港からナミの自宅まで、約1時間のドライブとなった。
ナミの自宅がある街へ近づくと、名残惜しげに海岸沿いのルートに別れを告げ、内陸部へと入っていく。
いつも立ち寄る市場で食材を買い求めて、家路に着いた。





愛のある島2  



act3:ジュニア


先にサンジを玄関で降ろし、ナミは車の車庫に入れに回った。
その間にサンジは玄関のドアを開ける。彼はこの家の合鍵を持っているのだ。
スーツケースを片手で掴み、もう片方の腕には食材の詰まった紙袋を抱え、軽やかな足取りで玄関を通り抜け、奥のリビングへと歩を進めた。

リビングに入ってすぐ、ソファで誰かが仰向けに寝転んでいるのが目に飛び込んできた。
両腕を枕にして、グーグーと鼾をかいている。
明かり除けのために、顔には麦わら帽子を被せて。

サンジは目を見開いた。

まさか、と思う。


しかし、すぐさま麦わら帽子の影から、オレンジ色の髪が覗いて見えた。
ジュニアの髪だ。

(ああ、驚いた、一瞬・・・・)

ルフィかと、思った。
ルフィが、戻ってきたのかと。
だが、それはルフィではなく、成長したジュニアの姿だった。

「似てきたでしょー。」

いつの間に戻ってきていたのか、サンジのすぐ後ろでナミが悪戯っぽく囁いた。
サンジもナミの言葉に、内心大きく頷いた。
ジュニアの、腕枕で突き出た肘の形、何気なく投げ出された両足の膝小僧、足の指の曲がり具合まで、彼の父とそっくりだった。

「最近は本人も自覚してるみたいで、麦わら帽子を被っては、よく私を驚かせようとするのよね。」

ナミは苦笑いを浮かべながら、サンジから食材の紙袋を受け取った。

「ハハハ。こりゃ、気を抜いてると本当に騙されそうだ。」
「フフ、そうでしょ?―――こら、ジュニア!サンジくん、来たわよ!!」

ナミがつかつかとソファに歩み寄り、ジュニアの耳元で大声で叫んだ。

「おわっ!!」

ジュニアもまた大声を上げて、ビクビクッと身体を震わせて跳ね起きた。
顔を覆っていた麦わら帽子が、パサリと床の上に落ちた。

(クソ、こんな声まで似てきやがった)

しばしキッチンに入っていったナミの後姿と、サンジの顔を交互に見つめ、呆けた顔をしていたジュニアだったが、ようやく状況を飲み込んだのか、あらためてサンジに顔を向けて挨拶した。

「あー、サンジさんー、こんにちはー。」

床に落ちていた麦わら帽子を大事そうに拾い上げてお腹の上に置き、まだ寝惚けているのかゆったりとした口調だった。
話し方は、やはりルフィとは似ても似つかない。丁寧な言葉遣い。
やはりジュニアは、ジュニアなのだ。

「こんにちはーじゃあねぇだろ。サンジさんがお見えなのに、なんでお前はお迎えに来ねぇんだー?!」

そう言いながら、サンジはジュニアの頬を左右に引っ張った。

「ヒヘヘヘヘヘ〜〜!もう〜やめてよ〜〜〜。」

2人にとっては、これも既に恒例の挨拶みたいなものだ。

「もう眠くてさ。」

バツの悪そうな顔をして、ジュニアは頬を両手でさすっている。

「なんでそんなに眠いんだよ。」
「受験勉強してるから。」
「受験勉強だぁ?お前が?」

ジュニアは頭がいい。これがホントにルフィの子かと思うくらいに。
幸いにも、頭の中身は母親の方を受け継いだのだ。

「そんなに大変なトコロなのか。」

別に今でもジュニアは成績がいい方だ。
小さい時から、小憎たらしいほどデキがよかった。
そのジュニアが寝不足になるぐらい勉強するというのは・・・・。

「うん、今までノンビリやってたから。そこは進学校だし。」
「好きな子が、そこへ行くのよねー?」

二人の会話に、ナミがキッチンから口を挟む。

「ちょっ、母さん!」
「ほーそうかそうか、好きな子かぁ。へぇ、お前も色気づいてきたんだなぁ。で、どんな子だ?可愛いか?今度紹介しろよ。」
「サンジさんだけは、絶対に、イ・ヤ!!」

なんでオレだけはダメなんだコノヤローと、サンジはジュニアの頭を抱え込み、脳天に拳をグリグリと押し当てた。ジュニアは逃れようともがき、のた打ち回った。
じゃれて遊ぶ男二人に、ナミはキッチンとリビングの敷居に立ち、痺れを切らしたように声を掛けた。

「さ、二人とも、そろそろお昼にしたいの。お昼食べたら、すぐ出掛けるわよ!」
「え、どこ行くの?」

ジュニアが素朴な疑問を口にする。今夜はこのままこの家で過ごして、夜にはサンジにご馳走を作ってもらう予定だった。

「別荘へ行こうと思ってるの。港へ行ったら、急にもっと海が見たくなっちゃった。アンタは反対?」
「あ、いいよ。俺も行きたい行きたい。」
「ああもう〜、やっぱり無理矢理にでもアンタを一緒に連れて行けばよかったわ。サンジくんを迎えに行ったついでに、港から船に乗れば済むことだったのに!」
「まぁまぁ。もう済んだことだし。それよりお昼、何作るの?俺、やるよ?」
「いいわよ、サンジくんは長旅で疲れてるんだし。それに夜には存分に腕を振るってもらうからv」

そう言って、ナミは再びキッチンに姿を消した。
優しく断られて、手持ち無沙汰に立っているサンジの背後に、ジュニアがソッと近づく。
しかし、サンジはサッと身を翻して、逆にジュニアのバックを取り、羽交い絞めにする。

「テメェがサンジ様のスキを衝こうなんざ、100万年早ぇぇぇんだよ〜〜!」
「イテテテテテ、痛い〜〜〜!!」

素早く態勢を変えて、サンジが尚もジュニアに技を掛けようとする。
すんでのところでそれをかわしながら、ジュニアが更に火に油を注ぐようなことを言う。

「言っとくけど、相撲でも遠泳でも、もうサンジさんには負けないから!」
「ほざいてろ!返り討ちにしてくれるわ!!」



昼食を済ませると、3人(主にナミとジュニア)はバタバタと出掛ける準備に入った。
ジュニアは受験勉強の道具を持っていきたいというので、参考書や問題集を厳選しながらカバンに詰め込んだ。
ナミも準備時間があるとなると欲が出て、新しい水着を買っておいたはず・・・とタンスの中を探し始め、あの本もこの本も、あのオブジェもこの絵も別荘に置いておきたいと、どんどん荷物を増やしていった。
サンジは到着したままのスーツケースを傍らに置いて、リビングの壁に寄りかかって二人の支度ができるのを待っていた。

ちょっと外へ行ってタバコ吸ってこようかと思った時、玄関のチャイムが鳴る。
家人達(ナミとジュニア)は気づいてない様子だったので、サンジが代わりに玄関先へと向う。
そうすると、まるで急かせるように、もう一度チャイムがけたたましく鳴った。

「はいはい、お待たせしちゃってスミマセンね。どちら様で?」

ドアの取っ手に軽く手を掛け、サンジがドア越しにいるはずの訪問者に問い掛ける。
しばしの沈黙の後、ドアの向こうから驚くほど無機質な声が返ってきた。

「世界政府下、海軍の者ですが。」




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