act8:real facts・U
みづき様
「久し振りだな、ルファラ。」
「成程・・・私達の居場所などお見通しという訳ですか。」
突如現れたザムを前に驚きながらも
ルファラと呼ばれたその男は、ナミの髪から手を離しゆっくりと立ち上がる。
「まぁ そんなトコだ。お前だってそれは承知だったんだろ?」
「えぇまぁ・・・こちらもそんなトコです。
それにしても1人で此処に来るとは、随分バカな真似をしたものですね。」
その事でナミが再び倒れ込んだのと、ルファラがザムに向かい銃を向けたのが同時で
ルファラはそのまま薄笑いを浮かべた。
「別にそうでもないさ。」
「・・・?」
ところが 銃を向けられてもザムは歩みを止めず、逆に何処か得意気な笑みを見せると
小さく顔を動かし、それまで様子を見ていた他の男達を促す。
「な・・・!?」
すると その中の2人・・・ナミを浚い此処へ連れ込んだ男達がルファラを取り押さえ
そのまま彼女からルファラを遠ざけた。
「こ・・・これは何の真似だ!?」
途端にルファラは大声を上げ、取り押さえている2人から逃れようとするが
身体を動かす事は出来るもののそれは出来ず、ついには手にしていた銃を落としてしまう。
そして そんな様子など全く気にならないのか
ザムは構わずに3人の横を通ると、そのままナミの前に屈み込み
焦点が定まっていない様子の彼女の頬に手を掛けると、そのまま顔を合わせた。
「ぁ・・・・・・。」
「すまなかったな。」
そんな彼女にザムは一言だけ謝ると
そのままオレンジの髪を撫でながら、安心させる様に柔らかい笑みを向ける。
「た・・・・・・すけ・・・て・・・・・・。」
ナミはそのザムの笑みを見て安心したのか
彼に助けを求めると、髪を撫でているその手に頭を預ける様に気を失ってしまった。
「・・・。」
その彼女から手を離そうとした時
ザムの目に入ったのは、ゾロからの掃除代も入っている財布。
それを見たザムは、何かに気付いた様に その財布を徐に取り出した。
「成程・・・可能性に賭けた甲斐はあったって訳か。」
そうしてナミをゆっくりと横たえたザムが
カードを入れる事の出来る場所から取り出したのは小さな黒い物。
それは横5cm・縦3cm程の 小さなマイクロフロッピーだった。
「それは・・・・・・!」
「悪いがこれは返してもらう。リンに顔向けも出来ないしな。」
「・・・。」
取り出したそのFDを着ているジャケットへしまいながらルファラに言い切ると
財布を元あった彼女の服の中へ戻し、そのままゆっくり立ち上がると顔を合わせるザム。
彼のその眼は先程ナミへ向けたそれとは違い
再び深い闇を宿した眼へと戻っていた。
「さて・・・何処から話そうか。」
「・・・ッ。」
その眼だけではなく、ザムから放たれている威圧感に押されたのか
取り押さえられているにも関わらず、ルファラは後退する様子を見せる。
「まぁ 面倒でも最初から話すのが手っ取り早いか。
この事はとっくの昔に始まってたんだよ・・・俺がお前を上に上げた時点でな。」
「まさか・・・私達の事を知ってたとでも・・・!」
「そういう事だ。それに私達じゃない・・・そいつら全員、お前についちゃいなかったのさ。
お前についたフリをしてもらっててな。俺がそうさせた。
要するに お前のやってる事は筒抜けだったって訳だ。」
「な・・・・・・!」
「ファイロに情報が漏れてるのを、俺が知らないとでも思ったか?
取り入る事で上手く知り得て 奴等に流したんだろうが
気付かない程 俺も組織もバカじゃねェし、甘くもねェよ。
やるんなら、もっと上手くやるんだったな。」
そうして後、自嘲ぎみに笑ってみせたのはすぐの事だった。
「成程・・・それで貴方は私を幹部に仕立て上げ、証拠を作らせたという訳ですか。」
「まぁ そうなるな。お前を幹部にする事で、好き勝手させた訳だ。
現にお前はディスクを盗み出し、ファイロへ流そうとした
・・・その前に取り返してもらうつもりだったが
リンの奴は俺にいい顔しようとして 言う事を聞かずに先走ったんだろう。
俺もアイツは気に入ってたんだがな。」
「・・・。」
「俺がお前に偽のディスクを掴ませなかったのは、確実に取り返せたからだ。
リンには気の毒な事をしたがな。
それでもアイツは お前にディスクを取り返されるよりはマシだと思ったんだろう
・・・この子の知らない間に隠して息絶えたんだろうな。
お前の前でディスクを預ける訳にもいかず、この子の財布に入れたってトコだろ。
それでもこうやって俺の手に戻ったんだ・・・大した奴だよ、アイツは。」
「・・・流石、ネロのボスである貴方が気に入るだけの男だという事ですか。」
「まぁ そんなトコだな。」
するとルファラは、途端に鋭い眼光をザムへと向ける。
「そんなバカな筈はない! あんなガキより私の方が劣っているとでも言うのですか!?」
「少なくとも、お前よりは幹部になれる資質はあったさ。」
「何ですって・・・・・・?」
「このディスクの件は警察も多少なりとは掴んでる。
お前は雑に動きすぎて、警察に嗅ぎつかれたんだよ。
おまけに アイツの家まで荒らして、警察にディスクの存在を教えかねないマネをした
・・・それだけならまだしも、無理矢理この子を浚って吐かせようとする不手際だ。
ここまで荒っぽいマネをしなくても 他に方法はあった筈だ。
まぁ お前の焦る気持ちは分からなくはないがな。」
「・・・。」
「俺は組織の連中以外の誰かを巻き込むのは酷く嫌いでな
・・・まさか それを忘れた訳じゃないだろう。」
「ッ・・・。」
ところがルファラは 目の前の威圧感に更に押され、言葉を失ってしまっていた。
「お前は最初から殺るつもりだったんだろうが
この子が昨夜お前の顔を見てたかどうかは怪しいトコだな。
それを調べてから此処へ連れて来ても 遅くはなかった筈だ。
考えなくても、この子の周りの連中が探し始めた事も予想がつくしな。
こんな考え無しのやり方が 組織で通用する訳ないだろう。」
「ッ・・・。」
そして そのまま悔しさに顔を歪めるルファラに、変わらぬ表情を向けるザム。
「何にしても、お前は俺や組織を裏切った。
俺に取って代わる気だったのか あちらさんに取り入るつもりだったのかは知らないが
組織の情報をやる見返りとして貰った金も、そっくり貰い受ける。」
「な・・・!?」
「言ったろ・・・お前の事は筒抜けだったんだ、俺が知らないとでも思ったか?」
「ッ・・・。」
彼の瞳の色は更に深さを増し、ルファラは再び言葉を失う。
「この街の為にも 向こうとの均衡は保つ必要があるんでな
お前が流した以上の情報をくれてやるつもりは さらさら無い。
それにお前には、侘びを入れてもらう。」
「わ・・・・・・び・・・?」
「リンとこの子への侘びに決まってるだろう。
お前はそれだけの事をしたんだからな。」
そうしてザムは、ルファラ達から僅かに距離を置いている黒髪の男と顔を合わせ
次に 地面へと落とされていた拳銃へと促す。
そして促されたその男は ジャケットからハンカチを取り出すとその拳銃を拾い上げ
引き金に指を通しながらルファラのこめかみへと銃口を押し当てた。
「な、何を!?」
「見た通りだ。まさか 何の覚悟も無しにリンやこの子に手を出した訳じゃないだろう。」
「・・・ッ。」
更には最後通告とも取れる言葉を耳にし、顔面蒼白になるルファラ。
「此処でディスクが見つからない以上
警察は お前がこの子に見られた事で誘拐したと思う筈だ。
そこへお前の死体と拳銃や銃弾があれば、お前が犯人って事でカタが付く。
ディスクの存在はこの子へ知られたようだが
こうして戻った以上、問題は無いしな。まぁ 暫くは大人しくしてるさ。」
ザムは言い終えた後、何か言い掛けるルファラを目にするが
聞く耳は持たず、拳銃をこめかみへと当てている男へ向かい小さく顔を動かす。
そして この場に再び銃声が響き渡ったのは直後の事。
更にその銃声は、ジャクスン港へとやって来た3人の耳にも
僅かながら届く事になった。
「おい、何だ今の音?」
「まさか、銃声か!?」
「・・・。」
助手席に座るルフィだけでなく
車を運転しているサンジや後部座席に座るゾロも、同時にその音に気付く。
「あっちの奥の方から聞こえたぞ。」
「あぁ。」
「・・・。」
その音のした方向で、使われていない倉庫は只ひとつ 第2倉庫。
しかし 辿り着いたその倉庫はシャッターが閉められていた。
「おい お前等、こっちだ!」
「ん?」
「あ?」
そうして車を降りたゾロは ルフィとサンジを促すとすぐに走り出す。
「おい、どうしたんだゾロ?」
「何だってんだ?」
「いいから、裏口を探せ! すぐにドアをぶっ壊して入る!
裏口がなきゃ不動産屋を呼ぶしかねェだろ!」
「おぉ、そうだな!」
「成程な。」
そんな3人が裏口に辿り着いたのは間を置かずして。
「・・・!?」
「おい、ゾロ!」
「・・・!」
ドア上に付いている小さな外灯の下、ドアノブに手を掛けたゾロ。
ところが、動かないと思っていたそれはすんなりと動き
彼はドアを開けたと同時に中へと入り、ルフィとサンジも後へ続く。
「ナミ・・・!!!」
「ナミ!!!」
「ナミさん!!!」
そこには既にザム達はおらず
明かりが付いたままの倉庫内で3人が次に目にしたのは
身体中・・・特に脇腹から多く血を流しているナミ。
気を失っている彼女は 3人の声に気付く事は無くぐったりと横たわり
彼等の脳裏には、すぐさま最悪の状況が浮かんでしまう。
「ナミ・・・おい・・・・・・。」
その為 彼女を前にすると、力を無くしたかの様にぺたりと地面に膝を着くゾロ。
しかし次には 息をしている事に気付くとハッとなり
気を失ったままの顔を目にした後反射的に振り返ると
後ろに立つルフィとサンジをすぐに見上げた。
「が・・・・・・息がある・・・。」
「「 ・・・!」」
その言葉に、同時に顔を合わせる2人。
直後にルフィが取り出したのは携帯だった。
「お?」
「・・・何だ?」
「・・・?」
ところがルフィを始め、サンジやゾロも突然聞こえた音に動きを止めると
その音が聞こえて来たシャッターのある方向を目にする。
「・・・サイレン?」
「みてェだな。」
「・・・。」
そのサイレンの音を聞きながら顔を合わせあうサンジ・ルフィ・ゾロ。
「どういう事だ? 警察か救急車でも来たってのか?」
「多分そうじゃねェか? 救急車なら 今俺が呼ぼうと思ったんだけどよ。」
「多分って、お前・・・奴等がナミさんの為に呼んでくれたとでも言うんじゃねェだろな。」
「多分そうだろ。」
「はぁ?」
そうして『多分』をお互いに口に出すと
ルフィに向かってその特徴のある眉を寄せるサンジ。
しかし この時ゾロは、2人とは違う明後日の方向を向いていた。
「どういう事だ・・・?」
「お?」
「あ?」
その言葉に気付いた2人もまた
ゾロの向いている方向をすぐに目にする。
「「 ・・・!?」」
その視線の先にあったものは
ナミの様に横たわり、目を見開いたまま息絶えているルファラ。
その倒れている場所には身体と掠る様に血が飛び散っており
だらりと伸ばされている手の近くには、拳銃が放るように置かれている。
「「「 ・・・。」」」
そして ある種・異様なその光景に驚いたルフィとサンジは
だんだんとサイレンの音が大きくなる中、ゾロと顔を合わせたのだった。
☆
「じゃぁ ナミの事は任せたからな。」
「あぁ。病院に着いたらすぐに連絡する。」
そうしてサイレンの音が救急車のものだと分かり
裏口から運ばれたナミはゾロと共に救急車の車内へ。
救急隊員がすぐに彼女の処置を始めた中、ゾロはこの場に残るルフィと顔を合わせていた。
「エースにも連絡したし、こっちは俺とサンジでやっとくからよ。」
「あぁ、頼む。」
そのルフィの隣にはサンジが立ち
ゾロは彼等に見送られながら ナミと共に病院へ行く事に。
それからルフィに呼ばれたエースがこの場へとやって来たのは10分程して。
更に彼だけでなく、この場にはシャンクスもやって来ていた。
「おい、こりゃぁ どういうこった・・・。」
「・・・。」
倉庫内へ入った各々の刑事は、未だ横たわったままのルファラに驚くしかなく
そんな様子を見せながらも、鑑識や監察医を捜査へと促す。
「ナミが誘拐されたかも知れねェのが分かって
すぐには逃げられない此処じゃェかって思ったんだ。
んで シャンクスに聞いて此処まで来たんだけどよ
そしたらナミは撃たれてて そいつが死んでた。」
「・・・他に気付いた事は?」
「あぁ・・・此処の裏口の鍵は開いてたぞ。
あと この倉庫ん中の電気も付いてた。」
「要するにこのままって事か・・・。」
「おう。」
その様子を隣で見ていたのはルフィ。
彼はエースにそういい終えると、そのまま言葉を続けた。
「・・・それと救急車だな。」
「救急車? お前等が呼んだんじゃないのか?」
「あぁ。俺が呼ぼうと思った時には もう来てたんだ。」
「ってこたぁ・・・。」
「奴等がナミの為に呼んでくれたんかも知れねェ。
どんな風に通報してしたんか調べてみた方がいいぞエース。」
「あ、あぁ。」
そうしてエースはすぐに携帯を取り出す。
「・・・つまり 此処にいたのはナミとアイツだけじゃねェって事か。」
「かもしんねェけど、ハッキリした事は言えねェな。
アイツの服ん中に此処の倉庫のカギがあって
あの拳銃に付いてる指紋とアイツの指紋が一致すれば
此処にいたのはアイツだけって事になる。
自殺する前に此処へ救急車を呼んでから死んだって事にはなるんだけどよ・・・。」
「他にも奴等がいたって考えた方が自然か?」
「あぁ・・・まぁな。けど、銃声を聞いて俺達が入ったのは結構すぐだったし
あの短い時間の間にこっから出られたのかどうか分かんねェんだよな・・・。」
「成程・・・お前達が入るまでは何処か見つからない場所へ身を隠しておいて
こっちの奥まで入ったのを見てから気付かれない様に出てったとも考えられるか・・・。」
「まぁな・・・。どっちにしても証拠は無いんだけどよ。」
「まぁ そうなるな。」
そんなエースの後に続いたのはシャンクスで
ルフィは彼に話しながらすぐ、気付いた様子を見せる。
「そういやエースが言ってたけど、探し物って何だ?」
「あぁ・・・上手くすればネロを叩けるお宝なんだがな。
この様子じゃコイツも持ってなさそうだ。
まぁ ガセなのかホントに存在してるのかも ハッキリしてないんだがな。」
「ふーん・・・。」
そこへやって来たのが、ルファラの検死を終えた監察医。
「警視、大体の検死が終わりました。」
「おう ご苦労さん。で、どうだった?」
「死後30分も経ってないですね。まだ仏さんは温かかいですし。」
「こいつらが銃声を聞いてからそう経ってないし、そうなるか?」
「えぇ、そんなトコですね。死因は銃弾でココを撃たれた事による即死。
火傷の痕もあったんで銃口を密着させて撃ったんでしょう。」
「って事は自殺か・・・?」
「まぁ そうなりますか。」
監察医が『ココ』と自分の指を当てたのはこめかみで
それから軽く頭を下げると、そのまま皆のいる場所を離れる。
そんな彼に続いたのは、それまで様子を見ていたサンジだった。
「要するに、昨夜ナミさんが見た奴を殺したのはこいつって事だろ。
銃弾が一致すりゃ証拠になるしな。
見られたと思ったこいつはナミさんを浚い殺そうとした
・・・が、何かしらで救急車を呼んだ後に自殺したって事だ。
もし他にも奴等がいたんなら、殺したり救急車を呼んだのはそいつ等になるが証拠はねェ。
身体を押さえつけときゃ頭を撃ち抜けるがな。まぁ そんなトコだろ。」
「おう。後はナミに聞けば分かるだろうしな。」
「あぁ。」
彼の後にはルフィが頷き
エースが通報の確認を終えたのはそんな時。
「そうですか、分かりました。」
エースはそのままジャケットへ携帯をしまうと
改めてルフィと顔を合わせた。
「お、どうだったエース?」
「通報してきたのは男だったそうだ。
女が此処で撃たれてるから救急車を向かわせてやれってな。」
「男?」
「あぁ。まぁ 携帯からの通報だったらしいし
発信源を調べれば持ち主は分かる筈だ。そいつが通報したのかどうかもな。」
そして エースの後に続いたのはシャンクス。
「とにかく お前達は病院に向かっていいぞ。
此処を調べても拳銃の指紋と銃弾しか出ないだろうが
また詳しい事が分かったら連絡する。
こっちもナミに詳しく聞く必要があるしな。」
「おう、分かった。」
「あぁ。」
そうして彼の言葉を受けたルフィとサンジが
ゾロからの連絡を受け総合病院に到着してから、30分程して。
「皆さん、どうぞこちらへ。」
同じくゾロからの連絡で到着したベルメールとウソップを含めた5人は
病室へと運ばれたナミを見送った後、手術を終えた女性医師により診察室へと通された。
「それで 先生、あの子は・・・?」
「脇腹からの出血が酷かったですが、命に別状はありません。
血液も足りましたし、無事に手術は終わりました。ご安心下さい、お母さん。」
「そうですか・・・。」
そして 医師の言葉を聞き終えると、安心した様子を見せるベルメール。
「あああああ!!! 良かったー!!! んナミすわーん!!!」
「分かった・・・分かったから、いきなり抱きつくな! 驚いたろが!」
「おおお、そっか!」
「・・・。」
彼女の後には サンジやウソップに続いて
ルフィとゾロもそれぞれ安心した様子を見せた。
「明日になればじきに目を覚ますと思います。
何日かの入院は必要になりますので、着替えなどの用意をお願いしますね。」
「あ、はい。本当に有難う御座いました。」
そうして深々と一礼するベルメールの後に続き、同じく頭を下げる4人。
それを受け女性医師もまた頭を下げると、すれ違いに今度は男性が部屋へと入って来た。
「それじゃぁ 皆さん、患者さんを運んだ病室へご案内しますので。」
現れたのは、何処か飄々とした雰囲気を漂わせた男性で
看護服に身を包んでいるのに、何処か理容師にも見えてしまう風貌。
更に鳥の巣の様なモサモサとした髪があまりにも目立っている男性看護士だった。
「病室はこちらになります。
万一何か起こってしまった時はすぐに呼んで下さい。
今日は僕と先程の先生がいますから。」
「はい、有り難う御座います。」
そうして5人は男性看護士に促され、案内された病室へと入り
手術を終えたばかりのナミの姿を目にする。
それは先程と変わらず瞳の閉じられたものだったが
皆が皆やっと安堵する事の出来た、そんな様子だった。
「ナミ・・・。」
「・・・。」
「良かったな、ナミ。」
「あああ、んナ・・・んぐぐ・・・!!!」
「って、此処でデカい声出す気かお前は・・・!」
その彼女を前に、それぞれの様子を見せた5人。
「そうだ、この子の着替えとか取りに行かないと。
悪いけどサンジ、家まで頼めるかい?」
「あ、はい。」
「あんた達はどうする?」
「俺は此処にいます。」
「俺もいるぞ。」
「あぁ、俺もだ。」
ベルメールはサンジと共に家へと戻る事になり
ゾロ・ルフィ・ウソップが病院へと残る事になった。
「じゃぁ 戻るまでこの子の事頼むね。行こうか、サンジ。」
「はい。 ・・・おい お前等、俺が戻るまでちゃんとナミさんを看てろよ。」
「おう。」
「あぁ。」
「・・・。」
こうして3人がひとまずベルメールとサンジを見送る形になり
その後にウソップが少しオーバーに気付いた様子を見せる。
「あああ、そうだった! 俺、家に電話して話さねェと。
悪ぃけど付き合ってくれるかルフィ。」
「んあ?」
そんなウソップを見てルフィは不思議そうな様子を見せたが
ナミを見たままのゾロの背中へ小さく顔を動かすと、同じ様に小さく頷いてみせた。
「おぉ、そうだな。」
そしてルフィはニカッと笑うと、ゾロの肩へと軽く手を乗せる。
「んじゃ ゾロ、俺ちょっとウソップに付き合うから、ナミの事頼むな。」
「あぁ。」
そんなルフィと改めて顔を合わせたゾロは、そのまま2人を見送る事になった。
(ナミ・・・。)
それから彼はベット横の椅子へ腰掛けると
ゆっくりと彼女の手を握りしめ、自分の額をその場所へ押しあてる。
(俺の所為で・・・・・・すまなかった、ナミ・・・。)
「なぁ、ウソップ。」
「ん〜?」
「お前やっぱいいヤツだな。」
「まぁな。」
その頃 携帯を使う為、病院の外へと出ようとしていたルフィとウソップ。
その途中、歩きながらお互いに顔を合わせると
ルフィは『しししし』と笑い、ウソップは『ニカッ』と笑うのだった。
☆
「じゃぁ ナミはまだ目が覚めてねェんだな?」
「あぁ。」
明けて翌日、場所もそのままに ナミのいる病室前。
そこには廊下を挟んだ壁際に長いソファーが置かれており
その場所に座っているのはエースとルフィの兄弟。
更にルフィの隣では、上半身だけをソファーに横たえたウソップとサンジが
重なる様に眠りについている。
「俺達無理言って昨夜からずっと此処にいさせてもらってたんだ。
こいつらは朝方まで起きてたんだけど寝むっちまった。
店長と俺は休める時に休んだって感じだな。店長は中でゾロに休む様に言ってる。
ゾロは全然寝ねェで、ずっとナミの手握ってんだよ。」
「そうか。」
そして 皆の様子を聞いたエースは
改めて閉じられたままの病室のドアを目にした。
「んで、そっちはどうだったんだ? 何か分かったのか?」
「分かったが、分からねェ事だらけだ。」
「んあ?」
「サンジの言ってた通り、あの倉庫で見付かった銃弾と
一昨日の害者を撃った銃弾は一致した。」
「って事は、ナミの見つけた奴を殺したんは・・・。」
「あぁ、昨夜の奴って事になる。拳銃からも奴の指紋しか出なかった。
あの倉庫の鍵も奴の服から見付かってな・・・指紋も奴のだけだった。」
「通報した奴もアイツだったのか?」
「どうやらそうらしい。発信源を辿ったら奴の携帯だった。
オマケにこいつも奴の指紋しか出なくてな
・・・救急車を呼んだ後に自殺したって事になる。」
「・・・。」
そこまで話して僅かながら眉を寄せるエース。
それはルフィも同じだったらしく、2人は全く同じ表情になっていた。
「つまりは、昨夜サンジの言ってた通りだな。
下っ端同士の諍いで殺した害者を見られた事でナミを浚い殺そうとしたが
何故だか殺しかけたトコで助けを呼んでやって自殺。
拳銃と銃弾も見付かって、奴が犯人で一件落着だ。」
「凄ェ表向きな感じだな。」
「あぁ。普通、殺すつもりで浚った奴を殺さずに、自分が死ぬか?
おまけに助けも呼んでやっておかしいだろ?」
「まぁ 凄ェおかしいな。
倉庫を持ってた不動産屋はどうだったんだ?」
「会社で所有してる倉庫の鍵な事は認めたんだがな。
何で昨夜の奴が持ってたかは知らぬ存ぜぬだ。
こっちも証拠が無い以上、これ以上は踏み込めなくてな。」
「・・・ここまでって事か。」
「あぁ。ナミの話が聞けりゃぁ 少し・・・。」
すると勢いよく目の前の病室のドアが開き
ルフィとエースはそのまま気付いた様子を見る。
「ん〜〜〜?」
「なん・・・ぁ・・・?」
その勢いよく開いたドアの音にウソップとサンジも目を覚まし
同時に4人が目にしたのはベルメール。
「ルフィ!みんな! ナミが気が付いたよ!」
「「「「 ・・・!」」」」
その言葉に4人は一斉に立ち上がると、揃って顔を合わせた。
「すぐに昨夜の先生を呼んでくるから、中で待ってとくれ。」
「あぁ!」
「わっかりましたぁ!!!」
「おう!」
「・・・。」
そうしてベルメールとすれ違う様に、病室へと入ったウソップ・サンジ・ルフィ・エース。
彼等の視界に真っ先に入ったのは ナミへと声を掛けているゾロだった。
「おい、ナミ! 俺だ、分かるか!?」
「・・・。」
そんな彼等がゾロの後ろから覗き込むように見ると
それまで天井を見ていたナミが、ゆっくりと自分達と顔を合わせてくる。
「おい、ナミ!」
「ナミさん、俺です!」
「ナミ!」
「気付いたか、ナミ。」
その彼女を見ながらそれぞれ声を掛けた4人。
ナミは最後にゾロと顔を合わせると、何処か不思議そうな顔を彼へと向けていた。
「ナ・・・・・・ミ・・・?」
その様子が何処か変に思えたゾロは、すぐに再び声を掛ける。
「おい・・・・・・どうした・・・?」
「・・・。」
ナミはそんなゾロに不思議そうな顔を向けながら口を動かしたのだが。
「お前・・・まさか、声が・・・・・・!」
「・・・!?」
「「「「 ・・・!?」」」」
その動いた口からは声が全く発せられず
ナミ本人だけでなくゾロの後ろにいる4人も、その突然の事に驚くしかなかった。
「・・・・・・・。」
彼女はそのまま喉元に手を置きながら口を動かすのだが、それでも声は全く出ず
その事で一気に不安になった様子の彼女は、何処か泣きそうな顔をゾロへと向ける。
「大丈夫だ・・・もう大丈夫だから・・・。」
「・・・。」
喉元に置かれたナミの手を 反射的に再びゾロが握ったのはすぐの事。
そんな彼の様子に、今度はナミが僅かに驚いた様子を見せた。
「大丈夫ですか!?」
そこへやって来たのが、昨夜の女性医師と 彼女を呼びに行っていたベルメール。
「声が・・・。」
「え?」
「声が出ないんです・・・。」
女性医師はゾロの隣に立つと同時にそう聞かされると
すぐにナミの顔を覗き込んだ。
「ナミさん、ここ病院です。分かりますか?」
「・・・。」
そうしてナミは次にこの女性医師と顔を合わせ
自分が病院にいる事は分かったのか、彼女へ頷いてみせる。
「じゃぁ ちょっと 『あ〜。』って言ってもらっていい?」
「・・・。」
しかし その後に再び口を動かしてみるが、はやりナミから声が出る事はなく
彼女は再び不安そうな表情を女性医師へと向けた。
「大丈夫、心配しないで。無理して声を出そうとしないでね。」
「・・・。」
「貴方は昨夜この病院へやって来たの。昨日の事覚えてる?」
「・・・。」
そしてそのまま頷くと、暫くしてから驚いた様子を見せたナミ。
それは彼女自身が昨日の事を思い出せない事に驚いた様子で
変わらぬ不安そうな表情をしたまま 枕上で頭を小さく左右に動かし
5人は・・・特にゾロは、そんな彼女に酷く驚いた様子を見せた。
「ん、分かった。無理して思い出さなくていいからね。
これからちょっと調べる必要があるから、ちゃんと検査しよう。
今 みんなとその検査の事で話をするから、ちょっと待ってて。」
「・・・。」
女性医師は極力ナミを安心させる様に微笑み掛け
頷いた彼女を確かめると そのまま6人を病室の外へと促す。
「「「「「「 失声症?」」」」」」
「えぇ。おそらく、銃で撃たれた時に酷くショックな事があったんだと思います。
その事で一時的に声が出なくなってしまったのと同時に
脳がその事や昨日1日全てを忘れてしまったと思われます。
私は専門ではないので、その専門の医師に診察をお願いしますので。」
そうして女性医師は頭を下げると、足早にこの場を去って行く。
そして この日からほぼ1年
ナミの記憶の中には、前日にあった全ての事が抜け落ちてしまうのだった。
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