穏やかな朝に

            

プヨっち 様


嵐を抜けて波が穏やかになってから、いつもより遅い朝食を摂った。

ナミは疲れているから、と言ってコック特製スープだけを飲み、部屋で休んでいる。
正直、ナミを前にどんな顔をすれば良いのかわからなかったので助かった。
情けないとは思うが、元々こういうことには縁遠いんだ、俺は。


「ルフィ…テメェ…ま〜た食料庫に置いてた、リンゴとグレープフルーツ食いやがったな?あれはナミすゎんやロビンちゅゎんのための、スペシャルデザート用に別にしといたモンだってのに…」

「えっ!?何言ってんだ、サンジ!!俺はリンゴもグレープフルーツも、キウイもライムも知らねぇぞ!あのキウイはまだ固くて苦かったしよぉ〜」

「しっかり他のモンにも手ェ出してんじゃねーか!!キウイは、もっと置いとけば柔らかく、甘くなってくんだよ!」

「えぇ!そうだったのか!!でもなぁ、そん時腹減ってたんだから仕方ねぇし…」

「今度こそ、許せねえ…って、コラ、待てクソゴム胃袋!!」


何度となく繰り返されてきたコックと大食い船長の追いかけっこが勃発し、さすがにそれに慣れたチョッパーはヤレヤレ、と部屋で読書の続きをすると言って席を立ち、ロビンもそれに続く。


朝食後の食卓には、俺とウソップだけが残った。
今、ナミの次に顔を合わせたくないヤツだというのに。
とは言え、この場から逃げるような必要は無い。もうある程度、腹を括っているのだから。


食後の熱い茶を啜っていると、同じ空間にいる唯一の人間からの視線を感じて顔を上げた。


「お前のことだから…その、マジ、なんだよな…?」


何がだよ、などとわざと聞く気にはなれない。
昨夜俺がナミに気持ちをぶつけたことを、コイツはもう知っているのだろう。
湯呑みを置き、ウソップに向き直った。


「俺が、冗談言うように見えるか?」


少しキツイ物言いになってしまったからか、ウソップはやや怯んで口を噤んだ。


「お前の中で、結論は出てんのか?」


逆にそう問えば、ウソップは困った顔をして頭を掻いた。

…こいつがハッキリしねぇのが悪ィんだ、と。「今は自分の気持ちもわからない」とため息をつくナミの横顔を思い出してイライラしてくる。


「いい加減、ハッキリしろよ。どっちに惚れてるかってぐらい自分でわかるだろうが。結局お前は、今近くにいるからって理由でナミに変な気ィ遣ってんだろ?そういうのはヤメろ」

「ど、どっちがって…それがちゃんとわかってりゃ、こんなに悩むかよ!!」


ウソップは声を荒げ、キッと俺を睨んだ。

…あぁ、そうだろうな。俺だってそのくらいはわかってる。


「ナミに対して、気ィ遣ってるだけだったら…こんな中途半端にしてねぇよ。あのまんま、いつもどおりの毎日を繰り返してれば良かったんだからな」

「……」

「お、お前こそこんなときになって…何だってんだ!?あいつが弱ってるところに、つけ込んだんじゃねぇのかよっ?!」

「なっ…んなわけねぇだろ!!」


つけ込んだ…?いや、そんなつもりはない。
確かに、あいつを意識し始めたのは最近だが、だからと言って…。


「それに、俺がどうであれ、どうするのか決めるのはあいつ自身だからな」

「そりゃ、そうだが…でもな、」

「俺の心は決まってんだ。あと、どうなるかは…お前とあいつ次第だろ。不本意だがここから先、俺は受身の立場ってこった」


ふぅ…と大きく息をついてから冷めた茶をすすり、俺は自分の立場を再認識する。
バタっという音とともに、ウソップは顎をテーブルにつけて突っ伏した。


「しっかし、ここでゾロが出てくるとはなぁ…。結構、自信なくすっつーか、なんつーか…」

「バカ、実際俺が圧倒的に不利だろ。認めたかねぇけどな」


茶を飲み干した湯飲みの底でウソップの頭を小突き、そのまま湯呑みをシンクに持っていった。


「たとえどうなっても、多分ゾロに遠慮はしねぇと思うから…。それだけは言っとくよ」


情けない格好のままのウソップが、やや強い口調で言う。


…上等だ、その心構え。

「遠慮なんかしたらそん時ゃ、容赦なく斬るぜ?俺も、どうなってもお前に遠慮するつもりはねぇからな」


言葉だけを捉えると火花散る展開、のはずだったが。
俺たちは顔に少しの笑みを湛えながら、互いに意思の強い目線を合わせた。


そう遠くない日に何らかの結論が出ると、俺はその時確信していた。



「待て胃袋人間っ!!お前、また逃げる途中で何かつまみやがったな!?黙って吊るされろ!!!」

「んぐ。…ぷはっ!食ってねぇぞ、倉庫のプルーンなんか!!」

「…っ!!!!!!」


バタバタとキッチンに走り戻ってくる2人の声がはっきり聞こえる頃、俺は昼寝をすべく甲板に向かった。すれ違う2人を横目に、どこか穏やかな気分で甲板に出る。


白い雲の間で見え隠れする太陽の光を体じゅうに浴び、ゆっくりと目を閉じた。




<プヨっちさんのあとがき>
ご無沙汰しておりました、プヨっちです。
久々の投稿は、ゾロ視点で「嵐の日に」の翌朝。ゾロVSウソップです。
あんまりVSって感じでもないですが…。
そろそろ、結論が出そうです。続きもなんとか頑張って書きますので皆様また読んでやってください!



(2005.02.27)

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<管理人のつぶやき>
待ってましたのプヨっちさんのウナゾシリーズ『
この胸の痛みが』『この胸の痛みを』『それぞれの胸の…』『嵐の日に』の続編でございます。
ついにゾロとウソップが直接対決です〜。お互い痛いところを突つき合いながらも本音を垣間見ることもできました。こういう男同士の関係っていいねぇ。先に「遠慮しない」と言い切ったウソップがカッコよかったよ!
さてさて、この三角関係の行方はいったいどうなるんでしょう〜?

プヨっちさん、続きがんばってね。いつでも待ってるからねーー!

 

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