ファーストキス   −2−
            

ソイ 様




「・・見ない顔だけど、旅行者か?」

見詰め合ったままの沈黙の後、ややあって少年ゾロは地面に突き刺していた刀を鞘に戻した。
だがナミはそれには答えず、じっとゾロの顔を凝視している。ぽかんと開けた口。見開いた瞳。もしや倒れたときに頭でも打ったかと心配になったゾロが、少しためらった後に、起き上がるときの支えにと手を伸ばした。
「・・怪我、したのか・・?」
「・・・」
「・・立てないのか?」

いつまでたっても目の前の手を取ろうとしない女にかなりの不審と少々の苛立ちを抱きながら、ゾロはさらに手を伸ばす。
「・・おい!」

「か、かわいい〜〜〜〜〜〜!!」

跳ね起きたナミは目の前の手をがしっと両手で掴み、ハートマークを飛ばしながら幼な姿のゾロに飛びついた。
仰天したゾロはとっさに身を引くが、つかまれた右手はナミの手の中で鬱血せんばかりだ。

「チビゾロよ〜〜! いや、チビってほどじゃないわね。なんか、ほんとやんちゃ少年って感じ! ね、ゾロ、あんた今、何歳?」
「じゅ、じゅうに・・」
その勢いに気おされて本当のところを答えてしまってから、おい、チビってなんだよとゾロはむくれ顔になる。その膨らんだ頬を、ナミは指でつんつんとつついた。ぷにぷにとした感触に、ナミの指先が踊る。
「きゃー、やわらかーい。すべすべー。顔がちっちゃーい! でももうおでこは結構広いわねー」
「なんだよそりゃ!」
実はちょっと気にしているところを突かれて、とっさに声が荒くなる。だがそれに堪えるナミではない。
ゾロの全身をしげしげと眺めて、さらに嬉しそうに笑った。
目の前のゾロは、ナミよりも少し身長が低い。いつも見上げるように見るその顔を、角度を変えて見下げればまつげの長さと濃さに気づく。
体つきは細く、子供のふっくらとした体型から急激に身長が伸び始めた頃の、筋肉のつきが間に合わない、危なげなはかなさを感じさせた。特に前あわせの黒い胴着から伸びた、鎖骨と首筋のラインはなでなでとさすってみたいくらいだ。

「いい夢〜。あの筋肉ダルマのあいつから、こんな可愛い少年姿なんて、よく想像できるわ〜、自分」

きらきらした瞳で迫られ、ぶしつけに全身をじろじろと眺められ、さらに勢いあまって腕やら頬やらを無遠慮に触られて、ゾロはたじろいで数歩じりじりとずり下がる。

なんだこいつ、頭がおかしいのか! 変態か!

大声でそう叫んでやりたいのだが、肌を撫でる指先の冷たい感触に頭の中が動揺して、よろよろと顔を引きつらせながら後ろの竹に背中をぶつけた。
その衝撃にすこし我に返って、ゾロはポツリと呟くようにようやく言う。
「・・手ぇ、はなせ」
「ええー? もう?」
今度はゾロの細くて長い指の感触を堪能していたナミの手を、ゾロは真っ赤な顔でぶんぶんと振り払った。
「もう、じゃねえ! いいから、おまえはなんなんだよ! いったい!」
ナミの手が離れた瞬間に、ゾロは三歩ほど飛び退って「これ以上近寄るな!」と断言した。





「で、おまえどっから来たんだ」
「どっからって・・」
「ふもとの村を通ってきたのか? だったらこの竹林には危ないから入るなって言われただろ?」
「危ない・・?」
ようやく落ち着きを取り戻したゾロは、けして三歩以内にナミを近づけないように警戒しながらも、矢継ぎ早に質問を重ねた。

ナミとしては、どうせ夢なんだから、そんな追求しなくてもいいのに。と思いもするが。

要領の得ないナミの回答に、少し首を傾げていたゾロだが、やがてそれも時間の無駄だと思ったのだろう。
「とにかく、何でもいいからさっさとここから離れて村に帰れ。怪我しても知らないぞ」
そう言い残して、霧の竹林の奥にすたすたと歩を進めようとする。
「ま、待ってよ!」
ナミは慌てて追いすがった。
「村って・・?」
その質問に、さらにゾロは眉をしかめた。
「村からここまで来たんじゃないのか? おまえみたいな格好の奴がここに来れるような道は、あの村からしか伸びてないぞ。・・違うのか? 本当はどっから来たんだ?」
ゾロはナミの足元のサンダル靴を見ながらそう言った。

ナミにとって、気づいたらここにいた、というのが本当のところなのだが。
何しろここは夢の中。
そのスタート地点がここなのだから、それより前と問われればグランドラインの船の上、と答えるしかない。

「えー・・と」
そう言うべきか否かを迷っていたら、ゾロはその様子になにやら納得した様子で、ぽんと両手を叩いてナミを指差した。

「迷子か!」

とたんに、ナミの顔面が能面のように硬直する。

・・夢の中とはいえ、可愛らしい少年の姿をしているとはいえ、この男にそう言われるとは。
・・なんという屈辱か!

額に青筋を立てて言葉を失っていると、ゾロは何が嬉しいのかニコニコしながら、懐に手を入れて折りたたんだ紙片を取り出した。
「なんだ、そうなら早く言えよ! この辺の道はややこしいんだよなー。俺もたまによく分からなくなるんだ」
決して実際は「たまに」じゃないだろう・・。
それに道は一本しかないとさっき自分で言ったじゃないか・・。
ナミの心の突っ込みはもちろん聞こえる訳も無く、ゾロは手にした紙片を広げていく。
「ほら、地図を見せてやるよ。これで帰れるだろ」
自慢げにゾロが差し出した薄い紙には、細い墨の線でこの竹林の簡単な地図が描かれてあった。
「あんたが描いたの? これ」
ナミは眉を寄せてゾロを見やる。東西南北と前後左右の違いが分かっていない彼の筆によるものならば、この地図は有効どころか実害があるくらいだが。
「俺じゃねえよ。俺がここに入るときに、先生が描いてくれたんだ」
「先生って?」
「俺の剣の先生。今はふもとの村にいるけど、普段は隣山で剣術道場を開いてる」
そう言って、ゾロは地図の右下を指さす。三つほどの小さな家の形が描かれたその部分の上に、達筆な字で「村」とある。
そこから北西に一本の道が伸び、北から南に流れる川をはさんで、後は紙いっぱいの広大な竹林。その竹林の中に、いくつか細い線で目印らしいものが描かれていた。これに沿っていけば確かにその村まで行くことができるだろう。

「ふーん・・で、現在地は、どこなの?」
紙片から視線を上げて、ナミはゾロを見た。

ゾロはきょとんとした顔で答える。

「さあ?」

「・・じゃあ地図の意味がないじゃない!」
すでに突っ込みは叫びに変わる。

「そうなのか?」
いっそ天晴れなほどに、あっけらかんとゾロは答えた。
「そうよ! あんたは何のためにこの地図持ってんのよ!」
「そりゃ、先生がいつも持ってろって言うから・・」
「持ってるだけで見てないんでしょ!」
「だって、このとおりに行ったって、ちゃんと行けた試しがねえから・・」
「見方も分からないんじゃ、当然じゃない!」
「・・・だって・・・」
地図だの海図だのに妥協点を知らないナミはついむきになって言い募ってしまった。
はっと気づいたときには、ゾロは顎を引いて少し頬を赤くし、唇を一文字に噤んで、拗ねたように、ナミをじっと見ている。

その様子に、いじらしさがにじんでナミの胸はきゅんと鳴った。

・・か、可愛い・・・。

大きいゾロはこんな顔をナミには見せてくれない。
特に二人きりの時はいつも余裕綽々でむかつく位だ。

どきどきと高なる鼓動に任せてつい飛びつこうとすると、ゾロは「ぎゃあ」と叫んで脱兎のごとく後ずさった。
「三歩以上近寄んなって言ったろうが!」
「いったーい・・夢の癖に」
頭から地面に突っ込んだナミは、その赤くなった額を手で押さえてうめき声を上げた。





どうやらすっかり怖がらせてしまったようだ。
ゾロはナミとの間に竹を挟んで、その向こうに隠れて威嚇するように牙をむいて睨んでいる。

まあ確かに、あんな風に急に抱きついたりするのはまずかったかも。と、ナミは少々の羞恥心を自覚した。
夢の中とはいえ、ちょっとテンションが高かった気がする。重たい気持ちを残したまま眠ってしまった、その反動かもしれない。

しかし、一旦少年ゾロに目をやると、その愛らしさに見ているだけで頬が緩むのが自分でもよく分かった。
ちょっと手を伸ばせば、とたんに飛び退って竹の背に隠れてこちらを睨む様子が、小さな猫の仔が警戒しているようで、おもわずねこじゃらしをふりふりしたいくらいだ。
「・・ごめんごめん。もう何もしないから、もっとこっちに出てきてよー」
ナミは苦笑してそう話し掛けるものの、ゾロはすっかり機嫌を損ねて、そのまま何も言わずに反対方向を向いて歩みを進めた。
だが慌ててナミがそれを追うと、距離だけは一定を保とうとするが、本気で置いて行く気はないらしい。歩きながら、ちらちらと伺うような視線を、後ろを付いて来るナミに向ける。とはいえ、この闖入者の扱いに困るように、口元は真一文字に結んだままなのだが。

「ねえ、あんたはどこに行こうとしてるの?」
「・・・」

「あんたもその村とやらに帰るの?」
「・・・俺はまだ用があるから」

「用ってなあに?」
「・・・おまえには関係ない」

「じゃあとりあえず、今はどこに向かってるの?」
「・・・もう日が暮れそうだから、川のほとりの猟師小屋に、帰る」

「川? さっきの地図にあった大きな川?」
「・・・そうだよ」

「じゃあ方角が違うわよ」
「!!」

はっとなって振り向いたゾロに、ナミは意地悪くにやりと笑った。
「さっきの地図だと、川は竹林から東に、南北をつっきって流れてたじゃない。あんたが向かってる方向は西よ。ほら」
ナミはスカートのポケットから方位磁石を取り出す。グランドラインに入ってからは磁場に左右され、無用の長物になっていたものだったが、愛着のある物だ。そう簡単に手放せず、ずっと肌身はなさず持っていたのだ。
ゾロはそれを見て、すこし間を置いてナミを見て、さらに180度反転した。
「こーら、待ちなさいってば」
先ほどよりスピードの上がったゾロの足を、ナミは笑いながら追いかける。またほっぺたを膨らましているのが後姿で分かるくらいだ。
ずんずんと足を踏み鳴らしてゾロは進むが、ある地点でぴたりと止まり、しばらく立ち止まった後、顔だけをナミの方に振り向かせた。
「・・のか?」
「え?」
小走りに駆けて、ようやく追いついたナミが何事とか尋ねる。ゾロはもごもごと口篭もって、何かを言いかけて、止める。じっとナミを見て、もう一度聞いた。
「・・分かるのか?」
「何が?」
「・・こっから、小屋までどうやって行けばいいか、分かるか・・?」
「もしかしてずっと迷子だったの?」
「うるせえな!」
ゾロは顔を真っ赤にして叫ぶ。ついに溜まらずナミは噴出してしまった。そんなナミにゾロは声を荒げて食って掛かるが、両手で顔を押さえ、「くるし〜」と窒息寸前まで笑い転げるナミは、そのままゾロの手から地図を取り上げる。
「・・はっはっは・・。あんたってば、もう〜。チビだろうが夢だろうが関係ないのね。・・・で、その小屋とやらはどこよ。描いてあるの?」
ここだ! と、幾分やけくそ気味にゾロが指し示したところは、村から竹林への道と、川がちょうど交差する地点の丸印だった。◎で印が打たれていて、これも達筆に「猟師小屋」と書かれている。
「ああ、それなら簡単よ。とにかく東へ出て、川沿いに北へ向かえばいいじゃない」
「・・現在地が分からなくてもいいのか・・?」
不思議そうにゾロは問う。さきほどナミに言われたことが頭に残っているようだ。
ナミは笑った。
「まあ『迷子になったら其処を動くな』ってのは鉄則だけど、この地形ならラッキーよ。地図もあるし、方角は分かる。とにかく東。川沿いにいくつか目印があるから、其処まで出ればなんとかなるって!」
ナミは地図の目印をいくつか指し示す。ゾロも地図を覗き込んで、ナミが指差すポイントを目で追うが、いまいち理解はできないらしい。口をへの字にして、首を傾げている。
「さ、じゃ急がないと! 日が暮れたら面倒よ!」
さっとゾロの手を取って、ナミは方位磁石を片手に歩き始めた。ゾロは慌てて手を振り払うが、「また迷子になっちゃうでしょ」とナミに再度握り返される。

「・・言っとくけどな!」
ゾロは先を歩くナミにやけになって怒鳴った。
「なあに〜?」
「・・俺は、迷子じゃねえからな!」
「どこのお口がそんなこと言うの〜? これが迷子でなくてなんなのかしら〜?」
「・・ちょっと、帰り道が分かんなくなっただけだろうが!」
「それを迷子と世間は言うのよ」
「それを言うならてめえだって迷子なんだろ!?」
「あーら、自分で認めたわね。迷子だって」
ナミはくっくっとこらえきれない笑いを洩らした。



「ねえ。さっき言ってた、用ってのはなんなのよ」
「ああ?」
歩みをしばらく進めていく間に、いつしか落ち着いた空気が二人を包んでいる。ナミはゾロの手をしばらく前に離していた。握り締めた手があまりにも動揺を伝えてきたので、苦笑しながら離すと、今度は飛んで逃げる様子はない。
「用があるから、村にはまだ戻らない・・って」
「ああ、そうだよ。俺はまだ村には戻れない・・というか、もう戻らねえんだ。この竹林で一仕事終えたら、そのまま東の港から、海に出る」
ゾロはナミの隣に並んで歩きながら、そっと左腰の三本の刀のうち、白い柄に触れた。

「海のどこかに、世界最強と呼ばれる剣士がいるって聞いたんだ」
その柄に触れた手が、わずかに力むのをナミは見て取った。
「そいつに会って、勝負を挑む。親友との約束を果たすんだ」
「約束・・」

次に紡がれる言葉は、すでにナミには見えている。
命をかけた戦いのさなかや、夜毎の甘い睦言を交わした後の枕語りで、彼は何度も自分に話してくれた。
それはゾロにとって魂に刻まれた聖句であり、彼の力と胆力の源のような誓いなのだ。
「俺は世界一の剣豪になるんだ・・」
だが、その崇高な響きはたとえ夢の中とあっても変わらず、ナミの胸に同じく響いた。

「鷹の目、っていうんだけどな。そいつ」
「うん」
「おまえ、旅をしてるんなら、もしかして知らないか?どこかの海を一人で彷徨ってるらしいんだ」
「知ってるわ」
「本当か!?」
「私は直接見ていないけど、その鷹の目と戦った男を、知ってる」
「そいつは勝ったのか!?」
「ううん」
ナミはゆっくりと首を横に振った。
「負けたわ。もう手も足も出ないくらいの、完敗だったって」
「・・強いのか・・? その、負けた奴は」
「強いわ。バケモノよ。東の海じゃ、間違いなく最強ね」
「・・それでもかなわねえのか・・?」
「・・それでも、いずれはかなうようになるわ」
「?」
「だって、あいつは諦めていないもの。負けて、死にそうになるくらいの傷を負ったけど、今でも諦めずに強さを追い求めてる。だから、必ず、いつかあいつは鷹の目を倒すわ」
ナミは誇らしげにそう言い放つ。恋人の、にやりと笑った不敵な顔を思い浮かべながら。
その言葉に、少年ゾロはやや不満そうに反論した。
「・・その前に、俺が鷹の目を倒す」
「あら、言ってくれるわね」
「そいつに伝えとけよ。早くしねえと、俺に取られちまうぞ、って」
「いいわ。夢から覚めたら、ちゃんと言っとく」
「ゆめ?」
またしても出てきたナミの不思議な言葉に、ゾロは唇の端をゆがめたが、少しして気を取り直すように話を続けた。

「で、・・本当はもうちょっと早く出発しようと思ってたんだ。でも、先生にその事を言ったら反対されて」
「迷子になるから?」
つい、ナミは事実を言い当ててしまった。
「ちげえよ! ・・それも言われたけど、先生は、まだ俺にそれだけの力量がねえって言うんだ」
「まあ確かに、そんな危険なことがすんなり許されるような年齢じゃないものねー」
「年齢は関係ねえよ。でも、いま村で修行を続けていても、もう近くに俺にかなう奴なんて居ないんだ。相手もいないのに、いつまでもここに居てもしょうがねえだろ? そしたら、先生に条件を出されたんだ。それほどまでに自信があるのなら、その証拠を見せろって」
「証拠?」

「・・この竹林に虎が出るんだ。ただの虎じゃねえぞ。人喰いだ」
ゾロの声が、意識せずに低くなった。
「もしそいつを倒せたら、旅立ってもいいって、先生は言った」

「・・人喰い・・」
さわさわという竹の葉の音が、やけに静かに響く。ナミは急に感じたうそさむい気配を、振り切るように頭を振った。
話に集中して気づいていなかったが、先ほどから霧が濃くなってきたような気がする。白いベールは徐々にその厚みを増して、その向こうが視認できない恐怖が、少しずつナミの心に降り積もっていく。白い霧の、その向こう、・・何かいたらどうしよう、と。
ゾロはそんなナミの様子に気づかず、淡々と話を進めた。
「ああ。普通の虎より全然でかいし、妙に頭もいい。こっちが殺気だって近づくと、すぐに逃げちまう。もう10日くらい、見つけては追い回し、逃げられては探し当て、の繰り返しだ」
「近寄ると、逃げるの?」
少しホッとするようなナミの呟きは、すぐにゾロに打ち消された。
「こっちは仕留めようとしてるからな。おまえみたいな無防備な奴だったら、まるごと一飲みだよ。現に、ふもとの村人が何人も喰われてる。楽に狩れる獲物を向こうは選んでるってことだ」
「そ・・そう」
ナミは引きつった表情を浮かべ、ぱたぱたと手を振りながら、さりげなくゾロの手を取ろうとした。
「・・なんだよ」
先ほどみたいに逃げたり慌てたりする様子は見られないが、ゾロは不審そうな視線をナミに向ける。
「・・いいじゃない。手、くらい、繋いでも・・」
「・・」
「・・ねえ。あんまり、こーゆー夢は、ちょっと・・」
辺りをおどおどした目で窺うその表情で、ようやくゾロはナミが怯えているのを悟ったようだ。おずおずと差し出してきたその手を見て、得意そうな、そして見覚えのある嫌味な笑いを顔に浮かべる。
「なんだ? 怖いのか?」
立場が逆転したような、そんなからかいを含んだ表情に、ナミは思わずキッと睨みつけるが、風で動いた葉の音にビクっと身体を振るわせれば、そんな虚勢はすぐに見破られてしまう。少し頬が熱くなるのを自覚して、ややムキになったように、強引にゾロの手を取ろうとした。



その刹那。

・・グルゥ・・。

小さな、しかし重量感を持った低い唸り声が二人の耳を打つ。



自分に伸びてきたナミの手を思わず払い落したゾロは、そのまま後方の霧のベールを振り返る。

「−−いた。そこだ」

一息、大きく吸い込んだ。




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(2005.03.28)

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