「ゾロ、明けましておめでとー!」
「うぇーい、はっぴーにゅーいや〜!!2009年っ!丑年ッ!頼モ〜っ」

「うっせぇよてめぇら新年早々・・・ヒトん家押しかけて何の用だよ」

「オラ、寝正月なんか高校生のやることじゃねーって!初詣行くぞ初詣」
「あと福袋買うから荷物持ちして!」
「あーあ、今年も皆で初日の出見るのは叶わずか・・・お前大晦日くらい起きてろよな〜」
「公園で餅つき大会もやってんの知ってるだろ!餅食いに行くぞ餅!!」
「アウトレットでバーゲンなのよッッ!!」
「うっしゃ、とにかく行くぞゾロ!!ダウン持ってこい!」

「・・・頼む、どれか1つに絞れ」





「毎年すごい人よね〜、ここ」
「つーかナミ・・・何でお前1人チャリで、俺ら4人はここまで走らされたんだ?」
「あら、お正月ボケして身体ナマったらヤじゃない。少しは運動しなきゃ」
「元日からロードランはキツイんだよ!!」
「あぁ、でもたまにはこれくらいのランニングもいいかもな。練習メニューに組み込むか?江ノ島まとか短すぎるだろ」
「そうだなぁ」
「や〜め〜ろ〜〜〜〜・・・もう膝が笑ってるから!トチ狂ったみてぇに大爆笑だから・・・!」
「オイ、とっとと参拝しちまおうぜ」
「俺は神には祈らねぇ・・・」
「ゾロ、他のどこで言おうと鶴岡八幡宮でその台詞だけはやめてちょうだい」
「おみくじ引こうぜ、100円のやつ」
「あと絵馬も書かないと。ハンドで勝てますようにって」

「あ、おとそ」
「ストップ、ウィーアー未成年」



「元旦って何故かいつもお天気よね。初詣日和」
「いい年になんじゃねぇか」
「でも俺ら、今年厄年だけど」
「うそん!」






Fly to catch the moon  −4−

            

高木樹里 様


「で、冬季大会はどうだったの?」
クラスで仲の良いビビのが、にっこり微笑んでそう言った。


部活はオフの日の帰り、この後マックでバイトだと言うビビと一緒に、学校前の坂を下りていた。
ナミは、ルフィ、サンジ、ウソップと共に、ゾロを家から引っ張り出して、八幡宮に初詣に行ったときの話をしていた筈だった。
なのに何故、その言葉が来るのか?

「・・・今までの話の流れで、何でその言葉が来るの?」
「だって、男ハンの話聞いてたら、試合があったの思い出しちゃって。必勝祈願してきたんでしょ、早速ご利益あったの?」
「・・・そこまで気の利いたカミサマはいないわよ」

男子ハンドボール部、略して男ハンは、今年は強い強いと言われつつも、なかなか実績を上げられずにここまで来てしまっていた。
残された時間を思うと、ナミはこういった、既に終わってしまった大会の話はあまりしたくないのだ。
取り戻せない上に、『終わった』大会というのは、『負けた』大会、と同義語である訳で。


「善戦したんだけどね〜・・・さすがに相手が悪かったって言うかな」
「そこは、どうしようもないもんね」

試合直前まで『下剋上!』と息巻いていたが、そこは流石に県下王者、ダブルスコアで完敗だった。


けれど、この試合が非常に意味のあるものになったのは、ルフィ達のこれからにとって大きな財産だった。
王者七大にも、東高の攻撃がいくつかは通用することを、身をもって証明してみせたのだ。
最も高い壁にぶつかることで、彼らは、自分達の強み、穴、得点源、失点のポイントなどを、身体で教えられた。

「次は勝つから大丈夫」
「どこまでも前向きだね、相変わらず」
ナミの力強い台詞に、ビビが笑う。


学校の最寄り駅は、江ノ電らしい、単線・無人・改札無しの三拍子が揃った小さな木造のホームだ。
相模湾のパノラマが視界に飛び込んでくる、ロケーションは抜群ながら、便利さはこれっぽちもない、典型的な田舎。
それが好きだと言うのだから、皆この高校を選ぶ訳だが。

狭い駅なのだから、見知った顔がいれば例外なく見つけることになる。

「あ、ナミ。とビビ」
「あら」

少女らの名を呼んだのはウソップだった。
周りには当然のように、部活のメンツが集っている。

藤沢と鎌倉を結ぶこの小さな電車を使って、彼は材木座から通っていた。
江ノ電で鎌倉まで行って、そこから自転車で帰るのだ。
ルフィ・ゾロ・ナミは、ここから藤沢方面の同じ駅で途中下車している。
サンジも同じく藤沢方面。江ノ島駅から自転車である。
チョッパーは江ノ電からJRで横浜方面へ、フランキーも同じくJRに乗り換えて茅ヶ崎へ向かう。
ただ1人例外はブルックで、江ノ電は使わずモノレールで西鎌倉方面へ帰路についていた。


「なぁ、前にウソップん家で食ったプリン上手かったよな〜!!あれまた食わしてくれよ!」
「アレ高ぇんだぞ?!自分で買って来いっ!」
「じゃサンジ作ってくれ!」
「俺は今んとこ和食一筋なんだよ」
「何だ〜、作れないのか」
「・・・オイ今何つった?作れねぇだと?この俺にか?!んなワケねぇっ!」


『五月蝿い』と書いて『うるさい』。
コイツらにかかれば5月のハエなんて目じゃないな、とナミは感じた。










きっかり12分に1本来る電車に乗り、ビビと別れ帰宅すると、一足先に帰っていた1歳上の姉・ノジコが出迎えてくれた。
彼女も女子ハンドボール部のOGで、昨年度にキャプテンを務めていた高校3年生である。
同期のキャプテン同士ということで、エースとの仲をよく疑われていたが、本人に問いただすといつも笑ってごまかされた。

「どうよ、調子は」
「うーん、まずまず」

何とも言えず、ナミはそう答えておいた。
実際、悪くはない。

ノジコは「そうかい」と言って笑った。

「あんたはさ、女子のプレーはあんまり見ないでしょ」
「?そりゃ、男ハンのマネージャーだから男子のばっかり見てるけど」

唐突な姉の言葉に、ナミはきょとんとした。
元キャプテンの長女は、遠くを見やる目で続ける。

「女子はさ、もっと地道に点を取ろうとするんだよ。男子みたいな運動能力がないから。男子のハンドの、あのダイナミックさは羨ましい限りだよね。何であんなパスが取れるの、何であんなにシュートが速いの、何であんなにジャンプできるの、ってよく思ったよ」

渇望を映した瞳は、身を引いてなお、未だボールへの執着を捨てきれていないかのようだった。


「特に身体のバネは凄いよなぁ。跳んだときの滞空時間が違いすぎる。背中に羽根でもついてるみたいだ。飛んでるよ、あれは」










ちょっと買い物、と思って外に出ると、スウェット姿で走っているゾロに出くわした。
同じ江ノ電で帰ってきたというのに、まったく真面目な奴だ。

「ランニングいいけど、迷子にならないでよ。いちいち探すのはもうゴメンだからね」
「なるか!」

赤い鼻頭が更に赤くなる。

さっさとすれ違おうとしたゾロの動きが、ふと、ピタリと止まった。





向こう側の道を行く、小学生の一群。
楽しそうに騒ぐ彼らは、一様に袴と防具を持ち、

竹刀を、肩に背負っていた。


「あ、あれきっと道場の子たちね」
静止したゾロの心を知ってか知らずか、ナミの暢気な声が聞こえる。

「あそこの道場っていつでも小学生でいっぱいよね〜。すごい叫び声聞こえるしさ、」
「ナミ」

ゾロが呼びかける。

静かな声ではあったが、その声音は金属を思わせるほど、固く、冷たかった。





「何が言いてぇ」



ナミは一瞬弁明の口を開きかけ、しかし思い直したように閉じ、

「・・・ごめん」

とだけ呟いて、背を向けた。





ナミの姿が見えなくなっても、ゾロはまだ、立ち尽くしていた。




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(2009.02.08)



 

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