おいしい生活 −2−

            

マッカー 様





「あ...のさ ルフィ...」
「しっかし偶然だなー チョッパーがあのバアサンとこに住んでいたなんてなー!
おまえおっかなくないのか?」
「あ...うん 大丈夫さ! ドクトリーヌはあぁ見えてけっこうやさしいんだぞ!」
「そっかー おまえすごいなー!」
「それはそうと... ルフィ...」

魔女の森を出た一行は仲間にチョッパーを加えて旅を続けていた
ただ 仲間を加えたのにもかかわらず
一行の人数は変わらなかったが...

「あ...あのさルフィ... ゾロ...がさっきからいないんだけど...」
「そうだなー」
「そうだなーって... いないっていうか 消えたんだぞ!!」
「あー 心配すんな あいついっつもいきなり消えるんだ
そのうちひょっこり戻ってくるから...お! なんだありゃ!?」
「帰ってくるって...あ!だめだよルフィそんな乱暴に扱っちゃ! 
それは妖精の家なんだから!!」

実のところ
チョッパーの言う通り 先ほどいきなりゾロが消えてしまった
彼が心配するのは無理もない
文字とおり目の前で忽然と姿を消してしまったのだから...
だがそれは今回が初めてではなく
ルフィの話すとおり 結構しょっちゅうある出来事であった

「妖精の家!!?」
「そうだぞ この森に住んでいる妖精なんだ!
彼らのおかげで森は育つんだ! この家がなくなったら妖精が住めなくなるだろ!」
「だけどよー これ蜂蜜だぞ うっまそー! ん? なんだこりゃ? シロップか?」

森の中ほどにある大木のその幹に木の葉や蜂蜜で塗り固められている
小さな小さなドーム状の家の下のに
これまた小さな小さな瓶つぼが規則的に並べてある
その大きさはまるでコーヒーのミルクカップ

それらに入っているモノは香しくあまやかな匂いをしていた
だが ビッグイータールフィにかかればそんな細やかな香りを楽しむまでもなく...

「なんだー 思ったより甘くないなー」
「だめだよー ルフィー...あー...からっぽ...」

ぺろりと全ての瓶つぼの中身を飲み干してしまった

「何やってんだーーーー!」

ぶうんと小さな羽音をさせてそのドームの中から親指ほどの何かが飛び出した

「あぁ? なんだおまえ?」
「そっ それはこっちの台詞だぜ! おいチョッパーなんだこいつ!?」
「ご...ごめんウソップ...」

ぶんぶんと飛び回るその小さななにかはチョッパーの頭の上に止まり
えへんとえらそうにふんぞり返った...割には少しおどおどしていたが...

「うへー! こいつ鼻なげーなー!! 妖精ってみんなこんなかんじなのかぁ!?」
「あー...いやちがうよ... それはウソップだけなんだ」
「ウソップ!? それはこいつの名前なのか!?」
「そうだ! 俺の名は勇敢なる森の戦士! ウソップ様だ!」
「変な名前だなー!」
「ほ、ほっとけ! チョッパーなんだこいつは! あー!! もう全部からっぽじゃねーかー!! これはなぁ!薬なんだぞ!! チョッパー!なんだこいつは!」
「あ...っと」
「おれの名前はルフィだ! なんだここはおまえんちだったのかー 蜂蜜くさい家だな!」
「当たり前だ!蜂蜜で固めてあるからな しかしどうだ! すごいだろう...ってちがう!
お前が飲んだのはカヤの薬だったんだぞ!」

その妖精の名はウソップ
黄色い服に身を包み背中からはトンボのような羽を細かく動かしてブンブンと二人の周りを飛び回るどうやらかなりおしゃべりな妖精らしい
その妖精と...というかどちらかというと妖怪かもしれないが...

「カヤ?」
「ウソップ カヤは病気なのか!?」
「病気っていうか 季節の病をもらったみたいでな 最近元気がないんだ...」
「季節の病? なんだそりゃ?」
「妖精がたまにかかる病気さ 名前のとおり季節の変わり目にいきなりかかるんだ
はっきりとした原因はわかっていないけどいきなり飛べなくなってしまうんだ」
「妖精が飛べないなんて そんなんだいじょうぶなのか?」
「少しの間ならだいじょうぶさ だけどカヤは他の妖精より体が弱いし
治るのにも時間がかかるから... 十分気をつけてあげなくちゃいけないんだけど...」
「妖精は四季を運ぶのが仕事だ たとえば俺は森の木の実の管理が仕事なんだけど
カヤは花々の成長を見守るのが仕事だ
仕事ができなくなった妖精は...だんだん衰弱していって本当に飛べなくなっちまう...
飛べなくなった妖精はもう次の冬は越せないんだ...」
「そりゃたいへんじゃねーか!」
「誰のせいだーー!」

妖精は普段の生活において仕事をして英気を養うのが生命活動のサイクルになっている
自然から離れてしまった妖精は動植物や水や風からの新鮮な英気に触れることが
できず次の季節まで行きぬくことはできない そんな一瞬のはかない生命
ただ常に英気を受けている妖精は非常に長生きでまずその心配はない
森と共に生き森と共に生活をする妖精たち 彼らにとって仕事こそが生命活動
まぁ 簡単に言うと妖精は森にいてその成長を助けることが仕事でそれによって
自分らもおもしろおかしく生活していられるというわけで

ウソップの家の中を思わず改めて覗きこむとそこには弱弱しいながらも
小さな布団の中でゆっくりと手をふるかわいらしい妖精を見つけることが出来た

「こないだまでは元気だったんだけど...」
「そうだったのか... すみません!!」

いきなりカヤに向かって直角に曲がりあやまるルフィ

「いいんです 私のことだったらだいじょうぶです ちょっと疲れてしまっただけですので
薬のことはお気になさらないでください」

にっこりとあたたかい笑顔でけなげに微笑むカヤ
そんな彼女と比べれば鬼のような所行をしたルフィ

「おし! おれが薬またつくってやる! ウソップ どうやってつくるんだ?」
「あー実はな...あの薬は一年に一度しか取れねぇんだ
月と太陽が重なって新月のような夜になるんだけど
その次の日の早朝にしか咲かない花の蜜なんだ...」

しーん...




「あちゃー...」
「だから作り置きしてたのかー...」
「なんとかならねぇか チョッパー!?」
「えぇ!? えぇっと... うぅんっと......その花『チェリーブロッサム』だと思うんだ
花は確かに一年に一度だけど その蜜はもしかしたら持ってるかもしれない...」
「本当化か!? 誰が持ってるんだ?」
「それが...ココヤシビーチの魔女なんだ」
「そいつに頼めばカヤの薬もらえるのか?」
「もらえるって言うか...まぁ そういうことなんだけど...」
「ココヤシって言ったら今から行くところじゃねぇか
ヨシ チョッパー! こうと決まったら急いでいくぞ! ほんでカヤの薬もらう
んだ!」
「ルフィ...おまえっていいやつなんだな...すまねぇ
だがそれは俺の役目だ! 俺も一緒につれてってくれ!」
「あわわ...ってルフィ! 確かにあることはあるけど...!」
「よっしゃいいぞ ウソップ! 一緒にココヤシに行くか!」
「おう ルフィ! 俺もいくぜ!」
「みなさん...ありがとうございます...!」
「聞いてよーー...!!」

チョッパーの呼びかけもむなしく
一行は妖精のウソップを加えて旅路を急いだのであった






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