act7:real facts・T
みづき様
「はい・・・。」
『あぁ ゾロ、いたんだね。あたしだよ。』
「・・・?」
何処だか分からぬ場所に浚われたナミの事を知る由もなく、場所は戻りゾロの自宅。
「どうしたんですか?」
「悪いね、ゾロ。ナミはまだいるかい?」
インタホンに呼ばれドアを開けた先に立っていたのはベルメールで
ゾロが顔を合わせた時、既に彼女は心配そうな様子を見せており
彼はそんなベルメールの様子を不思議に思う。
「アイツなら少し前に戻りましたけど・・・。」
「戻った・・・?」
「・・・店長?」
「あの子、まだ戻ってないんだよ・・・。
大分時間が過ぎてるから心配になって来てみたんだけど・・・。」
「・・・。」
そして 戻ったと聞かされたベルメールは途端に顔色を悪くさせ
ゾロもまた 彼女の言葉に驚くしか出来ない。
「まさか・・・まさか、あの子・・・。」
「・・・ッ!!!」
その彼が ベルメールと同時に、ナミが浚われたと思ったのはすぐの事。
「待ちな、ゾロ・・・!」
「・・・!?」
しかし外へ飛び出そうをしたゾロは、ベルメールに腕を捕まれた事でその場に留まリ
振り返ると、彼女は青ざめた顔のままゾロを目にしていた。
「無鉄砲に飛び出して、あの子が何処にいるのか分かるのかい・・・!?」
「・・・。」
「とにかく、あたしが皆に連絡するから・・・。」
「店長・・・。」
気丈に言い切ったベルメールだったが、ゾロの腕を掴むその手は小さく震え
ゾロもまたその事に気付きながら、そのまま彼女を部屋へと上げる。
それから彼女が連絡を取っている間
ゾロはソファーに腰掛けたまま、俯く事しか出来なかった。
「あの子達に連絡取れたよ。」
「・・・!?」
「すぐ此処に来てくれるって。」
「そうですか・・・。」
そして 暫くして聞こえて来た声にゾロは顔を上げると
連絡を取り終えたベルメールが見下ろしており、そのままゾロの隣へと腰掛ける。
「せん・・・。」
「・・・?」
「すいません・・・。俺が・・・俺がちゃんと送ってやってれば・・・。」
「ゾロ・・・。」
何処か吐き出す様に・・・それでもベルメールをまっすぐ見たままゾロはそう続け
彼女はそんなゾロを前に小さく笑みを見せると、そのまま手を伸ばし髪を掻いてみせた。
「店長・・・?」
「あの子の事だから、下へ帰る位大丈夫だって言ったんだろ?
あんたは気にしなくていいから、ゾロ。
とにかく今は 無事なのを信じて、あの子が何処にいるのか探さないと。」
「はい。」
すると不意にゾロは立ち上がり、それを見上げたベルメールは首を傾げる。
「・・・ゾロ? どうしたんだい?」
「向こうに此処の地図があるんです。
俺が知ってるネロのアジトと、アイツ等がもし他のアジトを知ったとして
それを合わせれば、アイツの今いる場所が分かるかも知れない。」
「地図?」
「・・・。」
その彼女に頷いたゾロが隣の部屋から持って来たのは
このレクター市の地図と赤いペン。
「・・・。」
「・・・?」
そうして再びベルメールの隣に腰掛けたゾロは
地図を広げながら数ページに渡って赤い丸を付けていった。
「そ、そんなにアジトがあるのかい?」
「えぇ。下っ端連中が顔を出す店とか
表向きは只のバーでも 金がネロへ流れてる店とかがあるんです。
こっちに来て大分情報は掴んだんですけど
ルフィやあのバーテンにも聞かないと、もっと詳しくは・・・。」
「ルフィ達にかい?」
「・・・アイツは兄貴が警察にいるし、あのバーテンも裏には通じてるらしいですから
聞けば他の場所・・・。」
インタホンが再び鳴ったのはそんな時。
鍵は掛かっていない為、次には勢い良くドアの開く音が2人に聞こえ
更には部屋にいても聞こえる大きな声が玄関から響いて来た。
「おい、ゾロ!!! 入るぞ!!!」
「あぁ!」
そうして2人のいる部屋へと顔を出したのはウソップ。
「おい、アイツが浚われたらしいってホントか!?
・・・って、何だその地図?」
来たばかりで全く状況を把握していない彼は そのまま2人から事のあらましを聞き
それを聞き終えるとすぐ、納得する様子を見せた。
「・・・成程、それで地図に印を付けてるって訳か。」
「あぁ。」
「そうなると確かに、アイツ等も知ってるか・・・。」
そこへ間を置かず、今度は廊下を走って来る足音が3人の耳に入って来る。
しかもその音は重なる様に部屋まで響き
同時に顔を出したのは、ルフィとサンジだった。
「テメェ!!! ナミさんが浚わ・・・!?」
どうやら2人共同時に到着したらしく
部屋へと入ったサンジはすぐにゾロへ詰め寄ろうとしたのだが
言い掛けて、その言葉を止めてしまう。
「・・・。」
「・・・!?」
サンジよりも早くルフィが行動を起こした為で
彼は座ったままのゾロの胸倉を掴むとそのまま立ち上がらせ
これまでに無い様相でゾロを睨み付けた。
「何で下まで送ってやんなかった・・・。
アイツがいいって言おうが、送ってやんなきゃいけなかったろうが!!!」
「悪い・・・。」
まるで見ていたかの様に言うルフィに驚くも、すぐに一言そう謝ったゾロ。
しかしルフィは掴んだままの手を離そうとせず
その手を離したのはウソップだった。
「と、とにかく、落ち着けルフィ。ゾロに言ったってどうにもなんねェよ。
今は早いトコ、アイツのいる場所を探すのが先だ。」
「・・・。」
そうしてルフィは まだ怒りが収まっていない様子を見せながらも
やっと彼が手にしていた地図に気付く。
「・・・何だ、それ。」
「このレクター市の地図だ。
お前、エースからネロがアジトにしてるような場所って聞いた事ねェか?」
「アジト?」
「あぁ。ナミを探すにはそれっきゃねェ。
ゾロはもう印を付けたから、知ってるトコがあるならお前も付けてくれ。」
そしてウソップは 次にサンジを目にする。
「それとサンジ、お前もだ。てゆーか、お前の方が詳しいだろ。」
「あぁ? そんなまどろっこしい事しなくても、携・・・帯は無理か。」
「そういう事だ。気付かれちまうからな。」
そんな2人の後に続いたのはベルメールだった。
「携帯は家に置きっ放しなんだ、此処に来るだけだったから。
確か、財布は持ってったと思ったけど・・・。」
「「 何ィ!? 」」
携帯が置きっ放しな事に驚いたウソップと
ナミがこのゾロの部屋に来ていた事に驚いてしまうサンジ。
その2人の前では、向かいのソファに腰掛けたルフィがいくつか印をつけていた。
「よし、出来た。サンジ、次お前だぞ。」
「あ、あぁ・・・。」
そうして地図を渡されたサンジもまたルフィの隣に腰掛け
ウソップも、ルフィを挟みサンジの反対側へと腰掛ける。
「俺が知ってんのは、まぁ この位だな。
あぁ・・・あと肝心なトコもか。」
サンジが最後に印を付けたのは 自分が働いている店・ジュール。
こうして印の付けられた地図は、そのままテーブルの中央に置かれた。
「うーん・・・こうやって見てみると店ばっかで
アイツを監禁出来る場所なんかなさそうだな・・・。
んな事したら、客に気付かれちまうしな〜。」
「地下は? 地下に閉じ込められてるって事はないのかい?」
「多分、逆だと思いますよ、店長。」
「・・・逆?」
「大抵バーみたいな店は地下が店内になってるから
アイツを閉じ込めておく場所はないんじゃないスかね。・・・だろ?」
それからゾロ・ルフィ・サンジを順に見たのはウソップ。
「あぁ。俺が知ってるのは殆ど狭い店だしな・・・アイツがいるとは考え難い。」
「俺が知ってたんは 前にエースが捜査に行った店だからな・・・今もやってるか分からねェ。」
「それに 取引するなら何処も可能性があるが、閉じ込めるとなるとリスクがある筈だ。」
「そうなると、それなりに広くて あの子が助けを呼べない様な場所って事になるね。」
「って事は、アイツが逃げ出してもすぐに連れ戻せる様な場所って事か・・・。」
ベルメールも3人に続き、ウソップもそのまま眉を寄せる。
「まさか・・・!」
「何だ ゾロ、どうした?」
「・・・?」
「ゾロ? どうしたんだい?」
「おい、どうした ゾロ?」
その直後、まるで奪う様に地図を手にしたのはゾロ。
ルフィやサンジだけでなく ベルメールやウソップも声を掛けたのだが
ゾロはそんな4人に答えず、地図を見たままページを捲っている。
「・・・。」
その手が止まり、地図が再びテーブル上に置かれたのはすぐの事。
「「「「 ・・・? 」」」」
合わせる様に覗き込んだ4人が目にしたのは、ひとつの場所だった。
「「「「 ジャクスン港? 」」」」
「あぁ。此処は離れたトコにあるし、連れ込まれた可能性は高いだろ。」
「ホントかい、ゾロ!?」
「ちょっと待て、ゾロ。何でジャクスン港なんだ?」
「そうだぜ、クソマリモ。奴等があの中の倉庫を借りてるなんて話、聞いたこ・・・。」
「いや、ナミはそこにいるかもしんねェ。」
「「「 ・・・!? 」」」
「・・・。」
すると今度は、全員がルフィを目にする。
「あの場所なら逃げてもすぐに分かるし、ナミを閉じ込めるには一番いい筈だ。
こっから離れてるから、そう歩いて戻れる距離じゃねェし
おまけに近くは湾になってっからな・・・殺したナミを沈める事も出来るだろ。
奴等が倉庫を持ってなくても、無理矢理入っちまえばいいだけだしな。」
「って、沈めるなんて縁起でもねェ事言うなよ・・・。」
そんな彼の横では、途端にウソップが顔を青ざめた。
「それに、ひょっとしたら奴等もあの倉庫借りてるかもしんねェだろ?
もしそうなら、ナミがいる可能性はあるじゃねェか。」
「まぁ そうだけどよ・・・そんな分かり易いトコにナミを連れ込むか?
お前達の知ってるこの印の店だってそうだけどよ
何でネロはこんな簡単に店の情報を漏らしてんだ?」
そして 2人の後に言葉を続けたのはサンジ。
「別に、好きで情報が漏れてる訳じゃねェだろ。」
「ん??」
「まぁ 俺達が知ってるこのいくつもの店は警察も把握してるんだろうが
奴等はそんな事百も承知だろうよ。
取引や金の受け渡しが日常茶飯事な以上、どっかしら情報は漏れちまう。
内部で裏切った奴がいないとしてもな。」
「そうなのか?」
「あぁ。だから奴等はこうやっていくつも店を構えてんだよ。
何処の店で何してもいいようにな。」
「おぉ・・・成程。」
彼はウソップにそう言い終えるとすぐ、隣のルフィを目にした。
「おい、ルフィ。」
「んあ?」
「分かるんなら今すぐにでも調べてもらえ。
兄貴でも赤髪でも、どっちかに聞けば分かるかも知れねェからな。」
「おぉ、分かった。」
そうしてルフィは、すぐに携帯を取り出すと連絡を取り始める。
「・・・ゾロ? どうしたんだい?」
「分からないんです・・・。」
「え?」
「何で奴等がアイツを浚ったのか分からないんです・・・。」
そのルフィの前では、ゾロが俯き加減に呟いた。
「奴等も情報は掴めるでしょうし
昨夜の殺しを見たのがアイツなのを知って 此処の居場所を掴んだとは思うんですけど
どうしてもそれだけで浚ったとは思えないんです・・・。
何か他に理由があるとしか・・・。」
「そう言えば・・・探し物がどうってエースが言ってたね・・・。」
「えぇ。けどアイツはそんな物は持ってないって言ってたし
そうなると、理由が分からないんです・・・。」
「「 ・・・。」」
後に続いたベルメールも ゾロを見たまま不思議に思い
2人の前では、サンジとウソップがルフィを挟み顔を合わせる。
「・・・ホントか!? あぁ・・・あぁ・・・・・・そうだな、かもしんねぇ。
サンキュー、シャンクス! また電話すっから!
お? そっか、分かった。 んじゃ、エースにも言っといてくれ!」
そのルフィが電話を終えたのはそんな時。
彼は閉じた携帯を上着へ仕舞うと、ゾロと顔を合わせた。
「分かったのか?」
「あぁ。あの倉庫街には 不動産屋が持ってる倉庫がいくつかあるらしい。
使われてるかどうかは分からねェみたいなんだけどさ
その不動産屋はひとつだけみてェだ。
シャンクスは その不動産屋も奴等と繋がってるらしいって言ってた。」
「・・・。」
「ビンゴだな。」
「「「「 ・・・? 」」」」
更に2人の後にはサンジが続き、全員が彼を目にする。
「ナミさんはその不動産屋名義の倉庫の何処かにいるって事だろ。
はっきり言って賭けだが、悪くねェ賭だな。」
「確かに・・・そういう賭けなら、悪くねェ。」
「あ?」
すると 次にはゾロが続き、彼はサンジと改めて顔を合わせると口端を上げてみせる。
「俺もアイツも賭け事には強いんでな。」
「・・・。」
そんなゾロにサンジは何処か憮然とした顔を見せ
隣ではルフィが勢い良く立ち上がった。
「・・・うしっ! んじゃ サンジの車で、早いトコ行こうぜ。
ゾロの運転で迷っちまう訳にいかねェしな。」
「・・・。」
「店長は家で待っててくれ。ちゃんと連絡すっから。」
「分かったよ。」
「ウソップも一緒に待っててくれ。店長は頼んだぞ。」
「お、おぉ そうか! 分かった、任せろ!」
「って訳で、運転頼むな サンジ。」
「あぁ。最高速度・最短ルートで行ってやるさ。」
やはりこういう時のルフィ程、力強く頼もしいものはない。
彼はそのまま全員に向かって『しししし』と笑ってみせた。
「・・・あの子の事頼んだけど、くれぐれも無茶するんじゃないよ。
すぐ警察に連絡するんだ、いいね?」
「はい。」
「おぉ。」
「えぇ。」
そうしてゾロの家を出た5人はそれぞれ別れる事になり
ゾロ・ルフィ・サンジを乗せた車が見えなくなるまで ベルメールとウソップが見送る事に。
「アイツ等なら大丈夫っスよ、店長。
ちゃんとナミを連れて戻って来ますって。俺達はとにかく待ちましょう。」
「そうだね・・・。」
見送った後には、ベルメールを安心させる様に 柔らかい声で言うウソップ。
ところがこの時、彼の言葉を打ち消すかの様に
連れ込まれたナミのいる場所では、3発の銃声が大きく響き渡っていた。
「あああ・・・・・・ッ・・・!!!」
その銃声と共に放たれた銃弾は、左脚の腿や左右の上腕を掠め
ナミは痛みに顔を歪めながら倒れこんでしまう。
「ほんの掠めた程度ですから、そんなに痛みはないでしょう。
さぁ・・・今の内に教えてもらいましょうか。」
そのまま見上げた先にいるグレーのスーツを着た男は
ナミのそれぞれから流れる血など全く気にせず、変わらぬドス黒い眼を向けており
彼女は痛みに耐えながら、流れる血を止める事も出来ぬまま男を睨み付ける。
「あの人から何も預かってなん・・・かないわ・・・・・・。
あ、アンタがそんな・・・・・・に欲しいのって・・・何なの・・・よ・・・・・・。」
「ディスクですよ。」
「・・・?」
「あのガキは昨夜そのディスクを我々から持ち出しましてね。
どうにも在り処を吐かなかったもので 始末をしたという訳です。
そこへ貴方が通り掛かったんですよ。
念の為にあのガキの家も探しましたが見つからなかったのでね
・・・そうなると貴方しかいないでしょう。」
「何よそ・・・れ・・・・・・。そんな・・・の・・・・・・そんなの知らない!」
その身勝手で理不尽な理由の為に連れられた事で 怒りを覚えるナミ。
しかし、痛みを堪え強い口調で男に言い切った瞬間
男は再び彼女に銃口を向け 引き金を引いていた。
「きゃぁぁぁあああ・・・・・・ッ!!!」
放たれた銃弾はナミの脇腹を掠め
同時に 清々しくも聞こえるナミの悲鳴が大きく響く。
「急所は外しましたから死ぬ事はありませんよ。
尤も 近い所には撃ちましたから、相当の痛みがある様ですがね。」
男の言う通り、脇腹から流れる彼女の血はそれまでの場所とは比べ物にはならず
まるで滝の様に流れては服を赤く染め 地面へと伝っていく。
そのあまりの痛みに耐えられないナミは、自由の利かない手足を反射的に動かし
それが収まると 何処か焦点の定まらない眼で男の足元を目にしており
そこから視線を上へ上げると、男は何処か楽しそうに彼女を見下ろしていた。
「あ・・・・・・ぁ・・・あぁ・・・・・・。」
そして その眼は変わらずドス黒いもの。
ナミは霞み始めてしまった視界でそれを目にした途端
動く事も出来ぬまま怯えた様子を見せた。
「こちらも生憎ゆっくりしている時間はないんですよ。
さぁ・・・いい加減ディスクの場所を話してもらいましょうか。」
しかし 彼女のそんな様子など構わないのか
男は再び屈み髪を掴むと、力任せに起き上がらせ その変わらぬ眼を向ける。
「あ・・・・・・ぁ・・・・・・。」
その男を前にナミの怯えた様子は変わらず
彼女は声を出すのもままならない状態になってしまっていた。
「ロ・・・・・・。」
それでも何とか口にしたのは
男が求めているディスクの場所ではなく、ゾロの名前。
「・・・!?」
そして この場所に靴音が大きく響いたのは直後の事で
男はナミの髪を手にしたまま反射的に振り返る。
『随分楽しい事をしてるな。俺も混ぜてもらおうか。』
直後に裏口らしき場所から現れたのは、黒い服に身を包んだ男。
「ッ・・・!」
「・・・。」
驚く様子を見ても顔色など変えず、まっすぐに歩み寄る男。
「・・・。」
やっとの事で顔を向けたナミは最初、遠目で顔を見る事が出来なかったが
すぐに彼女は霞れた目ながらも、その特徴のある髪を目にする事になる。
「ゾ・・・ロ・・・・・・?」
それは彼女がゾロだと間違えてしまった程、特徴のある銀色の髪をした男。
そこに現れたのは、ナミの髪を掴んだままの男とは別の
深い闇を宿した眼を向けているザムだった。
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