それぞれの胸の… 〜Ver.ゾロ〜

            

プヨっち 様


大きな街ともなると、俺たちのような海賊もいれば、山賊もいる。
その中にも、タチの悪い輩もいれば、そうでない輩も。


「ここが俺らの溜まり場だ!存分に飲んで行けよ、ゾロ!」


ひょんなことから、気のいい山賊たちと酒場で宴会をすることになってしまった。


鍛冶屋を探して歩いていると、街の女たち数人が柄の悪そうな男たちに絡まれて逃げ出せずに困っていた。
面倒くせぇ、と思いつつも見ていられず首を突っ込むことにしたが、俺と同じく首を突っ込んで女たちを助けようとしたのがこの島を拠点とする山賊の頭、ムサクだった。

その場は俺たち2人で10秒以内にカタがつき、ムサクは酒を飲み交わそうと誘った。


「懸賞金6000万ベリーのロロノア・ゾロが、どうもしけた面してんなぁ。悩めるお年頃ってか?ま、ここは一杯飲んで、パァーっと憂さ晴らししねぇか?」

「はっ、別に悩みなんざねぇが…飲むとあっちゃ、帰るわけにはいかねぇな」


最近美味い酒を飲んでいなかったこともあり、俺は二つ返事で誘いに乗った。




ムサクなんていうむさ苦しい名前の通り、顔は厳つく体も大きかった。
しかし20人ほどの山賊の頭として人望は厚いらしく、酒場に入った途端に仲間の大歓声に迎えられた。


「おぅ、お前ら!今日は客を連れてきたぜぇ〜!」

「お、お頭!!そいつは…ロロノア・ゾロじゃないですかい!?」

「ロロノア…!?…海賊かー?」

「ま、ちょいとした縁でな。おいゾロ、何でも好きなモン飲みな」


いつもの指定席なのだろう、ムサクはカウンターのど真ん中にドカッと座り、豪快に駆けつけの1杯を飲み干した。


「んじゃ、遠慮なく…」

「お、さすがいけるクチだな?さぁ、どんどん飲めや!うっはっはっは」


山賊20人+海賊1人の奇妙な宴会はますます盛り上がりを見せ、俺は久しぶりに何も考えないで思う存分酒を楽しんだ。



ナミを抱き締めた…あの夜以来ほんとんど、一人で飲むか全く飲まないかのどちらかだった。
一人で飲む酒はこれまでよりも不味かったし、ナミと二人で飲むとなればなお酒の味がわからないだろうことは、容易に想像できた。


ビールジョッキを10杯ほど空けた時、ムサクは酔って真っ赤になった顔をズイっと近づけてきた。

「な…なんだよ?」

「お前ェ、な〜んかしけた面してんだよなぁ。まだ19だろ、何も考えずに人生楽しめる歳だろぉがー!あぁん?」

「俺は元々、こういう顔なんだ。何も考えず…って、ウチの船長でもあるまいしな…俺にも色々あんだよ」


そう言って、目の前に置かれたばかりの11杯目のジョッキを飲み干す。


そうだ、色々と。
俺一人じゃ、どうにもできないことが…。


「はは〜ん、…女だな?そうだ、女だろ?!」

「なっ…」

「うっはっはっはっは、図星か!!おい、野郎ども!ゾロは女の悩みがあるらしいぜ〜?聞いてやろうじゃねぇか!なぁ?!」

「余計な世話だっ!!」


そう言うも、山賊たちがはやしたて、ムサクは興味津々の顔を近づける。
この雰囲気に逆らう気力もなく、俺は事の次第を話すことになった。


旅の恥は、かき捨て…っつーしな。


言い訳がましく呟いてみるが、船の中では決して話せないことなので誰かに聞いてもらうことを、内心嬉しく思っていたのかもしれない。

嬉しく、と言うよりも、気が楽になれるのではないかと。



「あーっと…その、なんだ。ちっ、喋るのは得意じゃねぇんだ…」


アイツでもあるまいしな…。
そう思いつつも、とりあえずの経緯を大まかに説明した。


「ほぉ〜、で、要するに…お前はその女を、欲しいってことだろ?」

「う…欲しいっつーか…その…」

「ハッキリせんヤツだな!?欲しいのか、欲しくないのか…どっちだ?欲しいんだろ?」


声を荒げ、迫ってくるムサクの迫力に圧倒されながらも。
俺はその単純な問いに、あぁ、と頷いた。


「なぁ、ゾロよ。何を悩むことがあるってんだ?欲しいモノは、手に入れる!これは海賊も山賊も同じだろ?」

「あぁ…そうだな」

「うっはっはっはっは!!だったらな、それが金でもどんな宝でも…女でも、だ!」


酒場中がその言葉に盛り上がり、歓声が飛ぶ。
多くの者がムサク山賊団の歌とやらを合唱し始め、ムサクは満足そうに笑った。




欲しいモノは、手に入れる…。


ムサクの言葉を反芻しながら、12杯目のジョッキを空ける。




「お頭も、明日は惚れた女を手に入れる予定なのさ!」


陽気そうな、俺より若そうな男がグラスを片手に近づいてきて横に座った。


「…どういうことだ?」

「へっへっへ。明日の10時、丘の上の教会で結婚式があるんだ。お頭は…花嫁強奪を考えてるってわけさ」

「そりゃまた…悪趣味なこって」


これから幸せになろうって花嫁を、強奪とは。
気のいいヤツかと思っていたが、買い被り過ぎだったってことか?

あまりいい顔をしなかった俺を見て、その男は慌てて続けた。


「何も、いきなり強奪ってわけじゃないさ。半年前まで、リーナは…花嫁はお頭の女だったんだ。それが最近わかったことだけど、色んな行き違いがあって…」


その男の話によると、時間的なすれ違いや無意味な誤解が度重なり、ムサクたちは別れるはめになったのだという。


「それでお頭は、ドラマティックに結婚式での花嫁強奪を計画してるんだ。そんな状況に、絶対女は弱いだろ?きっと上手くいくはずさ!」


明日の大仕事に向けて鼻息も荒げに、その男はあまり強くはないだろう酒を一気飲みした。




「ゾロ!!健闘を祈るぜぇ〜?!動かにゃ〜何も始まらんからな!女の一人くらい、モノにしてみせろや!」

「てめーもだ!明日、しくじんなよ?」

「お前に言われないでも、わかってらぁ!」


船に帰ると言うとまだ飲んでいけという声が上がり、楽しげな雰囲気の続く宴会に後ろ髪を引かれながらも酒場を後にした。



ムサクの言葉が、何度も頭の中で繰り返される。



欲しいモノは、手に入れる。

動かなくては、何も始まらない。



それらは、随分とありふれた言葉のはずなのに。

この胸のど真ん中を、強かに鞭で打つような力を持っていた。




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(2004.05.18)

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<管理人のつぶやき>
ゾロ編。
さぁてゾロ、ハッパかけられましたよ〜v
そしてオリキャラのムサクは、ナミ編で登場したリーナの元カレでした。
不思議と繋がっていくオリキャラ達・・・。
次はウソップ編だ!

 

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