act6:Kidnap
みづき様
「こりゃぁまた、随分と荒らされてますね。」
「まぁな。」
シャンクスからの連絡を受けたエースが
鑑識を連れアパートへとやって来たのは、15分程して。
「どうやら 昨夜お前が調べ入ってからさっきのまでの間に入ったらしい。」
「みたいですね。けど一体何で・・・。」
「お宝がまだ此処にあると思ったんだろ。」
「お宝って・・・それ ここ最近警視の口から聞いてますけど、何です?」
「どんな物かは分からんが、ネロを叩ける代物らしい。
お前とは別の情報屋から仕入れた情報でな
そんなもんが出回るなんてありえねェし ガセだと思ってたんだが
この様子じゃガセじゃなさそうだろ。」
「まぁ・・・そうなりますけど
それが何か分かってないんじゃ、意味ないじゃないスか。」
「そういうこった。だから俺1人で探ってるんだがな。」
「成程、それでお宝って訳ですか・・・。」
その鑑識の様子を見ながら呟く様に言うエース。
彼が改めてシャンクスと顔を合わせたのは、その後だった。
「あぁ・・・どうします? 一応ナミにも聞いてみますか?」
「いや、いい。アイツは何も言ってなかったんだろ?」
「えぇまぁ・・・。」
「なら、聞く必要は無いだろう。聞いた所で分からないだろうしな。」
「はい。」
「・・・それで、そっちはどうなんだ?」
「えぇ・・・害者が寄りそうなトコや、ネロの下っ端連中が寄りそうなトコは当たったんですが
害者の足取りは全く掴めないですね。」
「そうか・・・って事は、幹部連中といた可能性もあるな・・・。
害者のダチからの依頼でゾロも調べてたんだろ?」
「えぇ。昨夜聞いたんですが、ゾロも足取りは掴めて無かったですね。
害者がネロにいるかもしれないって言うんで、俺も調べてみましたけど
ここまで足取りが分からないって言うのも変ですね。」
「まぁな。ナミが車を見てるって事は、直前までそいつ等といたか
逃げ出したトコを追って来たか、そんなトコだろ。」
「そうでしょうね。下っ端連中のいざこざでしょうか?」
「・・・それか、お宝を取り返そうとしたかだろ。」
「・・・は?」
するとエースは、10秒は間をあけ 間の抜けた声を出してしまう。
「ん?」
「ちょっと待って下さい、警視。どうしてそうなるんですか?
俺達にとってはネロを叩ける代物でしょうけど
それを組織同士で奪い合う必要は無いんじゃ・・・。」
「まぁ 普通に考えりゃそうだが、害者が裏切ってたとしたらどうなる?」
「え?」
「もし本当に、俺達がネロを叩けるそのお宝が出回ってたとして
それを組織から奪った害者が 売り飛ばそうとしてたらどうだ?
俺達がネロを叩ける程の代物だ・・・欲しい同業者がいてもおかしくねェだろ。
例えばファイロとかな。」
「あ・・・。」
「もしそんな事にでもなれば奴等の均衡は一気に崩れる。
そうならねェ様に血眼になって取り返そうとするだろ。
まぁ 下っ端だった害者に出来たかどうかは疑問だがな。」
「はぁ・・・。」
そうして ひとつの仮説を話し終えたシャンクスは
エースの肩に軽く手を一旦置くと部屋の出入り口の方へ。
「え・・・警視?」
「後は頼む。どうせ何も出ねェだろうし、此処はテキトーでいいぞ。」
「はぁ・・・。って、警視はどうするんですか。」
「お宝の件はこれで行き詰まったし、一昨日の殺しの捜査へ戻る。
お前はそのまま害者の足取りを追ってくれ。何かあったら連絡頼むな。」
「あ、はい・・・。」
そんな上司を見送ってから数時間後
・・・エースのいる場所はアパートから移りレーン。
「ったく、お前なぁ〜。」
「しししし。」
外は既に夕陽が差し込んでいる時間帯の中
弟であるルフィに呼ばれた彼は丁度着いた所で
カウンターに座るルフィは 顔を顰め自分を見る兄に対して
いつもの様にニカッと笑ってみせていた。
「昼間に電話入れたろ、ったく・・・。」
「そうなんだけどよ、あれから何か分かったかと思ってな。
どうせ夕飯食わなきゃなんねェし、ここで聞けば丁度いいと思ったんだよ。
それに こいつ等もいるし、エースも聞けるじゃねェか。」
「まぁ、そうだが・・・。」
どうやらルフィは、昼間に続いて再びレーンにやって来たらしい。
『こいつ等』と言いながら親指を向けたのは
カウンターの左端に座るゾロと、奥にいるナミの事で
エースはそんなルフィを目にしながら
何処か呆れた様子で、昼間はサンジが腰掛けていたカウンター席へと腰を下ろした。
「何? あれから何か分かったの?」
「分かった所か、ますます分からなくなった。」
「え?」
そんなエースに声を掛けたナミはすぐに首を傾げ
彼女だけでなく、この場にいるルフィやゾロ、ベルメールやウソップも不思議に思ったのか
全員がそのまま彼に視線を向ける。
「害者の足取りが全く掴めねェんだよ。
ヤツがネロの下っ端だってのはコイツから聞いてると思うが
下っ端連中が寄りそうなトコにもいた様子がなけりゃ
大学のダチ連中に聞いたトコにも寄った様子がなかった。
銃弾からも使われた銃を調べてるが、さっぱりでな。」
彼の言う『コイツ』というのはルフィの事。
エースはそのまま言い終えると、次にゾロと顔を合わせた。
「そっちはどうだ?」
「どうも何も・・・捜索人が害者になった時点で仕事は終わったんでな。
俺はもう調べてない。まぁ 気にはなってるがな。」
「そうか・・・。」
すると、そんな2人に続いたのはウソップ。
「気になるって何がだよ?」
「殺された害者はネロの下っ端で、諍いでも起こった様に見えるが
表向きにしか見えねェんだよ。裏に何かあるような気がしてならねェ。」
「裏ねぇ・・・。そういやサンジのヤツ、店に来るヤツが動くとか何とか・・・。」
「・・・?」
「いつもは店に来るだけのヤツらしいんだが、今回は動くとか言ってたぜ。
まぁ、それとこの事件が繋がってるのかは分かんねェけどな。
そいつは幹部連中と繋がってるって言ってたし
害者は下っ端だって言うなら、それとこれとは別だろ。」
「・・・。」
その彼と次に顔を合わせたゾロはそのまま考え込む様子を見せ
次にはルフィが話を続けた。
「俺達はネロにいる訳じゃねェから分かんねェけど
幹部連中はめったな事じゃ動かねェってサンジも言ってたし
別で考えるのが自然だろうな。
まぁ そうなると、何で足取りが掴めねェのかが分からねェけどよ・・・。」
「・・・どっちにしても情報が無いのは確かだ。
幹部連中といたから足取りが掴めねェのかも知れねェが ハッキリしねェし
警視も調べてたんだが、そっちもどうやら空振りみたいでな。」
「お? シャンクスが? 何調べてたんだ?」
「まぁ、探し物ってトコだ。害者の部屋が荒らされてたんだが
何も出なかったトコを見ると、連中も空振りしたらしい。
尤も、ホントにそんなもんがあったのか疑問なんだがな。」
「何だ、それ。ワケ分かんねェな。」
「そういう事だ。」
そして兄弟の後にはベルメールとナミ、更にウソップが続く。
「けど、荒らされてたって事は、何か持ち出したって事なんじゃないのかい?」
「でも お母さん、もしそうだとすると
昨夜の時点で取り返せた事になるし、部屋は荒らさないんじゃない?
あたしもそんな物あの人から預からなかったし、きっとそんなのは無いのよ。」
「あぁ、そうか・・・確かにそうだね・・・。」
「・・・ん? ちょっと待てナミ、だったら何で部屋を荒らしたんだ?」
「さぁ・・・それは分からないけど・・・。」
そんな3人の話を聞いていたエースは、改めてナミと顔を合わせた。
「まぁ とにかく、お前は良く顔を見なかったんだろうが
連中は何をしてくるか分からないんだ、暫くはなるべく1人でいるなよ。」
「あ、はい。」
それから その様子を見ていたゾロは、そのまま再び考え込んでしまう。
「はい。」
「・・・?」
ナミが彼の前に店のメニューを置いたのはそんな時で
彼女はそのままゾロと顔を合わせると、すぐに小さく笑ってみせた。
「いつまでも考えてたって、分からないものは仕方ないわよ。
ひとまず考えるのは止めて食べたら?」
「あぁ・・・。」
そうしてゾロは、ナミの言う通りにする事にしたのか メニューを手にする。
「おぉ、そうだ、メシ!
店長、俺いつものな。 あぁ、とりあえず2人分で! 飯代はエースが払うから。」
「・・・って、俺かよ!!!」
それで夕飯の事を思い出したのか、ルフィはまず2人分を注文し
エースもそのまま夕飯を食べる事に。
「そうか、無かったか。」
『はい。』
その頃場所は移り、市の中心にある高層マンションの一室。
「まぁ アイツの部屋を探るのは分かるが余計な事だったな。」
『えぇ。完全な二度手間です。』
その一室でゆったりとソファーに腰掛けていたのはザム。
「そうなると次は、アイツに出くわした昨夜の女か。」
『はい。』
「で? その女の居場所は分かってるのか?」
『はい、少し前に。ですが、可能性としては・・・。』
「・・・低いだろうな。だが、アイツには隠す時間が無かっただろ。
昨夜のその女が持っていると考えても不自然じゃない。」
『はい。』
「まぁ ひとまずはお手並み拝見ってトコか。女を連れ出したら連絡頼む。」
『分かりました。』
彼はそのまま電話を終えると、夕陽に染まっている街を窓越しに見据える。
そしてその眼は、店で顔を合わせるサンジでさえ知らない、深い闇の眼だった。
☆
「・・・まったく、もう! どこをどうすれば3日でこんなに散らかせるのよ!」
そうして時間は過ぎ、既に日も落ち
皆と共に夕飯を食べ 店を閉めたナミがやって来たのは ゾロの自宅。
「別に怒鳴る程散らかってねェだろが。」
「あのねェ・・・こんなにお酒が散乱してて洗濯もしないで、何処が綺麗なのよ。
よく3日も下着まで放っておけるわね、この不潔緑髪。」
「んだと?」
「文句があるなら、ちゃんとやりなさいよね。
ホントにもう・・・まさかと思って様子を見に来て良かったわ。」
「・・・。」
部屋を一通り見回った彼女は、予想通りの散らかり様に大きく溜息を吐くと
すぐに気を取り直し、ゾロの前に左手を差し出す。
「ん!」
「・・・何だ?」
「何だじゃないわよ、掃除代。」
「って、また金取るのか!」
「当然でしょ、これは立派な仕事だもの。
仕事をする以上はお金を頂きます。」
「ったく・・・。」
すると今度はゾロの方が溜息を吐き
そのままテーブル上へと置いてある財布へ手を伸ばす。
「おらよ。」
「どうもvvv」
そうして、ゾロの渡した掃除代である1000べりーをナミは受け取り
この為だけに態々持ってきた財布へ仕舞う様子を見たままのゾロ。
「なぁ・・・ひとつ聞くんだが。」
「ん〜? なに〜?」
「俺はいつまでその掃除代とやらを払う事になるんだ?」
「そうねぇ・・・付き合うまでは払う事になるんじゃない?」
「・・・。」
「え・・・?」
ナミはそのまま何気なく口にしたのだが、時既に遅しで
自分の言った事に気付くと、途端に顔を赤らめた。
「や、やーね、冗談よ! 例えばだって!
さ、さてと、早いトコ始めないとね。よ、よし!」
「・・・。」
それからナミは慌てた様子で ミニスカートのポケットへ財布を仕舞い
ゾロへ背を向けると、まるで逃げる様に脱衣所へ。
(冗談なの・・・か・・・?)
その様子を見送ったゾロも驚く中
脱衣所へと着いたナミは、赤くなった自分の顔を鏡で見ていた。
(あぁもう、何言ってるのよ、あたし!!!
てゆーか、急にあんな事聞くのが悪いのよ、ゾロのバカ!!!)
そして やっとの事で洗濯を始めても落ち着かないのか
チラチラと鏡を見ては、変わらずに赤らんでいる自分の顔を目にするナミ。
「そ、そうよ、気にしなければいいのよね。うん。」
まさか洗濯機の動いている間脱衣所にいる訳にもいかず
何度か深呼吸をした彼女は一度小さく頷くと、改めてリビングへ向かう事にした。
(・・・って、寝てるし!!!)
ところがそのリビングでは、ソファー上で横になっているゾロ。
「まったく、しょうがないわね・・・。」
そんな彼に呆れた様子を見せながらも、どこか嬉しそうな笑みを見せたナミは
そのまま寝室へ毛布を取りに行くと、それをゾロへと掛けてあげた。
「・・・。」
それから 変わらず寝た様子を見せるゾロの頬に人差し指を軽く押し当ると
もう一度笑みを見せるナミ。
「よし。じゃぁ 始めますか。」
「・・・。」
こうして改めて気を取り直した彼女はリビングの掃除を始めたのだが
この時のゾロが鼾をかいていない事に気付いておらず
ナミと顔を合わせ難くなったのか 寝たフリを決め込んだゾロは
時折うっすらと目を開けては彼女の様子を見ると
掃除の終わる頃を見計らい、目を覚ましたフリをしてみせた。
「じゃぁ 乾燥まで終わったら籠の中へ入れておいて。その位出来るでしょ?
明日にでもアイロンがけするから。」
「あぁ。」
そうして、掃除が終わる頃にはお互い落ち着いたのか
変わらぬ様子で玄関先に立つゾロとナミ。
「・・・。」
「あ、大丈夫よ、ちゃんと帰れるから。」
彼女は靴を履こうとするゾロを見て、送ってくれると察したのかそう言うと
そのまま彼に笑みを見せた。
「下の階だしちゃんと戻れるわ、心配しないで。」
「・・・。」
そしてゾロは、そんな彼女を見たまま心配そうな様子を見せる。
「やーね、心配してくれてるの? 珍しい、明日は雨かしら?」
「お前・・・。」
「ありがと。ホントに大丈夫よ、下に戻るだけなんだから。じゃぁね。」
「・・・。」
そんな彼を背にして家を出たナミが声を掛けられたのは
丁度自宅のある3階へと差し掛かった時。
「あ、あの すみません。」
「え?」
振り向いた先にいたのは作業着を着た2人の男性達で
帽子も被り配達員らしいその2人は、揃ってカートを引いている。
「夜間配達でワインの配達に来たんですけど
この階にキストさんというお宅はありませんか?」
「え? キストさんですか?」
見るとカートの上には1m四方程の大きな木箱が置かれており
ナミはその木箱を見た後、改めて顔を合わせた。
「その名前の人は聞いた事ないですけど・・・随分大きな木箱ですね。」
「えぇ。この位の大きさじゃないと運べないものですから。」
「・・・?」
その直後、ナミは隣に気配を感じると反射的に見上げる。
「あの・・・?」
そこにいたのは、先程までカートを引いていたもう一人。
「・・・っ・・・・・・。」
ナミは気付いた瞬間、強く腹を殴られると途端に意識を失い
そのまま何も入っていなかった木箱の中へと入れられてしまう。
「行くぞ。」
「あぁ。」
そして次に意識を取り戻した時
彼女がいた場所は、それまでとは全く別の場所だった。
「ん・・・・・・・。」
「お目覚めですか、お嬢様。」
「・・・?」
取り戻したばかりで朦朧とする意識の中、聞いた事の無い声に顔を上げると
そこにいたのはグレーのスーツに身を包み、縁無しのメガネを掛けた男。
「誰・・・?」
「貴方が知る必要は無いでしょう。」
「え・・・何それ・・・?」
まだ状況の分からないナミは 身体を起こしながらそのまま辺りを見渡し
10人程の男達が自分を見ている事に気付く。
「って・・・ちょっとアンタ達、どういう事!?」
その中に、先程の作業着を着た2人を見つけたのは直後の事。
その事でナミの意識は一気に戻る事になった。
「彼等には貴方を此処へ連れて来てもらいました。
どうしても聞きたい事があったのでね。」
「何よそれ・・・てゆーか、さっさとこれ解きなさいよ!」
同時に彼女は両手・両足を縛られている事に気付き
その縛られてる両腕を男の前へと突き出す様に前へ出す。
「やれやれ・・・元気なのはいいですが
貴方は自分の置かれている状況が分かっていない様ですね。」
「・・・!?」
そんな彼女を見ながら男が取り出したのは銀色の拳銃。
「え・・・?」
彼は銃の先端をナミの眉間に押し付けると、そのまま顔を合わせる。
「・・・・・・。」
そして彼女は男の目を見た瞬間、そのあまりのドス黒さに何も言えなくなってしまった。
『さぁ・・・昨夜貴方があのガキから渡された物を返して貰いましょうか。』
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