このお話はみづきさんのパラレルSS『レクター街シリーズ』の番外編です。
まず、「lecter street」を読まれると分かりやすいです。
suspicion
みづき様
「あ〜!?そりゃ間違いねぇのか、ルフィ?」
「おう。確かにゾロだったぞ。」
ウソップにそう答えたルフィがいるのはいつもの場所レーン。
休日とあってビビと過ごしていた彼は夕飯を食べに彼女と共にやって来ていた。
「髪はビビよりちっと短くてさ、背は同じ位だった。・・・な、ビビ?」
「は・・・はい。確かにその女の人はMr・ブシドーと一緒にいました。」
彼の隣のカウンター席に座っているビビは、すぐに返事をすると言葉を続ける。
「その女の人はヒールを履いてましたから実際は低いとは思います。
私達クリヤーの中のレストラン街で見たんです、昼頃に。」
クリヤーというのはレクター市内にある規模の大きいデパート。
どうやらルフィとビビは、この店内でゾロを見たらしい。
「・・・って事は何か?ここにいる全員、違う女と一緒にいるゾロを見たのか?」
聞き終えたウソップは2人だけでなく
ルフィの隣に座っているチョッパーや、テーブル席に座っているロビン・シェリー・サンジ
・・・そして自分の隣にいるベルメールを見ながら言う。
「どうやらそうらしいね。」
彼の隣にいるベルメールは一言言うと、タバコの火を消しながらチョッパーを見た。
「チョッパー・・・ゾロ今日は仕事だって言ってたんだろ?」
「そうだぞ。確かに人と会う様な事言ってたけど・・・。」
するとそんなチョッパーに続いたのはサンジ。
「お前が見たのはファストだったんだよな?」
「おぉ。次の診察に行く途中だから・・・確か10時頃見たんだ。
窓際の席に座っててさ、ロビンみたいな髪した女の人と一緒だったぞ。」
ファストというのはファミレスの有名なチェーン店で
ルフィとビビのいたクリヤーと近い所にある。
「俺達が見たのは少し前で場所は同じファスト・・・。
しかも奴といたのは短い髪をした女性でナミさんじゃねぇ・・・。」
そして独り言の様に言うと、サンジはそのまま眉を寄せた。
「ウソップお兄ちゃんが見たのは喫茶店だったんだよね?」
「あぁ・・・ループルって店でよ。夕方食材買いにクリヤー行く途中で見たんだ。
俺が見たのはこの位の長さでパーマの女だった。」
「お兄ちゃん、それウエーブ・・・。」
「おぉ、そうか。」
『この位』というのは肩の位置の事で
シェリーに答えながらウソップは肩に持っていった手を戻す。
「・・・ん?そういやあの店どっちとも近いな。」
「って事は、ゾロは近い場所を選んで会ってた事になるね。」
すぐに気付いたベルメールに続いたのはロビン。
「つまり、見た事を纏めるとこういう事かしら?」
何やら書いていた彼女は、店で使っている紙のコースターをテーブルに差し出し
同時に全員がテーブル席まで移動すると、そのまま覗き込む。
そこには彼女の綺麗な文字が書かれており・・・。
・AM10:00 チョッパー : ファスト : ボブカットの女
・PM12:00 ルフィ・ビビ : クリヤー : ロングの女
・PM15:00 ウソップ : ループル : ウエーブの女
・PM17:00 サンジ・ロビン・シェリー : ファスト : ショートの女
そこには箇条書きでコースターに書き切る様小さく書かれていた。
「お母さんすごい!」
「流石ロビンちゃんvコースターに書く所が素敵だぁ〜v」
「あぁ、分かった・分かった。」
まるで決まっていたかの様に目をハートマークにするサンジと
その彼にツッコミをするウソップ。
そんな2人に続いたのはチョッパーだった。
「う〜ん・・・何かこうやって見ると仕事じゃないみたいだな・・・。」
「Mr・ブシドーはトニー君に仕事の事は話さないの?」
「簡単にしか話さないぞ。今日も人と会うような事言ってただけだしな。」
「そうなの・・・。」
ビビに答えると、彼は再びコースターに目を落とす。
「ゾロの事だから仕事に間違いないとは思うけど、こうも女性ばっかりなんてねぇ・・・。」
そのチョッパーの隣では、ベルメールが次のタバコを吸いながら続けてそう言った。
「とにかく分からねぇのは3つだ。
どんな仕事内容だったのか・・・何で今日1日、間を空けず会う必要があったのか。
それと一人に2時間やそれ以上会ってた理由だ。
あのクソ野郎が一人で・・・しかも女性と長い時間会ってるなんざどう考えたっておかしいからな。」
ベルメールの次にサンジは少し早口で言うと、それを聞いた全員が大きく頷く。
「ナミの話だと、あいつはかなり億劫らしいからなぁ・・・。」
「あぁ。ゾロはすぐ面倒くさがるぞ。」
そしてそのまま、ウソップとチョッパーがさらに大きく頷いた。
「あ・・・そう言えばお姉ちゃんは?」
「あぁ、学校の友達と出掛けてるんだよ。」
「お友達?」
「そ。映画観に行くとかカラオケがどうとか言ってたね。」
「ふ〜ん・・・。」
見上げて聞くシェリーに、笑みを向けながらベルメールは言う。
そんな2人を横目に、ウソップは突如腕組みをすると胸を張った。
「とにか〜くっ!この事は真実が分かるまではナミに知られちゃならねぇ!
もし知られちまったら血の雨が降る所か、ナミの機嫌が直るまで俺達にも危害が
及ぶ!」
すぐに彼を見た全員が再び大きく頷く。
ウソップはそんな皆を見た後ルフィを見た。
「特にルフィ!お前が一番危ねぇんだからな!」
「わぁってるって。ナミに言わなきゃいいんだろ?」
「ホントに大丈夫か、お前?」
「大丈夫だ、言わねぇって。心配すんな。」
言われたルフィはいつもの『ニカッ』という笑顔をウソップに向ける。
「あら・・・何をあたしに言ったらいけないの、ルフィ?」
「だから、ゾロがずっと女と会ってた事だろ?」
「ふ〜ん・・・そう。何処で会ってたのかも知ってるみたいね。」
「おう。コレに書いてあんぞ。」
後ろ向きのまま手渡したルフィが直後振り向いて目にしたのは、コースターを見ているナミ。
ウソップに目をやっていた事で気付くのが遅れた他の皆も彼女を目にした。
「おおおおお!?」
「お・・・お前、いつ・・・いつの間に・・・!?」
反射的に後ずさり、ウソップの後ろにいつもの様に反対に隠れるチョッパーと
彼と全く同じ驚いた表情で、ナミを指しているウソップ。
「突然現れるなんて、何てナミさんらしいんだv」
「あらあら・・・。」
「お姉ちゃん。」
再び目をハートマークにしているサンジに
全く変わらず、むしろこの状況を楽しんでいるかの様なロビン。
そしてチョッパーの様に目をパチクリさせているシェリー。
「ちょっと・・・いつ帰ってきたのよ・・・。」
「ナ・・・ナミさん、いつ・・・!?」
「誰にも気付かれねぇなんて、すげぇなお前!」
驚いているベルメールやビビとは対照的に
先程と変わらず『ニカッ』と笑ったままのルフィ・・・。
「・・・。」
それまでコースターを見ていたナミは次に彼を見たのだが
その目は完全に据わっていた。
「ルフィ・・・ここに書いてある事はホントなのね?」
「おぉ、ホントだぞ。」
「そう・・・分かったわ。」
短く言い放ち、彼女はコースターを手にしたまま出入口へと向かって行く。
そんなナミに恐る恐る声を掛けたのはチョッパーだった。
「ナ・・・ナミも朝聞いてるから知ってるだろ?ゾロは仕事で会っ・・・。」
「・・・知ってるわよ。」
言い切る前に再び言い放った彼女の目は完全にチョッパーを睨んでおり
彼は再びウソップの後ろへと反対に隠れる。
そんなチョッパーを見たナミは勢い良くドアを閉めると店を後にした。
「・・・っ・・・いってぇ〜〜〜・・・。」
途端にルフィはウソップとサンジに頭を殴られ
両手で殴られた所を押さえ込む。
「話すなって言ったろが、ルフィ!」
「いてぇじゃねぇ!どうしてくれんだ、ルフィ!
てめぇの所為でナミさんがあんなに怒っちまったじゃねぇか!」
どうやら流石のサンジも、怒っているナミを見て目がハートマークにはならず
元凶であるルフィを睨みつけている。
・・・ところが。
「ナミなら心配ないよ。」
そんな3人を見ながら、ベルメールはそう言うとタバコを吹かし
同時に全員が彼女を見る。
「けど店長・・・ナミさんあんなに怒ってましたよ?」
そして、すぐにビビは心配な表情になりベルメールを見た。
「あぁ・・・それならすぐに収まるよ。ちゃんと話聞くみたいだったし。
それにあの娘、ゾロが仕事なの知ってたしね。」
それを聞いて、ウソップがすぐに安堵の表情を浮かべる。
「・・・って事は、俺達に危害が及ぶ事はないな。や〜・・・良かった・良かった。」
「さぁね・・・ゾロ次第じゃないかい?」
「・・・げ。」
しかし彼女は何事もなく言うので、ウソップは再び顔を強張らせた。
「探偵さんが女性達と会ってた理由に、彼女が納得するかどうかじゃないかしら?
それで彼女が納得出来なかったら、危害が及ぶと思うわ。」
するとそれまで様子を見ていたロビンが、頬杖をつきながら皆を見て言う。
そんな彼女を見たウソップは次に眉を寄せた。
「あのなぁ・・・そんな他人事みたいに言うなよな、ロビン。」
「そうだぞ!あいつが怒ったままだと大変なんだからな!」
「って・・・お前が悪いんだろが、ルフィ!」
「・・・あり?」
ウソップとルフィのやり取りを横目に
ビビの様に心配顔になっているシェリーがサンジを見上げる。
「サンジお兄ちゃん・・・お姉ちゃんホントに大丈夫?」
「あぁ。ナミさんなら、すぐいつもみたいに戻るさ。」
サンジはそんな彼女の髪を撫でると、優しい笑みをシェリーに向け・・・。
「うん!」
彼女もまたそんなサンジに笑顔を向けると、再び彼に髪を撫でられるのだった。
☆
「・・・。」
コースターに書かれてた通り、ゾロはまだファストにいた。
頭の中で考えが纏まらないから家で待ってるよりずっとマシだと思ったけど
こうやって通り越しに店の中にいるゾロを見ると、来なきゃ良かったと思えてくる。
「ばっかみたい・・・帰ろ。」
コースター見た時はホント頭に来たし、此処に来る間に大分落ち着きもしたけど
そのまま見てたら何か急に空しくなってきて
来た道を戻り始めながら溜息も出てくる。
そういえば睨み付けちゃってチョッパーには悪い事しちゃったな・・・。
「・・・。」
ホントに仕事だったのか・・・何で間空けずに合う必要があったのか
ちゃんと聞けばいいんだろうけど、あいつの話最後まで聞けるか今は何か自信ない。
すぐに言い返したりしちゃうだろうし・・・。
今日はもぅこのままとっとと戻って、とにかく横になろ。
考え疲れて寝ちゃうのが一番だわ。
「う・・・さむ・・・。」
信号待ちしてる時に北風が吹いて余計に空しくなってくる。
タイミング良すぎるわよ、この北風。
「だったら出歩かなきゃいいだろが。」
あのねぇ・・・。
「誰の所為だと思ってんのよ!?」
聞き慣れた低い声に振り向いて、あたしはその場に立っていたゾロを睨む。
「あ!?俺の所為じゃねぇだろが。」
「あんたの所為よ。」
とにかく分からせてやろうと思って、あたしは手にしたままのコースターをつき付ける。
それを見たゾロはすぐに眉を寄せてあたしを見た。
「あいつら・・・見てたのか?」
「みたいね。」
「・・・で、お前はこれを確かめに来たってわけか?
ったく・・・仕事だって言ったろうが・・・。」
こいつ・・・。
「・・・。」
分かってても頭にくる、この言い方!
・・・もう、いい!
「おい、ナミ!」
「・・・帰る!あんたはさっきの人といればいいじゃない。」
それだけ言って戻ろうとしたあたしと
ゾロの声が重なったのはその時・・・。
「断ってたんだ、お前が気にする事じゃねぇ。」
・・・断ってた?
「・・・何よ、それ?」
「だから・・・あいつらが見たのは前の依頼人なんだよ。話があるって言うから会っただけだ。」
「だったら電話貰った時に聞けば良かったじゃない。」
「会って話すって言われたんだから仕方ねぇだろが。」
あたしにそう言いながらゾロは髪を掻いてる。
まったく・・・だったら朝ちゃんとそう言えば良かったのよ、バカ。
「・・・要するにその元・依頼人達から同時に全く同じ内容の電話があったワケ?
で、それが全員女の人であんたは時間を決めて会ってて、それを皆が見た。
それであんたは、元・依頼人達に会って断ってたって事?」
「あぁ・・・。」
「まさか、話の内容まで同じだったの?」
「・・・。」
返事をしない所を見るとどうやらそうらしくて
あたしは驚く事しか出来なかった。
まさか、話まで同じなんて・・・信じられない。
「だから言ったろ・・・お前が気にする事じゃねぇんだよ。」
「あのねぇ・・・だったらせめて誤解されない程度に話しなさいよ、こういう時は。
あたしもあんまり聞かないし、あんたも仕事の事あんまり話さないのは確かだけど
皆店でいろいろ話してたみたいだし、後が大変なのよ。」
「あぁ・・・分かってるって。」
「・・・。」
ホントに分かってるわけ、こいつ?
「・・・働かせて欲しいって言われたんだよ、今日会った全員に。
俺に世話になったから手伝いをさせて欲しいってな。」
ゾロがあたしにそう話したのは、直後の事。
・・・え?
「じゃぁ、断ったって・・・。」
「あぁ・・・それを断ってたんだよ、今日1日。」
途端にあたしは気が抜けてしまった。
「バカみたい・・・。」
「んだと!?」
「違うわ、自分の事よ・・・。」
「あ?」
「元はと言えば、誤解されないように話さなかったあんたが悪いんだからね。」
「あぁ、そうかよ・・・。」
ゾロはちっとも悪く思ってない様子で
そんなゾロを見てたらあたしは余計に気が抜けてしまった。
「一緒に働かなくて良かったわよ、今日あんたに会った人達・・・。
無神経だし気は効かないし
・・・一緒に働いてたら神経いくつあっても足りないもの。」
「お前な・・・。」
「あたし位よ、あんたに付き合ってやっ・・・。」
「・・・ナミ?」
言い掛けて気が付いた・・・。
まさか今日ゾロと会った人達・・・。
「んだよ?」
「別に・・・。」
まさかじゃなくて絶対そうかも知れない・・・。
彼女達はだからゾロと一緒に働きたいって言ったんだ・・・。
「・・・油断出来ないって思っただけよ。」
「あ?」
ゾロは眉を寄せたままあたしを見て首を傾げてる。
ホント・・・こんな奴のどこがいいんだろ。
・・・それはあたしにも言える事だけど。
「・・・それで?さっきのお店にいた人はいいの?」
「あぁ。丁度断って店を出る所だったからな。」
成る程ね・・・それであたしに気付いたのか・・・。
・・・ん?
「ねぇ・・・断ったってどうやって?」
「どうって・・・。」
すぐにゾロは髪を掻いてあたしから目を逸らす。
あっそ・・・。
「別にいいわよ、話たくないなら。
あたしも悪かったし、これ以上聞かない。
けど、今度からは誤解のない様に話してよね。分かった?」
あたしはそれだけ言ってゾロに人差し指を向けると
すぐにゾロはあたしの方を向いてまた髪を掻く。
「いるからいいって言ったんだよ。」
「え?」
「一人うるせぇのがいるってな。」
・・・うるさいの?
「あぁ・・・チョッパーね。」
「・・・。」
「何よ、その顔?」
そのまま何も言わずに横を通るゾロを目で追っていたあたしは
自分の家とは違う方へ歩いていくのに気付いてすぐ声を掛けた。
変ね・・・いくら方向音痴でもこの辺は大丈夫なはずなのに・・・。
「ちょっとゾロ、そっちは家と逆!」
「わぁってるよ。いいから来い、どうせ飯食ってねぇんだろうが。」
・・・あ。
そう言えばこの1時間怒るわ気が抜けるわだったから
戻って夕飯食べるつもりだったのすっかり忘れてた・・・。
「ちゃんと奢りなさいよ!」
そう言いながら追いついた時のゾロは怒ってるというより不機嫌そうで・・・。
どうしてなのかあたしには分からなかった。
FIN
<管理人のつぶやき>
もててるのに気づいてないゾロ、「ナミがいるからいい」と言われていることに気づいてないナミ。どっちもどっちなカップルですな。ルフィの背後からナミが現れたときは怖かった・・・(笑)。
みづきさんのパラレルSS「レクター街シリーズ」の番外編でした。なんとゾロ誕用に特別に書き下ろしてくださったものです。
製作に先立ち、リクエストを求められましたので、「もてるゾロ」と所望いたしました(笑)。といいますのも、私が書くゾロはいつも憂き目に遭うものですから、せめてレクターゾロは良い目にと思ったんです…。見事にモテモテでしたね!みづきさん、ありがとうございました〜!!
さて、そもそも探偵ゾロのカッコ良さ炸裂のレクター街シリーズって何?という方は、「lecter street」、「house sitting」、「School Ghost Story」、「encounter」、「two people inference」を読んでみてね。