このお話は、『とある国の出来事』の過去編です。
「・・・・そして、ルフィとこの国のため。ずっと前にも言ったでしょ。私は結婚するとき、一生ルフィを支えていくことを誓ったの。」
そう、14年前のあの日に誓った―――あの人と共に。
誓い −1−
現在、『とある国』の国王ルフィの側近であり、軍部のトップを司るロロノア公爵ゾロは、自邸のソファに腰を沈めながら、テーブルの上に乗った数枚の細密画を前にして、途方に暮れていた。
そこには、どこかの貴族のご令嬢方の姿がとてもに写実的に描かれている。
この細密画は言うなれば、お見合い写真だった。
アリス王女の一件が無事に落着し、昨夜、ルフィを後宮に送り届けたところで、休暇を申し出た。
だから本日は完全なオフ日で、自邸で久々にのんびり過ごす予定だった―――伯母が乱入してくるまでは。
彼女が無理矢理押し付けていった細密画の意味するところはよくわかっている。
名門ロロノア家に後継ぎがいないこと、それどころか当主が結婚さえしていないことを非常に心配しているのだ。
ゾロは31歳。貴族の結婚年齢は早く、普通ならもうとっくに3,4人の子供がいても不思議ではない。現に2歳下のルフィには5人の子供がいるわけだし。
しかし、ゾロは今までどんな結婚話も断りつづけてきた。
今後も受ける気は無い。
けれど、それではロロノア家はどうなる。姉は既に嫁ぎ、ゾロ以外には後継者はいない。
それを思うと、気分が暗くなる。周りが自分の結婚に干渉してきても、無げにはできない。
むしろそれが当然の反応であって、ゾロの考えの方が頑なだと言えよう。
人が部屋に入ってくる気配を感じて、ゾロは顔をあげる。そこには、
「難しい顔をしてるわね。」
「姉上!」
ゾロの姉のくいながいた。娘のたしぎを連れて。
「また、マーサ伯母様がいらしたのね。」
察しのいいくいなはテーブルの上に広げられた細密画を見ると溜息混じりにそう言った。
ゾロはそれに対し、無言で答える。
「伯母様の気持ちも分かるわ。ロロノア家の行く末が全てあなたにかかっているというのに、あなたがこの調子では…。」
「まだ父上も母上も健在であることですし、もうひと踏ん張りしていただいて、弟か妹を作ってもらいますかね。」
「何をバカなこと言ってるの。」
「おじ様、この絵はなんなの?」
たしぎがたくさんある女性の絵を驚いたような表情で眺める。
「これはおじ様が結婚するかもしれない人達なの。」
と、くいながゾロに代わって答える。
「結婚?おじ様、ご結婚なさるの?」
「いや、しないよ。」
今度はゾロがやさしい声で答えた。
「ゾロ、あなたは贅沢よ。私は後を継ぎたくても継げなかったというのに。」
くいなのこの言葉にゾロは彼女の方を見た。
「お母様、それどういう意味?」
アリス王女より2つ年下のたしぎが不思議そうな顔をして、くいなを見上げる。
「お母様が結婚する頃はね、まだ女性は家を継げなかったのよ。それを、今の第一王妃殿下が制度を変えてくださったの。だから、今では女性でも貴族の称号を名乗ることができる。男子よりは低くされてはいるけれど、王位も継げるようになったわ。それまで女性は王位を継ぐこともできなかったのよ。」
「そうなの。」
たしぎは、そうは言うものの、わかったようなわかってないような顔をした。
「あなた、まだあの方のことが忘れられないの?」
「姉さん!」
くいなの発言にゾロは厳しい声を発した。
「ごめんなさい。禁句だったわね。もうしないわ、この話は。あなたの好きになさいな。」
そう言い置いて、くいなはひとり部屋を出て行った。
あとに残されたたしぎがゾロのそばに近寄り、
「おじ様はお好きな方、おられなかったの?」
またもや質問。ゾロは溜息をつく。
女の子はこの手の話題が好きなものらしい。
「いたよ。」
ゾロはたしぎを膝の上に座らせ、その黒髪をやさしく撫でながら答えた。
「その方とはどうしてご結婚されなかったの?」
その質問にゾロはかすかに困ったような表情を見せた。
「さあ…どうして・・・・かな・・・・。」
女性に縁が無かったわけではない。
ロロノア家は貴族の中でも名門で、寄ってくる女性はいくらでもいた。
現に付き合った女性もいる。
でも、結婚となると思いとどまってしまう。
なぜか。
(自分が結婚したらあいつはどう思うだろう。)
(安心するのだろうか?それとも少しは心を動かしてくれるのだろうか。)
答えはない。
(それにルフィはどう思うだろう。)
夕べ、ルフィはゾロに宣言した。
今夜、寝所にナミを呼ぶと。
そんなこと、ゾロに言う必要も無いのに、ルフィがナミを召す時は必ず、ゾロに断りを入れる。
ナミのお召しが少ないのは半分は自分のせいだと思う。
ルフィは自分に遠慮しているのだと。
―――あいかわらず不毛な役割を担っているようだな―――
昨日、ランスール伯爵サンジが、ゾロに言った言葉。
お前の言う通りだ。
あの誓いを立てた日から、ずっと俺はあいつに捕らわれてしまっている。
いや、自ら進んでこの役割を担っているのだ。
いつまで続くのかはわからないが・・・・。
どうしてこうなってしまったのだろう?
すべてが手に入る、すべてがうまくいくと思っていた時もあったというのに。
目を閉じると、瞼の裏に浮かび上がる、たったひとりの女性の姿。
それはオレンジ色の髪の―――
2へ→
<まえがき或いは言い訳>
『とある国の出来事』の過去編、見切り発車でスタート。
このお話の過去話への要望は割とたくさんいただいておりました。
ありがとうございます(>_<)。だのに・・・遅くなり、申し訳ございません!
遅くなった1番の理由は、いつものことですが、長くて・・・・(T_T)。
とりあえず、完結を目指してがんばります。
パラレルは苦手な方もおられるかと思いますが、もしよろしければ、お付き合いくださいませ。