漢・ウソップ 恋の手助け百戦錬磨 〜嘘〜 −3−
ソイ 様
俺の不意打ちに、ゾロはまだ体勢を取り戻せなかった。さすがに尻餅をつくようなみっともねえ姿にはならねえが、足はふらついたまま、俺に襟首を揺すぶられ何度も背中を倉庫の壁に打ちつけられても、抵抗一つみせやしねえ。
俺は頭突きでもするかのように至近距離で頭上のゾロの惚け顔を睨み上げた。殴りつけた瞬間とっさに奥歯を噛みしめてはいたらしく、俺の拳の骨は折れたんじゃねえかってくらい痺れてみるみるうちに赤く腫れ上がってきていたが、だがそんな痛みを感じるのも、忘れていた。
事態を分かっているのか、それともまだ理解できていないのか、ゾロは眉根を寄せたまま俺を見下ろしている。その表情がまた妙にしゃくに障る。
――すぐさまナミを追いかけてやるんならまだしも。
煮えたぎる感情が、さらに俺の頭を沸騰させた。
「ナミはてめえを、ずっと前から好きだって言ってたんだ」
襟首を掴んだ両手を、さらにギリギリとねじ上げた。
「熱に浮かされてるときも、うわごとでお前の名前を呼んだ。初恋だっつってた。告白するって決めてからも、あの魔女みてえな奴が顔を赤らめて、ああ言えばいいか、こう言えばいいかって思い悩んでいたんだよ。普通の女の子の顔をしてな」
ゾロの眉が、ぴくりと動く。
「それを、あんな風に」
俺はねじ上げた奴の頭をもう一度壁に叩きつけた。
「傷つけていいと思ってんのかよ!!」
ぎりと噛んだゾロの口元から、低い呟きがこぼれ落ちた。
「・・・何を、どうしろってんだ」
言いつつ、ゾロは目を逸らした。苦々しい表情で少し血の混じった唾を吐いた。
「ああ?」
「いや・・・。・・・つーか、いい加減放せ」
「放したらどうする」
「・・・」
「――ナミを、追わねえのか」
その後の沈黙を前に、俺はやり場のない怒りを吐き捨てるようにゾロの襟首を乱暴に投げ捨てた。
何なんだ、こいつは。
あんなナミの想いをぶつけられて、それでもまだ動こうとしねえのか?
ナミがこいつに『スキ』と言った時。
俺にはあの夕日の暖かさに溶けてしまいそうな、ナミの微笑が目の前に思い浮かんでいた。
あの可愛らしい、恥じらった笑顔を前にして、何も感じねえ男がいるもんか。
ましてや、あんな顔で熱に浮かされるナミの元に飛んでいったくせに。
海の底に連れて行かせまいと、その手でナミを繋ぎ止めていたくせに。
ゾロは俺の拳で微かに血をにじませた口元をぐいと手の甲でぬぐった。
表情は変わらず、頭のてっぺんから蒸気を噴出しているかのように興奮している俺を置いて、一人涼しげな顔をしている。
いや、努めて冷静に、とか、何にも動じていない、とか、そういった感情とは違うようだ。
いうなれば呆けている。焦っているようにも見えて、何かに迷っているようにも見えた。考えと感情が入れ違いに交差して、それに追いつけずとまどっているような。
戦闘中の刀を抜いた、殺気を纏った獣のようなゾロとはまるで違う。
――何を、ガキくせえ顔してやがんだ。
だがふと頭に浮かんだその感覚に、俺は一つ合点がいく。
――?
――ああ、もしかしてこいつ――。
「そうか・・・。じゃあ、ま・・・好都合だ」
俺の言葉に、ふとゾロが視線を上げてこちらを見た。俺は口の端を上げて、息を小さく吐く。
「てめえがそんな腑抜けってんなら、ちょうどいい。今からでも遅くはねえってことだな。いや、てめえがさんざ泣かせた分、俺の方が有利だろ?」
「・・・ウソップ?」
「――お前が何もしねえってんなら、俺だって遠慮なんかするか」
「・・・」
「ナミは俺が、もらうぞ!!」
瞬間、ゾロの瞳に焦りと怒りの色が横切った。
ガタン、と傍目にも分かるくらいの狼狽ぶりでゾロは立ち上がった。俺はそんな奴に一瞥をくれて、すぐに視線を逸らした。女部屋へ続く倉庫の扉に手をかけた瞬間、俺の肩にゾロが手をかけた。
ぐいと乱暴に引かれる。でもそう来るって分かってりゃ堪えるのもそんなに辛くはない。
「ウソップ、待て」
「なんで待たなきゃならねえんだ」
「何するつもりだ、てめえ」
「分かるだろうが・・・ナミを慰めに行くんだよ。んで、もうあんな男はやめとけって、どーしよーもねーバカだって説得すんだ」
ゾロは小さく舌打ちした。
「んで、俺にしとけって口説く」
「てめえ!」
「うるせえな! お前は何もしねーんだろうが! じゃあ邪魔もすんじゃねえ!」
俺を押さえ込もうとする腕を煩わしく振り払って、俺はゾロに背を向ける。
次に伸びてきたゾロの平手は、本気の勢いがあった。
力任せに横に突き飛ばされて、俺の体は一瞬宙を舞った。
「ウソップさん!」
衝撃。ビビの悲鳴と同時に体が甲板にバウンドする。
隅に寄せられていた空の酒樽にぶつかることでようやく止まった俺は、しかし這い蹲ったままなおも罵りつつ、倉庫の扉を目指した。
「・・・けっ! い、いざとなったら暴力に訴えやがって・・・。ほらみろ、ただのガキじゃねえか」
その一言でさらにカッとなり、大股で近寄ってきたゾロが俺の腕をとらえた。力任せに俺の足を止めようとそのまま甲板に押しつけようとする。いつもの戦闘時とはまるで違う取り乱した態度は、言っちゃ悪いがかなり隙だらけだ。
俺の右手にウソップハンマーが煌めいた。魚人にも有効だったスネを狙ったが、そこは寸でで交わされる。
ゾロはさらに腕に力を込めた。その瞬間、俺の肘打ちが奴の鳩尾にヒットする。
ゾロが息を飲んだのは一瞬だったが、その隙に俺はゾロの呪縛から這い出ていったん飛び退いた。
「妙な勘違いまでしやがって」
「・・・ああ?」
「自分勝手な結論づけて、それで八つ当たりか。なんでお前を見てるナミを見ようとしなかった! 結果がどう転ぶか分からなくて、それで立ち止まってただけだろ?」
次の瞬間、持ち上げられたのだと分かった。分かった時にはすでに板の床に投げ降ろされていた。
「勝手なこと言ってんじゃねえ・・・!」
一瞬で体勢を入れ替え俺に馬乗りになったゾロが、炎すらも凍らせるような凍てついた視線で俺を睨み上げた。捕まれた襟は窒息寸前まで俺の首を締め上げる。
二の腕に浮いた血管が、ゾロの本気を物語っていた。
「勝手はてめえだ!」
だが俺は、負けじと声を張り上げた。
「自分は言えねえだけだろうが! 俺は言えるぞ! 何度でも言ってやる!」
目を見開いた。船どころか世界の全土に響けと、肺の中の空気を惜しむことなくすべて吐きだしてやる。
「俺はナミが好きだ! 好きだ! 好きだ!! ナミーー!! 聞こえねえか!!!」
「うるせえ黙れ!!」
頬骨が、拳に弾かれる。
「・・・んなこと聞かせるかよ!!」
息を、継ぐ。
ぜえぜえと喉と肺は悲鳴を上げ、さっき弾き飛ばされた時の衝撃で腰から下は力が入らない。
声も、出せない。
俺の上から、ゾロが立ち上がった。
顔は見えねえ。
だが、ゆっくりとした足取りはまっすぐに、倉庫の扉の向こうに消えていった。
――はっ。
――――けしかけるのも、命がけだぜ・・・。
動かない口元をねじ曲げて、俺は得意げな笑いを、頭の中の自分に向けてやった。
だけどそいつは、泣きそうな顔をしていた。
******
鍵のかかっていない床板の扉を開け、一歩一歩女部屋への階段をゾロは下りていった。
ビクリ、とナミが背を向けたまま肩を震わせた。床に座り込み、ソファの座面に俯せていた頭をゆっくりと持ち上げ、振り返る。その怯えたような表情と、赤く充血した瞳を見やって、ゾロは荒い呼吸を落ち着ける余裕もなく、さらに息をするのも忘れそうになった。
船底に近いこの部屋は意外に波音が響く。ギィイイ、ギィイイと二人の間の沈黙に容赦なく割り入る波音は、まるで厚く堅い壁のように立ちはだかり、ゾロをその場に立ち止まらせてしまった。
「あ・・・」
先に口を開いたのはナミの方だ。
無言で乗り込んできたゾロが、さらにごくりと唾を飲み込んだまま黙り込んでしまったのを見て、取り急ぎ場を繕わなくてはと感じたのだろうか。そのまま何か言葉を続けようとしたが、しかしナミも、結局はその口を閉じ、再び視線を下に落とした。
自分を見て、困ったような、落ち着かない様子のナミを見やって、ゾロの胸の奥が軋む。
言いたいことが舌先まで出かかって、それを飲み込むこんな姿を、そういえばずっと目にしていたのだ。
しかし「見て」はいなかったのだ。
――いろいろと何かを寄越してきたことがあった。コックが作ったおやつだと何気なく受け取った、そんな時や。
――自分の髪を切ると言って、意気込んだ様子ではさみを手にしていた、あの時や。
――熱に火照った頬に涙の筋をつけたまま、側にいて欲しいとせがんできた、あの夜も。
――ああそうだ、揺れた衝撃でバランスを崩した、こいつを抱き留めた時も。
次々に浮かぶ、ゾロの脳裏からいつの間にか離れなくなっていたナミの姿が、ゾロの記憶を一つ一つ思い起こさせる。
ゾロは一歩踏み出し、もう一歩距離を進めた。
ナミの視線が再び上に向き、自分を見つめているのを見つめ返しながら、ナミの前にどすっとあぐらをかいて座り込んだ。
「ゾロ・・・?」
いぶかしげな声が、震えているのが可哀相で。
一つ息を吐いたら、素直な気持ちが言葉になってこぼれ落ちた。
「悪かった」
「え・・・」
「・・・鈍感にもほどがあったな、俺は」
まっすぐな瞳で見つめられ、ナミの頬は次第に紅潮が増してくる。ゾロが座り込んだのを見て自分も慌てて対面に膝を揃えたが、落ち着きのない指先が膝の上で何度か握られて開かれた。
ゾロは一つ一つ探し求めるように、言葉を続けた。
「さっきも、悪かった」
「・・・」
「お前が、ウソップと出来ちまってるって考えて――」
「あ、そ、それはどうしてそうなったの?」
「・・・・・・言ってただろうが、蜜柑畑でよ」
「・・・?」
ナミはしばし思考を巡らし、数日前のあの夕暮れに思い当たった。真っ赤な顔を慌ててぶんぶんと横に振る。
「あ! ・・・あ! あれは違う・・・!」
「ああ、そいつはもう分かってる。それで――」
一瞬の沈黙を落として、ゾロが大きく息を吸う。
「どうにもならなくなった。・・・自分を殺すのに、精一杯だった」
その瞳に、暗い陰りが浮かんだ。
実際のところ、そうすることも出来なかった。
己の中のどす黒い感情を抑え込もうと躍起になって、しかし結局は暴走してしまった。
ナミのところに行こうとするウソップに、抜刀こそしなかったが力の加減も出来なかった。
一度先に奪われたと思った時は、まだ踏みとどまることが出来ていた気がする。
しかしはっきりと目の前でウソップに宣言されたことで、それがただの虚勢だということを眼前に突きつけられた。
『ただのガキじゃねえか』
頭の中にガンガンと響くその台詞。ああ、クソッと頭の中で舌打ちする。
――その通りだよ!
だが、それはナミには言いたくなかった。悟られたくなかった。
それだけが最後の矜持だった。
ふっと、ゾロの目の前に明るいオレンジ色が広がった。
いつしか口を閉ざし俯きかけていた顔の下から、ナミの大きな目が何度か瞬きをしながら見上げている。
とまどいがちに、だがごくりと唾を飲み込んで、ナミが問うてきた。
「ねえ、つまり――。それは、そう・・・思っちゃっていいわけ?」
「・・・そうって、何だ」
真顔で問い返され、ナミはがくっと肩の力を落とした。
「もう! だ、だから、あんたは・・・・・・私のことを、その・・」
だがそこまで言えば、さすがにゾロも続く言葉を悟ったようだった。
息を吸い込んだまま次の句がつげないナミの伏せがちな瞼をまっすぐに見やって手を伸ばす。膝の上に置かれていた右手の甲にそっと触れた。
軽く握りしめただけでも折れてしまいそうなその感触に力の加減が分からず、一瞬放しそうになり。
が、一つ息をついて、むしろ力を込めて握り直した。
――彼女を好きだと叫んだ、男の顔が目の前にちらついた。
「・・・・・・誰にも渡したくねえ」
******
救急箱を傍らに置いて、チョッパーが医者の顔に変わっていた。俺はその治療の手にされるがまま、腕や肩や顔やらに消毒液を塗られ、湿布を貼られ、包帯を巻かれ続けた。
「ウソップ、あとは口の中見せてみろ? ほら、アーンって」
最後に俺の口の中をのぞき込んだチョッパーが、うん、と一つ頷く。
「ちょっと切ってるみたいだけど・・・歯は大丈夫だな。骨はどこも折れてないし、治療完了だ!」
「ウソップさん、鼻血はどう? 止まりそう?」
チョッパーを手伝い、汚れた脱脂綿やガーゼを始末していたビビが尋ねてくる。
「んふぁ・・・ああ、もう止まった」
血がにじんだティッシュを鼻から抜き取ろうと手をやれば、隣に立ってたサンジが左足のつま先でその手を制した。
「バーカ。長えんだから奥の方はまだ出てんだろ。もうちょっと突っ込んどけ」
「いや、もう平気だって」
「いいから」
と、もう一度つま先で鼻先を軽くかすめ、サンジは俺とゾロによって壊された樽や板壁の撤去をしている、カルーを手伝いに行った。
周りから感じるくすぐったい空気に、俺は思わず苦笑をこぼした。
俺を気遣ってくれる皆の気持ちは嬉しいんだけどなあ・・・。
――ちょっと、腫れ物気味じゃねえか? 俺。
「ちょ、ちょっとトニー君。そっちは・・・ダメ!」
ふと、慌てたビビの声で我に返った。見やれば救急箱を片手に持ったチョッパーが無垢な表情で女部屋へ続く倉庫のドアに手をかけていた。呼び止められたことにきょとんとした顔で振り返る。
「なんでだ? ゾロもたぶん怪我してるだろ? 診察してやらねえと」
その顔はあくまで純粋な医者の顔だ。
「い、いや・・・ミスターブシドーは・・・たぶん・・・大丈夫じゃないかしら」
「おう、放っておけ、あんなバカマリモ。怪我なんて舐めて治させろ」
「そうだぞ、今頃ナミが舐めてやってやるだろー」
「んなにい!!!」
「もうルフィさん! ちょっとサンジさん落ち着いて!」
「うぁああ!」
床扉を蹴り破かん勢いで突進しかけたサンジは、前も見えない様子でチョッパーに激突した。
「ウソップさん、あの・・・その。・・・大丈夫?」
そんな喧噪に呆れて見切りをつけたかのように、ビビが俺の近くに寄ってきた。
「おう、心配すんじゃねえよ。これしきの傷・・・って、痛ててて・・・」
大げさに腕を振ってみせて、とたんに走った引き攣れに後悔先立たず。痛みに固まった俺を見てるのか見てないのか、ビビは「違うわ」と首を横に振った。いや、こっちの心配もしろよ。
「ウソップさんの気持ち、知らなかったから・・・」
ああ、なんか暗い顔してやがる。まいったな。
「ってかお前! ・・・バーカ、あんなん、・・・嘘に決まってるじゃネエか!!」
その大声に、ドタバタ騒いでた男衆もこっちを振り返る。俺は精一杯痛みを無視して、にいっと笑った。
「あんまりゾロが動こうとしねえからよ。ああでもしてハッパかけねえと一生まとまるもんも、まとまらねえって!
ほら見たかあの時のゾロの顔。慌てちまって、ほーんと間抜け面でよ」
ぷぷぷ、と我ながらわざとらしく思いつつも口に空気を含んで吹き出して見せた。
「っち、こんな怪我までさせられて、割に合わねえよなあ全く。もう金輪際、あの二人には関わらねえ」
皆は無言で俺を見てた。・・・おめーら、ノリが悪ぃぞ?
「あー、これで肩の荷が降りた。俺がどんだけあの二人のために骨を折ってやったか・・・って、本当に折られるとこだったって訳か。はっはっは・・・あーもう本当に・・・」
「ウソップ」
俺の乾いた笑い声を遮ったのはルフィだった。
一番後ろにいたその姿に、サンジもビビもチョッパーもカルーも皆一様に振り返った。
ルフィは座っていた階段の手すりからひょいと飛び降り、俺に向かって一歩一歩歩いてきた。
腕を組んで、真っ黒な瞳で、ルフィはじっと俺を見据えている。
そして目の前に立って、小さく、しかしすべての音を打ち消すような存在感のある声で、俺に問うた。
「――痛えか?」
ルフィのその声が、俺の中でこだまする。
――そりゃあ、あの怪力野郎にこれだけぶっとばされて。
――ここ一週間ばかり気苦労だって絶えなかったし。
――でももう、上手くいったんだから。
――もう、上手くいっちまったんだから・・・・・・。
――ナミは、もう・・・
「ばぁか・・・俺を誰だと思ってんだよ」
大声を張り上げた。口の端が震えて止められなかったが、何とか笑ってみせる。
「これしき――――痛え訳あるか!」
ばん!とルフィの手のひらが俺の背を打った。
「漢(おとこ)だな、ウソップ!!」
その笑顔は、俺の両目から流れ落ちる涙を、見事に無視してくれていた。
ああ、俺は――――。
自分が嘘つきで、――本当に良かった・・・と、思った。
最後の酒瓶が空になった頃合い、俺は見張り台に上っていた。
もう朝に近い時間で、ルフィとチョッパーはその辺に寝ころんでガーガーいびきをかいてるし、ビビもカルーにくるまってすやすや寝息を立てていた。サンジは「風邪引いちゃうよ〜」とハートマークを出しつつキッチンにビビを連れこもうとして、寝ぼけたカルーに蹴りを食らっている。
俺は狭い見張り台に腰を落ち着け、ばさりと風呂敷を敷いた。
その上に広げるのは、色とりどりの粉や、火薬や、サンジがさっき提供してくれた唐辛子、コショウ、重曹。あとは絵の具十二色セットと、チョッパーに拝借した強烈な臭いのする薬草エトセトラ・・・。それらを配合し、混ぜ合わせ、こねくりこねくり、一つの大きな団子を作り上げた。
完成品を満足げに眺め、東の空を仰げば、刺すようなまぶしさで朝日が昇りはじめていた。
パチンコのゴムを確かめるように、二、三度弾く。
見張り台の上から、倉庫の扉へねらいを定めてみる。
ゾロは、そろそろナミの部屋から出てくるだろうか。
――これは祝砲じゃねえぞ?
――まあなんだ。せめて最後に、一矢報わせろってな。
二十分後。
「てめえこの野郎!!」
「はーっはっは!! 色男が台無しだなあゾロ!!!」
あいつ今度こそ抜刀してきやがった。
船中を所狭しと追いかけ回る俺たちを見て、ナミが呆れたように、
笑っていた。
− 嘘 FIN −
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(2007.10.31)Copyright(C)ソイ,All rights reserved.
<管理人のつぶやき>
あっぱれ、ウソップ!見事に嘘をつききった!!惚れた女の笑顔を守るため、嘘を武器にして見事に戦い抜いた!ホントになんて男気のあるヤツなんでしょう><。
ウソップとナミの関係を誤解してしまったがゆえにゾロが荒れるのが、ゾロの気持ちを何よりも代弁していますね。そのためにナミに心無いことを言ってしまい、ウソップの怒りを買う。第2話の、ウソップが傍で聞き耳を立てるところから怒りの爆発までの描写はホントに見事で唸ってしまいました。
ゾロがナミのそばに赴いて・・・・ああホントによかった〜って思いました。これもウソップの愛のある「嘘」のおかげ。ホントにウソップの嘘は世界一!ですね(笑)。
「漢・ウソップ 恋の手助け百戦錬磨 〜涙〜」「漢・ウソップ 恋の手助け百戦錬磨 〜告白〜」の続編にして、堂々の完結編でした。ソイさん、完結おめでとうございました!!