ナミは爆弾のスイッチをいくつか持っている。
自分でも気づいていないのだろが・・・
心の中に・・・・点々と・・・・・・。
お金に関しては、なかなかどうして笑ってしまうくらい常識外れであるナミだが、
それ以外についてはこの非常識がメシ食って、メシ作って、昼寝して、花咲かせて、
二頭身で、嘘ばっかしついているような、ゴーイングメリー号のメンバーの中では、
ごく普通一般的な感覚の持ち主だ。
なので、この非常識集団が巻き起こす毎日のオッぺケペーな些事に対して、ごく普通の感覚から沸き起こるナミの怒りはもっともなことで・・・・・・。
ナミの怒鳴り声が聞こえない日は一日たりともなかった。
だから・・・。とどのつまり、ナミの怒りは毎日小出しにされているので、大爆発は滅多におこらない・・・。
スイッチさえ押されなければ・・・・・・・。
そう・・・・。スイッチさえ押されなければ・・・・。
しかし・・・・、今日、そのスイッチを押してしまったのは・・・・・
・・・・・ウソップだった・・・・・・。
FRAGILE
ててこ 様
それは朝食後のこと、何気ない食事中の会話の中、キャビンの扉の修理をどうするかということで、ナミとウソップの意見が対立した。
キャビンの扉は頑丈な作りの特別製だ。壊れたのでそこら辺の板切れで補修しときます・・・というわけにはいかない。
ウソップはこの際、少々値が張っても良い物を取り付けたいと主張し、ナミはどうせ長持ちしないんだから安いもので対応したら良いと、言い張った。
意地っ張りな2人は言い出しだしたら後には引けない・・・・。2人の意見は平行線をたどった。
「だからぁ!長い目で見ろって!そりゃ買うときはえって思う値段かもしんねぇが、結局はその方が得なんだって!頑丈なやつを取り付けた方が良いって!」
ウソップは立ち上がって、テーブルをバンッと叩きながら言った。
「何言ってんの!どんな頑丈な扉つけたって、3バカが一回ケンカしたら、あっと言う間にぶち壊すわよ!そんなものにお金をかけられないわ!」
ナミも勢いよく立ち上がって、拳を振り上げながら叫んだ。
バチッ!バチッ!バチッ!バチッ!
にらみ合うウソップとナミの視線の真ん中で火花がスパークする。
「・・・・・・・・・・・。」
朝食後の成り行きで、その場を離れるタイミングを失ってしまった他のメンバーは、
2人の言い争いを黙って聞いているほかなかった。
サンジは苦虫を噛み潰したような顔をして、皿を洗いながら背中で2人の様子をうかがっていた。
チョッパーはもうすっかり冷めてしまった紅茶をちょっとずつすすっては、居心地悪そうにおしりをモゾモゾさせている。
ルフィは口をへの字に曲げて、テーブルの上に肘をつき、手のひらに顎を乗せて、言い争うナミとウソップを交互に見ていた。
ロビンは珍しくあからさまに眉をひそめ、じっと座っていた。
ゾロは早く出て行きたいのか、食堂のドアの方を見つめたまま、あくびを連発している。
そうこうしているうちに、ナミとウソップの言い争いは徐々にヒートアップして
きた。すでにキャビンの扉のことはどこえやら・・・、ただに中傷の応酬になってきている。
「あんたなんて、しょっちゅう訳わかんない実験ばっかやってて、甲板が臭くてたまんないわっ!」
「何言ってんだッ!お前こそ何かといえば金ッ金ッって、金の亡者みたいなこと言いやがってッ!!」
カチンッ!!
ナミの頬が一瞬にして怒りで上気した。
「何言ってのッ!私が引き締めなきゃこの船は一日もたずに破産よっ!は・さ・んッッ!!」
ナミはウソップの胸元に人差し指を突き立てて断言した。なおも続ける・・・。
「だいたいあんたは何の役に立ってるってゆうのっ!普段は下んない実験してるか、ホラばっか吹いてて、いざという時には逃げるしか能がないじゃないっ!!意気地なしッ!!」
ウソップの顔が一瞬にして歪んだ。
珍しくルフィがナミを睨んで舌打ちをした。
ロビンがそんなルフィにめくばせをする。
(・・・・もう止めさせたほうがいいわ・・・)
ルフィがそれに気づき、船長命令で強制的に2人のケンカを止めさせようと、口を開きかけた時、さっきのナミの発言にカッとなったウソップが声を荒げて叫んだ。
「お前だって同じだろうッ!!グランドラインに入ってこのかたお前の航海術なんて、大して役にたってねぇじゃねぇかッ!!」
「!!!」
ナミの顔から一瞬血の気が引いた。
ウソップはたたみかけるように続けた。
「ビビがいた頃はビビの方が航路に詳しかったくらいじゃねぇかッ!ロビンだってお前より判断能力は上だッ!!」
「一番役に立ってないのは・・・・」
「お前の方だッ!!!」
かくして・・・・・。
ナミの爆弾のスイッチは押され・・・・・。
それは、静かに・・・・・。
爆発した。
ナミの瞳からは普段の輝きがなくなり、唇は色を失くした。その唇をぐっとかみしめ、握り締めている拳がカタカタと小刻みに震えだした。いつもの強気な態度がすっかり影を潜め、壊れそうな表情でナミはただその場に立ち尽くしていた。
ウソップは言ってしまった後でハッとなって我に返り、思わず口を手で覆った。
しかし、もう遅かった・・・。
「・・・・・・・・・・。」
そして、ナミは無言のまま、順番にクルーの背中を強引に押して、食堂から全員を追い出し、自分は中から鍵を閉めて閉じこもってしまった。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「・・・・・・・・・。」
追い出されたクルーは廊下の隅で一箇所に固まり、ただ当分開きそうにない食堂のドアを黙って見つめていた。
「・・・お前・・・アレはねぇだろう・・・・」
サンジはタバコを口に取りながら、呆れたようにウソップに言った。
本来なら蹴りの一発でも食らわしてやりたいところだが、ナミさんもウソップにひどいことを言ったので今回の所は勘弁してやる・・・と心優しいコックは思っていた。
ウソップはハァ〜と大きなため息をつき、頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
消え入りそうなナミの姿が網膜に焼き付いて離れない・・・。
「ちっくしょう〜!あんなこと言うつもりじゃなかったのにッ!!」
搾り出すような口調で呟く。
「とにかく、ナミさんを説得してこなきゃ。あのまま1人にしてたら可哀想だ」
サンジがフーと紫煙を吹きだしてきっぱりと言った。
「俺 謝ってくるッ!!」
ウソップがそう言って立ち上がった時
「今、あなたが行っても逆効果よ」
と、ロビンが静かにそれを止めた。
「・・・・・・・・。」
ウソップうつむいたまま黙り込んだ。
「お前 行って来い!チョッパー」
その時サンジが自分の足元で所在なさげに立っていたチョッパーを見下ろして言った。
「えっ〜!?なっなんでっ俺がッ!!」
チョッパーはいきなりの指名に目の玉飛び出させて驚いた。
「何てったって、癒し系だし、ナミさんはお前のこと気に入ってるし」
サンジはそう答えて足でチョッパーの背中を押し出した。
「まっ待ってくれよ!俺こんな時、何て言ってやればいいかなんてわかんねぇぞ!そっそれに・・・」
チョッパーは一生懸命抵抗して踏ん張りながら、叫んだ。
「・・・・あんなナミを見るのは・・・初めてだし・・・・」
最後は下を向いて、小さな声を廊下に落として言った。そしてハッとなるとロビンを見上げて聞いた。
「ロビン!ロビンなら女同士だし、いいんじゃないのか?」
その問いかけにロビンは静かに首を横に振り、こう答えた。
「・・・女同士だとかえって駄目な時があるのよ・・・。船医さん・・・」
「・・・・・・・・・・・。」
全員が押し黙る。
その時なってルフィがいたって普段通りに声を上げた。
「・・・・ゾロ。お前行って来い!」
「・・・・・・???」
クルーの最後尾でだんまりを決め込んでいたゾロは突然白羽の矢が立ったので、少し驚いてルフィの背中を見つめた。
「・・・・・・俺が?」
自分を指差して聞きかえす。
「おう!!」
ルフィはゾロを振り返ってニシシシと笑って頷いた。
「船長命令か?」
再度聞く。
「おう!!」
それを聞くとゾロはガシガシと頭をかいてから、ため息をつくと、めんどくさそうに歩き出した。ルフィの横を通り過ぎる時、
「もっと怒ってもしらねぇぞ・・・」
と付け加えることを忘れずに・・・・。
「ニシシシシッ!そりゃあないだろう」
ルフィはなにやら自信ありげにそう切り返した。
「おいっ!ちょっと待て!何でナミさんを慰める大役をあいつに任せるんだ!!
」
その時サンジがルフィに慌ててくってかかった。
そして「俺が行くッ!」といって、かけ出そうとしたので、ルフィはサンジの肩を掴んで止めた。
「駄目だ!」
有無を言わせない迫力のある声だった。
サンジはルフィを振り返って叫んだ。
「なんでっ!!」
ルフィは真面目な顔をして、静かに答えた。
「お前はナミに優しすぎる。今回の件はナミだってウソップにひどいこと言ってんだから、慰めるだけじゃ駄目なんだ。」
「・・・・・・・・・・・。」
サンジはそれを聞くとチッち舌打ちをして、壁に寄りかかった。
ルフィはなおも続けた。
「お前は優しいよな・・・。サンジ」
「あぁん??」
「お前みたいに優しい男は百人に1人だ」
ニカッ!!誰をも魅了してやまない笑顔をサンジに向けて断言する。
「・・・・・・・ケッ」
サンジは照れくさいのをごまかすようにそっぽを向いた。目の端が赤くなっている。
「・・・・でもな」
「?????」
「ゾロみたいにさりげなく優しく出来るのは・・・・・」
「・・・・千人に1人だ・・・・」
「人を上げたり、下げたりするなぁっ〜〜!!!」
サンジは自分の効き足を振り上げ、ルフィの頭頂部めがけて振り下ろした。
サンジいわく、自分史上最高の踵落としだった・・・。
「ぐがっっ!!」
さっきまで、おっとこまえだったルフィはあえなく廊下に撃沈した。
ロビンとチョッパー、ウソップは小さく同時にため息をついた。
そんな喧騒を横目でチラッと見ながら、ゾロは食堂のドアを叩いた。
「俺だ。ナミ、ここ開けろ」
返事はない。
「おい!ナ・・・」
また声をかけた時、ドアの向こうからナミのくぐもった声が小さく聞こえた。
「・・・・・・合言葉を言え・・・・・」
「??????」
ゾロは思わず、腕組みをして小首をかしげた。
「・・・・・・合言葉を・・・・言え・・・・」
またナミの声が聞こえてくる。
「合言葉って何だよッ!そんなのいつ決めた?!」
ゾロは『俺が寝てる間か?!』などと真面目に記憶の糸をほぐそうとしたが、勿論、合言葉なんぞとりきめたことは一度もなかった。
決めたこともない合言葉を言えということは、つまりナミの『誰にも入ってきて欲しくない』という意思表示の表れで・・・・。
「おっ おいナミっ!」
ゾロが少し慌てて声をかけた時、ナミの声がそれを遮った。
「じゃあ合言葉。いくわよ」
「ちょっとまっ・・・!!」
ゾロの制止もむなしく、ナミの声が容赦なく聞こえてきた。
『尾田栄一郎先生の作品が読めるのは・・・・・』
『・・・・・ジャンプだけ』
ゾロは思わず反射的に答えた。答えた後でなんなんだそりゃと思った。
「・・・・入室を許可する・・」
ナミの幾分悔しさのこもった事務的な声が聞こえ、食堂のドアがガチャリと少しだけ開いた。
「あれ正解かよっ!許可すんのかよっ!!」
ゾロはとりあえず、ナミに突っ込みをいれた。
ナミは上目遣いでゾロを苦々しげに睨みつけながら
「・・・・あんたが答えられるとは思わなかったわ」
と呟いた。
「おぅ!俺が一番びっくりだッ!!」
そうゾロは怒ったように答えると、あいたドアから身体を滑り込ませて、食堂の中にズカズカと入った。
すると、ゾロは愛刀3本を腰から引き抜くと、テーブルの上にがたりと置いた。
話し合いをするのに、腰に刀をぶら下げているのは卑怯な気がしたからだ。
「さて・・・・。」
ナミの方を振り返って聞く。
「・・・・少しは頭冷えたか?」
「・・・・・・・・・・。」
ナミは自分の手で、反対の腕をさすりながらゾロとは視線を合わせず、何も答えず突っ立っていた。
顔色が悪い。少し肩が震えているように見えるのは気のせいか?
普段は男所帯ののなかで、男供に負けないくらい気を張っているナミが、こんなにはかなげな様子をしているのをゾロは見たことがなかった。
ウソップのあの一言はナミの航海士としての自信やキャリアを根底から覆してしまったのだろう・・・。
が、だからといって、ナミが一方的に可愛そうだとは、ゾロは思わない。
切り裂いたのはナミも同じだから・・・・。
ナミの不用意な言葉はウソップのプライドを深く傷つけた・・・・。
船長の人選に・・・ミスはなかった。
しばらくして、ゾロはスゥ〜と息を吸い込むとビシッとナミを指差して大きい声で断言した。
「お前が悪いッ!!」
「!!!!」
ナミはそれを聞くと一瞬顔を引きつらせたが、反論の言葉がとっさにでなかった。
間髪をいれずにゾロはまた言った。
「お前が悪いッ!!」
一歩ナミに近づく。ナミは気押しされ思わず一歩退く。
「お前が悪いッ!!」
また一歩ゾロはナミに近づく。
「・・・・・・・くっ」
ナミはまた一歩後退する。
「お前が悪いッ!!」
一歩前進、一歩後退・・・・。
「お前がわ・る・いッ!!」
10回目にそう言われた時、ナミの背中は壁にへばりついてしまった。
もう後はない。
ゾロはナミの目の前に立ち、半眼になってじっーとナミを見つめたままそこで黙り込んだ。
「・・・・・・・・・。」
ややあって、つきさしていた人差し指でナミの鼻先をチョンと叩いてから、駄目押しで言い切った。
「お・ま・え・が・わ・る・いッ!!!」
「・・・・・・・・・。」
そう言われて、ナミはがっくしと肩を落とし、ヘナヘナと壁に寄りかかった。
「・・・・・わかってるわよ・・・・。言われなくったて・・・」
しばらくしてから、ナミは不満げにそう呟いた。
そんなナミにおかまいなく、ゾロは続ける。
「まず第一に!キャビンの扉の件でお前はウソップの意見の方が正しいって、途中で薄々感じてた!だろっ?なのに、意地張って、自分の意見を無理矢理押し通そうとした!」
「うっ!!」
ナミは思わず自分の胸に手を当ててうめいた。
(この男の洞察力・・・・あなどれない・・・・)
ナミは心の中で舌打ちをする。
「第二に!ウソップのことを役立たずの意気地なしって言った!」
「あいつがいなきゃ、俺達はあっと言う間にバラバラになる。言葉足らずで、後先考えねぇ俺達が、まがりなりにも諍いなくやっていけるのも、ウソップが俺達の間をさりげなくとりもっていってくれてるからだろうがッ!!」
「それに、土壇場になって一番最初に腹くくって正面見据えるのは・・・・」
「ウソップだ」
ゾロは言いきった。
「・・・・・・・・・。」
ナミは無言のまま頷く。
「知ってる・・・。よく知ってるわ」
静かに答える。
「第三にっ!俺達をここから追い出して立て籠もった!ガキじゃあるまいしっ!やることが子供だ!」
「子供と大人を自分の都合に良いように使い分けるなッ!!」
「・・・らしくねぇぞ・・。そういうの・・・」
ゾロはしかめっ面して言い放つ。
するとナミは軽くため息をついてからホールドアップをして、ゾロに向かって頭を下げ、素直に謝った。
「ごめんなさい。お父さん」
「そう、そう素直に謝ればお父さんだって・・・って誰がお父さんだっ!!!」
ゾロは、頭から湯気を出しそうな勢いで、額に血管を浮かして怒鳴った。
「それに謝る相手も違うッ!!」
「うん・・・。ウソップにちゃんと謝る・・・。」
ナミは落ちてきた髪をかきあげて、耳にかけながら小さいがしっかりした声で答えた。
「言い訳に聞こえるかもしれないけど・・・、効いたのよね・・・。ウソップのあの台詞・・・」
ナミはふぅとかわいいため息をついて、話し始めた。
顔色も少しずつだが戻ってきている。今まで色のなかった唇に少し朱が混じりだした。伏し目がちな瞳に長いまつげは今だ影を落としていたが・・・。
「・・・・自分でもわかってるの・・・。グランドラインにはいってこのかた、私の今までの知識じゃ、この海にはまるで歯が立たないのよ・・・。沢山の本も改めて読み返したりしてるんだけど・・・・。それでも予測できなかったり、対応できなかったりで・・・。」
ナミはもどかしそうに苦笑しながらゾロを見た。
「・・・・・・・・・・。」
ゾロは黙って聞いている。
「ウソップの言うとおり、ビビやロビンの方がグランドラインのこと良く知ってるわ・・・」
自嘲気味にナミは続ける。
「私・・・役に立ってないのよね・・・。きっと・・・」
そう言って、自分の手のひらを見つめて、そこにまたため息を落とした。まつげの先が少し震えている・・・。
「この手は・・・・ただの泥棒の手に戻っちゃった・・・」
独り言のように呟く。
「んなわけねぇだろッ!!」
その時、ゾロが呆れたようにな大声を上げた。
ナミは驚いて思わず伏せていた顔を上げてゾロの顔を見つめる。
「そりゃグランドラインに入ってから嵐にあう回数は増えたし、読み違いもあるけど、全部乗り切ってこれたのはお前の航海士としての知識と技量のおかげだろう?」
「・・・・・予測するだけが航海士の仕事か?」
ゾロはごく真面目な顔をして聞いた?片眉を上げて・・・。
「・・・・・・・・。」
ナミの表情が少しづつ柔らかくなっていく・・・。
「起こった事態に迅速且つ正確に対応する。その指示を出すのがお前の仕事だし、その仕事でミスったことねぇだろ?俺達こうして生きてるんだし」
「結果論だわ・・・」
ナミは上目遣いにゾロを見上げて小さく呟いた。
それでもその瞳にはいつもの輝きが戻りつつある。
「結果オーライッ!!結果が全て!生きてりゃそれで丸儲け!!お前『丸儲け』って言葉、好きだろ?」
ゾロは意地悪くニヤリと笑いながらも、目に優しい色を浮かべてナミに聞いた。
「バカ!!・・・・でも好き!」
ナミはクスッと笑って即答した。
「それにお前の両手は泥棒の手じゃねぇだろ?」
ゾロはナミの手を指差して続けた。
「お前の両手は俺達をそれぞれの目的の場所に導く指針だ」
「・・・・・・・・・・・・。」
そう言われて、ナミは自分の手に平をじっと見つめた。
「お前は自分の手のことどう思ってるか知らねぇけど・・・・」
「俺はお前のその両手・・・・」
「好きだぜ」
(さりげなく言わないでよ・・・。そういう台詞・・・)
ナミは少し頬を染めて、心の中で呟いた。
彼に好きだと言われた自分の両手をじっと見て、それをゾロの目の前に出してオズオズと尋ねた。
なぜだろう・・・。もう一度、言って欲しかった・・・。
「この手・・・・好き?」
子供のように聞くナミ。
「うん。好き」
子供のように答えるゾロ。
ものすごく真面目な声で、ごく普通に・・・。
「・・・・・・・・・・・。」
ナミはその言葉を飲み込んで、心の奥のほうにスッと収めた。元気が出てくるのが自分でもわかる。
ナミはしばらく黙って俯いていたが、意地悪く上目遣いでゾロを見上げると、ニシシと笑ってこう言った。
「・・・・ガキッ!!」
「っておめぇがそんな風に聞いたからだろうがッ!!」
ゾロは赤面して叫んだ。
「やっだっー!ゾロー。子供みたい〜!」
ナミはオホホホなんて手で口を覆ってからかいだした。
もうもとのナミに戻っている。
「てってめぇ〜」
ゾロは額に血管浮かしながら、そう唸ってツカツカとナミに歩み寄ると、いきなり肩を掴んで無理矢理後ろを向かせた。
「ちょっちょっと!何すんのよっ!!」
ナミはびっくりして叫び声をあげた。
「・・・・ペナルティ・・・・」
ゾロの意地の悪い声が背中の方から聞こえる。
ゾロは食堂にそなえつけてある食器棚のひきだしにいつもサンジが置いている油性ペンを素早く持ち出し、ナミのTシャツの背中の部分に何やら書き出した。
「やっー!!やめてよー!これこの間買ったばっかりなのよーッ!なっ何書いてんのよーっ!!」
ナミは逃げようともがいたが、ゾロの力にかなうべくもなく・・・・。一生懸命背中を見ようと首をめぐらしたが、ゾロがなにを書いたなんて見えるわけもなかった。
ゾロは書き終えると「うしっ!」と満足げに呟き、油性ペンを棚に戻した。
「これでOK!ナミ ウソップに謝って来い!」
ゾロはそう言うとナミを見て、キッチンのドアを開け『どうぞ』ってな具合に手を廊下のほうに指し示した。
「・・・・・・・。」
ナミはぷぅと頬を膨らませて、ゾロに抗議しようとしたがウソップに謝るほうが先だと思い、乱暴な足取りで食堂を後にした。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
ガチャ!
食堂のドアがゆっくりと開いた。
しばらくして、少しふくれっつらのナミがそこから出てきた。
その後ゾロも出てきて、廊下の端でひとかたまりになっているクルーに向かって言った。
「一件落着!」
そして、自分はさっさと甲板に向かって歩き出し、
あっと言う間に姿は見えなくなった。
ナミはこちらに向かって歩いてきて決まり悪そうにウソップの前で立ち止まった。
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
しばし、沈黙。
ナミは身体を90度に曲げて大声で謝った。
「ゴメンッ!!ウソップ!ほんとにゴメンッ!!」
「いいんだナミ!俺こそ悪かったッ!あんなひどいこと言って!ほんと悪かったッ!」
ウソップが自分に向かって深く頭を垂れるナミの肩を持って顔を上げさせると言った。
ナミとウソップはしばし見つめあった。
「・・・・お前がいなきゃこの船は前にも後ろにも行けねぇ・・・」
ウソップが照れくさそうに笑って言う。
「・・・あんたがいなきゃ、この船はケンカが絶えないわ・・・」
ナミもニッコリ笑って答える。
そして2人はどちらからともなく手を差し出し、固く仲直りの握手をした。
「フェーー!!」
その瞬間ルフィたちはホッと胸をなでおろし大きな安堵のため息をついた。
その時ロビンがナミのTシャツの背中の部分に何かが書きなぐられているのに気づいた。
「航海士さん。背中に何か書かれたの?」
「えっ!?そうっ!そうなのよっ!!ゾロが罰だなんて言って無理矢理ペンで書いちゃって・・・。ねぇ!ロビン何て書いてあるのっ!?変なこと書いてない!?」
ナミはハッとなってそう言うとロビンに背中を見せた。
「プッ・・・・・」
ロビンはその文字を見ると思わず小さく吹き出した。
「・・・・・ロビン?ねぇ何て書いてるの?ねぇ!!」
ナミは肩越しにロビンを見つめて不安げに尋ねた。
ロビンは落ち着いた声で答えた。
「『FRAGILE』 フラジールって書いてあるのよ。荷物を送るときに使う注意書きね。」
「注意書き!?」
ナミが聞く。
「そう」
ロビンが頷く。
「・・・・どういう意味?」
ナミが恐る恐る尋ねると、ロビンは静かに微笑んで答えた。
「『壊れ物につき注意が必要』っていう意味よ」
ナミの頬が一瞬にして真っ赤に染まった。
ナミは爆弾のスイッチをいくつか持っている。
自分でもきづいていないのだろうが・・・
心の中に・・・・点々と・・・・・・。
今日 ウソップがその一つを押した。
そしてゾロも・・・・。
しかし、それはウソップが押したのとは
ちょっとおもむきの違うスイッチ・・・・・。
Fin
<管理人のつぶやき>
ふとしたことからナミとウソップが口げんか。売り言葉に買い言葉でお互いひどいことを言ってしまう。傷つくナミ・・・。この辺、読んでるこちらもハラハラドキドキ。どうやって仲直りさせるのよ〜とやきもきしてたら、ゾロに仲裁人として白羽の矢が。そして、見事にナミを立ち直らせ、仲直りさせてしまった!天晴れ、お見事!
サンジは100人に1人のやさしさ。ゾロは1000人に1人のさりげないやさしさ。うーむ、ルフィの言うことには重みがあります。
「FRAGILE」とはそういう意味だったのかー。ナミは繊細なのだ。ゾロはそう見抜いてしまった。ああ見事に別のスイッチ押しちゃった(笑)
合言葉のやりとりとか場面場面で面白くて、そして胸を打つようなセリフあって、本当に堪能させていただきましたv
ててこさん、素敵なお話をどうもありがとうございましたーー!
ててこさんはなんと今回5作品も投稿してくださいました。
他の4作品を読みたい方は、ここからも飛べます〜。
→「Life」
→「金くれよ!それがだめなら愛でもいいぜ」
→「Nami My Nami ― ナミ、僕のナミ ―」
→「というわけで」