act9:Conjecture


            

みづき様






「じゃぁ ナミは撃たれた後に気を失って
そこから病院で目を覚ますまでは分からなかったんだな?」

「うん。」



時折途切れ途切れになり、自分の中で確認する様に言葉を続けながら
ナミはやっと1年前自分の身に起こった出来事を話し終えると、チョッパーに頷く。



「つまりその似顔絵の人は 貴方を助けたのではなくて
その場所に現れただけという事になるわね。」

「そうみたい。」



その後にいつものゆっくりとした口調で続いたのはロビン。



「話を聞いた限り、貴方を撃ったその人に用があったという感じかしら?」
「だと思う。あたしはディスクを持ってなかったし。」

「でもそれは、ディスクの存在が公になっていないだけかも知れないわ。」
「え・・・?」


「お? どういう事だロビン?」
「どういう事ですか?」

「ロビン・・・?」
「・・・。」

「おい、どういうこったよ そりゃぁ?」
「どういう事だ?」

「おかあさん?」
「どういう事だ、ロビンちゃん?」



彼女は変わらぬ口調でそう続けると、自分を見る全員を改めて目にした。



「もし居合わせた被害者が、知らない内にディスクを隠していたとしたら?
それを取り返そうとして浚ったのだと考えれば、辻褄は合うと思うわ。」

「ちょっと待って、ロビン。
隠すって言ったって、ディスクならすぐに気付く筈だわ。
あたしホントにそん・・・。」



「・・・マイクロフロッピーか。」



「んあ?」
「え?」

「マイクロフロッピー?」

「なんだぁ?」
「何だ それ?」

「まいくろふろっぴぃ?」
「・・・。」



すると次にはゾロが続き、今度は全員が彼を目にする。



「え? マイクロフロッピーって、もしかして・・・。」

「あぁ。俺達でルティナ市へ行った時 一旦お前に預けたアレだ。
害者を見つけたあの時 お前は財布や携帯位しか持って出て行かなかったし
通報してる間に財布へ隠した可能性はある。
それに浚われる前にお前が持ってたのも財布だけだったしな。」

「・・・。」



「おい、ゾロ・・・じゃぁ シャンクスの言ってたお宝って・・・。」

「それだった可能性はあるな。
ただあの時は そんなモンが存在してるかもあやふやだった
・・・だから俺達は諍いで起こった殺しだと思うしかなかったんだ。」



そうしてゾロの後に続いたのはルフィ。
更に彼の後にはウソップが続いた。



「ちょ、ちょっと待てよ
・・・てこたぁ ナミが見つけた奴の部屋が荒らされたのも
そのディスクを見つける為だったって事になるよな?」

「あぁ。けど見つからなかったんで浚ったって事だ。
奴等ならナミが持ってる位の予想をつけて 此処を見つけただろうからな。」



「で、でも、その浚った場所に この似顔絵の人が来たのはどういう事なんでしょう?」

「多分 害者が組織を裏切ってディスクを持ち出した事で殺されたんじゃなく
ナミを撃った奴の方が組織を裏切ってたんだろう。
害者の方はディスクを取り返そうとして殺されたんだろうな。
その似顔絵の奴があの場所に来てたんなら、その可能性の方が辻褄は合う。」



彼の後にはビビが続きすぐに驚いた様子を見せる。
そしてそれは ベルメールも同じだった。



「え? どうしてそうなるんだい、ゾロ?」

「ナミを撃ったそいつが殺されたからです。
話から考えると、この似顔絵の奴はナミの方にいた事になるから撃ってない。
そいつといた奴等の誰かが撃った可能性が出てくるんです。
そいつ以外の奴等は全員 裏切ったフリをしてたと思うのが自然になってくる
・・・そう考えれば、体を押さえつけるのも頭を撃ち抜くのも楽だし
そいつの指紋しか出なかったのも辻褄は合うんです。」



「ちょっと待って、ゾロ
この人が直接殺さなかったかも知れないって事は・・・。」

「あぁ・・・そいつはネロの中でも上の立場の奴なんだろう。」


「まぁ そうなるか?」
「えええええ!?」

「ホントかい!?」

「おい、ホントかよ そりゃ!?」
「おおおおお!?」

「そうなるかしら。」
「ふーん・・・。」
「・・・。」



更に彼女の後には ナミだけでなく他の皆も続き、ゾロはそのまま言葉を続ける。



「害者はその似顔絵の奴に命令されたかで、裏切ったそいつからディスクを取り返した。
その途中で財布にディスクを隠し、その後に殺され
隠したと思われた事で 浚われたってトコだろ。
そこへやって来たその似顔絵の奴はディスクを取り返し
その後に裏切り者の始末を付けた。
あの時救急車を呼んだのも、そう考えれば納得がいく。
おそらく その似顔絵の奴か裏切ったフリをしてた奴等の誰かが
始末を付けた後にそいつの携帯を使って呼んだんだ。」



「うーん・・・確かにナミの思い出した事と合わせるとそうなるけど
どれも そうだってだけで、証拠は無いな。」

「あぁ。ディスクをこの目で見てない以上 推測でしかないし
現に銃や携帯からも余計な奴の指紋は出てないしな。
辻褄を合わせると そうなるって事だけだ。」



そんなゾロとナミの後に続いたのはチョッパー。
彼が何か気付いた様な顔を見せた後、次に目にしたのはサンジだった。



「そうだ、サンジ。」
「・・・何だ?」

「ナミの事があってから、店で何か聞かなかったか?
ネロにいる奴も店に来てるんだよな?」

「あぁ、まぁな・・・。あの時は俺の方から話をした位だ。
多少驚いてたんで変には思ったんだが、特には聞けなかった。」

「ふーん・・・。」



彼はこの場にいる中で唯一ザムを知り 更には顔を合わせている事もあり
1年前の出来事が辻褄として繋がった今、皆の中で一番驚いた様子を見せている。



「・・・サンジお兄ちゃん? どうしたの?」
「あぁ・・・ちょっとね。大丈夫だよ、シェリーちゃん。」



その彼の様子に、いち早く気付いたのはシェリー。

彼女はそのまま心配そうな様子を見せ
サンジはすぐに柔らかい笑みを見せると、そんな彼女の髪を優しく撫でた。



「要するに、そいつがナミさんに謝ったのも
ディスクを持ってる可能性があった以上 浚ってもらう必要があったのと
自分があの場所へ着くまでにナミさんが撃たれたからだろうな。
あの野郎、1年も黙りやがって・・・今度会ったらどやしてやる。」

「え?」
「・・・。」



最後は小さく舌打ちをする様に呟いた為シェリーにしか聞こえず
見上げている彼女には意味が分からないのか そのままきょとんとした顔を向けている。



そんな2人の後に続いたのはウソップで、彼はいつの間にか腕組みをしていた。



「要するに その辻褄通りだとするとだ
ナミがホントに気付かねェ間に持たされたかは別としても
そのディスクがあったとして、相当重要だった筈だ。
何せその似顔絵の奴は組織のお偉いさんで
取り返そうとしてた上に、人が2人死んだ程のモンだからな。」


「そうなんですか? でも、ディスクって言ったらデータですよね?
ホントにそこまで重要なデータなんでしょうか?」


「ちっ・ちっ・ちっ。甘いぜビビ。」
「え?」
「データだからこそ、人が死んじまった程重要なんだ。」
「え? あの、それってどういう・・・。」


「ネロやファイロなんてデカいマフィアの重要な情報網じゃ
幾らボスや幹部連中だって頭で覚えてられねェだろうからな。
ある程度でも殆どでも、データにはしてる筈だ。
それが裏切られて盗まれたとなりゃ 意地でも取り返すだろ。
まして その情報がファイロに流れたとなりゃ、勢力は一気に変わるしな。」


「あ・・・。」



そんなウソップに続いたビビは気付いた様子を見せ
その後には 揃ってルフィが気付いた様子を見せる。



「もしホントにそのディスクがあったとしたら、警察もネロを叩けたって事か。」
「あぁ。そんな代物じゃ 人が2人死ぬのも分からなくはないだろ。」
「だな。まぁ そうだとして、実際はもうコイツが取り返したんだろうけどな。」



更にルフィは ナミが手にしたままのザムの似顔絵を指先で軽く弾いてみせた。



「どちらにしても、何も証拠が無い以上は推測に留まるしかないわね。
もし推測通りだとしても、その似顔絵の人がディスクを取り返したでしょうから
これ以上貴方に危険が及ぶ事はないんじゃないかしら?
貴方を撃った男の指紋しか出なかった上、被害者を撃った銃弾が一致しているし
貴方も気を失った事で何も見ていない以上
刑事さん達に話しても 何も証拠は掴めないでしょうしね。」


「うん・・・あたしもそう思う。
財布だって、あれからずっと使ってるから、この人の指紋は取れないだろうし。」



そんな彼の後にはロビンが続き、ナミもそのまま頷く。



「んじゃよ、この事は俺からエースに話しとくから
お前は明日ちゃんと病院行って来いよ。」

「え? 病院?」



それから彼女は改めてルフィを見ると不思議に思い
2人の後にはチョッパーが続いた。



「そうだ ナミ、明日ちゃんと病院行かないと。」
「え?」

「見た感じ大丈夫そうだけど、ちゃんと脳の検査をしないとな。
気を失ってる間に脳の検査をして異常は無かったから 一応此処に戻って来たんだ。
ホントならそのまま病院にいた方が良かったんだけど
慣れてる自分の部屋で目が覚めた方が、思い出した時のショックが和らぐと思って
それで無理言ってこっちに戻らせてもらったんだぞ。」


「そうだったの・・・。分かった、明日ちゃんと病院に行って来る。」
「おぉ。」

「・・・。」



そんなチョッパーの後ろでは、ゾロが心配そうにナミを目にしている。



「大丈夫よ、ゾロ。病院にはちゃんと行けるし
ロビンの言う通り証拠が無いんだもん、きっともう狙われないわ。」

「あぁ・・・。」



更に次には、その2人の様子を見ていたサンジとシェリーが続いた。



「ナミさん、良かったら俺が明日車出しましょうか?
店は夜からだし、午前中空いてますけど。」

「あ、あたしも! おねえちゃんがしんぱいだから、いっしょにいく!」


「ありがと。でも1人で大丈夫だから。
ここ最近休み無しでお店にずっと行ってたんだし、ゆっくり休んでサンジ君。
シェリーはちゃんと明日学校に行かないとね。」


「わっかりましたー!」
「はぁい!」



そうしてサンジは目をハートマークにすると右手を上げ
シェリーもそんなサンジに合わせ、揃って右手を上げる。





「じゃぁ 話も終わった事だし、何か食べるかい ナミ?
起きてからずっと話してて お腹空いたろ?」

「あ・・・そう言えばそうかも・・・。」

「消化にいい物作ってきてやるから、それまで横になって休んでな。」



そんな2人に続いたのはベルメール。
彼女はナミにそう言うと、次に皆を目にした。



「あんた達はアイスでも食べるかい?
確かあったと思うから、向こうで食べるといいよ。」


「アイス!? 食う食う!!!」
「ル、ルフィさん・・・。」

「・・・。」

「おぉ、いいな。」
「俺も食べるぞ!」

「折角だし、頂こうかしら。」
「あたしもたべたいー!」
「はぁい、店長v」





そうしてナミは部屋から出て行く皆を見送り
手にしたままのウソップのスケッチブックを真横にある机の上へひとまず置こうとする。



「え?」



ところがそれは机を掠めてしまい、床へと落ちそうになったその時
床へと落ちる前にそのスケッチブックを掴む手がナミの視界に入って来た。



「ゾロ・・・。」



見上げるとそこに立っていたのは、変わらずに心配そうな様子を見せているゾロ。

彼はそのままスケッチブックを机の上へ置き直すと
それからすぐに椅子へと腰掛けた。





「ホントに1人で大丈夫なのか?」
「え?」
「だから、大丈夫なのかって聞いてんだ。」

「うん、平気。ちゃんと行って来られるから。」
「そうか・・・。」



そうしてゾロはゆっくり呟くと
ナミはそのまま横になり、改めて彼を見上げる。



「あ、そうだ・・・。ねぇ、ゾロ。」
「ん?」
「ちょっと手握ってくれる?」

「・・・手?」
「うん。」



更にそのままゾロは手を差し出すと、ナミの手をゆっくりと握りしめた。



「あの時も こうやって握っててくれたよね、ゾロ。」
「あぁ・・・。」
「だからかな・・・あたしゾロの手って好きなのよ。こうしてもらうと落ち着くの。」

「そういやお前、落ち着くとか時々言ってるな。」
「うん。前は何でゾロがこうしてくれてたのか分からなかったけどね。」


「ったく・・・だから思い出す必要はねェって言ったんだ。」
「ゴメンって。でも、嫌な事だけ思い出した訳じゃないから。」
「あ? 何だよそれ?」

「何かあたし、あの時の記憶を失くす前からアンタの事好きだったみたい。
結局 事務所や部屋の掃除をしながら、アンタに会えるの嬉しかったみたいなのよね。
だから嫌な事だけ思い出した訳じゃないわ。」

「そうか・・・。」

「それに その似顔絵の人、あたしを安心させようとしてくれたみたい。
あたしに謝ってくれた後、優しく笑ってもくれたんだ。だから怖くは感じなかったし。
アンタよりいい男に見えたかも?」

「はぁ? だから、何で俺に聞くんだよ。」
「へへ〜。」


「ったく・・・バカ言ってねェで、ひとまず休め。
店長が飯持って来たら起してやるから。」

「うん、そうする。何か、思い出しながら話したら疲れちゃった。」
「あぁ。」



そうして まだ心配そうな様子を見せているゾロと
そんな彼を安心させる様に笑いかけ
握られている手の暖かさを感じながら ひとまず眠りにつくナミ。





『何だ ちゅうしねェのか? つまんねェな〜。』
『ルフィさん、何言ってるんですか・・・!』

『自分の家じゃないからって 遠慮する必要なんかないのにね・・・。』

『いや、あの・・・普通は遠慮するんじゃないスか、店長?』
『何だ? ゾロは何を遠慮してるんだ?』

『そうね・・・遠慮をしない探偵さんというのも、見てみたかったわね。』
『それって、ナミおねえちゃんにちゅうしていいってこと、おかあさん?』
『ロ、ロビンちゃん・・・シェリーちゃん・・・。』



そんな2人のいるナミの部屋のドア越しには
当人達など構う事無く、それぞれがそれぞれを言いながら、2人の様子を見ていたのだった。




END


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<管理人のつぶやき>
過去の記憶の中から、一人の男の顔を思い出すナミ。その男は、サンジの店の常連で、レクター街を2分する勢力を持つマフィアの一つ「ネロ」の幹部のザム。レクター街シリーズでは既におなじみのオリジナルキャラで、シリーズ中も渋い男の魅力を発してました(笑)。

ウソップの似顔絵を手掛かりにナミは自分の過去の真相を探りに行きます。心配して追いかけてきたゾロに阻まれるも、そこでフラッシュバック。ナミは意識を失い――話は過去へとさかのぼります・・・。

シリーズ中では影でエロエロとやってるゾロとナミが、過去ではまだ付き合ってなくて、よそよそしいのがなんだか新鮮でした(笑)。
そしてナミはひょんなことからネロ内部の抗争に巻き込まれてしまうという災難。
ザムが助けてくれてよかったよ!(そんでアンタ渋カッコ良過ぎだっての!影の主役はザムで決定!・笑)

筆の速いみづきさんが、かなりの月日をかけて書かれたこの過去編。みづきちゃん、長編完結ホントお疲れ様ー。
レクター街シリーズは、みづきさんがサイト(
junble shop)を開設されて以降はみづきさんのサイトでアップされていくことになっていましたが、過去編は第一作の「lecter street」と関係が深いことから、当サイトでもアップさせていただくことになりました^^。
みづきちゃん、どうもありがとうございましたvvv


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