アフェア・ウィズ・ヴァンパイア  Episode1:吸血鬼殺人事件・事件篇

 

みづき 様

「はぁ〜!?」



その高い声が響いたのは、全ての授業を終えた放課後の事。

「だから、吸血鬼だってば、ナミ。」
「あのねぇ、マナ・・・そんな訳ないでしょ。」



互いに名前を呼び合ったマナとナミがいるのは、自分のクラスである3ーDの教室。

放課後を迎えた此処、ヌーピー市立・ヌーピー女子高では
岐路に着いたり部活へ向かったりと、生徒達はそれぞれ分かれており
教室に残っているのは彼女達2人のみ。

そんな中、机を間にして向かい合わせで座っているマナは少し身を乗り出し
彼女を見ていたナミはというと、すぐに言い返していた。



「ホントだってば。ナミも、ここ最近の行方不明事件知ってるでしょ?」

「それはニュースでもやってるし、リラもいなくなってるから知ってるけど
だからって何で、そこで吸血鬼が出てくる訳?」

マナはそれからすぐに体勢を戻し
ナミはそのまま、半ば呆れた顔を彼女へと向けている。



「ほら、5番街に古い一軒家があるじゃない。洋風っていうか館っぽいっていうか。」
「あぁ・・・人が住んでるのか住んでないのか、分かんないっていう?」
「そうそう。そこに住んでる吸血鬼が、リラ達を浚って血を吸ってるっていう噂なのよ。」
「・・・。」

彼女がその後小さく溜息をついたのは、マナが言い切った時だった。

「そんなのデマに決まってるじゃない。」
「そお?でもその一軒家、表札にRASUってあるらしいのよ。」
「ラス?」
「うん。エヴィン語で吸血鬼っていう意味。」
「・・・ますますデマに聞こえるわ。」

それからマナは、ナミへきょとんとした顔を向け
その彼女を見たままのナミは言葉を続ける。



「リラも他の子達も誘拐されたって、ニュースで言ってたじゃない。
警察も誘拐犯を捜査してるみたいだし、吸血鬼なんかいるわけないわよ。」

「う〜〜〜ん、やっぱりそうなのかな〜?」
「そうそう。」



2人の言うリラは同じクラスメイトで、1週間近く前から姿を消しており
他にも、この1週間で3人の女子高生が行方不明になる事件が起きているのだが
それが吸血鬼の仕業だとは流石に本気では思っていないらしく
マナはそれから少し眉を寄せると、髪を掻いた。



「気を付けなきゃいけないのは、吸血鬼じゃなくてその誘拐犯の方だわ。
それに、教室にいるのあたし達だけよ・・・暗くならない内に帰らないと。」

「そっか・・・そだね、帰ろっか。」





そうして教室を出た2人が、互いに別れたのは暫くして。





(吸血鬼ねぇ・・・。)

マナと別れ、いつも通っている道である土手を歩きながら
ナミは何という訳でもなく、その土手からの景色を見ていた。



「ん?」

その彼女が、土手から見える黒い物に気付いたのはすぐの事で
歩みを進める内、それが人の髪な事にも気付いたナミ。

髪だけでなく顔や上半身が視界に入った時、彼女はその場に足を止めてしまった。



「っ・・・!」



その様子に言葉を詰まらせ、口元に手を当ててしまうナミ。

彼女が目にしたのは、自分と同い年程に見える女性。
その様子は、土手の芝生上に横たわっているだけでなく
ナミが最初に目にした髪も、長髪の為その場に大きく広がっており、目は大きく見開かれている。
更に彼女から見える上半身は何も纏っておらず、肌や胸が曝け出されていた。



(まさ・・・か・・・死んでる・・・の・・?)



恐る恐る再び歩み出したナミは、その女性の全身を目にすると、もう一度足を止めてしまう。
横たわっていたその女性が全裸の状態だった為で
彼女はその場にすぐ『ぺたん』と座り込んでしまった。



「や・・・やっぱり、死んでる・・・。」

そのままナミはその女性の遺体を見る事しか出来ず
気付いた表情になったのは暫くして。

「そうだ、警察・・・警察呼ばなくちゃ・・・。」

言い聞かせるように呟き、カバンから携帯を取り出すと
何とか落ち着いた口調で通報を終え、通話を切ったナミ。



「・・・!?」



彼女が女性の遺体の首筋にある2つの痕を見つけたのはそれからすぐ。

その約10分後・・・『立入禁止』の区域が作られ、その外に野次馬が出来る中
警察もその痕に気付いていた。





「くいな警部補・・・これやっぱり、噛み痕じゃないですか?」
「見れば分かるわ。」



遺体の首から下の部分には警察の用意した水色のシートが被せられており
ナミも気付いた首の痕を見ているのは、スーツ姿をした2人の刑事。

その内の1人であるくいなは、気難しそうな顔で遺体を見下ろし
その隣では、ナミもまたカバンを両手で抱えたままその様子を見ていた。



「一体どういう事なんでしょう? まさか、ホントに吸血鬼の仕業とか?」

「それは単なる噂なんだし、調べれば分かるでしょ。
とにかくラージ、貴方はこの子から話を聞いて。あたしは電話する用が出来たから。」

「あ、はい。」



そしてくいなに促され、遺体の顔までシートを被せ直すと立ち上がったのは
それまで屈んで遺体を見ていた、もう1人の刑事であるラージ。
くいなはそのまま2人から離れ、ラージがナミと顔を合わせたのはその後すぐだった。



「えっと、ナミちゃんだったよね? 遺体を見たのは学校帰りでいいのかな?」
「あ、はい。それですぐ警察に電話をしました。」

「そっか。遺体の子もナミちゃんと同い年位に見えたけど、同じ学校の子だったりする?
そのセーラー服、ヌーピー女子高の制服だよね?」

「はい。けど、ウチの学校の子じゃないと思います。
少なくとも同学年にはいません。1・2年生は分からないですけど・・・。」

「うーん・・・そうなると、捜索願が出されてる子から身元を当たるしかないか・・・。」



それから聞き終えると、少し眉を寄せ人差し指で頬を小さく掻くラージ。



「あの・・・刑事さん。」
「ん?」
「あのくいなさんっていう人、刑事さんの事呼び捨てで呼んでるんですか?」
「へ?」
「すいません、ちょっと気になって・・・。」

その彼を前に、ナミは小さく頭を下げた。

「あぁ、気にしなくていいって。警部補はね、キャリアなんだよ。」
「キャリア?」
「そ。まぁ、出世コースって言えばいいかな。」
「はぁ・・・。」
「で、俺はその下の巡査部長。つまり警部補は俺の上司って訳。」
「上司?」
「そゆこと。」

そうしてナミに笑みを見せるラージ。
女性特有の高い声が響いたのは、その直後だった。



「ちょっと、こっちでやれってどういう事!?
あんたねェ・・・自分で何とかしよ・・・それは、そうだけど・・・!
あぁ、そう・・・分かったわよ! こっちで何とかするわよ!
・・・いーえ、そっちには絶対に頼みませんから、悪しからず!」

「「・・・?」」



その声に気付いたナミとラージはくいなを目にし
その彼女はというと、勢い良く通話を切り2人の元へやって来る。



「あの、どうかしたんですか?」
「あぁ、ゴメンね。気にしないで。」

そんな彼女が気になったのか、すぐに尋ねるナミ。
くいなはその彼女を見たまま言葉を続けた。

「とにかく後はあたし達が捜査するから、何か気付いた事とかあったら電話して。
それと、ナミちゃん・・・だったわよね? 貴方の連絡先を教えてもらえる? 携帯でいいんだけど。」

「あ、はい。」

それからナミはくいなから名刺をもらい、彼女へ自分の携帯番号を教える。



「じゃぁ、今日はこれで大丈夫だから。
あぁ・・・それと、この事はあんまり気にしないようにね。」

「あ、はい。」



そして『ぺこり』と頭を下げると、この場を後にするナミ。



「いいんですか、警部補?」

「いいも何も・・・害者の身元だって分かってないんだから仕方ないじゃない。
それに彼女から話は聞いたんでしょ?」

「はい。害者は同じ学校の子じゃないみたいです。
捜索願の出てる子から身元を当たるしかないですね。」

「そうね。」



「それにしても警部補、また言い合いしてましたね。」
「仕方ないでしょ。」
「あ・・・あはは。」
「そんな事より、後は鑑識に任せてこっちは聞き込みに行くわよ。」
「はい。」



その彼女を見送ったくいなとラージが、聞き込みへと向かったのはその後すぐだった。



                         ☆



「・・・。」



ナミが女性の遺体を発見してから約5時間が過ぎ
時間も21時を過ぎる中、彼女がやって来たのは5番街。
服もセーラー服から、オレンジのTシャツ・ピンクのサブリナパンツへと変わっており
両手には、折り畳み式の護身用の棒と懐中電灯が握られている。

そんな彼女が見上げているのは、マナの話していた一軒家で
壁のあちらこちらにヒビが入り、そこから無造作に草が生えている古家。
その一軒家を見たまま、ナミは言い聞かせる様に大きく頷いた。



(あの女の子の噛まれた痕は気になるけど、とにかく確かめなきゃ・・・!
吸血鬼の仕業なんて思えないけど、もしかしたらリラが此処にいるかも知れない・・・。
ドアが開かなかったら、このクリマタクトで壊して入ってやるんだから!)



しかしナミは、目の前の錆付いた門を前にたじろいでしまう。



(う〜〜〜、やっぱりマナにも来てもらえば良かったかも〜〜〜。)

そして直後に首を左右に振ると、再び目の前の一軒家を見据えた。

「ダメ、ダメ・・・マナを危ない目に遇わせる訳にいかないし、あたしが確かめなくちゃ。」



そうして再び大きく頷き門を通ったナミ。
5m程先にある入り口に辿り着き目にしたのは、やはりマナの言っていた表札だった。

(ホ・・・ホントに吸血鬼っていう表札なのね・・・。)

そこにあったのは微かに『RASU』と読める古いひび割れた表札。
ナミが次に目にしたのは、今にも壊れそうな上、壁の様にヒビが入りそこから草の生えている入り口で
彼女はすぐそのドアのドアノブに手を掛ける。



「あ・・・開いた。」



ドアノブはナミの手の動きに合わせゆっくりと動き
そのままゆっくりとドアを動かすと、軋む音を背にまずは覗き込むナミ。

・・・言うまでもなく中は真っ暗な為、彼女はすぐ懐中電灯のスイッチを入れると中を照らした。



(い・・・行くわよ。頑張れ、ナミ!)



そして彼女は自分に言い聞かせると、クリマタクトを組み立て中へと入っていく。

入り口は開けたままで中へと入った為、多少の月明かりが差し込む中
何歩か歩みを進めたナミは、懐中電灯で周りを照らした。



(左右に部屋があるみたいね・・・。)

そこに見えたのは入り口と似た様なドアで
それを確かめたナミは、ゆっくりと歩みを進める。



「・・・。」



彼女がまず向かったのは、向かって左側の部屋。
入り口と同じ様に軋む音を背にドアを開け覗き込むと、ナミはすぐに懐中電灯で照らす。



(え・・・何よ、これ!?)

そこにあったのは2m程のソファーと、その前に置かれているテーブル。

しかしこのソファーの後ろには、同じ2m程の長さをした棺が置かれており
それだけでなく、その棺の蓋となる部分は開いた状態になっていた。



(まさか、これ・・・吸血鬼が寝床にしてるっていうヤツ!?
ウソ・・・ホントに吸血鬼なの!?)



その棺を前にクリマタクトを握り直すと、再びゆっくりと歩み出すナミ。

(え!? 枕!?)

彼女が恐る恐る棺を覗き込み、照らした懐中電灯で最初に目にしたのは明らかに枕と分かる物。



・・・ところが次の瞬間。



「きゃあああああ!!!!!」



一気に部屋全体が明るくなり
その事で驚いたナミは悲鳴を上げると、その場に『ペタン』と座り込んでしまった。





「うるせェな、電気を付けただけだろが。」





「・・・!?」



そして聞こえて来た低い声に身体をビクつかせてしまうナミ。



「あ・・・あんた、誰よ・・・。 」
「テメェ・・・勝手に人の家に入って来て、最初にいう事がソレか?」
「・・・。」

それから恐る恐る振り返った彼女は、すぐに言葉を詰まらせてしまった。



「あ・・・あたしはナミ・・・勝手に入った事は、謝るわ・・・。
貴方・・・ホントに此処に住んでるの・・・?」

「あぁ。俺はロロノア・ゾロだ。此処に住んでる。」



ナミの振り返った先・・・出入り口横の壁に寄り掛かっているゾロはというと
黒のランニング・シャツに黒のレザー・パンツと言う格好。
短髪の緑髪には所々に銀色のメッシュが入っており
首には5cm程の剣がデザインされたネックレスが掛けられている。



「住んでるって、いつからよ?」
「・・・大体80年位前か?」
「ウソつけ!」

そのゾロへ速攻で言い返すと、ナミは早口で言葉を続けた。

「あんた、どう見たって20歳位じゃない!」
「あぁ!?」
「それに家に入られるのが嫌なら、鍵掛けなさいよ!」
「壊れてんだから仕方ねェだろが。」
「だったら直しなさいよ!」
「面倒臭ェ。」
「あんたね・・・。」

しかし彼女とは違い変わらぬ口調で言い返すゾロ。
そんな彼を見たまま、ナミは次に呆れた様な顔を向けた。



「ったく、いちいち五月蝿ェんだよ。
おまけに人が横んなってりゃ、変な匂いさせて来やがって。」

「何よそれ・・・。」

そして一旦髪を掻きながら、座り込んだままのナミに歩み寄るゾロ。
彼はそのままナミの前に立つと、前屈みになり視線を合わせる。



「お前からは、美味そうな血の匂いと僅かだが死んだ人間の血の匂いがすんだよ。」
「・・・。」

ところがゾロは、直後にクリマタクトで脇腹を強打され
その事で2・3歩後ずさってしまった。



「っ・・・痛ェ・・・!」
「やっぱり、吸血鬼のフリして女の子達を拉致ったのはあんたね!」
「あぁ!?」
「とぼけないで!リラや他の子達返しなさいよ、此処にいるんでしょ!」

後ずさるゾロを見ながら懐中電灯のスイッチを切ると
立ち上がったナミは、すぐにクリマタクトを構える。



「いねェよ、そんな奴等! テメェみたいな奴が何人も此処にいてたまるか!
五月蝿くて寝られやしねェだろが!」

「何ですって!? そこの棺で寝る方がよっぽど寝られないわよ、この変態吸血鬼モドキ!」
「テメェ・・・今、変態だのモドキだの言いやがったな・・・!」

「何よ、悪い!? どんなトリック使ったか知らないけど
噛み痕つけた上に裸にして土手に放るなんて事、あんたみたいな変態にしか出来ないじゃない!」

「テメェ、また言いやがっ・・・あ?」

しかしゾロは、そんな彼女を前に一旦言葉を区切った。



「お前、何でそれを知ってやがる。」
「何でって、見たからに決まってるじゃない。」
「見た?」

「そうよ。そういう風に死んでた子を学校帰りに見て、警察に連絡したの。
あんたこそ、知ってるってどういう事よ。」

「・・・。」

それからナミに聞かれたものの、それには答えないゾロ。

「黙ったって事は、やっぱりあんたがやったって事ね。
大人しくリラや拉致った子達を帰して、自首しなさい!」

そのまま彼は小さく溜息をつくと、クリマタクトを構えたままのナミを改めて目にした。

「あのなぁ・・・俺じゃねェって言ってんだろ。
それに最近の吸血鬼の噂を聞いて此処に来たんだろうが、お門違いもいいトコだ。」

「どういう事よ・・・。」
「そこまでお前に話す必要はねェな。」



そして言い終えるが早いか、素早い動作でクリマタクトを持つナミの腕を掴むゾロ。

「ちょっと、何すんのよ!」
「・・・。」

彼は何も言わずナミの腕を掴んだまま部屋を後にし
ナミはその掴まれた状態から逃れる事が出来ず、只そのまま連れられるしかなかった。



「ちょっと、どういうつもり!?」



その彼女が連れてこられたのは、先程通ったばかりである、この家の出入り口。
腕を放られた事で2・3歩前へ踏み出したナミは、振り返るとすぐにゾロと顔を合わせる。



「いいから、とっとと帰れ。それから二度と来るな。
噂を確かめに此処へ来た度胸は認めるが、度が過ぎるとそのうち痛い目に遭うぜ。」

「・・・。」

そのゾロに睨まれた事でそれ以上何も言う事が出来ず、この場を去るしか出来ないナミ。





街路灯沿いを歩く彼女がその足を止めたのは
ゾロの家を出て少し先にある角を曲がりながら
クリマタクトを元の折り畳み状に戻し終えた時だった。





(お門違いって・・・アイツじゃなくて、他に犯人がいるっていう事?
確かにアイツ、性格は悪くても殺人犯には見えないけど・・・。)



ところが、そう考えていたナミの思考はここで止まってしまう。



「・・・!?」

突然右腕を掴まれた上、気が付いた時には身体を引き寄せられていた為で
それだけでなく口も手で塞がれてしまい、喉元にはナイフが向けられていた。



「っ・・・ぐっ・・!」
「大人しくしろ。」



そのあまりに突然の事に、クリマタクトと懐中電灯を落としてしまうナミ。
彼女に聞こえた声は掠れた男の声で
もがこうにもこの男から逃れられず、口を塞いでる腕も離す事が出来ない。

「・・・。」

しかし脚はそのままの状態な為、咄嗟に男の足を踏み付けようと右脚を上げるナミ。



「え・・・っ!?」



その彼女の身体が自由になったのは直後の事。



「ったく、何やってんだ、テメェは。こんな陰気野郎に尾けられてんじゃねェよ。」
「ゾロ!?」



身体が自由になった事でバランスを崩し、何歩か踏み出したナミが振り返った際目にしたのは
痩せた長身の男ともう1人、彼女に呆れ顔を向けているゾロだった。

「あ・・・有難う・・・。」
「別に礼を言われる程の事じゃねェ。」

そして、そのまま顔を合わせるナミとゾロ。





「ゾロ、後ろ!!!」
「・・・!?」





彼の後ろに見える男の姿にナミが気付いたのは直後の事。



「え・・・!?」



・・・叫んだと同時に彼女が目にした光景は、心臓を刺されたゾロの姿。
ナミはその突然の事に、そのまま立ち尽くす事しか出来なかった。



「ゾ・・・ロ・・・?」



立ち尽くすナミの前で、ナイフを刺されたまま倒れ込むゾロ。

「あ・・・あ・・・。」

男はそのままこの場を去ってしまい
それに気付かぬまま、倒れて動かないゾロを見る事しか出来ないナミ。



「そ・・・そうだ、救急車・・・救急車呼ばなきゃ・・・!」



彼女は我に返ると、サブリナパンツのポケットへ手を掛け携帯を取り出そうとする。





「よ・・・せ・・・!」
「・・・!?」





そこへ聞こえて来たのはゾロの声
・・・その声に気付いたナミが見ると、ゾロはナイフが刺された状態のまま身体を起こしていた。



「ゾロ!」
「余・・・計な事・・・すんじゃ・・・ねェ・・・。」
「っ・・・!」

身体を起こしていたゾロの心臓にナイフが刺されている事に気付いたナミ
・・・彼女はその事に驚き口元へ手を当てると言葉を失い
ゾロはそのまま息も途切れ途切れに言い終えると、ゆっくり立ち上がり壁に寄り掛かる。



「あの野郎・・・捕まる恐怖心で刺し・・・やがっ・・・たな・・・。
見つけ・・・出して、絶対に血ィ・・・吸っ・・・てやる・・・。」

それから彼が掴んだのは心臓に刺されているナイフ。



「ダメ!抜いたら血が出ちゃう! 今、救急車呼ぶから!」
「五月蝿ェ・・・な・・・これがあ・・・ると邪魔な・・・んだよ・・・!」
「え?」

ナミが止めたにも関わらず、ゾロはナイフを躊躇いなく抜き
その事で勢い良く血が流れ出し、それは黒い服であっても街路灯からの光ではっきり見て取れる。

更に抜いたナイフや握っている手に血が付いているだけでなく
口端からも顎に掛けて血が流れていた。



「ゾ・・・ロ・・・?」



直後、抜いたナイフを持っている手と逆の手で掴んだのは、掛けられていた剣のネックレス。



「え・・・!?」



そのネックレスを引き契るように外した瞬間、ゾロのそれまでの茶の瞳は緑色へと変わり
途切れ途切れ息を吸っているゾロの口から覗き見える歯は
上の前歯・左右1本ずつの長さが変わり、下の前歯に差し掛かる程に伸びている。

そしてそれは、明らかに牙と呼べる物だった。



「ウソ・・・。」
「あ・・・?」

「だって・・・心臓刺されたのよ!? それに、血だってそんなに・・・。それで何で平気なのよ!?」
「あのな・・・ぁ・・・この位じゃ死な・・・ねぇが・・・死ぬのと同じ痛さ・・・はあんだ・・・よ・・・。」

荒い息遣いのままナミに向かって言うと、ナイフを持つ手の甲で口元の血を拭うゾロ。

「まさか、あんた・・・ホントに、吸血鬼・・・。」
「見せるつもり・・・は無かった・・・が・・・仕方がね・・・ェ・・・。」

ナミはそのまま自分へと歩み寄る彼を見るだけしか出来ず
後ずさる事も出来ないまま、自分の右肩へと寄り掛かるゾロを受け止めるしか出来なかった。



「ちょ・・・ちょっと、ゾロ!?」
「俺を家ま・・・で連れて・・・け・・・場所は分か・・・んだろ・・・。」



そのまま倒れそうになってしまった為、慌ててゾロの両腕を掴むと支えるナミ。



ゾロは彼女の肩に頭を預けている為
この時ナミの首には、ゾロが口元を拭った時の痕である残り血が付いてしまうのだった。




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<管理人のつぶやき>
拙宅のサイト改装祝いにと
junble shopのみづきさんがこの作品を贈ってくださいました!
みづきさんのパラレルといえば思い出すのは「
レクター街シリーズ」。今回のお話はそれとは別設定で、なんとゾロが吸血鬼なのだ!

女子高校生ナミの周辺でナゾの行方不明事件が相次いで発生。それが吸血鬼の仕業と噂されている。現実的なナミは否定しますが、自ら発見した遺体に残る痕を見て解明のために動き出す・・・実に行動的なお嬢さんですな!
そして出会うのがゾロ。初対面から言い合いをする二人。既に息がピッタリ(笑)。
怪しい奴に襲われて、ゾロはついにその正体をナミの前で現しました。さてどうなることやら。
襲ったのは何者か?ゾロはどうして事件に詳しいのか?そして行方不明事件の真相は?
まだまだ謎が残りますが、以下次号!(ジリジリ)。

みづきちゃん、素敵なお話をどうもありがとうございました!続編も待ってるよん。

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