このお話は『
盗難』『安眠妨害』の続編です。





空を怪鳥が飛び交う。
その大きさたるや、人と同じくらいだ。
その鳥たちが発する不気味な鳴き声。
そんな声を聞いても顔色も変えない男が二人。

・・・・・・。

この出だしには、見覚えがある、とゾロは思った。






真相究明





「おい、クソコック。」
「なんだ、マリモヘッド。」
「・・・・。」
「・・・・。」

互いの呼び方をもう少し考慮すべきかな、と思った瞬間だった。

「まあいい。似てると思わないか。」
「何が。」
「あの時と状況が。」

あの時。
ウソップの誕生日に上陸したのも無人島だった。
そして、今日と同じように、ゾロとサンジが狩猟、ウソップとルフィが釣り、ナミとチョッパーが島の探索という役割分担だった。

「確かに。・・・・なんだ、てめ。もしかして、今夜ナミさんがどこかに行くとか思ってんのか?」
「勘だが、おそらくは。」
「もう、いいじゃないか。なんでそんなにこだわる?」
「別にこだわってるわけじゃない。あいつが動くとやっかいなことに巻き込まれるから、警戒しているだけだ。」

同じこったろう、とサンジは思う。


前回と違い、今回はたんまりと戦利品を得て、ゾロとサンジはキャンプを張った場所へと戻る。
そこには、もうメンツが揃っていた。
ルフィとウソップは相変わらず釣りをしており、チョッパーがそれを近くで眺めていた。
ナミは炉の準備に余念がない。

「ナミが何か怪しい動きをしなかったか?」

ツツツ…とゾロがチョッパーに近寄り、耳元で小声で尋ねる。

「??なにもなかったよ。」
「そうか。」
「なに、どうしたの。」
「こいつは、今夜、ナミさんがこの前みたいにコッソリ抜け出すんじゃないかって疑ってるんだ。」
「ははぁ、なるほど。確かに状況的には似てるね。」
「よし、今夜決着をつけるぞ。」
「てめ、決着って何する気だ。」
「尾行する。」

えええ!とチョッパーが叫びそうになった口を、ゾロが手で覆う。

「ばか、大声出すんじゃねぇ!ナミに勘付かれるだろ。いいか、できるだけいつも通りに振舞って、ナミを油断させろ。そうすれば、必ずヤツは動く。―――お前らも、わかったな!」

後半はルフィとウソップにも向かって言った。

「「「おう!」」」

と3人は叫ぶ。
ウソップは、ゾロが俺と同じ気持ちになってくれて嬉しいと涙を流して喜んだ。
サンジだけはやれやれと肩を竦めた。


ナミは即席で石を積み上げて造った炉に、焚きつけ用の枯葉を敷き詰めていた。
ふと、仲間達が釣りをしている岩場の方に目をやる。
男5人が雁首を揃えて、何やら話し合っている。
それは充分に怪しい光景だった。


その夜の宴会もどこか妙だった。
何やらみんなの動きがぎこちないような気がする。
みんなが妙に自分にやさしい。
特に怪しいのがゾロだ。
ゾロが、あのゾロがニコニコしているではないか!
これは天変地異の前触れだろうかと思うくらいに怪しい。

「あんた、どうしたの?」
「何が?」
「体の具合でも悪いの?」
「そんなことはない。気遣ってくれてありがとう。」

ブッ!

ナミは思わず飲んでるものを吹き出した。
一体何事か!ゾロが自分に対して素直に礼を言うなんて!
しかも、吹き出したのをむせたのだと勘違いしたゾロが、「大丈夫か」なんて言いながら、やさしく背中を擦ってくれる。
気持ち悪くて、鳥肌が立った。


宴が終焉を迎える頃、生き残ったのはナミだけ―――という風になった。
みんなは思い思いのところに寝転がっている。


ナミはどうしたものかと逡巡した。
昼間の探索で、目的の所は見つけた。
みんなも寝静まったし、もういつでも行ける。
しかし、どうも何かがひっかかる。
行くか、行かざるべきか、それが問題だ。
けれど、この島は暑くて、ひどく汗をかいた。
どうしても行きたい。
誘惑に負けて、ついにナミは道具を用意して立ち上がると、抜き足差し足忍び足で、仲間のもとから離れていった。


「やはり動いたな。」

しばらく間を置いてから、ゾロが起き上がる。
続いて、他の男達も起き上がった。

「いいか?見失うんじゃねぇぞ!」
「この暗闇で大丈夫かぁ?いくら月明かりがあるとはいえ・・・・」

サンジが言った。本日は満月。月が煌々と照っていた。

「たとえ見失ってもチョッパーの鼻がある。頼むぞ、チョッパー!」
「う、うん!」

いつになく期待されて、不安を抱きつつもチョッパーは嬉しそうだった。


サンジの予想通り、目を頼っての尾行は早々に断念することになった。
鬱蒼とした森の中、月明かりだけではナミを捕らえきれない。
必然として、チョッパーの鼻に頼ることになった。

「おい、チョッパー、分かるか?」

先頭に立って鼻をヒクヒクさせているチョッパーに、ウソップがちょっと心配そうに尋ねる。

「うん、こっちだ。」
「へーさすがだな、よし行こうか。・・・・ぎょえ!」

そう言って、ウソップが残りのメンバーを振り返った途端に素っ頓狂な声を上げた。

「どうしたんだ。」

サンジが問う。

「ゾロがいねぇ・・・・」

そう言われると、ゾロの姿が見当たらない。ついでに言うと、ルフィの姿も見えなくなっていた。

「どこ行ったんだ、あいつら。」

と言いつつも、サンジにはピンときていた。
(迷子だな・・・・)
どうして、みんなで一緒に尾行をしているのに、はぐれられるのか。
その方が疑問なのだが、一方で納得もしている。ルフィもゾロも天上天下唯我独尊な性質(タチ)だから・・・・。

「あ、こっちにゾロの臭いがする。ナミとは違う方向へ向かっていったみたい。」
「果てしなきバカだな。」
「ルフィのは?」
「ルフィの臭いはこの辺りにない。もっと前にはぐれたんじゃないかな。」

それを聞いて、サンジはハーッと一つ溜息をついた。

「どうするの?」

ナミ尾行推進者の張本人(ゾロ)が行方不明になって、チョッパーがこれからどうすればいいのか分からないといった風にサンジに訊く。

「尾行続行だ。」
「どっちを?」
「決まってんだろ」

チョッパーとウソップが、サンジの言葉を待つ。

「ナミさんだ。」





***





その後の尾行は容易だった。
チョッパーはナミの臭いを逃すことなく、正確に跡をつけることができた。
雑木林の中を歩いているため、よく分からないのだが、方向感覚から言って、だいぶ島の中心部に移動しているような気がする。
しばらくすると、水が流れる音が聞こえてきて、次の瞬間には目の前が開け、湖が見えた。
木などの天上を遮るものがない湖面は、月明かりを受けて輝いていた。
チョッパー、ウソップ、サンジはしばらくその美しさに見惚れていた。

ぱしゃん

その時、微かに水が跳ねる音がした。
それでサンジには察しがついた。
ナミが何をしにここまでやって来たのか、について。

「おい、野郎ども。ここからは神妙に行動しろよ。」

急に指揮官にでもなったかのごとく、サンジはチョッパーとウソップに注意を促した。

「なんだよ、なんだよ。」

訳が分からないという風にウソップが尋ねる。

「わかんねぇか?」

さっぱり分からんとチョッパーが顔で答える。
サンジは締まりをすっかり失った顔で二人の方を向くと、言った。

「ナミさんはさ、ここまで水浴びをしに来たんだよ。」

「「水浴び?」」

二人の声が重なる。サンジは大きく頷いて、諭すように二人に話した。

「ナミさんは昼間の島の散策で湖を発見してたんだ。この島は暑い。宴会で大騒ぎもして汗びっしょりだ。それで夜にみんなが寝静まってからここにやってきて、汗を流そうってわけさ。そういえば、前の時――ウソップの誕生日――も今日みたいな暑い島だった。あの日の夜も彼女は確かにこっそり抜け出して、どこかへ行った。あの時も湖へ水浴びをしに行ったんだ。やはり昼間の散策で湖があるのを確認してたんだろう。」
「そんな―――そんなもん、船のシャワーですりゃいいのに。」
「そうだよ、それに俺達だって汗まみれで気持ち悪いのは一緒なのに。俺達にも教えてくれればいいじゃないか。」

俺達だって水浴びしたいよ、と残りの二人は口々に文句を言った。

「まぁそう言うな。俺達と一緒じゃ、ナミさんもゆっくりできねぇだろ。それにあらかじめ湖を見つけてりゃ、船の狭い風呂よりは広々とした湖の方がいいっていう気持ちは分かる。」

男達と一緒では、ナミはのびのびと入浴というわけにもいかないだろう。覗かれる心配があるからだ。


「だがまぁ、ナミの居場所も、ナミが前回取った謎の行動の真相も究明できたことだし。そろそろ、戻ろうか。」

と、当初の目的は達成したと満足気にウソップが言うと、すばやくサンジが返した。

「アホ。ここからが本番だろ。」
「サンジ、お前まさか。」

そのまさかだった。サンジは姿勢を低くして、さらに湖の際に寄ろうと前進し始めていた。
そう、彼は、ナミの水浴びシーンを覗こうとしているのだ。

男達の目を盗んでここまで水浴びをしに来たナミ。
男達がいない分、いつもより大胆になってるはず。

そう思うとサンジは頬が緩むのを抑えられない。

「や、やめようよぅ。見つかったら殺されるよぅ・・・。」

チョッパーが怖気づいてサンジに言う。

「だったらお前だけ戻れ。」
「う・・・・。」
「お前だって見てみたいだろ?」

サンジはしゃがみこんでチョッパーを羽交い絞めにするように腕を回し、耳元に話し掛けた。
誕生日を迎え一つ大人になったばかりのチョッパーにとって、これはほとんど悪魔の囁き。
ウソップは、サンジの頭に二本の黒い矢印のような角と、同じく50cmほどの長さの悪魔の尻尾を見た。


「静かにな。そーっと前進するんだ。」

すこぶる注意を払って、3人の男達が水際まで進む。
そこには、屈んで丁度頭の高さにくる草が生えていて、湖にいる者からこちらを見えなくさせる役目を果していた。
水音が段々と大きくなる。
近づいてきているのだ。
ガサガサと音を立てないように慎重に草を分けて進む。
そして、ついに3人は、草葉の陰から目標を視界に捉えた。

ナミは3人に背を向けて、水に浸かっている。
肩から上が湖面から出ていた。
ナミは空に浮かぶ満月を見上げているようだった。

3人は少しガッカリする。
肩から上くらいなら、船上でもいくらでも見ている。
しかし、完全に失望したわけでもない。
いつか、ナミは必ず湖から上がる時が来る。
その時はこちらの方を向いて、それこそ少しずつ身体を水の中から現しながら、出てくるはずだ。
その時こそ、目の保養の時間となるだろう。

けれど、ナミはなかなか水から出てこなかった。
いつまで月を眺めてるのかと思ったら、次は泳ぎ始めた。
湖の真中まで泳いでいく。随分と遠くまで行ってしまい、サンジ達からはナミが非常に小さくなって見えた。
ナミの泳ぎは見事で、美しい波紋が湖面に広がっていくのが月明かりの中でも見える。


「なかなか出てこねぇな〜。」
「焦るな。美女は長風呂と相場は決まっている。」
サンジは実に冷静だった。

そして、ついにナミが動いた!
ナミがこちらの方を向き、ゆっくりと進み始めた。
正確には、3人はナミから見て、右斜め前方に座しているので、完全に真正面からナミを捉えることはできないが、それでもちゃんとナミの全てを拝めるだろう。


ナミがどんどんと岸辺に近づいてくる。
プクッと一回潜って、顔を出してからは、足が着くところまで辿り着いたのか、進みが速くなった。
ナミの首が全部現れた。
ゴクリと3人の喉が同時に鳴った。

肩が現れた。

鎖骨が

胸の谷間が


そして―――










「ナミッ!!! てめぇ!そんなところで何してやがるッッ!!!!」









(てめぇの方こそ何してやがるッ!!(血涙) )










「ゾ、ゾロ!なんでここに!?」

ナミがビックリして再び水の中に顎までチャポンと浸かり、叫んだ。
ゾロは、丁度バスタオルやナミの衣服が置いてあるところに立っていた。つまりナミの真正面。
どうやって途中で行方不明になった彼がここまで辿り着いたのかは謎だが。

「てめぇの跡をつけてきた。」

ゾロは平然と言い放った。

「何ですって!?どういうつもりよ、この変態!」
「誰が変態だ!!てめぇの方こそどういうつもりだ!真夜中に一人でこんな所まで来やがって。」
「だって、暑かったんだもん。」
「だってで済むか!何かあったらどうするつもりだ!?」

そう言いながら、ゾロは忌々しげにバスタオルを弾丸のようにナミに投げつける。
それをナミは空中で片手でキャッチすると、バサリと広げ、あっという間に水から出たかと思うと身体をすっぽりと包んでしまった。
時間にして0コンマ数秒。ほとんど何も見えなかった。
もし彼女の何かが見えてたとしたら、それは、ゾロにだけ・・・・・。

声も出せず茫然自失な3人に追い討ちをかけるような出来事は、すぐ後に起こった。
ビューーーーンという音。
弾丸が飛んでくる――――訳もなく

「ゴムゴムのーーーロケット!」

というお決まりの叫びとともに、ルフィが飛んできて、サンジ達3人の背中にぶつかった。
慣性の法則で当然のことながら、3人は前方に倒れこむ。
前方にあるのは湖だけ。

「やっと見つけた。みんな急にいなくなったから、焦った焦った。ハハハハ!」

大きな悲鳴と水しぶきを気にすることもなく、ルフィの笑い声が響いた。
ゾロは呆気に取られたような顔をした。
ナミは3人をこの後どうこき使うか考え、ニヤリとした。





・・・・・全員集合したところで強制終了


 

<あとがき或いは言い訳>
盗難」「安眠妨害」の続編です・・・・・・・ゴメンナサイ。
つまり、ナミはどこへ行ってたかというと、湖まで水浴びに行ってたと。
ただそれだけのことだったんですが、ここまで引っぱってしまったというワケで(滝汗)。年越してまで書くような話ではないですな。
「盗難」シリーズは、探偵モノっぽくしたつもりなのですが、お分かりいただけてましたでしょうか。真実はいつも一つ!byコ●ン

こちら、「盗難」「安眠妨害」とも嫌がらずに貰ってくださった
seafoodのtakaさんに捧げます。takaさん、見てる?

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