不機嫌な赤いバラ  −4−

            

マッカー 様




メリーランドシティ ロロノア家 昼 ―ゾロ


「うわ! 殺風景な部屋‥」

「悪かったな」

オレはダレかと違って家具なんぞに凝るタイプじゃねぇし
絵を飾る趣味もない
必要最低限のモノさえあればいい 第一、寝に帰るだけの家だ

女は南向きの大窓にかけよると何やらはしゃぎ始める

「だっけど外の眺めはいいのね キレー!! 
こうして見るとメリーランドシティって結構緑あるのね‥ 
ここからの夕日は最高でしょう!?」

「あぁ 場所的には申し分ない ‥何か飲むか?」

「うん」

何か飲むか‥だと‥? 違うだろ‥
‥一体何なんだこの女‥ ここまで付いてきやがって‥


「おい」

「ん?」

「‥酒‥でいいな」

「うん」

‥今酒しかないのに 何を改めて聞いているんだ‥
自分がわからん‥ 寝てないからか‥?

好みの酒なんぞわからんが まぁ‥これなら女でもいけるだろうと
以前あそこのジジイから譲って貰ったワインにする
‥まいったな 本当はそろったグラスがいいんだろうが‥全部1つずつしかない‥
しょうがねぇ‥

キッチンを出てリビングに持って行くと
よほど窓辺が気に入ったのかそこに腰掛けている

「ほらよ」

「ありがとう へぇ しゃれた銘柄もってるじゃない あんたこんなの飲むんだ」

「貰いもんだ 普段は飲まねぇ」

そう言ってグラスを手渡す

「‥ねぇ ちょっとあんた持ってるの‥もしかして‥『湯のみ』じゃないの?」

女は俺の手に握られてあるを目ざとく見つける

「あぁ? コレか? まさか客にコレ出すわけにもいかね〜だろ?」

「はぁ? ぷっ! あははは! もしかしてグラスは一個しかないの?」

「‥そうだ」

「本当に? クフッ! あははは! あんた‥変わってるわ!!」

「‥うるせぇ! グラスいらねぇなら返せ!」

「あぁ! ごめんごめん コレでいいわ ありがとう ねっ?」

「フン‥」

くそ‥まだ笑ってやがる‥
大体この部屋に客なんて来たことないんだ 飲むのはいつもバラティエだったし
そんなもん揃える必要なかったんだからな‥

「ねぇ‥? まだ怒ってる?」

「怒ってねぇ!」

「本当に?」

オレは酒を注ぐ

「あぁ ‥‥つまみがないな‥」

「えっ? 何かあるの?」

「確か冷蔵庫ン中にまだキャベツがあったな‥」

「へ〜 あんた料理できるの? 意外〜」

「? 何で料理するんだ?」

「だって‥キャベツって‥ ハッ! もしかしてあんた!」

「キャベツはこうやって むいてだな生で‥」

「「生で食べる」気じゃないでしょうね!?」

‥なんでそこだけハモるんだ‥

「‥そうだ」

「ぇえええええ!! ぷっ、くくくく! あっははははは! おっつオヤジくさぁ〜い!
あぁ〜 もうおかし〜〜! もうダメ〜〜!! ハハハハハ!」

おやじくさい‥
人のことそう言っていきなり腹かかえて笑い出しやがった‥

「はは‥ ねっねぇゾロ! あんたさぁ もしかして普段‥焼酎とか一人で飲んでるんでしょう!?」

「‥良く分かったな」

「やっぱり〜〜!!? もうっ! 完璧にオヤジね! アッツハハハハ! おかしすぎる〜〜!!」

「‥そんなにおかしいか?」

「くふふ だってさぁ 似合いすぎなんだもん しっぶ〜い!だけどまさか‥ 本当に‥ あぁ〜〜 笑えるわぁ〜」


なんなんだ‥一体‥
おもしろくねえな‥ しかも ‥このキャベツ腐ってやがる‥
使えねぇ‥ しょうがないのでキッチンへと行き 生ごみン中に投げ捨てた

女はオレが気分を害したのかと思ったらしく
慌ててキッチンに向かうカウンターまで駆けよってきた

「ごめんごめん! ねぇ! 早く飲もうよ!」

「‥お前‥いいのか? こんなとこにいて」

途端に目を見開く

「‥いいの 平気」

「夕べ お前は無理だと言ったな なら何故ここにいるんだ?」

「‥たまたま駅前通りかかったら あんたが‥いたからさ夕べの‥アレ爆発だったんでしょ? ちょっと大丈夫かなっておもって声かけただけよ」

顔は背けたまま答える

キッチンから出て腰の獲物をいつものように横三本の掛木にねかせる

「ソレ‥いつも持ってるのね‥」

「‥まぁな」

「そんなモノ持ってるのも珍しいけど 三本もしてるなんて初めて見るわ」

「そうか」

俺が手の空いたのに確認すると
女はまた窓辺に腰かけワイングラスを掲げる

「乾杯しましょ」

「‥おう」

そう言って飲み始めたが
日が傾くころにはかなりあったはずのワインのストックも無くなり
既にウィスキーにまで手が出ていた

「あぁ やっぱりきれいね ここからの夕焼け‥」

食い入るように自分の髪と同じその夕焼けを見つめる

「変わりゆくものだから‥ 本当にきれいに思える
きっと これがずっと続くものであったらこんな思いにはならないわ‥」

「オレは‥朝日のほうが好きだな」

あんたはそれが『らしい』わ そう笑って答えるその顔は儚げで
後ろの夕日に溶け込みそうなくらいで‥
ひどく焦燥感を与えた


思わずその背中に触れようとしたその時

あの女が来た





イーストフィールド ココヤシシティ外れ東 昼 −サンジ


ナミさんのお母様の居場所は簡単にわかった

死因が‥事故だったからだ

今から8年前

8年前はまだ街という規模ではなく リゾート地でもなく勿論賭博場もホテルもなかった
本当に静かな村だった
ナミさんの出身地はどうやらそこ‥になっている
母親の名はベルメール
そして娘ナミさんと一緒に写真に写っていたのは多分姉のノジコって女性だ
三人は血がつながっていない
それにしては この写真から伝わってくるあたたかさは家族そのものだ

ナミさんのお母様はこの地で生物学の特に植物の研究をしていて
ナミさんはお母様の後によくついて回っていたらしい
あぁ‥こんな頃から愛苦しいナミさん‥

それを壊したのがサメ野郎のアーロン
あいつはグランドフィールドで禁を侵してこの地に逃げ込んだ
やがてこの雄大な自然に目をつけリゾートホテルを設立
きっとその頃からだろう 薬も始めやがった
いつの頃からかプルトン精製にこだわり始め
幾度も幾度も研究させたが失敗‥
どこから耳に入れたのか‥ナミさんのお母様に狙いをつけた

お母様が研究していたものは‥プルトンだったんだ

プルトンは使い用によっては素晴らしい効果も引き出せる
彼女はどうやら治療薬として自然の薬草と配合利用できないかと考えていたらしい
だが クソ野郎はそうはさせなかった


引き換えが娘の安全


それで引き受けねぇ親はいねぇ
承諾しアーロンの元に行こうとしたのだが
ここが一番クソむかつくんだが‥
あいつはどちらか選べと言った

引き換えになるのは娘の命 一人分 だと


こんなに胸クソ悪くなる話は無いぜ‥

選べるわけないだろ‥


そう‥選べなかったんだ


泣き叫ぶ母親をよそに無情にも銃口は幼い娘に向けられ‥


母親が死んだ


娘をかばったんだ

皮肉にもプルトンの精製を知っていたのは一人だけじゃなかった
ナミさんも‥知っていた
アーロンはナミさんを気に入り幹部として‥女として迎え


どっかの国の時代劇で骨までしゃぶるって言い回しがあるけど
まさにそれだ


この写真では‥こんなに‥笑ってるのによ‥

「ナミさん‥」



俺とルフィはそのナミさんのお姉さまのお宅に向かっていた
地図と住所的にはココヤシシティとアーロンパークの間なんだが‥
ルフィをナビにさせた俺が間違っていた

「おい サンジ停めろ 何だあれは?」

どう見ても道じゃない道を走っていた時いきなり言われる
車を停めルフィが指差すブッシュの先をみた

「‥畑‥茶畑‥じゃねぇな‥」

ブッシュが邪魔ではっきりとは見えないが 確かに畑だ
農民らしき何人もの人間がそれを摘み取り台車に入れどこかへ引っ張っていっている
農民が畑にいるのはいい そりゃ普通だ
不自然なのは

「‥誰だあいつら‥?」

その畑を取り囲むように‥農民を監視するかのようにいる銃器をかまえた男たち
ありゃ 魚人だな‥ アーロンとこのヤツか‥
俺たちに断り無くあんなもん持ちやがって‥ とすると この畑で栽培しているのは‥

「あんたたち 何してるんだい!?」

俺たちの車の前にいきなり一人の女性が出てきた

「‥ここはあんたたちが来ていいところじゃない すぐに来た道を引き返しな!」




偶然か必然かその女性がナミさんのお姉さま『ノジコ』だった




それはナミさんの育った家 ベランダから外は一面のみかん畑

「お茶しかないよ?」

事情を説明した俺たちにそう言って人目をはばかり自宅の中へと上げてくれたお姉さまは 真っ白なナミさんとは違い 褐色に焼けた肌で悩まし気な唇の持ち主だった
だが疲れたように顔は青ざめ頬はこけている

「‥あの子を捕まえに来たのならここはお門違いさ」

「何でだ?」

「あの子はもうここには来ない 明日の昼‥このフィールドを出るからさ」

「どういうことだ?」

「‥珍しく今朝方来てね‥
‥クロコダイルっての知ってるかい? そいつんとこに行くんだって言ってたよ‥」

俺とルフィは顔を見合わせる

夕べ‥あの‥

「‥アーロンは ナミを気に入っていたんじゃなかったのか‥?なんでやっちまうんだ!?」

「‥もっと欲しいもんがあったんだろ」

「プルトンがあれば‥ずっと金は生み出せるんじゃないのか?」

「‥あれはすごく微量にしか複合できないんだよ‥
多くの人間に売りつけるなんて 不可能なのさ 非効率で割に合わないってわけ
8年かけて出来上がったのがスプーン一杯分なんだ 正に身の粉だろ?
そこでヤツが考えたのはプルトンとナミの引き取り手」

俺は声が出なかった

「だから クロコダイルに‥」

「そう そいつはそれでもいいって言ったらしくてね 正に用済みだったってわけ」

「どうして逃げないんだ?」

「この街の住民のこと‥わかるかい?」

お姉さまは一瞬黙りこんだ

「このあたりの人間の生活は 薬で成り立ってるんだよ」

「だけど プルトンは‥」

「薬って言ったってソレだけじゃない いろんな種類がある ここはその生産地 みかんを栽培するように私たちは薬を栽培してるのさ ‥さっきみたのがそう それが‥生きる手段の交換条件‥ 子供も大人もねそれも自分の命ではなくこの街全体の‥アイツにしてみればナミに対しての保険ってワケよ‥」


先ほどのあの畑はやはり コカの畑だったんだ




「あたし達は こうやって生活しているんだよ‥」






←3へ  5へ→

 

戻る