魔女の瞳はにゃんこの目・3 −12−
びょり 様
朝が来て、4人は館内中を捜し回りましたが、結局ロビンは見付かりませんでした。
いえ、恐らくは何処かで見張って居たに違いありません。
しかし彼女からしてみれば当座の用は済んだらしく、4人の前に顔を出そうとはしませんでした。
諦めたナミ達は無人の博物館を後にし、空飛ぶ箒に乗って、マキノの待つ店に帰って来ました。
4人を笑顔で迎えたマキノは、直ぐにカウンター席に案内し、温かい食事と珈琲を出してくれました。
子供達は飲んだり食べたりしながら身振りを交えて体験して来た冒険を語り、マキノは彼らの話を笑ったり驚いたり心配したりしながら聞きました。
食事をし終えて器が片付けられた所で、ナミ達は手に入れた地図と大きな銅鏡を、カウンターの上に置きました。
広げられた世界地図には、青と赤と黄と白と黒の直線が、散らばって引いてありました。
「……これがシャンクス達の足跡を記した地図なの?」
地図を覗き込んだマキノが首を傾げます。
彼女の反応はもっともで、記された足跡(?)は極めてシンプルに、引かれた直線の横に1〜5までの丸数字で表されてるだけだったのです。
「なんだか地理のテストみたい…」
「ええ…そうよ…あの女の腹積もりとしちゃ、私達を『試しに使ってみよう』ってトコなのかもね…!」
地図の上に置かれたナミの手が、怒りでワナワナと震えます。
彼女の両隣に座るルフィとゾロが、とばっちりは御免とばかりに、身を遠ざけました。
「足跡っつうより、『この丸数字の順にレイライン(古代の道)を辿れ』って意味なんでしょうよ!そうして『隠されてる秘宝を探しなさい』ってね!」
「秘宝って?」
「口にはしなかったけど、金の瞳でしっかり視させて貰ったわ――古代、魔女が造ったと云われる『魔鏡』よ!」
そこで説明を句切ったナミは、左隣で珈琲を啜るルフィの方を向きました。
「あんたの持ってる水明鏡と同じ様な魔鏡が、世界に後4枚在ると云われているわ。
そしてあんたから水明鏡を発見したと聞き、『後、一繋ぎ』とシャンクスが言った事実から、恐らく彼はその内の3枚を発見したと推理出来る。
あのロビンって女は、シャンクスが手に入れた3枚の魔鏡と共に、残る2枚の魔鏡を私達に探させる積りで居るのよ。
もっとも残る2枚の内の1枚は私達が持ってて…その事をあの女が知ってるかは不明だけど…」
「探してほしいもんが有んなら、はっきり言やいいのに」
「やり方が回りくどいよな」
「きっと私達の口から他の人間、例えばアイスバーグさんに情報が洩れるのを警戒してんだと思うわ」
ルフィとゾロに説明するナミの胸に、怒りが沸々と蘇ります。
余計な詮索はするな。
ただ黙って使われろ。
シャンクス達の行方を餌に、自分達を都合良く動かそうとする女の企みは、考えるだけで不快な気持ちになりました。
「まーでもシャンクスは『魔鏡』を探してたんだろ?だったらこの地図の通りに、捜しに行こうぜ!!」
ナミの気持ちを知ってか知らずか、ルフィが高らかに宣言しました。
それを聞いてゾロが唇の端を上げます。
彼の隣に座るウソップが、「俺の親父の事も忘れんなよ!」と言って笑いました。
3VS1では反論しても敵いません。
「…シャンクス達を見付けた暁には、魔鏡を今迄の手伝い賃として頂くからね!」
ナミは憎まれ口を叩きつつ、付き合う事を承諾しました。
「それじゃあ次に向うのは…東に在る『ブルーレイ』ね!」
マキノが地図に1と記された青い線を指で辿ります。
「けどこんな長い道の何処に魔鏡が隠されているのかしら?とても1日や2日で探せそうにないわ」
「在り処なら既に明らかになってるわよ!」
途方に暮れた様子で呟いたマキノに向い、ナミはルフィの前に置かれた銅鏡を指で示しました。
青銅製のそれを、ルフィが軽々と持上げて見せます。
巨大なレンズの様にツルツルとした面には、マキノとその後ろに有る暖炉が映っていました。
「この鏡には仕掛けがされててね。裏面に強い光を当てると、中に彫られた絵を映し出すの」
「シャンクスが残した鏡と一緒だな!」
ナミの説明に付け加えるように、ルフィがマキノに教えます。
「博物館を出る前、私達は鏡の裏に太陽光を当てて、壁に映った絵を見たの。
絵に描かれたそれは――『青の地下都市』。
ブルーレイの中心に位置する、古代の遺跡よ」
「そこを探せって事なのね!?」
興奮して尋ねるマキノに向い、ナミは無言で頷きました。
「そんじゃ次の目的地も決まった事だし…皆で雪合戦しに行こうぜ!!」
持上げてた銅鏡をカウンターに下ろしたルフィが、元気良く叫びます。
その言葉を聞いたウソップは、すぐさま手を挙げて「賛成」の意を示しました。
「あんた達ってば、いっつも遊ぶ事ばっか考えて!真面目に捜す気有るの!?」
「だって前に約束してたじゃん!それに雪が積ったら雪合戦すんのは、ほーりつで決められてんだぞ!」
「勝手に法律作んな!何処の国の大統領よ、あんた!」
「俺はルフィの提唱する法案を支持するぞ!時間が経てば融けてしまう雪資源、大切に活用しなきゃあ、天の神様に申し訳立たねェぜ!」
「雪合戦は良いけど、先ずは一休みさせてくれよ…こう徹夜続きじゃ、辛くてしょうがねェ…」
「なんだよゾロ、年寄りくせーなー!どんなに眠くっても、雪が積ったら――」
「――先ずは雪掻きお願いね、ルフィv」
ルフィの言葉を継いだマキノが、にっこり笑いました。
何時の間にかスコップが4本カウンターに立掛けてあるのを見て、子供達が一斉にブーイングを飛ばします。
しかし彼女は有無を言わさず皆にコートを着せて、陽の光眩しくも寒風吹く外へと叩き出しました。
その際1人足りない事に気付き店内を振り返ると、中央に据えられたストーブ近くのテーブル席に、ゾロが座って寝ているのを発見しました。
勿論笑顔で拳骨を落とし、これも外へ叩き出します。
窓から様子を窺えば、不満を顔に貼り付けているも、大人しく家の周りに積った雪を退かす子供達の姿。
満足気に笑ってカウンターに戻ったマキノは、お湯に浸しておいた食器を、鼻歌交じりに洗い出すのでした。
魔女の瞳はにゃんこの目
空の彼方を
海の底を
地の果てを
心の奥をも見通す力
【一先ずの、お終い】
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