愛だとか恋だとかそんな綺麗な言葉は似合わない
想いが想いの邪魔をして想いを素直に紡げない
何も始まらず終わる事もせず想いは常に平行線
この想いはいつ伝わるのいつ届くのいつ響くの
恋が芽生えて枯れるのは一瞬
愛が産まれて息絶えるのは一瞬
だけどもしもその一瞬でこの想いを紡げることが出来るなら
逢えることが出来るなら………
逢人 −5−
ラプトル 様
皆それぞれの里へ還って行く。皆が蒼い水平線に溶けて行く。
船は船長と共に。
始まりはここ。
”東の海”
ここで私は命をあいつに救われた。村をルフィ達に救われた。
何もかも始まった場所で何もかも終わるのだ。
ここであいつと出会い離れてそしてあいつに逢いに行く。
何とも皮肉な運命。
本当は逢いに行かない筈だった。
でも今あいつに逢わなければ後悔すると思ったから。
三年も募って積もった悔しさやこの想いをあいつに叩き付けよう、そう思った。
この曖昧な関係に終止符を打つ。
この三年にあいつへの想いを捨てようとした。
でも無理だった。
捨てようとすればするほど想いが募る。
離れてわかった。あいつの存在に。
泣く事はしなくてもやっぱり虚しさ寂しさが漂っていた。
曖昧な関係だったからこそ余計にそれらが漂っていた。
だから。
それらを吹き飛ばしたいから。
だから私はあいつに逢いに行く。
決着を着けたいから。
そうすれば何かが変わる筈。
あいつも。
私も。
「ここね」
遂に辿りついた。
あいつの故郷に。
港からの路を歩く。辺りを見れば緑色しかない。緑と聞くとあいつを思い出す。
あのマリモ頭を。
自然が溢れていて静かで緑が綺麗で。
とても安らぐ島だと、村だと思った。
ここにあいつが暮らしている。
今日まで三年間。
自分の事を少しでも想ったりしただろうか。
逢いたいと少しでも想ったりしただろうか。
わからない。
それとも自分を忘れてしまったのだろうか
わからない。
だからその答えを知りたくてあいつに逢いに行くのだ。
何も始まらなかった全てを始まらせるために。
ここはとある剣術道場。
この村に一つしかない道場。
しかし入門の声は後を絶たない。ここの道場にはかの大剣豪
”ロロノア・ゾロ”が居ると聞いたからである。
それにここの道場主の人柄も良いせいで門下生が続々と増えて行く。
何かが見えた。
道場…。
どうしてかあいつが居るのかもしれないと思った。
見れば恐らく剣術の道場。そこにあいつが居るのかもしれないと。
ゆっくりゆっくりと道場に足を進める。
すると。
前から男が歩いてきた。
随分と前からこちらには気付いていたらしい。
男と近づいた。
何だろう。とても懐かしい感じがする。優しくて強くて何処からでも見守っていてくれているような。
男は少し微笑んだ。
そうか…ベルメールさんに似てるんだわ…
あのいつも笑顔を絶やさなかったあの人に。
強くて優しかったあの人に。全て包んでくれるような。
似ているのだ、あの人に。
「道場に女性とは珍しいですね」
男が口を開いた。
その声も口調も優しく。
「ええ」
自然と笑顔と共に声が出た。
この人と話しているとまるであの人と話をしているような感じがするのだ。
「ゾロ…ですか」
これには驚いた。
何も言っていないのにどうしてわかったのだろう。
「あの子がね、いつか女の人がここに来ると言っていたのですよ」
その時のあの子の表情をね今も忘れませんよ。
あんなに哀しくて虚しい表情を。
そう言って男は道場へとあいつを呼びに向かった。
「声を出せ!!」
門下生の声よりでかい声で男は叫んだ。
この村に還ってここに住んでここで剣術を教えて。
そして三年。
こんな平穏な暮らしをするとは海賊時代には夢にも思わなかった。
だがここの暮らしも悪くない。むしろ暮らしやすい。
まさか自分が剣術を教えるとは。
まあいいさ。こういうのも悪くない。
「もっと腹から声を出せ!!!」
そう叫んだとき先生が帰ってきた。
「やめ!!」
その声と同時に稽古が止まった。
「ゾロ、お客さんだよ」
「客?」
俺に?
誰が訪ねてくるというのだ。
こんな田舎に。
「外で待っているよ」
「…はい」
一体誰だ。俺を訪ねてくる奴は。
扉を開けた。
そしていた。
訪ね人が。
馬鹿な。何故こいつがここにいる。
忘れかけていたと云うのに。
忘れようとしていたのに。
ここの暮らしに任せて忘れようと思っていたのに。
それなのに。
どうして今になって逢いに来た。
この馬鹿女が。
扉が開いた。
そしていた。
こいつが。
やっと逢えた。この男に。
ずっと逢いたかった。
あんたに。
忘れようとしたけれどやっぱり忘れる事が出来なかった。
どう思われたっていい。
私は逢いたかったの。あんたに逢いたくて逢いたくて。
「何のつもりだ」
今更。ここへ。
逢いに来たとでも云うのか。
「決着を着けに来たの」
あんたと私との決着を。
この曖昧で微妙な関係に。
あのままの形で終わりきれると本気で思ってるの?
どうすれば決着が着くかもう知ってるはずよ。あんたも。私も。
お互い不器用でつまらない意地を張って。
何も言わずにここまで来て。
「今更虫が良すぎるとは思わねえか」
あの時離れてその時全て終わったんじゃねえのか。
確かに俺達は曖昧な関係だったかもしれない。
何も言わずにここまで来てしまったのかもしれない。
だがそれはもう昔の事。それを忘れようとしていたのに。
二人別々の道を歩んで行くと思っていた。
確かにこいつがここに来ると予想はしていた。
こいつの事だから。俺が勝手にこいつを置いて行ったから。
だから来るとそう踏んでいた。
そして来た。
だがやはりこいつは来ないだろうと来るわけがないとそう思っていた。
だからこの状況に少なからず動揺しているのは確か。
「なら何が始まるの。私達は」
確かに虫が良すぎる。あの時必死で引き止めたらこいつは止まっただろうか。いや止まらないだろう。
前だけを見て突き進んで行くから。後ろなんか見ないから。
「私はあんたに逢いたかったわ」
我慢できなかったの。
放っておいたら想いが胸から溢れ出そうで。
それが怖いから。
あんたが離れて。その時初めて私の中であんたの存在が大きい事を知って。
ルフィとはまた違う私の中のあんたの存在。
そうルフィが”人”ならあんたは”男”。
でも
「私はあんたがわからない」
あんたの全てが。今何を思うのか。何を考えるのか。
そこまで知りたいと思うのは私の欲張り?
ねえ何か答えてよ
何か言ってよ
ここまで来ても何も言ってくれないのあんたは
だからこんな関係がここまで続いたのよ
曖昧な関係が
「俺は…俺がわからない」
眼を瞑った。忘れかけていた、忘れようとしていたこの女を。
だがこの三年間女のことが一度でも頭をよぎらなかった事があるか。
いや、ない。
思い出として残るにはあまりにも腑に落ちない。
それはわかっていたのだ。もう三年前のあの時に。何と言えばいいのか。
でも言えなかった。あいつの顔を見たら。何も言えなくなってしまった。
照れくさいとかそういうことではない。
言ってしまって何かが変わる事を恐れたのかもしれない。
だからここまで来てしまった。
本当は最初からわかっていた。女を忘れる事など出来はしないと。
女が自分に逢いに来る事を。
そして
自分が女に逢いたいと想うことを。
「俺はお前に逢いたかった」
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(2005.05.03)Copyright(C)ラプトル,All rights reserved.