夢の果てに  - 4-

            

panchan 様


「一週間ほど前かな・・・・・・君が夢に出てきてね。」


道場の敷地入口の門をくぐったところで、コウシロウが前を向いたまま、
後ろにいるゾロに話しかけた。


「そろそろ、来る頃だろうと思っていた。」


そう優しい声で言うコウシロウの背中をぼんやり眺めながら、
ゾロは自分の周りの事をどこか遠くに感じていた。

その中で、はっきり背中に伝わる子どもの体温だけが不快なほど熱かった。

激しく降りだした雨が、足元や傘を持つ手を濡らす。
とにかく早く建物の中に入りたいと思って歩いた。


ようやく道場の軒先で傘を置き、子どもを下ろした。
下ろしたはずなのに、さらにどっと何かが背中に圧し掛かって肩が重い。


「ジュン。また刀を勝手に持ち出したんだね。それはもう、私が預かっておこう。」

「・・・・・・せんせー・・・ごめんなさい。」

眉をハの字にして下唇を突き出しながらそう言うと、
子どもは背中の和道をコウシロウに渋々手渡していた。

ただ黙って、そのやり取りをぼんやり見ていた。

「ここまで負ぶってくれたんだから、ゾロに礼を言いなさい。」

「・・・おんぶしてくれてありがとー、ゾロー。」

薄っすら頷いて、それに答えた。

「じゃあ、私は奥でゾロと話をするから、君は向こうでみんなと稽古しておいで。
 怪我もちゃんと見てもらうんだよ。」

「はーい。・・・ゾロ、まだここにいる?」

「大丈夫。後でもう一度声を掛けてあげるから、安心して行っておいで。」

「うん!じゃあなーー、ゾロー!」

そう言って子どもは無邪気に手を振り、縁側を歩いて道場の方へと消えて行った。


コウシロウの後について、縁側から奥の間に入った。
促された場所に、コウシロウと向かい合って正座で座る。
コウシロウはゾロが座ると、手に持っていた袋入りの和道を自分の膝の前に横たえて置いた。

ただ黙っているゾロに、優しく微笑んでコウシロウが話し始めた。

「挨拶もできないほど驚いている君の様子を見ると、何も知らず偶然あの子に会ったのだね。
 何か感じたかい?」

ハッとした。

「あっ・・・お久しぶりです先生・・・。」

コウシロウの話す言葉の断片から、さっき頭に浮かんだ仮説が裏づけられていく感覚が強くなる。
確信できる。コウシロウは、知っている。
生唾を飲み込み、確かめなければならないことを、思い切って聞いた。

「先生、さっきのジュンってガキは・・・もしかして・・・・・」

そこまで尋ねると、心臓がバクバクして背中を冷汗が流れた。
コウシロウは穏やかな落ち着いた声で言った。

「彼の本当の名前は、君と同じだよ。」

さらに心臓が猛スピードで跳ねて、ゾロは眉根を寄せ、目を細めた。

「彼はロロノア・ゾロ。つまりジュニアだから、略してジュンと呼んでいる。
その本名を知っている人はこの道場で数人だけだ。 彼本人もまだ知らないんだ。
 ・・・・・・君が彼から何かを感じた通り、彼は、君の子どもだよ。ゾロ。」


なんてこった。

あまりの衝撃宣告に、瞬きも忘れ、このまま心臓が弾け飛ぶんじゃないかと思った。


おれの子。

つまり。



ナミがおれの子どもを産んでいた。


おれの知らないところで。





ゾロを現実に引き戻すように穏やかな声が響く。


「もう、4年ほど前になるかな・・・。
 彼女が一人で、赤ん坊のように小さな子どもを抱いて、ここへ訪ねて来た。」

4年前・・・ただ数字だけが虚しく聞こえ、
赤ん坊を抱くナミの姿が頭に浮かんだが、不思議な感じがした。

「彼女とは君が里帰りした時に一度、たまたま、くいなの墓で会っていたんだ。
 君が道場へ来た後に私がくいなの墓へ行ったら、
 和道一文字があって、すぐに君が置いて行ったと気付いた。
 そこへ、彼女が現れてね。
 君の刀に気付いて、私に会釈してくれた。
 君らは有名だから、私もすぐに君の仲間だと気付いたよ。
 それから・・・少し、彼女と話をした。
 彼女はなぜ君が刀を置いて行ったのか、不思議に思っていたようだ。」

そこで、コウシロウは半眼で和道一文字に視線を落とし、沈黙した。

ゾロはコウシロウの顔をじっと見たまま、黙って話しの続きを待った。

「正直・・・墓で和道一文字を見つけた時、最初私は少し寂しかったよ。
 だが、君はずっとくいなとの約束のために険しい道を進み続け、
 ついにその約束を見事果たすまで、登りつめたんだ。
 その道のりは並大抵のものでは無かっただろう・・・。
 その頂まで、刀と共にくいなの魂を連れて行ってくれた。
 辛いこともあっただろう。重荷に思うこともあっただろう。
 ・・・でも、君はくいなとの約束を守ってくれた。
 あの時も言ったと思うが、君には本当に感謝しているよ。
 君のおかげでくいなの魂は生き続けたんだから。
 だけどもう、そこからの君の人生は自由であってほしい、と私は強く思った。
 だから君が置いて行った刀を見て、これでよかったと思った。」

コウシロウは和道からゾロに視線を上げて、優しく微笑んだ。

「もちろん、そんなことは彼女には話していないよ。
 ただ、きっとこの刀はもう君にとっての役割は終えたのだろう、と答えた。
 それから、その先も君と一緒にすごしていく仲間として、
 君のことをよろしく、と頼んだんだ。」

ゾロはただ黙って、目を見開きながら見つめ返していた。

「彼女がたった一人、子どもを連れてここへ来たときには驚いたよ。
 だけど、話を聞く前にすぐに君の子どもだろうなとわかった。」

そこで一旦、ふう、とコウシロウが一呼吸入れた。

「子どものことを告げられないでいたら、君が仲間の元から出て行ってしまったと聞いた。
 彼女もまた、仲間の元から離れ一人君の子を産んだが、自分が連れていたのでは
 小さな子どもを守りきる自信が無いから、ここで預かって欲しいと言った。
 君の子を産んだことは、仲間にも言ってなかったそうだよ。
 私はその辺の事情を詮索する気はなかったから、ただ快く、預かることを承諾したんだ。」

頭がクラクラして、眉間に皺を寄せ、目を閉じた。

告げられないでいた・・・
仲間の元から離れ一人で産んだ・・・

声が頭の中で反響してグルグル回る。


つまり、あのシロップ村で話した時にはすでにわかってたってことだ。

あの時のナミは、腹におれの子がいることをわかっていながら、
あんな顔をして、おれに ”忘れて”と言った。

なぜなんだ。

おれは一体何なんだ。

そして仲間の元を離れてまで一人で産んだ、だと。
ずっとルフィのそばにいたんじゃなかったのか。
仲間にも言わず、だと。
一体、ナミは何考えてんだ。
あれは、無かったことにしたかったんじゃなかったのか?!
ガキなんか出来てたら、無かったことになんかできねェだろ!
出来ちまったから、仕方なく産んだのか?
みんなにはバレ無ェように、産むだけ産んで、どっかに預けるってか。
そりゃ、子どもに罪は無ェもんな。
じゃあ、なんでわざわざここに預けに来たんだ!


頭の後ろがズキズキ傷み、泥水に沈んでいくように息苦しくなってきた。



「彼女は、どうしても君の子どもを産みたかったんだと言ってた。
 君に言わなかったことを、ずっと後悔していたそうだ。」

ゾロはハッと顔を上げた。

「ここなら、もしかしたら君が来るかもしれない、と。
 だから、ここで預かって欲しい、と。
 ・・・そしてようやく、君は来たね。」

体がどっぷり浸っているようだった泥水の感覚が、サーッと引いていく。

「髪がオレンジ色だったから、何か君の血を受け継いでいる証が欲しくて、
 君の名前をそのまま付けたそうだ。
 今はその名前を聞かなくてもわかるくらいに、君によく似ているけどね。
 まだ歩き始める前のあの子を置いて・・・
 ここを立ち去った時の彼女の顔は、一生忘れられないよ。
 そりゃあ、どれほど辛かっただろうか・・・。
 あの子はその時、すやすやと昼寝をしていた。
 まあ、起きてからは大変だったが、それも今はあの子とのいい思い出だ。」

ナミ・・・。
なぜ、そんなことになったんだろう。

自分の知らないところで勝手にナミが苦しんでいたことを、
どう受け止めていいかわからなかった。

コウシロウが目を閉じ、その口元が当時を思い出したように笑った。
笑った時に出来た深い皺を見て、先生も歳をとったな、としみじみ思った。

「私はね、ゾロ。
 あの子が本当の孫のように可愛くて仕方が無いんだ。
 まるで君の子どもの頃を見ているようでね。
 あの子を見ていると、まだくいなが生きていた頃の当時を、懐かしく思い出すよ。
 彼女がここへあの子を預けに来てくれたことを、私は感謝している。」


何年ぶりだろう。この感覚。
鼻の奥がワサビを食ったときみたいにツンと来て、奥歯を噛み締めた。


「時々、手紙を寄越してくれていた。
 一番最近の手紙に、あともう少しで迎えに行けそうだと書いてあった。
 私も正直、先が長くないことを自覚している身で、それを見て安心したよ。
 その手紙と一緒に、あの子への御守と君宛の小さな封筒が入っていたよ。」

そう言ってコウシロウは立ち上がり、神棚の端から小さな封筒を持ってきた。

「これだ。開けてみなさい。」

ゾロはそれを受け取ると、封筒にナミの筆跡で書かれた
”ゾロへ”の文字を見つけ、ドクンと胸が高鳴るのを感じた。
薄オレンジ色のその封筒を、封を切ってゆっくり開ける。

ゴクッと唾を飲み込み中身を出すと、真っ白い紙切れが出てきた。
すぐにわかった。ビブルカードだ。

薄く光に透けて、裏に文字が書いてあるのに気付き、
親指と人差し指で、くるっと裏返すと。

書いてあった小さな文字。





 
 ” 早く帰ってきて  バカ  ”






アイツめ・・・。
どこまでも人をバカ呼ばわりしやがって。


そう思いながらも、顔は笑っていた。



「さて・・・これで、私も肩の荷が下りたよ。
 ああ、誤解しないでほしいが、君らの力になれたことは、心から嬉しく思っている。
 ・・・来た時よりも・・・随分いい顔になったよ、ゾロ。」

「先生・・・」

「ゾロ、これから君のやるべき事、進むべき道をしっかり見極めてください。
 君ならきっと、わかるはずだ。」

コウシロウの優しく穏やかな微笑みが向けられる。


「先生・・・・・・」


ゾロは床に両手をついて、コウシロウに深く頭を下げた。

「ありがとうございました!!」

頭を床につけたまま、ゾロは続けた。

「先生に今まで迷惑と心配かけて、本当に申し訳ねェ!
 まさか自分にガキがいることも知らず・・迷惑かけるなんて、おれは・・!
 ナミを連れてもう一度ここへ来て、先生にはきちんと礼をさせてもらう。
 ガキのことも、ちゃんと責任持ってなんとかする!
 だからあいつを見つけて来るまで、もう少しだけ、ガキのことを頼む!
 さらに厚かましい頼みだが・・・・・・
 もう一度、和道一文字を、おれに譲ってくれねェか?先生。
 おれにとってその刀は単に約束を果たすだけのものじゃなかったんだ。
 手放してから改めて、おれにとってはすげェ大事なモンだってわかった!
 もう一度・・・おれに持たせてくれ、先生・・・・・・。」

頭を板張りの床に擦りつけて懇願した。


「頭を上げなさい、ゾロ。
 ・・・君がそう言ってくれるだけで、何も礼などいらない。
 さっきも言ったように、私はあの子と共にすごせた事を感謝している。
 そして・・・。
 そこまで和道一文字を大切に思ってくれて、ありがたいよ。
 君がもう一度持ちたいと言ってくれるなら、そんな嬉しいことはない。
 きっとくいなも喜んで、これからも君の事を見守るだろう。
 本当に・・・ありがとう、ゾロ。
 だが・・・。
 あの刀はすでにジュンに譲り渡した後なんだ。
 だから、それはジュンと話をしてくれるかい?」


頭を起こして見上げると、相変わらず優しく微笑んでいるその細い目尻から、
頬に一筋、涙が伝っていた。




**********





いつの間にか雨が上がり、また晴れ間がのぞく空を、ゾロは見上げていた。


「ゾローーーーー!!」


元気な高い声が響く。ちょっとナミの声に似てる気がした。
縁側に座っているゾロのそばに、子どもが寄ってきた。

「なあ、なあ、ゾロってせかいでいちばんつよいけんしだって、ほんとー?」

嬉しそうにゾロの顔をのぞき込み、その様子にゾロの顔も緩んだ。

「まあな・・誰に聞いた?」

「どうじょうのおとなのひとが、いってたー。すげえなあ、ゾロ!
 いっぱいたたかった?たたかって、め、けがしたのかー?」

「・・ああ、そうだ。」

子どもの素朴な疑問に、おかしくなって笑った。
おれのガキの頃ってこんなだったのか、と思いながら見た。

「なあ、じゃあ、かたなでなんでもきれるー?」

また素朴な疑問が来た。

「大抵のモンはな。」

「すげえ〜!・・・・・・なあ、たいてい、ってなに?」

「ああ・・・まあ、石でも鉄でも・・・山でも・・」

「やま!!すげえーー!きってみせてーーー!」

「いや、山はマズイな・・・。うっし!じゃあちょっとこの刀、借りるぞ。」

縁側に置いていた和道一文字を手に取り、袋から出す。
久々の握り心地と重みに、ニヤッとする。
スラッと鞘から刀身を抜いた。
手首を返すとカチャと鳴って、剣先を真っ直ぐ空に向けると綺麗に光を反射する。

ああ、やっぱりこれだ。


「見てろ。」

和道を握り、庭にあった直径1メートルくらいの大きな石の前へ行き、
ピッと軽く振り下ろした。

綺麗に切れ目の入った石が、一瞬の間を置いてまっ二つになり倒れた。

「・・・・うわあ!ずげえー・・・ゾロは、すげえなあ!
 おれもゾロみたいになりてえ。おれも、いし、きれるようになるかなあ?」

「そりゃお前の努力次第だ。・・・いっぱい修行して、体鍛えろ。
 ・・・・・・あと、お前、ライバルはいるのか?」

「らいばるって、なに?」

「ライバルってのは・・・コイツに勝ちたいとか、
 コイツより強くなりたいって思う相手のことだ。」

「ふーん。・・・よくわかんねえ。」

「そういう相手を作れよ。」

「じゃあ、ゾロ、らいばるになってよ!」

「おれかよ・・根性あんな、お前。・・・・・・いや、おれはダメだ。」

「えー、なんでだよ?」

「おれはお前と勝負できねェ。・・・おれはお前を斬れねェからな。」

「うーん・・・よくわかんねえけど。
 ・・・ゾロにもきれねえもんがあるんだなー!」

子どもが満面の笑みでゾロに言った。

「・・・ああ、そういうことだ。」

その笑顔につられて、ゾロも優しく微笑み返した。



カチャンと刀を鞘に仕舞うと、もう一度縁側に座って、ゾロは子どもに向き合った。

「お前、親に会いたいか?」

急に子どもの表情が固まる。

「・・・せんせーいるし、おれつよいから、さみしくねえよ。」

口をへの字にして、ゾロから顔をプイっとそらせた。

「そうか・・・・強いな、お前は。」

ゾロは大きな手で小さなイガ栗頭をガシガシ力強く撫でた。

「いっ・・いてぇ・・」

「じゃあ、お前に頼みがあるんだが。」

への字口のまま、ゾロの方を見る。

「今度またお前に会いにここへ来るから、そしたらおれと一緒に行かねェか?」

「え・・・?」

「お前の母親も一緒に会いに来る。」

「ゾロ、かあさん、しってるのか?」

驚いた顔で子どもはゾロを見つめる。
ゾロはフッと笑って、子どもに答えた。


「ああ・・・・・おれが、お前の親父だからな。」


こんな小さいガキだが、コイツなりに我慢してきたのだろう。
そう思うと自然と優しい声になっていた。

子どもはポカーンとしていた。
無理もない。
いきなり親父だといわれても、困るだろう。

だが、しょうがねェ。
いきなりなのは、おれのせいじゃねェ。
おれだって、さっき知ったんだ。
自分が親父になってたって事を。

そう思うと、なんだか妙な話だ。

まあ、そこんトコは全部アイツのせいだからな。


そんなことを考えながら見ていたら、
見る見る子どもの表情がキラキラした笑顔になっていく。

「ゾロ、おれのとうさんなのかーー?ほんとーー?!
 すげえ!おれのとうさん、せかいいちつよいのかー?!」

なんだか予想外に喜んで受け入れられたようで、ホッとした。

「すげえ!かあさんにも、あわせてくれるのかー?」

子どもの素直さに救われた。

「ああ、名前はナミってんだ。
 今探してるんだが、見つけて必ずここへ連れて来る。
 ・・・それまで、先生と待てるか?」

「うん!おれ、まてるー!」

「そうか・・・・ちゃんと先生の言うこと聞いて待ってろよ。」

そういってもう一度子どもの頭に手を置いた。
子どもはくすぐったそうな顔をして笑っていた。

「もう一つ、頼みがあるんだ。」

「・・・なんだ?」

「この刀、おれに預けてくれ。」

「・・・」

「お前が修行して石が切れるくらいになったら、必ず返してやる。
 それまで、おれがお前に剣を教えてやるから。
 お前がこの刀を触りたいときには、いつでも触らせてやる。
 まあ先生と一緒で、勝手に持って行くのはダメだけどな。」

「・・・ほんとー?おれいっぱいしゅぎょうしたら、いし、きれるようになる?」

「おう。そしたらお前もこの刀の凄さがわかるようになるさ。」

「そっかー、よーし・・・じゃあ、それまで、ゾロにあずけとくー。」

「・・・・そうか。ありがとな。
 お前の宝物だ。大事に預かる。
 じゃあ、この刀持って、おれは今からナミを探しに行ってくるからな。
 必ず迎えに来るから・・待ってろよ・・・・・・ジュン。」

「うん!やくそくだぞーー、ゾロー!」

「ああ、約束だ・・!」



手を乗せていた小さなオレンジの頭をそのまま引いて、
肩にグッと抱き寄せた。
すぐに苦しそうに暴れだしたので、笑ってポンポンと頭を叩き解放してやった。




**********




「おっ。意外に早かったなー。・・・ちゃんと取って来てくれたか?」

船に戻ってきたおれに、ニヤッとウソップが声を掛けた。

待っている間また色々と作っていたらしく、甲板にはシートが広げられ、
ご丁寧に『簡易ウソップ工場』と書かれた札まで置いてあった。

「ああ・・・これだろ。」

ピラっと薄オレンジの封筒を見せた。

「おっ、それそれ!・・・・・・で?」

ニヤつきながらおれの顔をジロジロ見てくる。

「・・・なんだ?」

「メッセージ読んだか?」

「・・ああ読んだ。それがどうした。」

「・・・他には?」

眉間に皺を寄せウソップをギロッと睨むが、ひるまずウソップは口元をニヤつかせ言った。

「ビビッただろ。」

ギクッとして目を見開いた。

「もう5歳だっけか?」

「!!・・・お前・・・知ってたのか?!」

「ああ。おれだけは知ってんだ。最初に診察したのはカヤだったからな。
 おれが無理やりナミから聞きだした。ま、ほかの奴らは知らねェと思うぜ。」

「・・・そうなのか。」

「ああーー!!おれも付いて行きゃよかったなあ!
 ゾロがビビって冷汗かいてる顔、見たかったぜー!!」

「うるせェ!んなもん、いきなりガキ出てきたら誰でもビビるだろうがっ!!」

真っ赤になって怒鳴るおれに、ウソップは膝を叩いて笑い転げた。

「ヒーーッ、ヒーーッ、そりゃそうだ!!
 でもそんな奴、滅多にいねえと思うけどな!ヒーーッ!ヒャッヒャッ!」

「・・・!!」

涙を流しながら笑い転げるウソップをブッタ斬りそうになる自分に、
拳を握りしめて必死でブレーキをかけた。

「あいつはなんで・・・おれにもルフィ達にも言わず、一人で産んだんだ?」

歯をくいしばりながら呟いたおれを見て、
ウソップは笑うのをやめ真面目な顔で答えた。

「・・・さあな。そこはちゃんとナミと話せ。
 それより、おれはお前に聞きてェよ。
 最初はおれも信じられなかったぜ。お前とナミが、なんて・・。
 ナミよりもっとわからねェのは、ナミに子どもが出来るようなことしといて、
 出て行っちまったお前の方だ。
 出て行った理由を聞いて、さらにわからなくなった。
 そんな無責任な男じゃねェだろ、お前は。」

「それは・・・・ナミが、その事は忘れてくれって言ったんだ。」

「・・ナミのせいか?」

「・・・他にも色々、事情があったんだ。」

「きたきた・・・。それを話せよ。」

「んなもん、話すようなことじゃねェ。
 おれがナミを守りきれなくて、ヘマしただけのことだ。
 ・・・もう終わったことだ。」

「時間はたっぷりあるから、ちゃんと話したまえ。ゾロ君。」

「だからっ!もういいっつてんだろ。ほら、早く船出すぞ!」

「まったく・・・お前もナミとよく似てるよな〜。
 まあ、ゆっくりこのウソップ様が聞き出してやるさ。
 子どもは?置いてっていいのか?」

「ああ・・・ナミを見つけてから、もう一度迎えに来る。」

「そうか・・・。なあ、ゾロ。」

「アァ?なんだ?」

「お前、ナミのこと好きだったのか?」

サラッと聞かれたウソップの言葉に、ビクっとして顔が熱くなった。

「んなこと聞くな!!知るかっ!!」

「おー、ゾロが照れてる。」

「うるっせェ!!照れてねェ!!」




ナミのビブルカードを手に入れ。

シモツキ村を後にした二人は、
ようやくウエストブルーに向けてナミを目指し船を出した。




←3へ  5へ→


(2011.08.26)


 

戻る
BBSへ