなんだよ。
それも無いとくりゃあ、妊娠したなんて言えなくて当然だぜ。
テメェに言えなかったから、結局おれ達にも言えなかったんだろ・・・。
一人でなんとかしようと抱え込んでたナミさんの気持ちを思うと・・・・・堪らねェよ。
ハァ・・・おれは、テメェだけはクソ許せねえ。」
”愛の言葉 ”という響きに鳥肌が立ってゾロは顔をしかめた。
だがサンジに言われて、ナミが言わなかったことの原因が自分にあったのだろうということを、
ようやくなんとなく理解した。
「ハァ〜・・・・・・なんでこんな奴が良かったんだかなあ、ナミさん・・・」
「テメェ、さっきから聞いてりゃ言いたい放題だな・・・」
「当たり前だろ!おれから愛しのナミさんを奪ってガキまでこさえてたなんて、
ボロクソに言わなきゃおさまらねえんだよ!!」
「別にナミはおまえのモンじゃなかっただろ!結局、嫉妬かよ。みっともねェぞ。諦めろ。」
「いや・・・・嫉妬なんて生ぬるいもんじゃねえ。
テメェが野垂れ死んでれば、おれにもチャンスはあった・・・オイ、今からでも死んどくか。」
「なんだと、コラ・・やろうってのか、テメェ?!」
狭い階段に急にゴゴゴゴと黒い空気の渦ができる。
「心配するな・・お前が消えた後は、おれが一生ナミさんとガキの面倒見る。必ず幸せにするさ・・!」
「消えんのはテメェの方だ。さっきは殴られるだけだったからな・・・・ウズウズしてたんだ・・!」
いきなり臨戦態勢となり、立ち上がって至近距離で睨みあっている二人の男。
ゾロが刀に手を掛け、サンジがキュッとネクタイを締めなおす。
そんな緊迫感溢れる二人の横をフッと人が通りかかった。
「やめんか!!!人の祝いの席で暴れたら承知しないわよ!!!」
ナミの拳骨が容赦なく二人に落ちた。
**********
それぞれ死角となっている側、ゾロは左目の下、サンジは前髪を下ろしている方の
頬を大きく腫らせて、そっぽを向きながら再び大人しく最上段に並んでいた。
きっとさっきの部屋割りの分も含めて殴りやがったな、とゾロはナミを眺めた。
ナミはすでに宴の輪に戻り、何事も無かったように大笑いしている。
最初人見知りしていたジュンも、すっかり打ち解けて今はルフィの体を引っ張って遊んでいる。
「・・・・しかしテメェよ、他にもいねえだろうな?」
おもむろにサンジがまたゾロに話しかけた。
「アァ?」
「・・・ガキの話だよ。」
ゾロが心底嫌そうな顔をしてうなだれる。
「ハァ〜・・!おれァもうその話にはウンザリしてんだ!あまりにもナミがしつこくてよ。」
「そりゃそうだろ。お前の子作りへの認識の甘さは立証済みだからな。・・で、どうなんだよ?」
「いるわけねェだろ。」
「ホントか?色んなとこで女作ってたんだろ?」
「作ってねえ!」
「だがやることはやってただろ?女に興味なさそうな顔しやがってよ。」
「・・・・。いや。」
「なんだよその、いや、ってのは?!とぼけんな!テメェが女と飲んでたって噂、おれは結構聞いたぞ。」
「知るかよそんなもん。何だか知らねェが、勝手に寄ってくんだから仕方ねえだろ。」
「グギギ・・!テンメェは・・!!おれの最高級の蹴りでマジでその口聞けなくしてやりてえ・・!」
「やれるもんならやってみろ。」
「ググ・・!!ナミさんの祝いの席だからな・・!
さっき殴られたとこだ、今日は見逃してやるよ・・!だが、この話題は見逃せねえ。
それで?さっきから話題逸らせてやがるが、他にも可能性はあるよな?」
「だから、ねェっつってんだろ!!」
「そんだけ言い切る根拠はあんのか?」
ゾロが苦い顔をしながらサンジを見る。
「まさかテメェがゴムなんか使うとは思えねェが。」
そう言って勝ち誇ったようにニヤっとゾロを見た。それを睨み返し、渋々ゾロが口を開いた。
「・・・ナミには言うなよ。」
サンジが馴れ馴れしくゾロの肩に手を置き、嬉しそうに笑う。
「おーおー、男同士の会話ってことで、多めに見てくれってか?よし、正直に吐け。」
「ッ!・・・馴れ馴れしく触んな!・・だから・・・・・・ヤってねェんだよ。」
サンジが妙な顔をしてパチパチと瞬きをしながらゾロを覗き込んだ。
「ハァ?ヤってねェって、何を?」
「だから!・・・ナミとやってから、女とはヤってなかったんだよ。」
「・・・・・・・・・・」
ゾロを見つめたまま完全に10秒ほど固まっていたサンジが、弾かれたようにゾロから飛び退いた。
「えええぇぇぇぇえ!!!テメェ嘘ついてんじゃねぇぞ!!6年だぞ!6年!!」
「うるせェよテメェはっ!!声がデケェんだよ!!」
ゾロが飛び上がっていたサンジのネクタイを引き、無理やり腰を下ろさせた。
ナミが声を聞きつけて、怪訝そうに二人の方を見ている。
ゾロはじっとサンジの肩を押さえつけたまましばらく動かず、
ナミがロビンに話しかけられてようやく向こうを向いたのを確認してから、
サンジにだけ聞こえるよう小さく抑えた声で話した。
「・・・嘘じゃねェ。マジだ。だからガキはいねェ。わかったか。」
そう言い切って、手に持っていた酒をグイっと一気に飲んだ。
サンジは信じられないものを見たといった眼差しでゾロを眺める。
「信じられねェ。そんな男いるのか・・・。いや、マジで、ほんっとにテメェは天然記念物だな。
つーか・・・・・・そんなに良かったのか、ナミさんが。」
ブーーーッ!とゾロが酒を噴いた。
「ゲホッ、ゲホッ!!」
「汚ねえな・・・だが、図星か。
ああ、あの体だもんなぁ。そりゃあいいんだろうなぁ。ハァ〜、クソ!羨ましィーーーーッ!!
なんだよテメェ、すかした顔しやがって、結局ナミさん一筋のベタ惚れだったのかよ。」
「・・!テメッ・・!ゲホッ!ゲホッ!そんなんじゃね・・・ゲホッ!」
「あーあー、必死で否定するところが尚更だな。」
むせ返ってなかなかサンジに言い返せず涙目で顔を真っ赤にしているゾロのところに、
酔っ払ってご機嫌なチョッパーがヒョコヒョコ寄って来た。
「ひゃははは〜〜〜!ゾロ〜〜!大丈夫か〜〜?まだルフィに殴られたとこがきいてんのか〜?」
とろけそうな笑顔で話しかけるチョッパーを、
こんな時に来んな!とむせるゾロは明らかに不機嫌な顔で睨みつけたが、
お構いナシにチョッパーは上機嫌で話しかけてくる。
「いや〜〜!ゾロが一味に戻ってきて、おれ、すんげぇうれしいぞっ♪
ゾロがいなくて、ずっと寂しかったんだ〜、おれ!あ〜〜、よかった〜!あはっ!へへへ!
やっぱりゾロは、大事な仲間だからな!うんうん!もう迷子になるんじゃねえぞっ♪
・・ん〜?なんだ、サンジとなんか話してたのか〜?」
「ああ、他にもゾロの子どもがいねェか話してたんだ。」
新しいタバコに火を点けながらサンジがさらっと言った。
「っゴホッ!テメェ、だからもうその話は終わっただろ!!チョッパーまで巻き込んでんじゃねえ!」
明らかにからかって楽しんでいるサンジの胸倉をゾロが掴んだところで、
チョッパーが目を輝かせた。
「あ〜〜!それならおれ、知ってるぞっ!」
「「・・ハァ??!」」
二人が眉を寄せてチョッパーを見る。
「へへへっ♪」
酔っ払ってヨロヨロしながら笑っているチョッパーに、サンジが頭を横に振り言う。
「・・イヤイヤ、チョッパー、あそこにいるガキのことじゃねえぞ。あいつ以外でって話だ。」
「うん、わかってるよ。ジュン以外でおれもう一人、ゾロの子ども知ってんだ〜。」
「「!!!」」
この爆弾発言にゾロはもちろん、からかって楽しんでいたサンジまで目を見開いて絶句した。
ゾロはうろたえて、初めてジュンに会ったとき以来のショックで汗が滝の様に噴き出した。
「イヤ、おい、待て・・うっ・・嘘だろ、チョッパー・・?!そんなわけが・・」
しどろもどろで言いながら必死で自分の記憶を掘り起こす。
そんな馬鹿な・・!ありえねェ!ナミ以外で中出しなんて絶対してねェはずだぞ・・!
外で出してても出来ることなんてあんのか?!
・・・ど・・どの時だ?!まさか、海賊狩りの頃か!?
もしそうだったとしたら・・ジュンよりもっと年上ってことだろ、一体いくつになってんだ!!?
冗談じゃねェぞ、相手の顔も名前も覚えてねえし・・・!!バレたら確実にナミに殺される・・・!!
いや、ナミより前だから、半殺しくらいで済むだろうか・・・って、どっちにしろマズイ・・!!
「ちょっと、さっきから何の話してんの?」
ビクッ!!!!
今ここに一番近寄って来て欲しくない人物の声に、ゾロは腰が跳ね上がって一段階段をずり落ちた。
様子が怪しいとばかりに、階段の下からナミが腰に手を当ててこちらをギロっと睨んでいる。
「ああ、ナミ〜〜〜!」
チョッパーが、階段をトコトコと下りてナミに近寄る。
「チョッパー、あいつら何話してたか知ってる?」
「ああ、今な、話してたんだけど・・」
「まっ、待てっ!チョッパーーーー!!!」
こうなったら力ずくであのタヌキの口を封じるしかない!と飛び掛かろうとして、
後ろから服をグイっと引っ張られゾロの体がガクンとなった。
「ざまあみろ。」
サンジが咥えタバコでニヤッとしながらゾロの服の襟を掴んでいる。
「くっ!!テメェ、放しやがれ!!」
何とか振りほどこうと暴れていると、ナミの叫び声が響き渡った。
「ええ〜〜っ!!ほ、ホントなのっ?!チョッパー?!」
「・・!!」
・・・手遅れか・・。
サンジが脱力したゾロから手を放すと、
ゾロは崩れるように階段に腰を落とし自分の膝の間にガクッと頭をうな垂れた。
終わった・・・おれの人生、終わった。
ナミがそんなこと許すはずがない。
もう全てがどうでもいい絶望感の中、遠くでチョッパーの声がしていた。
「うん。念のためいろいろ調べてみたらわかったんだ。
間違いないよ。だから、今ナミのお腹にいるのは、ゾロのもう一人の子どもだろ?」
・・・・・・・・・は?
「熱っぽくてだるいって言ってたのはそのせいだったんだよ、ナミ。
心配してたウエストブルーの流行り病じゃなかった。だから薬は飲まなくていいよ。」
「えっ、でも・・・・・前みたいに吐き気はひどくないし、食欲も別に普通だったわよ?」
「つわりの程度はその時の体調や精神状態、赤ん坊の性別にもよるって言うよ。
だから毎回同じってわけじゃないんだ。それできっと気付かなかったんだな〜。」
「そ、そういうもんなの・・・?」
「うん。妊娠おめでとう!ナミ♪」
話の内容を理解するのにしばし時間がかかった。
「あ。」
そういえば。
中出しイコール妊娠と言った、サンジの言葉が頭に浮かんだ。
なんだ。
よかった。ナミの腹の中だったのか。
「ハァ〜〜・・・!」
首がつながったと心の底から安堵の溜息を吐いていると、
うな垂れている頭をガンッ!と思いっきり上から殴られた。
「溜息ついてんじゃないわよ!!誰のせいだと思ってんの!!」
「イ・・イデ・・!!」
かなり痛烈だったが、こんなもんで済んでよかったとゾロは心から思った。
ガヤガヤ盛り上がっていた仲間達もいつの間にか全員シーンとなって、こちらの話を聞いている。
ゾロがようやく頭を上げナミの方に目をやると、顔を真っ赤にしてチョッパーに怒っていた。
「・・・チョッパー!あのね・・!
そういうことはこんなに大勢の前じゃなくて、私だけにこっそり教えて欲しかったわ・・!」
「えっ・・・でも、ナミはまた内緒にするかもしれないだろ〜。」
「もう内緒にしたりしないわよ!今はあの時とは違うじゃない!」
ナミの言葉が耳に響いた。
そうだ。今はあの時とは違う。
おれの今の約束は、ずっとナミのそばにいて、こいつを守り続けることだから。
サンジに言われた言葉が頭に浮かぶ。
愛の言葉なんつーモンはおれには無理だが。
安心できる言葉くらいなら、おれにも言ってやれるか。
ゾロはナミを真っ直ぐ見て、言った。
「そうだな。今はあの時とは違うんだ。だから問題ねェだろ、ナミ。
いいんじゃねェか?もう一人くらいガキが増えてもよ。まとめておれが守ることに、変わりはねェ。」
「ゾロ・・!」
ナミは頬を紅く染めながら、ゾロを見つめるその大きな瞳を見る見る潤ませていった。
「え〜!ナミにもう一人、子どもが産まれんのか〜〜?すんげ〜〜!楽しみだな〜〜!」
ルフィが嬉しそうに言って目を輝かせる。
「ルフィ・・!」
ナミは二人を見ながら思った。
もしあの時も勇気を出して打ち明けていたら。
きっと妊娠したナミをゾロとルフィは受け入れてくれたのだろう。
でも今、こんなに幸せな気分で自分が二人の間にいられるのは、きっと今までのことがあったからだ。
「よーーーし!!じゃあ、もう一度、みんなで乾杯だーーー!!」
階段にいたナミとチョッパー、
そしてゾロも最上段で落ち込んで屍になりかけていたサンジを引きずって、ルフィの周りに集まる。
「じゃあ、今度生まれてくるゾロとナミの子どもに!カンパーーーイ!!」
「「「「「「「「カンパーイ!!」」」」」」」」
「おめでとう。ナミ。」
「ロビン・・・・ありがとう。」
「しっかしおめェら、ケンカばっかりしてるようで結構やることやってんだな。」
感心したように言うフランキーにウソップが続けた。
「そりゃああんだけ濃い〜かったら、出来てて当然だよな。おれは時間の問題だと思ってた。」
「ちょっとウソップ。余計なこと暴露すると後で痛い目見るわよ。」
「ううっお前らにおれがどんだけ迷惑したと思ってんだ〜!このくらい言わせてもらう権利はあるぞ!」
ナミが泣くフリをするウソップを睨んでいると、ルフィが言った。
「それにしてもよ、いいよな〜、ゾロばっかり。
な〜ナミ、今腹ん中にいる子ども産んだらさ、今度はおれの子どもも産んでくれよ。」
ガンッ!!!
「イッテェ!!!何すんだゾロ!!!」
「テメェ、冗談じゃなくてそれ本気で言ってるだろ・・・。」
「ダメなのか?」
「そりゃあ・・・!」
余りにも悪気の無いルフィの眼差しに、自分の方が間違ってるのかとゾロは錯覚しかけて、
「グッ・・!」と言い返す言葉に詰まった。
「だめよ、ルフィ。私はもう二人で十分だから。もうこれ以上は無理よ。
だから誰か他の女性に産んでもらって。」
ナミがサラッとルフィの頼みを断った。
しかしゾロはナミの言い訳に、そういう問題か?といまいち納得が行かず眉間に皺を寄せ不機嫌な顔をした。
キョロキョロ周りを見回していたルフィの目線が止まり、みんな嫌な予感がしてルフィを見る。
「なあ、ロビン、おれの子ども産んでく・・ブヘッ!!」
ルフィの頭にサンジの踵落しが入り、みんなヤレヤレと溜息をつく。
「節操ナシのクソゴムが。」
「あら、残念。私も一度、おれの子ども産んでくれなんてセリフ、言われてみたかったわ。」
ロビンの言葉に目をハートマークにして今度はサンジが飛び掛かる。
「ロビンちゅわ〜〜ん!!今すぐ君とおれの愛の結晶を作ろう〜〜〜!!・・ヘブッ!!」
ナミとフランキーに殴られて、飛ばされたサンジがガンッとマストに激突した。
「フフフ。」
その様子を見てロビンは楽しそうに笑う。
「まったく・・・子どもを産むことを何だと思ってんの・・・」
溜息をつくナミに、微笑みながら優しくロビンが言った。
「でもよかったじゃない、ナミ。今度は・・・みんなで賑やかに、子育てを楽しめそうね。」
一人、胸の詰まる思いをしながらジュンを産み育てた日々を思い出した。
「うん。」
ロビンの優しい言葉に、ナミは嬉しさで胸いっぱいになりながら頷く。
みんな(サンジ以外)の笑顔での祝福に、ナミは幸せそうに泣きながら笑っていた。
**********
一年後。
イーストブルー、シロップ村海岸。
「おーーい。早くしろよ〜〜。」
「うっ・・・わ〜ってるよ!も・・もう少しだけだ・・・・・。」
「もうみんな準備万端だぞー。早く行こうぜ〜〜。」
ルフィが船縁の柵に置いた腕に顎を乗せ、待ちくたびれたとばかりに口を尖らせながら言う。
「なあ、もう行かねえのか〜〜?ウソップ〜。」
「い、行くっつてんだろ!おれは勇敢な海の戦士で海賊なんだ!
な・・何があろうとも・・・海がおれを呼ぶ限り、おれは・・・行かなきゃならねぇんだ!」
「じゃあ、早くしろよ〜〜。」
「だ、だから、もうちょっとだけ・・・・・待ってくれって頼んでんだろ〜〜、ルフィ!」
「もう置いて行きゃいいんじゃねェか?」
ルフィの横からヒョイと下をのぞき、ゾロが呆れたように言う。
「コラ〜〜!!テメェみたいに引き連れて一緒に行けねえから、別れを惜しんでんだろうがー!!
テメェはちょっとくらいおれの気持ちを理解しろ!!」
半泣きになりながら叫ぶウソップの傍らで、カヤがクスクスと肩を揺らして笑った。
カヤの胸に抱かれた小さな赤ん坊。
ウソップの指を離すまいと小さな手がしっかりと握り締めていて、
ウソップはそれを振りほどけないでいた。
「ねえ、ウソップさん。心配しないで。この子には私だけじゃなくて、メリーや村の人たち、
ウソップ海賊団のみんなが付いてるわ。」
「うっ・・・カヤ・・・!お前にもこいつにも、寂しい思いさせるなあ・・・おれァ!」
「私にはこの子がいるもの。寂しくないわけじゃないけど・・・大丈夫よ。
次帰ってきたら・・・この子にも楽しい冒険の話を聞かせてあげてね。」
カヤが涙を堪えて優しく笑った。
鼻をすするとウソップはうなずき、ようやく決心して赤ん坊の手から指を抜いた。
赤ん坊ごとカヤをそっと抱き締め、「行ってくる」といって離すと、そのまま振り向かず船に乗った。
「悪ィ。待たせた。」
「おっし!行こう!」
ルフィがウソップの肩をポンと叩いて、船首の方へと駆け出す。
「出発するぞーー!行けるか〜?ナミ!」
「ええ。もちろんよ、キャプテン。」
船首操縦席の横に立つナミが、ルフィに笑いかける。
その腕には、光に透けてまるでサンゴ礁の海のように澄んだ、綺麗なグリーンの髪の赤ん坊が。
赤ん坊を片手で軽々抱いたまま、ナミはテキパキと仲間たちに指示を出す。
「みんなー、帆を張ってーー!」
バサッと帆が張られて、風を受け船がゆっくり動き始める。
ルフィがサニーのピークヘッドの上に立ち上がって叫んだ。
「出航だーーーー!!」
帆を張り終わり、ゾロとジュンが船首に上がって来た。
「ナミ〜、あかちゃんみせて〜。」
「ジュン、起こさないように、少しだけよ。」
ナミに抱かれる赤ん坊を、ジュンがのぞきこむ。
その3人の光景を横目で見てから、ゾロは前方の水平線に目をやった。
ずっと、水平線の彼方にある夢を追いかけていた。
その夢が叶った後。
前を見るとその夢の果てにあったのは、さらにどこまでも続く水平線で。
だがふと周りを見渡すと、そこには大切な仲間達がいて、
気付けば横には、自分が一生かけて守るべき存在が出来てた。
約束やプライドのために最強を求め続けた時もあったが。
誰かを守るために最強であり続けるってのも悪くない。
もう一度チラっと横にいるナミと子ども達を見て、ゾロはそう思った。
空は快晴。
海は穏やかに太陽の光を受けてキラキラ輝く。
サウザンド・サニー号は仲間たちを乗せ。
白い波飛沫を上げながら、今日も水平線に向かって海を突き進む。
冒険の続く限り。
いつまでも、どこまでも。
「よーーし、みんな揃ったな!!行くぞーーーー、野郎ども!!冒険の旅に!!!」
「「「「「「「「「 おーう!!キャプテン!!! 」」」」」」」」」
おわり
←9へ epilogueへ→
〜 筆者あとがき 〜
ここまで長らくお付き合いいただき、本当にありがとうございます!
この後、エンディング曲で『ファミリー』が流れます。
「知り合いじゃなくて、友達じゃなくて、おれ達は、ファミリー♪」という歌です。
ゾロパートの「こ〜れまで〜の常識、捨ててから来いよ〜」を聞くたびに、
私はプっと吹き出してしまいそうですが(笑)
これからは、きっとゾロはナミのそばに居てくれることでしょう。
約束は守る男、ロロノア・ゾロですから。
たまに迷子になって何日か何週間か、帰ってこないこともあるかもしれませんが・・。
でもまあ、それはご愛嬌ってことで・・・^^。
後ほど少しだけですがこの後のお話を、エピローグとして付ける予定です。
原作ではこの先どうなるかわかりませんが、ルフィがいる限り、
一味全員、いつまでも仲良く冒険していてほしいと個人的には願います。
それでは、ゾロとナミ、ルフィ、麦わらの一味全員に、愛を込めて。
ONE PIECE 万歳!!
panchan
(2011.10.27)