夢の果てに - 5-
panchan 様
「お生憎さま。あんまり女だからってナメてたら、痛い目に遭うわよ。お兄さん。」
今日これで2人目だ。
しつこく誘ってきて、冷たくあしらうと最後には力で脅してくる男。
「テメェ、このアマ!ちょっと上玉だと思ってお高くとまりやがって!
生意気な口きいてるとどうなるか、その体にわからせてやるしかねェな!」
バーカウンターに座るナミを数人の男達が取り囲む。
「へへ・・・ヒヒヒ・・・」
イヤらしい下品な笑いを浮かべナミを見る男達に、冷ややかな一瞥を向け溜息をつく。
「ハァ・・・静かに飲みたいだけなのに・・・」
「へへ・・・だったら最初から大人しくおれの誘いに乗ればよかったんだよ。
まあ、もう遅いがな・・・ちょっと生意気すぎだ。」
そういって一人の男がナミの腕を掴もうとした時。
突然ナミのそばから勢いよく吹き飛び、店の壁に叩きつけられた。
「グエェッ!!」
「だから言ったでしょ・・・」
カウンター下で、男に向けられていた天候棒。
そして天井に漂う複数の黒いシャボン玉から、立ち尽くす仲間の男達に落雷の雨が降る。
「「「ギャーーー!!」」」
黒焦げになって倒れる男達からプスプスと黒い煙が上がる中、
ナミはスッとカウンターの椅子から立ち上がった。
「おじさん、ゆっくりお話聞きたかったけど、もう行くわ。
あ、お店のゴミ掃除しといたから、お代はまけてね。」
そう言ってカウンター内にいる店主にウインクすると、背中を向けて颯爽と立ち去る。
「はぁ・・・・・・・・・・・・ハッ!・・・おい!アンタ!」
あっけに取られた店主が声を掛けた時には、すでにナミは体半分扉から出て行くところで。
「ごちそうさま。」
軽く振り向きピッと舌を出してそう言うと、店を後にした。
焦げ臭いニオイが充満し、白く煙った店内。
その奥の席から一部始終を面白そうに眺めて、
興味津々の熱い視線を送っていた男に、ナミは最後まで気付いていなかった。
**********
「まったく・・・結局、次の島までの情報収集ができなかったじゃない。」
ブツブツ独り言を言いながら宿に戻り、部屋に入ってハァーッとベッドにダイブした。
「はぁ・・・やっぱりロビンだけでも一緒に来てもらえばよかったかなあ・・・。」
一人でウエストブルーへ来てからもう2ヶ月。
なかなか思うように進んでいない。
一人旅は慣れたものだ。
久しぶりとはいえ、ルフィたちと出会う前は8年間も一人で海を渡っていた。
しかし一人での航海は船の操作に手を取られるので、
海図を描くのはどうしても陸に上がった時となる。
そして陸に上がれば、街を歩くだけで次々と男が声を掛けてくる始末。
周辺の海域について訊こうと、声を掛けてきた男と話をすることもあった。
でもこちらが色々質問しているとすぐに脈があると勘違いして、
全身を舐めるようなねっとりした視線を向けてきたり、
ストレートに体の関係を迫ってきたりする。
別に男にどんな目で見られようが、何ならそれこそ裸を見られようが、
正直何とも思わない。
ただ、断られたとなると一度勘違いした男は急にゴチャゴチャと怒り出すのが面倒だ。
そんなことを何度か繰り返して、声を掛けてくる男は一切相手にしないことにした。
それでも構わずしつこく言い寄ってくる男達も多くて、もういい加減うんざりだった。
ロビンがいれば、もっと自由に動けたかもしれない。
もしくは、ウソップでも連れてきて無理やり恋人のフリでもさせれば、マシだったかしら。
ともかく、陸に上がると大半は宿にこもってすごした。
今日だって半日宿にこもった後、気分転換でちょっと飲みに出かけただけだったのに。
海図はもう描き終えていたので、お風呂に入ろうとバスタブに湯をはる。
一人になってから、これだけが唯一の楽しみだった。
船では他のクルーとの兼ね合いがあったが、一人なら遠慮なく長くお風呂につかれる。
昼間街で手に入れた柑橘の香りのバスバブルを入れて、泡風呂に入る準備をする。
その宿の部屋にはバスルームに大きな全身鏡があった。
一糸まとわぬ姿になって鏡の前に立ち、両腕を上げて髪を無造作にまとめる。
そして、子どもを産んでからも昔と全く変わらない自分の裸をまじまじと眺める。
「そりゃあ、男にとっては魅力的よね。」
豊かに膨らんだ胸、くびれたウエスト、丸みを帯びた腰に細く長い脚。
女らしい曲線と、白い肌。
「こんなナイスバディの美人抱いといてどっか行く男なんて、ほんと頭ん中どうなってんだか。」
鏡の自分を見てそう言うと、バスタブに向かいチャポンと泡風呂に入った。
**********
翌朝、宿を出てから船に乗り込み、次の島に向けて出発した。
天気はしばらく安定するわね、と晴れ渡った空を読む。
風もいい具合に吹いて、順調なスピードで船は進んでいた。
次の島まではまた数日の航海になる予定だ。
常に心のどこかでルフィのことが気になって、焦っている自分がいた。
早く島から島へと回りたいと焦っても、一人では効率が悪くて。
焦ったところで船のスピードは変わらないので、島での滞在を短くするしかない。
船を動かしている間ほとんど海図を描くことは無かったけれど、
安定した天気と風、そして海上の見通しの良さに安心して、
珍しくしばらく船室に入って、海図のまとめをすることにした。
できることは時間を見つけて早く済ましておかなければ。
1,2時間のつもりがあっという間に時間が経って。
時々進路と空と海をチェックして、後は海図に没頭していた。
しばらく集中して海図に線を引いていると、
急にガコーンッと船が大きく揺れてペンがあらぬ方へ走った。
「なっ・・・なんなの?」
驚きと海図がダメになった苛立ちでペンをテーブルに叩きつけ、
急いで船室の窓から外をのぞく。
見ると、後方すこし離れたところに3隻の船。海賊船だ。
「もう!せっかくいい感じで地図書いてたのに!」
天候棒をスタンバイしてそのまま様子をうかがう。
海図ダメにしてくれたお代は高くつくわよ、と文句を言いながら、
さっきの船への衝撃は一体なんだったのかと考えた。
大砲が飛んでくるような音もなかったし、船がぶつかってもいないのに急に大きく揺れた。
あの海賊船のせいだったのだろうか。
「海洋類にでもぶつかったのかしら・・・」
今もどうも船が止まっているような違和感が続いていた。
どんどん後方の海賊船が近づいてくる。
「近くに寄られると面倒だから、船ごと沈んでもらうわよ。
結構お宝乗せてそうなのが残念だけど、相手してるほどヒマじゃないのよね。」
サッと船室から出て、ためらい無く天候棒を振り回し雷雲を作る。
ミラージュで船ごと姿をくらませようと天候棒を持ち直したところで、
急にまた船が大きく揺れて、ナミはバランスを崩し甲板に手をついて座り込んだ。
その隙に海賊船が近づいてどんどん大きくなる。
ナミは自分の感覚に驚いていた。気のせいじゃない。
この船は、あの海賊船のほうに引っ張られている。
ナミの作った雷雲から海賊船にバリバリと雷が落ちた。
まだ巻き添えを食うほど近づいてなくてよかったと思いながら
弾ける閃光に顔をそらせ、その後もう一度海賊船の方を見ると、
両側2隻は煙を上げて半壊なのに真ん中の船は無傷だった。
「雷は効かないってことなの?」
焦って天候棒を構えようとして、急に天候棒が手から弾き飛ばされた。
「ハッ・・・!」
急いで取りに行きかけて、冷汗が出た。
何かに縛られたように体が動かない。
背筋を悪寒が走る。
甘く見ていたと後悔した。
ヤバイ・・・。
たぶん・・・この敵はヤバイ・・・。
もう目の前まで迫った無傷の海賊船。
旗も帆も真っ黒で、うっすら入る紅い模様に不気味さが漂う。
自由に動かせた頭だけを上げて船を見ると、
船首に一人で立っている黒いマントを羽織った男が、
腕を組んで満足げにナミを見下ろし微笑んでいた。
**********
「ん・・・ぅうん・・・」
徐々に意識が戻ってゆっくり目を開ける。
薄暗くてハッキリしないが、どうやら室内のようだ。
ジワジワと体の感覚が戻るにつれ、ハッと先程のことを思い出し、
動かそうとした体が今だ自由にならないことに気付く。
改めて自分の体を見下ろすと、立ったままの状態で両腕を横に広げ、
大の字ではりつけに遭っているような格好だった。
立っているはずなのに足に体重は感じない。
よく見ると足元が床から少し浮いている。
段々薄暗さに目が慣れてきて良く見ると、
ビキニトップ一枚で素肌を晒しているお腹の辺りに、キラキラ光っているものが見えた。
もっと目を凝らすと、お腹だけじゃなく、腕の周りにもキラキラ光るものか絡まっている。
「・・・・・・糸?」
金糸のように光る細い糸が、何重も巻きついている。
じっくり見ればナミの体だけじゃなく周りにも張り巡らされ、
その糸が天井から床と壁に張られた網の様になって、ナミをそこに縛りつけていた。
思い出した。さっきの海賊に捕らえられたのだ。
意識を失う前。
海賊船の船首から見下ろしていた男が、ナミの船へと飛び下りてきた。
自由の奪われた体で身動きが取れず。
恐怖でただ睨みつけていると、男はナミに近寄ってマントの中に抱き入れ、
そのままいきなりキスをした。
恐怖と驚きでされるがままになってしまい、口の中に男の舌先が入って、
その直後、急に頭が痺れて意識が途切れた。
しまった。とんだヘマやらかしたわ。
自分の体を改めて確認する。ズボンは穿いてる。
どうやら意識を失ってる間は何もされなかったみたい、とひとまずホッとした。
しかしここからどうやって脱出しようか。
この絡まった糸は細く見えるのにビクともしない。
マズイ・・・。
天候棒も取られてしまったし。
とにかく上手く駆け引きしてこの糸をほどかせてから、
隙を見てなんとか逃げ出すしかないだろう。
でもそれもきっと容易にはいかない。
あの男、おそらく、悪魔の実の能力者。
ゴツゴツと足音が近づいてきて、部屋の扉が開いた。
急に明るく入り込む光に目を細め、部屋に入ってくる黒いシルエットを視線で追う。
黒いシルエットの男は、フンと鼻で笑いながらナミに近づき、目の前に立った。
ようやく男の顔がよく見えた。近くで見ると思ったより若い。20代半ばといったところか。
ルフィくらいの長さの、茶色くクセのある髪。彫りの深い顔に無精ひげが生えている。
目は切れ長で細いが鋭く光り、片方の口角だけ上げた薄い唇が妙に赤かった。
「うちの仲間の船2隻沈めるとは、やってくれたな。」
「・・・・・・」
まっすぐ睨みつけるナミに男は余裕の笑いを漏らした。
「ハハ・・・思ったとおり、いい女だ。この近くの島からお前を追ってきた。」
「・・・なにか私に用?っていうか、早くここから下ろしてくれない?」
「おれは気の強い女は好きだ。キレイな顔してるな、オイ。体も最高だ。
・・・今すぐ自由にしてやってもいいぜ。おれの女になるならな。」
そう言ってナミの顎を持った男の手を、顔をそむけて振り払った。
「誰が!」
男は気にするでもなく嬉しそうにまた口角を上げた。
「そりゃあすんなり落ちねえだろうな。泥棒猫さんよ。」
「!・・・私のこと知ってて狙ったわけ?」
「いや・・先に目を付けてから、後で気付いた。そのタトゥー、どっかで見たと思ってな。
一人でウロウロするとは、無用心じゃねえか。海賊王に捨てられたか?」
「・・余計なお世話よ。それより、あんた何者?能力者?」
「おれか?ああその通り、能力者だ。いわゆる蜘蛛男ってやつだ。
しかも毒蜘蛛でね。まあ殺すほどの毒ではなく痺れさせるんだが。
グランドラインにいた頃、海軍に掛けられてた賞金額は、2億だ。」
「・・・!」
とんでもないのに目を付けられたと、ナミは唇を噛んだ。
「蜘蛛みたいに巣を張って、それに掛かった綺麗な蝶をいただくのが趣味なんだ。
その糸は細いから柔らかいが、硬度は鉄以上だ。自力で抜け出すことは諦めろ。
下手をすると体に傷がつくぞ。」
吐息が掛かるほどに男の顔がグッと近づく。
「おれは蝶を綺麗なまま手に入れたいんだ。」
内心怯えるナミは唾を飲み込み、下唇をさらに固く噛んだ。
男が視線を下に落とし、指で胸の谷間にあるビキニの紐をピンと下へ弾く。
「!!」
ナミの両胸が男の前で大きく揺れた。
それを眺める男の顔を、眉をひそめて嫌悪の眼差しで見る。
身の危険を感じて心臓がドクドクと早くなり、冷汗が浮かぶ。
そのままツーっと素肌のお腹を男の指で下へなぞられ、へそに指先が入る。
「んっ!!」
その刺激にさすがに目を瞑った。
さらに指が下へと滑り下りていき、ズボンのウエスト部分に引っかかって止まる。
恐怖と嫌悪感で寒気が全身に走り、鳥肌が立って震えた。
「おれの女になれ。」
耳元で囁く男に、震えながらも歯をくいしばって睨みつける。
「・・・たとえ体を奪われても、あんたの女にはならないわ。」
きっぱり言い切るナミの頬に、男の鼻で笑う息が掛かった。
「いいねえ・・・今でも海賊王の女ってことか?」
「・・・私は男の所有物じゃないの。だれの女でもないわ。もちろん、海賊王のでもね。」
気丈に答えるナミに感心したような眼差しを向け、男がナミのズボンから指を離した。
「へえ。・・・さすが海賊王の仲間だ。すげえ気に入ったぜ。
あの男の仲間だったってことだしな・・・。
・・一時間やるよ。もう一度戻るまでに、覚悟決めるんだな。
次戻ったら、お前の体をいただく。
その後おれの女になるってんなら、体は自由にしてやるよ。
拒んだとしても、このまま縛り付けて死ぬまでおれのおもちゃになるだけだけどな。
じゃあ、楽しみにしてるぜ。」
そう言ってナミの顎を男が撫でるのにゾクッとして、顔を引きつらせた。
コイツ、ヤバイ・・・!
「放してよ・・・この、変態男!」
笑ってナミの顔を満足げに見た後、何も言わず男は背を向け部屋から去って行った。
バタンと扉が閉まり、また暗がりに戻る。
「ハァ・・・」
極度の恐怖と緊張から解放されて、ナミはだらんと頭をうな垂れた。
一時間。
危機的状況は去ったわけではなく、むしろさらに悪くなったようなものだ。
あの男が戻ってくるまでにここを抜け出せる方法が、思い浮かばない。
覚悟を決めるしかない。
死ぬまでこんなところに閉じ込められているわけにはいかない。
ルフィに、必ず戻るって約束した。
あの子も、私が迎えに行ってやらなきゃいけない。
勝手に自分一人で飛び出してきたのだ。
どんな目にあっても、なんとか生き延びて自力でここを抜け出さなきゃ。
必ず・・・生きて帰る。それは絶対守らなきゃならない約束。
大丈夫。
今までにも経験はある。
今はもう、あの頃の何も知らない小娘じゃ無い。
初めてのときは、体も心も痛くて、何日も泣いた。
こんなことなら、誰でもいいから海賊じゃない男にさっさと抱かれてればよかったと思った。
それからも何度かそんな目には遭った。
今思えば複数で襲われなかっただけマシだったんだろう。
体はその度痛かったけど、一週間もすれば痛みやアザは消える。
心も徐々に痛みに慣れて、何日も泣くことは無くなった。
それでも思い出すと辛くて、なるべく考えないようにした。
男とするのなんて、そんなものだと冷静に思うようになった。
ただ、生理がくるまでは生きた心地がしなくて、くると死ぬほど安堵して泣いてたけど。
そしてそれを乗り越えるたびに、うまく切り抜ける術を覚えて、そんな目に遭わなくなった。
逆にそんな男達を惑わせて隙を作るためなら、裸くらい見せてやった。
そうやって、8年間生き延びてきたのだ。
ルフィ達に出会ってから、いろんな意味で守られてきた。
ナミを守り、尊重してくれた男達。
そして、それまで辛いだけのものだと思ってたのに、
抱かれる喜びを、初めてナミに気付かせてくれた男。
でも今、ここには誰もいない。
私は、また一人。
自分で、乗り越えるしかない。
**********
ゴツゴツとまた近づいてくる足音に、心臓が跳ねた。
もう一時間経ったのだろうか。
とてつもない恐怖と嫌悪に吐き気を感じながら、なんとか心が折れないよう、
自分を奮い立たせる。
足音が止まり、扉が開いた。
薄暗い部屋がまた急に明るくなって、目が眩んだ。
部屋に入りまっすぐナミに向かってくる男を見ながら、ゴクッと唾を飲み込む。
相変わらず薄ら笑いを浮かべた男の顔が近づく。
「さて・・・覚悟は決まったか?」
一つ大きく深呼吸して、ナミは答えた。
「ええ・・・お望みどおり、あんたの女になるわ。」
「フン・・そうか。そりゃあ、よかった。思ったより物分りがいいな。」
「だからこの糸、ほどいてくれる?あんたの言うとおりにするから。
このままだと、あんたがして欲しいように、動けないでしょ?」
これが最後のチャンスと思って言ったナミの言葉に、男はニヤっとした。
「そうはいかねえ。まずはこのままお前の体を楽しんでからだ。そう言っただろ?」
この男に体を奪われるのは、やっぱりもう避けられないと悟った。
ナミは覚悟を決めた。
「わかったわ・・・もう、好きにすればいい・・・」
男から目線を落としそう言ったナミの頬をすうっと撫でて、
男の手がグイとナミの顎を持ち上げる。
強引に唇が重なり、ナミはギュッと目を閉じた。
目を閉じていれば。
この男だと思わなければ。
・・・ゾロだと、思えばいい。
口の中に舌が押し込まれて吐き気がする。
「うっ・・!」
イヤだ・・・やっぱり違う。
こんなんじゃない!
ゾロじゃない!
今更になって一人で飛び出したことを、とてつもなく後悔した。
みんなを連れて・・・気をつけてって・・・そうルフィは言ってくれたのに!
男が口に舌を突っ込み、無遠慮に手をナミの体に這わせていく。
ビキニごと胸をきつく揉まれ、ナミはさらにギュッと眉をしかめる。
必死に体をそらせて逃げようとしても、しっかり糸に巻きつかれて動けない。
男の手がお尻や背中からお腹に回って、掌でナミのお腹を撫で回す。
その感覚にゾワゾワと震えが走る。
「んんっ!」
イヤ!・・・触らないで!・・・誰か!
助けて・・・!・・・ルフィ!
徐々に両手が下へ向かい、ズボンのボタンが外された。
体がビクッとして、ついに涙が溢れる。
イヤ!助けて・・・!
お願い・・・
ゾロに抱かれた体を、汚さないで・・!!
男がズボンを引きずり下ろそうと、掛けた両手に力を入れた。
「イヤぁぁ!!助けて!ゾロォ!!」
その悲鳴に男がピクっと反応して、手を止め体を離した。
「!・・・ゾロだと・・?お前・・・海賊王じゃなくて、ロロノアの女だったのか?」
「ハァ、ハァ、・・ち・・ちが・・」
涙を流し息絶え絶えのナミに、男が詰め寄る。
「おい・・・正直に答えろ。ロロノアにはグランドラインで借りがあるんだ。
あいつの女だとしたら、なおさら興奮するってもんだ。・・どうなんだ?」
そう言いながら、男は自分のシャツを脱ぎ裸の上半身をさらした。
肩から胸にかけて、バッサリ斬られた傷痕があった。
「私は・・ハァハァ・・違う・・」
男がカチャカチャとベルトを外す音が聞こえる。
「正直に吐けよ。ほら・・・言えば止めてやるぞ・・・」
そう言ってナミの胸を掴み、またへその辺りを手で撫で回す。
「・・!・・・私は・・・ううっ・・!」
涙が溢れて止まらない。もう頭の中もグチャグチャだ。
「ほら!早く言え。・・このまま下へ手ぇ突っ込こまれたいか。」
男の手がへそから下へ滑り始め指先がズボンに入った瞬間、何かが弾けた。
「そうよ!私は・・・ゾロの女よ!!!」
男に言い放った。
その声は自分の頭の中でも響いて、不思議と何か吹っ切れた。
男は目を見開いてナミを見ていたが、徐々にまたニヤっとした顔に戻る。
「そうか、よく言った。クックッ・・・たまんねえな。・・誰が止めるかよ!」
男の手が、ズボンの中にグッと深く入った。
「イッ・・イヤぁーーーーー!!」
ズバァーーン!!!
ブワッ!と物凄い突風とその風圧が部屋の中を駆け抜ける。
「うっ!!」
「きゃあっ!!」
ナミは蜘蛛の糸が絡み付いて飛ばされなかったが、
その風の勢いで押された男が、よろけてナミの体から離れあとずさった。
「・・な!・・・なにが起きやがった?!!」
船室内で風なんか吹くわけが無い。一体・・・。
「ハァ、ハァ・・!」
天井に掛かっていた糸が切れてハラハラと床に舞い落ち、体の拘束が少し緩んだ。
さらにドーンと大きな音が立て続けに起きて、船が激しく揺れ、悲鳴が響く。
バタバタと走り回る音がいたるところから聞こえ、バタンッと部屋のドアが開いた。
「お、お頭!て、大変です!マストが・・マストが倒されて・・!」
「何だと?!おれがいねえとお前ら船も守れねえのか!
海賊の敵襲か?見張りはどうしてやがったんだ?!」
「そ、それが、海賊船なんてどこにも・・」
男達が話している隙に、ナミは緩んだ糸をほどこうと必死で腕を動かした。
少し緩んでいるものの、絡みつく糸の束から腕はなかなか抜けない。
「んっ!・・あっ!・・お願い!抜けて・・・!」
上半身さえ抜ければ、下はズボンを脱ぎ捨ててでも抜けられる。
もがいていると、蜘蛛男がナミに気付いてこっちへ歩き出した。
「てめえ、逃げようとするな・・・殺されてえか。」
男がナミに手を伸ばしかけ、急に顔色を変えて立ち止まった。
男の視線はナミを通り越し、後方を見ている。
後ろからスワーっと風が吹き、光が入る。
後ろは壁のはずなのに。
後ろでかすかに。
聞こえた、シャランと鳴る音。
胸がドクンと高鳴る。
まさか。
聞き違えることなんてない。
真後ろにいる。
ずっとずっと。
会いたかった。
刀を手に持つ男のシルエットが光に照らされて足元に見えた。
ビリビリと覇気が伝わってきて、体が痺れる。
「てめえ・・・近くにいやがったのか・・・!」
目の前にいる男もその強力な覇気に動けないのか、固まっている。
「汚ねェ手で、そいつに触るな・・・!!」
・・・ゾロ!
懐かしい声。
ずっとずっと。
聞きたかったその声に、目を閉じると涙の雫がこぼれた。
今まで溜め込んでた想いで、胸がいっぱいになる。
ヒュンと刀を振り回す音が近くに聞こえて、サァと体の表面を風が撫でる感覚が走った。
すぐに体の拘束が解かれ軽くなった。ゾロが糸を切ってくれたのだ。
腰が抜けてへたり込みそうになったところを蜘蛛男に掴まれかけて、
その寸前で後ろから腕を力強く引っ張られた。
蜘蛛男の手が届かず空を切る。
力強い腕と大きな熱い手に体を受け止められ。
気付けば、片腕でしっかりその逞しい胸に抱き寄せられていた。
何度も夢にまで見た、この愛しい感覚。
ゾロの匂いに、息苦しいほど胸が熱くなる。
懐かしいその横顔を見上げると。
間近に三連のピアスが揺れて。
「今度はなんとか・・・間に合ったか?ナミ。」
薄い唇がかすかに動いて、優しく掛けられた囁き声。
ナミと呼ばれて、震えた。
蜘蛛男がかざしていた手で、ナミに向かって糸を飛ばし腕が絡め取られた。
「あ・・!」
ゾロがナミを抱き寄せたまま、片手でサッとその糸を断ち斬る。
ゾロは男を見据えて刀を突きつけ。
その声が響いた。
「触るなっつってんだろうが・・!手出すんじゃねェ・・・。
こいつは・・・おれの女だ。」
「!!」
ずっとずっと欲しかった言葉。
その言葉に、ゾロの胸にしがみつき泣いた。
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(2011.09.11)