Ding Dong! 2 後編
瞬斎 様
陽の光がカーテンの隙間から眩しく差し込む頃、ナミは漸く目を開けた。時計を見ると既に昼前である。
「ふぁぁぁぁあ」
一つ、大きな欠伸をして伸びをした。よく眠れなかったような気がする。昨夜はバー・スワンから戻ってすぐベッドに横になった。だが、ゾロを尾行する、ということを考えると興奮してなかなか寝付けなかったのだ。漸く寝付いた頃には鳥の囀りが聞こえていた気がする。
眠い目を擦ってのそのそと起き出し、這うように廊下に出る。待ち構えていたようにゾロがリビングから顔を覗かせた。
「やっと起きたか。顔を洗って来い」
「わかってるわよ……」
洗面所に行って鏡を見ると髪は好き放題跳ね、顔はいくらか寝不足で腫れぼったい。目は充血して真っ赤だ。冷水で顔を乱暴に洗うといくらか頭もすっきりしてくる。タオルを引っ掛けリビングへ行くとゾロはいつものように朝食を用意して待っていた。
「ほら、早く食え」
「急かさないでよ、起きたばっかりなのよ……」
いつもの会話である。
「ゾロは?食べないの?」
「お前が起きてこないから、先に食った」
「起こせば良かったじゃないの」
言いながらサラダのトマトを口に放り込む。ゾロは少し驚いた顔をした。店が休みの日はゾロが先に食事を摂ってしまう。だが、ナミはこれまでに「起こせば良かったのに」などと言った例がない。むしろ「もう少し寝かせろ」と言っていたくらいだ。ゾロが驚くのも無理はない。
「調子が狂うことを言うなよ……」
ゾロはナミと同じようにトマトを口に放り込む。どうやら誤魔化しているつもりらしい。
「別に良いけど……」
助け舟でも出すような気分でそう言ってナミは箸を取った。
「そうそう」
思い出した風を装って少し顔を上げる。
「私、今日は出かけるから」
「休みじゃなかったのか?」
「買い物」
「ふぅん」
興味があまりないらしい。何となく詰まらない気分になる。もう少し自分に感心を持っていても良いのではなかろうか。
「あんたさぁ、毎朝毎朝、私より早く起きて何やってんの?」
「何って、朝飯の用意してるんだよ。今、食ってるだろうが」
「他には?」
「掃除、洗濯」
「そっか」
「前から言おうと思ったんだがな」
良い機会、とでも思ったのかゾロは身を乗り出す。何を言われるのか、ナミは内心冷や冷やしながらも平静を装って箸を動かす。
「お前、下着くらいテメェで洗えよ。一応、女だろうが」
「……何だ、そんなことか」
思わず胸を撫で下ろした。ゾロは明らかに不服なようだ。
「そんなことってなぁ、恥じらいってものはねぇのかよ」
「なぁにぃ?欲情しちゃった?」
ゾロは顔を真っ赤にして言葉に詰まってしまう。そして不機嫌この上ない様子でナミから顔を逸らした。
「二度手間じゃないの。どうせ洗うのは洗濯機だしさ。細かいこと言うんじゃないわよ」
ナミは意に介さない振りをしつつ、そっとゾロを窺う。毎朝、女物の下着をこの男はどんな気持ちで洗っているんだろうか。年相応にドキドキしながら、時折危ない想像でもして洗っているのかもしれない。
「出掛けるんだろ?何時頃?」
分が悪いと思ったのか、ゾロは話を変えた。
「そうねぇ。ご飯食べ終わって支度したらすぐに」
「そうか」
何故かホッとした様子でゾロが表情を崩したのをナミは見逃さなかった。
やっぱりゾロには何か秘密があるようだ……。
ナミは自分のマンションの前の建物の陰で『張り込み』をしていた。部屋を出てから小一時間程経つがゾロはまだ出てこない。ちょっとした探偵気分だ。顔を隠すために新聞なんて持って来ている。ナミの張り込みイメージはテレビドラマそのままである。
ちょっとした高揚感も味わいながら、当然不安もある。本当に女にでも会いに行ったらどうしようか。やっぱりこんなこと止めてしまおうか。そのたびにボン・クレーの言葉を思い出して不安を頭から振り払った。
ジーンズにTシャツ姿で出てきたナミは珍しく街に溶け込んでいる。普段はばっちり決めて出てくるので、どうしても一般人から浮いてしまう。夜の女神というのは太陽とあまり相性がよろしくない。
苛々しながら待ち続けていると漸くゾロがマンションから出てきた。こちらもジーンズに青いシャツとラフな姿だ。背中に背負っているリュックもいつもと同じものだった。その姿に少し安堵するが、すぐに疑問が浮かぶ。ゾロの出勤時間までにはまだ大分時間があるのだ。
距離を保って後を付いていく。幸い、ゾロは全く気付いていないようだ。ゾロは市街地の方へ向かっている。女と待ち合わせなら繁華街のカフェが妥当だ。ナミは新聞で半分顔を隠しながらあれこれと想像する。思い浮かぶのはあまり良い想像ではない。
ゾロが信号などで止まる度に近くの物陰に隠れる。通行人が不審の目を向けていくが、関わりたくないと感じるようでそのまま通り過ぎていく。
ゾロは繁華街を素通りした。カフェでの待ち合わせではないようだ。そのことに少しだけホッとするが、まだ女と会わないと決まったわけではない。
公官庁が並ぶ街の中心部にでた。およそゾロとは縁の無さそうな土地だ。ゾロは公園へと入っていく。そこには文化施設も併設されていた。ナミは滅多に来ないが、客の同伴で美術館に付き合ったことがある。公園か美術館あたりで女と待ち合わせ、という可能性が頭に過ぎって心拍数が上がる。やっぱり女か、そのまま何処かへ時化こむのか、それとも美術館でインテリデートか。いや、女とは限らない。また変な輩に騙されて金でも巻き上げられているんじゃないだろうか……ナミの想像は悪い方向へ膨らむばかりだ。
ゾロは公園を横切り、四角い立派な建物に入って行った。窓の数を数えると5階まである。他にゾロと同じ年頃の人、サラリーマン、老人や、親子連れも出入りをしているようだ。何の施設だろうと思い近寄ってみてナミは首を傾げた。
「図書館……?」
御影石に刻まれた名前を見て、ナミは思わず呟いた。いったいゾロがこんなところに何の用があるというのだろうか。ナミは首を傾げながら図書館の自動扉を潜った。
まずは案内を見る。一階は児童書を中心としたコーナーのようだ。二階と三階は一般書。四階が専門書。他に学習室と休憩所があるようだ。
いくらゾロでも児童書なんて読まないだろう。ナミは一階を飛ばして二階からゾロを探すことにした。慎重に周囲に気を配りながらナミは書架の間を縫うようにしてゾロの姿を探すが、なかなか見つからない。閲覧するためのソファが所々に据えつけられていたがそこにもいなかった。
同じように三階も探すがゾロはいない。残るはゾロがもっともいそうのない専門書を並べている四階と児童書の一階となった。ナミは少し考えて、先に四階を見て、最後に一階を見てみることにした。
四階は専門書が多いせいか人は二階と三階に比べると人は少ない。本棚が並ぶフロアにゾロはいなかった。休憩所にもゾロはいない。残るは学習室である。
まさか、と思いつつも一応覗くだけ、と学習室の扉を開ける。予想外に結構な人数が机に向かっていた。席の半分は埋まっている。
入り口に近い方から順に見ていくと学生が多いようだ。カップルで勉強に勤しんでいる学生もいる。他には調べ物をしているサラリーマンや本を一心不乱に読んでいる老人もいた。
やっぱりいないか、と思い最後に部屋の奥をちらりと見て引き返そうとした時、ナミは思わず図書館ということも忘れて声を上げそうになった。部屋の一番奥の机にこちらに背を向けて座っている碧色の短髪が視界の隅を掠めたのである。
ナミは俄かには信じられず、一旦目を瞑る。そしてゆっくりと瞼を上げると、やはりそこには大きな背中を丸めて、机に向かっているゾロの後姿があった。時折頭を掻いたり腕を組んだりして机に向かっている姿は、他の机にいる学生たちと変わらない。
このまま邪魔をせずにそっと部屋を出て何も見なかったことにするか、それとも側まで行ってゾロが何をしているのか確認をするか。ナミは少しだけ逡巡したが、呆気なく好奇心が勝った。
とりあえず女に会っていたわけでも、変なヤツに騙されていたわけでもなかった。そのことに安心すると、自然に口元が緩む。しかし、自分に内緒で図書館に来ていることはやはり面白くない。ちょっと仕返しをしてやろう、という気持ちがふと湧いてくる。
そっと足音を立てないようにゾロの背後に近づく。幸い、ゾロの隣は空いていた。ゾロはナミがすぐ側まで来ても全く気が付かず、机に噛り付いたままだ。
「お隣、いいかしら?」
ナミは静かに声を掛けた。
「あぁ、どうぞ」
声を掛けてもまだナミだと気が付かない。ゾロはナミに見向きもしない。手元を覗くとマーカーが沢山引かれた参考書らしき本とノートが広げられている。何か勉強をしているようだ。
ナミは静かに隣の席に座る。ゾロはそれでも気が付かずに一心不乱に参考書を捲り、ノートに書き込みをしている。それを横目で見ているうちにゾロが急に可愛く思えてきた。
「何の勉強をしてるの?」
声を掛け、身を寄せてゾロの手元を覗きこんだ。
「なんのって……」
ゾロが漸くナミの方を向く。それから目を丸くして息を飲んだのがわかった。夢の世界から現実に引き戻されたように目を瞬いている。そのまま固まってしまった。
「お、おまえ、何で!」
たっぷり時間を空けて漸くゾロは声を上げた。まさかナミがいるとは思わなかったのだろう。普段はあまり表情を変えないゾロだが、今は面白いくらいに真っ青だ。
「シーッ。図書館では静粛に」
ナミはゾロの口を押さえて悪戯が成功したことに内心ほくそ笑んだ。
「ゆっくりお話を聞かせてもらうわよ?」
どすを効かせて囁くとゾロは自分の負けと悟ったのか、盛大な溜息を漏らした。
公園の中央にある噴水が陽の光を反射して煌いている。水辺で遊ぶ子供たちのきゃっきゃっとした声が長閑な午後を演出していた。都会のど真ん中なのに喧騒からは程遠い。ナミは木陰になっているベンチを見つけ、ゾロと並んで腰を掛けた。
「たまにはこういうところに来るのも、悪くはないわね」
ゾロは答えない。余程見つかりたくなかったのだろう。
「で、何の勉強してたのよ?」
ナミはなるべく何でもないことを訊くようにして切り出した。ゾロはちらりとナミを見ただけで困りきったようにまた視線を泳がせる。どう話そうか迷っているようにも見えた。
ナミは辛抱強く待った。日頃恬淡としているゾロが、いったい何に拘っているのだろう。問い質したい気持ちを堪えてナミは待つ。
「受験、勉強……」
やがてゾロは重く口を開いた。体に似合わず小さな声だった。
「ふぅん……って、何ぃ!?」
波は耳を疑った。今、受験、と言わなかったか?
「じゅ、じゅ、受験って、何?資格でも取るの?」
「違ぇよ。その……大学受験……」
「だぁいぐぁくぅぅ!?」
まさに天変地異だ。ゾロの何処を引っ叩いたらそんな言葉が出てくるのだろう。
「そ、そんなに驚かなくても良いだろ……」
ゾロはうんざりと肩を落としている。
「あ、いや、でも、何で突然……」
ナミは慌てて身を引く。
「大学に入って何するのよ?」
大学に行くのはいい。しかし、いったい何のために。
「……笑うなよ?」
ゾロははにかんだ様に俯いた。ナミは頷いてゾロの言葉を待つ。
「教師に……なりてぇんだ」
「……はぁっ!?」
素っ頓狂な声を上げてしまい、慌てて口を両手で押さえた。
「きょうし、って先生、のことよね?」
「そうだよ……笑いたければ笑えよ」
「笑うなって言ったの、アンタでしょ」
ゾロはそのまま黙ってしまった。まったく、素直に話せば楽になるのに。一々手間の掛かることだ。
「で?いつから?」
「……ガキの頃から……親友との約束なんだ」
ゾロはポツリポツリと話し始めた。
教師になりたいというのは、元々その親友の夢だったらしい。ところが親友は事故で亡くなってしまった。ゾロは墓前でその夢を引き継ごうと約束をしたそうだ。
ところが、いざ大学進学を考えた時に父親に猛反対をされた。軍人である父親はゾロを軍大学へ進学をさせるつもりでいたのだ。大喧嘩になり、どちらも折れず、ゾロは家を飛び出した。父親に勘当された形となったという。
家を出たばかりの頃は貯金もあったし、高校の成績も良い方だったし問題なく大学に進学をできるはずだった。しかし、今度は友人がやくざなヤツに騙され、その保証人になってしまい貯金を根こそぎ持っていかれた。それだけでは足らず、借金までこさえてしまった。
ナミと出会ったのはこれからどうしていいのか途方に暮れていた時だったらしい。ナミと生活を始めて最初は慣れない仕事で勉強どころでは無かった。だが、それも落ち着いてくるとやはり夢の為、親友との約束の為、何かやらなければと思うようになったという。
ゾロは時々言葉を選ぶように話した。父親の話は思い出すのも嫌なようで苦りきった表情をしていたが、親友との話をする時は柔和な表情になる。そして目を輝かすのだ。ナミが初めて見たゾロの一面だった。羨ましいとさえ思った。それが夢に対してなのか、それともその親友に対してなのか。
「お前への借金を全部返したら……今度は金を貯めて大学行こうと思って」
「何で言わなかったのよ」
「言っても仕方ないだろ」
「隠すことないじゃない」
「別に……隠していたわけじゃ」
「要するに、あとはお金が問題なのね?」
ナミはベンチから立つとゾロの正面に回った。にやりと意味深に笑うとゾロが首を傾げる。ナミの腹はもう決まっていた。可愛い忠犬が困っているのだ。ご主人様として黙って見ているのは道理に反する。
「私が出してあげる」
「はぁっ?」
今度はゾロが驚く番だった。何を言い出すんだ、と顔に書いてある。ナミは愉快になった。
「あんたの学費くらい、すぐに用意できるわよ?」
「そういうことじゃなくて……これ以上はお前に迷惑は」
「大学、行きたいんでしょ?バカねぇ、早く言えば良いのに」
羨ましいと思った夢に、少しでも関わることが出来たら。
「水臭いこと言ってないで、素直に甘えなさいよ」
ゾロの側に自分がいる意味がちゃんとできるんじゃないだろうか。
「言っとくけど、あげるんじゃないからね。将来、先生になったら三倍にして返してもらうんだから……一生掛けても返して貰うわよ?」
ゾロはぽかんとナミを見上げていた。ナミはゾロの手を取ってベンチから立たせる。思い切り背伸びをし、自慢の笑顔でゾロに詰め寄った。
「うん、って言いなさい」
「でもっ」
ゾロは顔を真っ赤にしてたじろいだ。
「言えっ」
ナミは胸倉を掴んだ。まるで喧嘩を売っているようだが、こうでもしないとこの頑固者は素直にならないのだ。世話の焼ける愛犬である。
「ホントに、良いのか?」
「そのかわり、今まで以上に私の言う事、ちゃんと聞きなさいよ?」
「……そ、それは」
「ホラ。ぐずぐずしていると私の気が変わるわよ?」
苛々と捲し立てる。暫く難しい顔をしていたゾロは、胸倉にあるナミの手を丁寧に剥がしにかかった。予想と違う展開に、ナミは慌てる。自分が関わることを拒絶されたのではないか。足元からざわざわと恐怖が湧いてくる。ゾロはナミを引き剥がすとそのまま一歩後ろへ下がり、突如、体を折り曲げた。
「お願いしますっ」
頭を下げたまま、ゾロは声を張った。驚きが先に立ち、それからゾロに受け入れられたのだとわかった。今度は安堵感が胸から全身に広がっていく。プライドだけは無駄に高いゾロが頭を深々と下げる。その意味がわからないほど、ナミは愚かではない。
「金は、必ず返します。俺を大学に行かせてください」
本当に不器用なヤツだ。ゾロも、そして、自分も。
「わかったから、頭上げなさいよ」
ナミは腰に手を当て、仁王立ちになる。おずおずと頭を上げるゾロと視線がかち合った。
「大学、落ちたら許さないからね」
指を突きつけて、ナミは笑った。心の底から。
男に尽くされることはあっても、尽くすことなんて考えたことがなかった。女は尽くされてナンボ、だ。でも、悪い気分ではない。むしろ、ゾロの夢が自分の夢のように思えてわくわくする。これ以上ない楽しみを見つけた気分だ。
「ほら、仕事でしょ?行きなさいって」
「……あ、やべぇ。こんな時間……!」
ゾロはベンチに放り投げていたリュックを取る。行きかけて足を止め、照れたように笑った。えぇと、と頭を掻く。
「その、さんきゅ」
それだけ言って、ゾロはナミに背を向けた。
「がんばって」
ナミは大きな声で手を振る。途中、ゾロが一度振り返って、ぎこちなく手を振った。どこか晴れ晴れとした顔に見えるのは気のせいではないだろう。ゾロはリュックを背負い直して走り出した。その後姿に充足感を感じてナミはゾロの姿が完全に見えなくなるまで手を振り続けた。
「今日は久し振りに料理とかしちゃおっかな」
ナミも家路に着く。陽は西に傾いて影が長く伸びていた。ゾロが先生か。似合うような、似合わないような。ゾロが教壇に立つ姿を想像するとどこかこそばゆい。すっかりボーイ姿が馴染んだゾロが、ネクタイを締めて教鞭を振るうのである。何を教えるのだろう。悪い奴に騙されて金を取られない方法とか?それとも女に拾われる方法とか?想像してナミは可笑しくなった。
「あ……他のホステスに気を付けて、って言っとけば良かったかなぁ」
まぁいいか、とナミは家路に着く。ちょっと……いや、かなり。想像していたのと違うが、ゾロとの距離が縮まったことに変わりはない。このゾロとの秘密の関係に、誰かが割り込める筈がない。これって“あしながおじさん”?いや、自分は“おじさん”ではない。じゃぁ、“あしながおねえさん”か。奉公するのが忠犬の仕事なら御恩を掛けてやるのは主人の務め。ボンちゃんには明るい報告ができそうだ。
ナミは足取り軽く、道に転がっている石ころを蹴飛ばした。
ネオンの妖しく光る街。
オアシスを求めて今宵も迷える羊たちが女神を求めて集う。
さぁ、めくるめく宴の開演。
「ナミさん、ご指名です」
「はい」
麗らかな夜の女神は颯爽と。それを先導するのは碧色の番犬。
「ねぇ、ゾロ?」
女神はそっと囁く。番犬は耳を立てて振り返る。
「勉強、ちゃんと進んでる?」
「あぁ」
「帰ったら、足のマッサージよろしくね」
「おう」
忠実な番犬は表情を変えず、ただ女神に従うのみ。
「ところで、訊いてなかったけど……何の先生になりたいの?」
「あぁ、まだ決めてない」
ゾロはテーブルの客にナミを紹介すると慇懃に頭を下げて立ち去る。
そうか、まだ決まっていないのか――ナミはにこやかに笑顔を振りまきながら、ふと気が付く。
「決まってないのかよ!?」
夜の女神の突っ込みが夜の舞台に響き渡った。
了
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<管理人のつぶやき>
店の他の女性陣にぃさりげに人気のあるゾロなのねぇ。客とは違ってぇ硬派なんですものぉ。
ナミさんはぁそんなゾロのことがぁ気になって仕方がないんですぅ(この口調移るね・笑)。
相談相手のボンクレー様に吹き込まれ、ゾロの跡をつけるという行動に出ると・・・なーんと、ゾロは教師を目指す受験生であった!
追跡の間ずっといろいろ想像してはやきもきするナミが可愛いです。店では女神として君臨してるナミも、ゾロの前では健気な女の子になるのですねv
ゾロの夢に関わろうと大学の費用も出すと!「結果、ゾロが完全なヒモになってしまったわけですが(汗)」(瞬斎さん談)。ワハハ、確かに(笑)。
R18esistance(閉鎖されました)の瞬斎さんが「Ding Dong!」の続編を投稿してくださいました。
瞬斎さん、素敵なお話をどうもありがとうございましたvvv